セミナーイベント「Web担当者Forum ミーティング2012 in名古屋」(2012年9月27日開催)の講演をレポートする。他のセッションのレポートはこちらから。
Web担当者Forumミーティング 2012 in 名古屋の基調講演では、良品計画のソーシャルメディア運用を担う風間公太氏が登壇。無印良品におけるソーシャルメディアを使った顧客との接触方法、コンテンツ連携、コストに関する考え方についての解説が行われた。売上への貢献なども数値とともに示され、実際に企業がソーシャルメディアを活用する成功事例を知るよい機会となった。
問い合わせ窓口では聞けない声を聞けるソーシャルメディア
良品計画では、2009年10月に開始したTwitterを皮切りに、Facebookページやmixiページも開設し、ソーシャルメディア上で顧客とのコミュニケーションを積極的に行っている。「ソーシャルメディアは儲かるのかとよく聞かれる」と話す風間氏は、ソーシャルメディアによってさまざまな効果が生まれ、売上にもつながっていると説明する。
無印良品が取り扱うアイテム数は、現在7,500を超える。チラシやWebサイト、メルマガ、テレビCM、店舗などの既存メディアもあるが、そこだけですべての商品を紹介するのは難しい。メディアで目立たなくても魅力的な商品は数多く存在し、それらをどう告知するかが課題であったのだ。
メディアに載るのは、会社として力を入れている商品が中心になりますが、お客様にもっと知ってもらいたい商品はたくさんあります。これらの商品を何とか紹介できないかと考えていたところ、Twitterの存在を知り、これは役立つのではないかと考えたのがソーシャルメディアを始めたキッカケです。
ソーシャルメディアを始めるにあたって、特別な稟議や予算確保などは行わず、直属の上司の了承を得て、WEB事業部のなかだけで始めることができたという風間氏。良品計画では、2000年に「モノづくりコミュニティー」を、2009年には「くらしの良品研究所」という顧客コミュニティサイトを開設しており、Webサイトを通じたコミュニケーションを行う土壌ができていた。ソーシャルメディアを始めることで顧客の声をさらに聞けるようになる、これにNOという社員はいなかった。
また2009年当時は、がっちりとしたソーシャルメディアのガイドラインを作る考えもなかったという。ただし、無印良品というブランドを代表するものとなるため、次のようなガイドラインを定めていった。
- “握手”をするくらいの距離感
- 無印良品のアノニマス性を崩さぬよう、あえて一人称を出さない。しかし、その先に「人」がいることを感じさせる対応
- 質問には可能な限り返信するが、判断が難しい内容はお客様室と連携
- 押し売りしない(商品PRも、あくまで紹介にとどめる)
- 安売りのチャネルにしない
- 原則勤務時間内での対応
既存メディアの限られたスペースでは伝えきれない、隠れた逸品を紹介する場として、無印良品が最初に始めたのがTwitterだ。続いて、2010年10月に世界中の顧客とのコミュニケーションを拡大するためにFacebookページを開設し、2011年8月にはTwitterとFacebookではリーチできていない層(無印良品の顧客の中心となる30代後半の女性層)に向けてmixiページを開設し、情報発信の場を設けてコミュニケーションの場を着実に広げている。
風間氏は、Twitterの1日の総ツイート数を例にして、商品紹介などが2回、質問返答が8回、お礼が8回、お客様からのご意見やお詫びが5回、計23回のツイートがあったことを示す。毎日、ほぼこの比率でツイートを行っているというが、風間氏が重視しているのは、質問返答やお礼などの双方向コミュニケーションだ。
ソーシャルメディアを始めて感じたのは、オフィシャルの問い合わせ窓口などでは聞けないご意見を聞ける気軽さがあることです。また、商品をほめてくれるなどのポジティブな意見が多く聞けることも大きな価値の1つだと考えています。社内や、商品開発などの直接お客様と接することがない部署にこれらの声をフィードバックすることで、モチベーションにつながることも非常に多く、ソーシャルメディアはポジティブな声を可視化する窓口になります。
また、双方向のコミュニケーションを重視する風間氏が、ソーシャルメディアを始めてから心がけていることがあるという。それは「相手の気持ちを二手先まで考える」「お客様に対してあたりまえの対応をしていれば炎上はしない」といったものだ。
- ありがとうの返信はコピペしない
- 多少のユーモアがコミュニケーションを活発にさせる
- ソーシャルメディア内で“いま”話題になっていることを知る
- 相手の気持ちを二手先まで考える
- お客様に対してあたりまえの対応をしていれば炎上はしない
- あえて返信しない質問もある
- ひとつひとつの反応に一喜一憂しすぎない
- ソーシャルメディア内の声が必ずしも世の中の声のすべてではない
基本的には、対面で顔が見えるコミュニケーションではない点を注意しているというが、ソーシャルメディア内であっても実店舗の店員と同じスタンスで運用し、迷ったときには店員として接することに立ち返って考えれば解決できるという。
3つのソーシャルメディアでは、フォロワーはFacebookが82万人、Twitterが18万人、mixiが5万人とFacebookが最も多いが、コミュニケーションの濃密度の濃さはTwitter、Facebook、mixiの順だと風間氏は感じているようだ。
売上ではなくコミュニケーション重視することが継続のカギ
講演の冒頭で「ソーシャルメディアは儲かるのかと聞かれる」と風間氏は話しているが、良品計画ではソーシャルメディアが売上に与える効果を実際に感じている。たとえば、Facebookで6,558いいね! が付き、116のコメントと140シェアを得た「シリコーン球型製氷機」は、紹介した前日比で売上が120%、2日後は187%、3日目は147%まで増加したという。
また、7,913のいいね! が付いた「インデックスが作れるパンチ」は、紹介した日の売上は前日比91%だったが、2日後は164%、3日目は157%の売上増になっており、ソーシャルメディアで紹介した商品の売上は、前日比で約110~300%の効果を得ている。
また、ソーシャルメディアの反応がよかった商品を社内にフィードバックすることにより、売り場のレイアウトを変更して売上増を実現し、同一カテゴリの他の商品の売上も伸張したという事例も紹介された。
我々は全都道府県に実店舗を持つ事業形態であるため、Webのなかだけで完結するのではなく、Webをキッカケに実店舗に足を運んでもらうことがWEB事業部の大きなミッションとなります。売上に顕著につながるのは商品単価の低い商品が多いので、ソーシャルメディアで高評価を得て商品が2倍売れたとしても、売上全体に大きく影響を与えることはありません。
ソーシャルメディアでは安価で便利な商品を紹介し、その商品をキッカケにお客様にご来店いただいているのだと思います。そのような周辺も含めた効果が徐々に出始めてきていることを感じています。
一方、ソーシャルメディアで反応がよいからといって、すべて売上に直結するわけではない。なかには企画や投稿内容がウケて盛り上がったものの、売上はそれほど伸びなかったものもあるという。しかし、このようなコミュニケーションが取れるところがソーシャルメディアのおもしろいところだと風間氏は感じており、売上だけを考えるのではなく、ダイレクトに顧客と接する窓口として活用している。
ソーシャルメディアはエンターテインメント性の高いプラットフォームだと思っています。売上を考えるよりも、我々が発した情報をキッカケにいかに会話を生んでもらえるかといったことが、ソーシャルメディアを継続させていくうえで重要なポイントだと感じています。
風間氏は、こうした良い反応を得るために必要な要素を、これまでの経験から「コンテンツ7割」「タイミング2割」「テクニック1割」だと説明する。特によいコンテンツ(投稿する内容)を発し続けることが重要で、単に安売りの情報を提供するのではなく、しっかりと商品を知ってもらえるような投稿を行うことが必要となる。
また、タイミングは時間的なものではなく、世の中やソーシャルメディア上で何が話題となっているかをうまく利用することだ。たとえば、無印良品では昨年、タッチ操作ができる手袋をiPhone 4Sの発売日に紹介することで相乗効果が生まれ、盛り上げることに成功している。
テクニックに関して風間氏は、生真面目に考えるのではなく、アイキャッチになるような言葉やフォロワーが突っ込みやすいような言葉を使い、顧客の反応を得るようにしていることを明かした。
自社メディアとの連携で生まれる効果
良品計画では、2011年ごろからソーシャルメディアと自社コンテンツの連携にも力を入れている。2011年8月に開設したソーシャルレビューサービス「my MUJI」では、Facebook、Twitter、mixiのアカウントでログインが可能で、無印良品ネットストアで取り扱う各商品に対してレビューを書いてソーシャルメディアに投稿できるだけでなく、「ほしい!」や「持ってる」などの情報を共有できる。
また、購買の手前でエンターテインメント性の高い接点をもてないかと考えられたのが、2011年11月に開設されたソーシャルゲーム「MUJI LIFE」だ。こちらもFacebook、Twitter、mixiのアカウントと連携し、このゲームは毎日、無印良品の商品のデジタルフィギュアや本・DVD・CDをAmazonから選べるチケットなどが届き、それらを自分の棚に並べて楽しむことができるものだ。
2011年12月26日~2012年1月10日には、「MUJI福CURRYスゴロク」というキャンペーンを行っており、無料カレークーポン、スペシャルカレーセット、MUJI LIFEで使えるカレーフィギュアなどのプレゼントを行っている。このイベントは、「店舗でレトルトカレー3個買ったら1個プレゼント」というキャンペーンを訴求し、無印良品のカレーの認知度アップや売上増を目的としたものだ。結果は、参加人数2万8,256人、総プレイ回数271万8,650回、1人あたりの平均プレイ時間約50分、無料クーポン(1万枚配布)の利用者数延べ9,761人、店舗でのカレーの売上計画比200%を達成し、成功を収めている。
売上目標を達成できたのはもちろん成功ですが、それよりも50分(平均プレイ時間)の間、無印良品とお客様の接点を作れたことがよい結果だと思っています。
さらに、2011年6月15日~年6月25日には「ぜんぶ、無印良品で暮らそう。」という、無印良品で販売する家(木の家/新築)を無印良品の家具付きで、一組に2年間無料提供するキャンペーンを実施している。同キャンペーンでは、Facebookページ「無印良品の家」のファンをキャンペーン開始前の723人から3万2,791人に増やすことができ、住宅メーカー業界で最も多くのファンを獲得した。また、マスメディアに取り上げられることで無印良品における住宅販売の認知度を上げることができ、資料請求増などにもつながっているようだ。
これらの自社メディアやキャンペーンは、バックグラウンドでMUJI COINと呼ばれるプラットフォームで連携されている。自社メディアやキャンペーンに接続するために利用されるソーシャルメディアのID情報を利用して、従来のメンバー情報や購買情報ではわからなかった(購買前の情報も含む)顧客との関与度を可視化することが、このプラットフォームでの目的だ。具体的には、クチコミの投稿数、MUJI LIFEで集めているフィギュアの数、スゴロクのプレイ回数、実店舗にチェックインした数などを確認でき、顧客の行動や無印良品との接点を可視化できるという。
これらの情報を可視化することによって、単純にいいね! やフォロワーの数を獲得するのではなく、お客様の時間を獲得していくことができるようになります。これからは、購買を超えた時間という接点をより多く設けていきたいと考えています。
風間氏は最後に、改めて冒頭に掲げた「ソーシャルメディアは儲かるのか?」という疑問を提示する。ソーシャルメディアの反応が売上につながるという意味では「儲かる」ことになるが、無印良品にとってのソーシャルメディアは、顧客のことをより深く理解するための窓口であり、売上効果や信頼度の向上(エンゲージメント)は副次的なものであると風間氏は説明する。良品計画では、基本的に風間氏が1人でソーシャルメディアを運用しており、アカウント運用の面ではまったくコストをかけていない。
基本的には1人でソーシャルメディアの運用を行っています。3つのソーシャルメディアのフォロワーは100万人となるため、1対100万の接客ができるのがソーシャルメディアの魅力だと思います。他の業務と兼務しているため、1日にソーシャルメディアに関わるのは1時間~1時間半程度。他のメディアに比べて、コストや手間をかけなくても何らかのリターンが出ているので圧倒的に効率がよいと感じています。
ソーシャルメディアは、実店舗への送客のプラットフォームであることも間違いないので、今後も新たな取り組みにもチャレンジしていきたい、と話をまとめる風間氏に、満席の会場からは大きな拍手が寄せられた。コストや手間をかけずにソーシャルメディア運用を成功させた良品計画の事例は、小売店に限らず、あらゆる業態の企業にも参考になるもので、そのコツと考え方を知る貴重な機会となったことは間違いない。
- コーナー:【レポート】Web担当者Forum ミーティング2012 in名古屋
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オリジナル記事:ソーシャルメディアは儲かるのか? 無印良品が進めた現実的な取り組みと考え方 | 良品計画 [【レポート】Web担当者Forum ミーティング2012 in名古屋] | Web担当者Forum
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