日本ではイベントシーズンの真最中じゃの。マーケティング担当者は展示会の準備と、収集したリードを使ったフォローキャンペーンの仕込みで大忙しじゃろうな。
そこで今日は、この展示会のフォローでよく間違えるポイントの話をしようかの。
「展示会に来場した人に一刻も早く電話をして訪問するべき」は正しい?
ワシは、「展示会に来場した人に一刻も早く電話をして訪問するべき」という考え方は必ずしも正しくないと考えておるんじゃよ。
もちろん熱心さをアピールするなら効果的じゃろうし、中にはニーズが顕在化していて、もう競合に発注する寸前、という場合もゼロではないじゃろから、まったく無駄だとは言わんのじゃが、多くの場合、むしろ逆効果になると考えておるんじゃ。
その理由を説明する前に、日本の展示会と欧米の展示会の違いを説明しようかの。
見た目は同じに見えても、この両者はビジネスでの役割や来場者の層がまったく違うんじゃ。
欧米はラスベガスやオーランドなど大都市圏から離れた場所で開催されることでもわかるように、キーパーソンが飛行機でやってきて宿泊してじっくり商談するというスタイルなんじゃ。じゃからリードの獲得数などは日本のような数にはならんし、ブースもキーパーソンとベンダーの幹部が商談するように応接を主体として設計されておるんじゃよ。
でも日本の場合はキーパーソンではなくて、もっと職位の低い階層が来場者の主力なんじゃ。主催者の来場者分析レポートが嘘だと言っている訳ではないんじゃ。でもあの円グラフにある「役員クラス」という来場者の多くは、出展企業の人なんじゃよ。
それに来場者の多くは日帰りで、それも展示会場の滞留時間は4時間前後、つまり10時に来た人は1時ごろに、午後に来た人は最後(5時~6時)までという感じが多いんじゃな。しかもその時間内に回るブースの数は平均で28社~32社、多い場合には40社近くにもなるんじゃ。滞留時間から会場内の移動時間を引いて、訪問するブースの数で割り算をすれば、1社のブースでの平均滞在は5~8分となるんじゃ。商談ができる時間ではないんじゃよ。
じゃから、外資系企業で、本社からマーケティング部門の幹部が日本の展示会に来ると、「こんな展示会に出展する意味はない」と判断してしまうこともあるんじゃよ。
でも、それはちょっと違うんじゃ。
日本と欧米では意思決定のプロセスが違うからの。
購入や調達の意思決定を部門のトップダウンで行う欧米とは異なり、日本では低い職位の人が情報を収集し、それを上に上げて、社内ネゴを繰り返しながらやがて担当部署が稟議書を起案し、ハンコを並べる、という独特のプロセスなんじゃ。
じゃから余程特殊な商材でもない限り、エグゼクティブだけを集めたカンファレンスはかえって賀詞交換会のようになって商談化にはならないものなんじゃよ。
フォロー電話やお礼メールが大量の配信拒否を生み出す?
そこで、フォローが問題なんじゃ。
冒頭の全件コールをなぜ推奨しないのかの説明なんじゃが、駆け足で30~40社のブースを周り、資料やノベルティを持って帰った人は、例えて言えばバイキングレストランで食事をしてお腹一杯の人なんじゃよ。その人の前にどんなに美味しい料理を出しても、食べられるわけがないんじゃよ。やはり消化して整理する時間が必要なんじゃ。そこにしつこく料理を勧められたら不愉快にしかならんじゃろ?
それがワシが展示会直後に収集した名刺全件にフォローコールをするのをお勧めしない理由なんじゃ。
さらに言えば、お礼メールもその効果に疑問があるばかりか、よく考えずに配信すると大きな危険があるんじゃよ。
展示会に出展するクライアント企業と、ブース来場者へのフォロープランを検討しているときに「お礼メールを出すのを止めましょう
」と提案すると、多くの場合怪訝な顔をされるんじゃ。それ程、日本では展示会に出展したらお礼メールを出すことは決まりごとのようになっているんじゃな。
ワシは長年、顧客データとそこに飛び交う情報のトラフィックを見てきたからわかるんじゃが、大規模な展示会があった1週間後からはBtoBのネットの中はまるでサンゴ礁の産卵のような状態なんじゃよ。1000社近い出展企業が来場者に一斉にお礼メールの配信を始めるからの。
これは、多くの出展企業が収集した名刺やアンケートを先を争うようにデジタル化し、1時間でも早くお礼メールを配信しようとしているからなんじゃ。デジタル化に掛かる時間はだいたい同じじゃからの。
そして、これが大量の「配信拒否」を生み出すんじゃよ。
企業をFromにしたメールマガジン(メルマガ)のユニークユーザーベースでのクリック率は、シンフォニーマーケティング独自の調査データでは、平均が1%前後で、多くはこれを下回るんじゃ。でも、コンテンツとデータ管理の良いメルマガの場合、そのクリック率は4~9%に達するんじゃ。専門性が高い分野でブランドを確立している企業のメルマガであれば10%を超えることもあるんじゃよ。
その一方で、こうしたメルマガ配信1回の配信拒否率は総配信数に対して通常0.5%以下にコントロールするべきなんじゃが、展示会来場者へのお礼メールは配信の仕方によっては10%以上、つまり通常の20倍もの配信拒否が出てしまうことがあるんじゃよ。仮に展示会で3,000枚の名刺を収集したとして10%なら300人から拒否されたことになるじゃろ。
日本の展示会で名刺やアンケート1枚を集めるコスト(CPL:コストパーリード)は通常8,500円/@から15,000円/@、平均すると約10,000円なんじゃ。300人に拒否されれば少なくとも300万円が一瞬で無価値になった計算になるんじゃよ。
ところで、なぜお礼メールの配信拒否率がそんなに跳ね上がるのかの?
サンゴ礁の産卵のように数百万通のお礼メールが一斉配信されたとき、来場者のメールアドレスにこの中から山のようにお礼メールが届くことになるんじゃ。そしてどれも同じような「来場お礼メール」にうんざりした人は開封しないか、開封してどんどん配信拒否をするんじゃな。
ちょっと考えてみてほしいんじゃが、もしあなたが展示会に行って20社~30社のブースを回ったとして、それらの会社から来場お礼メールが来ないからといって「なんて礼儀を知らない会社だ!」などと怒るじゃろうかの? ワシはそんな人に会ったことがないんじゃ。
つまりこのお礼メールは、ほとんどの場合何の意味もないんじゃ。ただ展示会を担当した人の「仕事の一区切り」という程度の意味しかないんじゃよ。
そして、そうやって不用意に配信したお礼メールが、実は数百万円の損失を招いていることに気がついている企業は少ないんじゃ。
展示会で収集したリストから安定して有望な見込み客を抽出するには12か月~18か月かかる
展示会で収集した名刺やアンケートは、それ自体がすぐに案件になるケースは少ないんじゃ。恐らく1%も行かんじゃろ。つまり3000枚の名刺を収集して良い案件が30件も出たら奇跡のような話だと言うことじゃな。
でも、すぐに案件にならなかった名刺データは貴重なビジネスのシーズ(種)なんじゃ。もちろんこの「種」は、季節を待ってよく耕された畑に蒔かれ、水と陽光をいっぱいに浴びながら大切に育成され、間引きされ、肥料を与えられ、雑草を取り除かれ、消毒され、ようやく秋に収穫されるまでは食べることはできないんじゃ。
今月すぐに注文書が欲しい営業パーソンの役にはあまり立たないんじゃ。
市場や製品によっても違いはあるんじゃが、シンフォニーマーケティングのクライアントで見ると、展示会で収集したリストから安定して有望な見込み客を抽出するのに12か月~18か月掛かるんじゃ。これがナーチャリングに必要な時間じゃな。
そしてその有望見込み客を訪問して案件化してから受注が確定するまでにさらに12か月から24か月掛かるんじゃ。つまり展示会から受注まで3年近く掛かる訳じゃな。
でも、育つのが遅いからといって悪い種ではないじゃろ。ワシの生まれた森では昔から「桃クリ3年、柿8年、梨の馬鹿めは18年」と言う諺があるが、あんな感じじゃな。BtoBの高額商材はまさに「梨」のような存在なんじゃ。
だからこそ、目的もない「お礼メール」を不用意に配信して「貴重な種」を大量に失うことのないように注意してほしいと願っておるんじゃよ。
※この記事のオリジナルは「300万円が一瞬で無価値になる展示会お礼メール」 (2012.06.04 公開)です。
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