この記事を読むのにかかる時間: 約 11 分
ソーシャルメディアマーケティングを効率的に行うために、企業はどのようなツールを活用しているのだろうか。Web広告研究会の4月の月例セミナーでは、第一部で米国の実情と日本の現状が語られ、続く第二部ではソーシャルメディアマーケティングツールを提供する各社がそれぞれの特徴を発表した。
※記事後半のツール解説を今すぐ読む。
海外IT企業の買収に見る
ソーシャルメディアマーケティングツールの統合化
アドビ システムズ 株式会社
マーケティング本部
マーケティングインテリジェンス部
デジタルマーケティングスペシャリスト
井上 慎也氏
第一部では、「ソーシャルメディアマーケティングに活用すべきツールとは? ~活用先進国アメリカの実情と日本の課題~」と題した講演を、アドビ システムズの井上慎也氏が行った。井上氏は、アドビや業界を代表するものではなく、あくまで個人的にヒアリングしたものだとしたうえで、「ソーシャルマーケティング活動をサポートするツール・サービス・ソリューションについて、海外のデータや海外企業の買収状況をベースに説明したい
」と話を進めた。
まず井上氏は、「ソーシャルメディア集客ラボ」で昨年公開された記事「【海外事例】ソーシャルメディア関連企業の買収状況まとめ - マイクロソフト・セールスフォースなど」を引用し、米国では、オラクル、Google、マイクロソフト、アドビ、セールスフォースといった企業がソーシャルメディア関連企業の買収を盛んに行っていることを示す。「買収状況によって、各社の方向性が見えてくる
」と井上氏は説明した。
続いて井上氏は、Econsultancy社「Quarterly Digital Intelligence Briefing」の2012年9月の調査を引用し、説明を続ける。英国や米国を中心にグローバルで行われているこの調査では、20~40%の企業が有料ツールを導入し、20~30%が無料ツールを使っており、どの分野でも半分以上の企業が何らかのツールを使っているという状況だ。「日本国内でこのような調査は見当たらないが、感覚的には日本企業の10~20%がツールを使っているのではないだろうか。特にリスニングやモニタリングといった傾聴に関しては、日本でもツールの導入が進んでいる
」と井上氏は話す。
海外企業でのソーシャルツール導入状況
出典:Quarterly Digital Intelligence Briefing by eConsultancy Sep-2012
では、企業はどのような目的でソーシャルメディアを使っているのだろうか。同調査のアンケートで最も多いのはブランディングやアウェアネスの役割であり、続いてマーケティングキャンペーン、コンテンツマーケティング、顧客サービスと続き、企業規模にかかわらず同様の傾向となっている。
海外では企業規模間で違いがあり、特徴的なのは、ソーシャルメディアをリードジェネレーションのチャネルとして使っているという回答が売り上げ規模150億以下の方が多くなっていること。海外では、B2B企業でリード(問い合わせや見込み客)を獲得するためにLinkedInなどを使っていることがデータから読み取れる。
マーケティング活動にかかわるROIのすべて数値化
ソーシャルマーケティング活動を行うには、さまざまなメディアのなかでソーシャルメディアを活用することの目的を設定し、その効果を測るKPIを設定して戦略を練っていくことが必要だ。井上氏は、こうした企業のソーシャルマーケティング活動の考え方についても日米で異なると、自社のソーシャル活動の担当者およびソーシャルメディアツールの開発者と議論したときに作った図を次に示す。
米国企業のソーシャル活動においての考え方。人件費も含めたROIのすべてを数値化する
海外での基本はすべての活動を数値化、そしてROIで考える点だ。ソーシャルマーケティングの効果を明確に数値化し、人件費も投資と捉えてコストの1つとして考えており、日本のように「そこは人が動けばタダ」という考え方はしない。そのため、ツールを導入することによって人の労力(コスト)を下げられるのであれば、積極的に導入を進めていくという。
そのうえで、「ソーシャルマーケティングの目的やROIの考え方に応じて、戦略および必要なツールは違ってくる
」と話す井上氏。マーケティング、サポート、製品開発、営業といった分野によってやるべきことがそれぞれあり、それによってツールやサービス、コンサルティングが異なってくため、次の図のように、用途ごとにさまざまなサポートツールがあるのだ。
ソーシャルの担当と役割。それをサポートするツールとサービス
サポートツールの一例
そして、これらの数多くのツールや技術は、前述のように大手IT企業によって盛んに買収されているのが今の状況だ。また、アドビは「Adobe Marketing Cloud」、オラクルは「Oracle Social Relationship Management」、セールスフォースは「Marketing Cloud」というように、従来からの自社ソリューションに新たに買収したソーシャル関連の機能を加える形で統合化し、自社のソリューションの価値をより高めることが進められている。
井上氏は、個人的な意見としながら、ソーシャルメディア関連ツールやソリューションはそれぞれ独立した「個別特化ソリューション」を加えた、5つの方向性に分かれていると話す。
- 個別特化ソリューション
- ソーシャル統合ソリューション
例)コムニコ - マーケティング統合ソリューション
例)オラクル(CRM中心)、アドビ(Webサイト解析・トリプルメディア) - エンタープライズソーシャル
例)マイクロソフト、セールスフォース(Chatter) - ソーシャルサービス強化
例)Facebook、Twitter、Google
そのうえで、ソーシャル統合ソリューションを提供するコムニコ、CRM中心でマーケティング統合ソリューションを提供するオラクルやセールスフォース、Webサイト解析やトリプルメディア中心でマーケティング統合ソリューションを提供するアドビ、エンタープライズソーシャルを提供するマイクロソフトやセールスフォースのChatter、ソーシャルサービス強化を提供するFacebook、Twitter、Googleというように位置づけた。
最後に井上氏は、企業買収によるソーシャルサービスの強化について、Twitter、Facebook、LinkedInといったソーシャルメディアプラットフォーム自体が、動画制作、ファイル共有、写真共有アプリなどさまざまな買収を行い、自らサービスを強化していることを示す。「海外の買収を見ていくことで、今後のソーシャルの流れや方向性が見えてくると思う
」と井上氏はまとめ、第二部の各社のツール紹介につなげた。
ソーシャルメディアマーケティングに活用すべきツールを6社が解説
- コムニコ
- サイバー・コミュニケーションズ
- 博報堂DYメディアパートナーズ
- アドビ システムズ
- インフォバーン
- シックス・アパート
ソーシャルメディアマーケティングに活用すべきツールを6社が解説
第一部の市場動向を受け、続く第二部では、実際に提供されているソーシャルメディア関連ツールの動向や特徴を知るために、ツールベンダーおよび実際にツールを活用する担当者の立場から、計6社がサービスを紹介した。
- コムニコ
- サイバー・コミュニケーションズ
- 博報堂DYメディアパートナーズ
- アドビ システムズ
- インフォバーン
- シックス・アパート
「comnico Marketing Suite(コムニコマーケティングスイート)」
1000以上のFacebookページ運用ノウハウを科学的に検証して実装
コムニコが開発するFacebookページの運用管理ツール「comnico Marketing Suite」は、体感ではわかっている運用ノウハウを集約して科学的に検証し、Facebookの効率的な運営を強力に支援する統合管理ツール。
「Facebookでは写真付きの投稿の反応がよい」といわれるが実際にはどうか、反応のよい投稿時間は何時か、漢字とひらがなで反応は違うのかなど、1000ページ6万記事以上を科学的に分析したノウハウをツールに組み込んでおり、Facebookページの運用担当者が意味のある数字を引き出し、現状を把握して改善策をもとにアクションするという、一連の業務をサポートする。
機能としては、投稿管理ツールの「Post Manager」、分析機能の「Insight」、キャンペーン機能の「Promotions」、投稿モニタリングの「Monitoring」などを備える。現在は無償のベータテスト提供を行っており、フィードバックをもとに、2013年6月末に有償版を提供する予定だという(2013年7月2日に有償版を提供開始した)。
comnico Marketing Suite
「BUDDY MEDIA(バディメディア)」
「HootSuite(フートスイート)」
ハイスペックオールラウンドツール&クラウド型ダッシュボード
サイバー・コミュニケーションズからは、同社が販売する2つのツール、ソーシャルメディア運用のほぼすべてのニーズに応えるオールラウンドツールの「BUDDY MEDIA」と、複数のソーシャルメディアを1つのプラットフォームで管理できるクラウド型の「HootSuite」が紹介された。
BUDDY MEDIAは、世界トップ10位の広告主のうち8社が利用するという米国BuddyMedia社(2012年にセールスフォースが買収)が開発したツールで、導入メリットとして「制作時間・コストの削減」「40以上のアプリを用いたカスタムタブの制作」「CSSによる高度なタブ制作」「各国のFacebookページの一括管理」といった点が挙げられた。
主な機能として、「投稿」「分析」「アプリ制作」の3つを有しており、Facebookの仕様変更にも迅速に対応し、サービス稼働率99.9%を保証している。
BUDDY MEDIAの特徴
HootSuiteは、複数のソーシャルメディアを1つのプラットフォーム上で管理できる、クラウド型のソーシャルメディアダッシュボード。世界のトップブランドが利用し、日本でもGQ JAPAN、SUBARU、NHKなどが採用している。Facebook、Twitter以外にも、Google+、mixiほか、複数のソーシャルメディアに対応する。無料版も提供されているが、有料版では分析などより高度な機能を利用できる。
特に優れている点として、情報交換や権限設定が可能な「チーム構築」機能、スケジュール管理や複数アカウント同時投稿に対応した「投稿」機能、ワンクリックでレポートを作成できる「分析」機能が挙げられた。
HootSuiteの特徴
「Topic Finder for Advertiser(トピックファインダー・フォー・アドバタイザー)」
テレビ番組放送中の盛り上がりを出稿量と合わせて分析
博報堂DYメディアパートナーズがASPサービスとして提供する「Topic Finder for Advertiser」は、データセクションの提供するソーシャルメディア分析ツールをカスタマイズしたソーシャルリスニングツール。検索エンジンの用に高い頻度で使えるソーシャル分析ツールをイメージし、インスタント解析に特化したツールとして開発されているため、自社アカウント運用支援機能はもたない。
もともと博報堂DYグループ内で利用していたツールを外販向けに改良し、提供できるようにしたもの。最大の特徴はソーシャルメディアの反響とテレビCM出稿量、放送での露出量を並列に並べた比較分析が可能なこと。まさに総合広告代理店が提供するツールならではといえる。キーワードに関連したCMやテレビ番組を選択し、GRP換算されたテレビ番組露出量グラフのレポートを作成できる。
分析対象はTwitterのほか、ブログ、ニュースサイト、Yahoo!知恵袋、OKWaveなどの掲示板に対応。同社では、ツール性能の向上ももちろんだが、アナリストのセットが非常に重要だと考えており、アナリストの育成と増員にも力を入れている。ツール単体の契約だけでなく、博報堂DYグループにレポートだけを依頼することも可能な体制を整えている。
Topic Finder for AdvertiserはテレビCMと番組での露出を組み合わせた分析が可能
「Adobe Social(アドビソーシャル)」
ソーシャルだけでなくマーケティング活動全体を組織横断型でサポート
アドビ システムズからは、同社のデジタルマーケティングプラットフォーム「Adobe Marketing Cloud」の1つとして、ソーシャルメディアマーケティングソリューションの「Adobe Social」が紹介された。
アドビでは、マーケティング活動全般をサポートできるパートナーとしてマーケティングソリューションの提供を進めており、ソーシャルだけでなく、自社サイトや広告などを含めた自社のマーケティング領域すべて(トリプルメディア)の運用・分析・最適化ができる。
ソーシャルメディアに特化したAdobe Socialでは、「リスニング機能」によるデータや過去の結果に基づいた施策立案、「Analytics連携」によるソーシャル上のデータだけでなく、自社サイトでの影響を結び付けた成果目標の明確化、「ワークフロー管理」による運用負荷の軽減、「ガバナンス機能」による配信内容の管理などのソリューションを提供し、ソーシャルメディアとビジネスの成果を結び付けていく。たとえば、ソーシャルメディア上と自社サイトの指標を組み合わせ、ソーシャル上の活動が「いいね数」や「Fan数」だけでなく、自社サイトへのトラフィックや売り上げなどにどのように貢献したか、さまざまなデータからレポートを作成できる。
具体的な機能としては、リアルタイムで分析可能な「計測&分析」、コミュニティー向けコンテンツ作成の「パブリッシュ&エンゲージメント」、トレンドやユーザーが抱える問題をいち早く検知する「リスニング&モデレーション」、キャンペーン管理の「ソーシャル広告」、権限&ワークフロー管理の「ガバナンス」などの機能を備える。
Adobe socialのダッシュボード
「social gear(ソーシャルギア)」
効果検証なくしてユーザーの理解、促進にはつながらない
インフォバーンからは、実際に同社が利用するFacebookインサイト解析ツール「social gear」(開発:satisfaction guaranteed)の活用事例が紹介された。同社グループのメディアジーンが運営するガジェット情報ブログ「GIZMODO」のFacebookページが、social gearの分析結果をもとにどのように改善してきたのか、実際にツールを利用する運営者側の視点から語られた。
social gearの特徴
2012年9月のFacebookの仕様変更にともない、GIZMODOのFacebookページではリーチ数が減少していたという。これまでの運営経験と勘をもとに、さまざまな施策を打ち出すが、頭打ちになってきたため、しっかりとした分析をするためにsocial gearを導入したという。データを参照した結果から、次の7つの施策を打ち出している。
- Facebookの投稿内容を変更
写真付きという投稿内容はそのままに、1日に15~20ほどアップしていた最新記事を半分程度まで減らし、GIZMODOのFacebookページのボリューム層である35歳~44歳に好まれる、カメラ関連記事や懐古系記事を優先してピックアップした。
- 過去記事の配信
2011年以前のFacebookブーム前の記事を発掘し、速報性重視の記事の中に、おもしろさを重視した記事を織り交ぜることで、シェア数を増加させた。
- メディアジーン内の他メディアのリンクをシェア
たとえば、Facebook投稿のシェア数が特に多い「roomie」の記事をシェアすることで、GIZMODOのメインユーザーである男性だけでなく、これまでと違う女性層へのリーチを広げることに成功した。
- 記事化していないリンクのシェアを開始
GIZMODOのターゲットには好評でも、記事化するまでもない内容をシェアした。
- Facebook内の他メディアの投稿もシェア
他のメディアがFacebookに投稿する内容をシェアした。
- ユーザーからのコメントにアクション
ユーザーのコメントに対して、いいね!や返信機能を利用して意味のあるアクションをし、インフルエンサーの獲得へつなげていった。
- 投稿時間を絞る
トラフィックの多い時間に集中的に投稿していたが、social gearでは23時の投稿が推奨されていた。これを参考にしつつ、通勤時間、昼食時、帰宅時、就寝前の4つの時間に分けて投稿時間を絞っていった。
こうした7つの施策の結果、一週間の合計リーチ数を30万から35万へと伸ばすことに成功している。アクション数が回復することで、クチコミリーチ数が上昇し、オーガニックリーチも回復しており、現在はFacebookの仕様変更前の水準に回復しているという。
「Movable Type(ムーバブルタイプ)」
「Lekumo(ルクモ)」「Zenback(ゼンバック)」
ブログツールから発展し、企業サイト、メディア管理へ
シックス・アパートからは、同社が開発する「Movable Type」「Lekumo」「Zenback」など、ブログツールやキャンペーン管理ツールが紹介された。
ブログ・CMS開発を中心に展開してきた同社では、「個人・法人を問わず多くのコミュニケーションを推進していきたい」という、ブログが生まれた際の理念をこれらの製品にも込めているという。ブログツール(Movable Type)から発展し、現在は企業のコーポレートサイトやメディアサイトなどでさまざまな製品が利用されている。各製品の特徴は次の通り。
- Movable Type
同社コアツールであり、ブログをベースに開発されたサーバーインストール型の高機能CMS。ブログだけでなく企業のコーポレートサイトの管理やメディアプラットフォームとしても利用されている。小規模から大規模サイトまで、スケーラビリティに優れ、充実したサードパーティ商品群をそろえているのも特徴の1つ。現在はクラウド版の提供も行う。
コアツールのMovable Type。ローソンやハフィントン・ポストなどでも採用されている
- Lekumo
インストール不要、サブスクリプションで使えるビジネス向けブログサービス。商用利用が可能であり、カスタマイズ性に富み、ドメインマッピングも自在。ブログシステム提供者向けのOEM販売も行っている。
- Lekumoキャンペーンビルダー
Twitterを利用した各種キャンペーン施策を支援するツール。キャンペーンサイトの作成のほか、クイズ、診断キャンペーンや当選管理機能などが充実している。実名制のFacebookではキャンペーンに参加しづらいことがあるため、あえてTwitterに特化した。
- Zenback
ブログにウィジェットとして埋め込むことで、ブログ関連記事のリンクを自動的に生成するシステム。記事内容に合わせた関連リンクのほか、外部ブログメディアや、Twitter、Facebook、はてなブックマークのコメントを表示することもできる。有料版では広告表示がなくなり、Twitterだけを対象に抽出するなど、任意の機能を利用できる。
今回のセミナーで紹介されたツールは、数あるなかの一部ではあるが、各社のソーシャルメディア関連ツールがどのようなコンセプトで開発され、実際にどのように運営に役立つのか、動向を知ることができる機会となった。
この記事は、2013年4月23日に開催されたWeb広告研究会月例セミナーのレポート前編です。(後編は近日公開予定)
オリジナル記事はこちら:「ソーシャルメディアマーケティングに活用すべきツールとは? 米国の実情とツールの特徴を一挙解説」2013年4月23日開催 月例セミナーレポート(1)
「ソーシャルメディアマーケティングに活用すべきツールとは? 米国の実情とツールの特徴を一挙解説」2013年4月23日開催 月例セミナーレポート(2)
© 2012 Web Advertising Bureau. All rights reserved.
この記事に関連する他の記事を見る
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ソーシャルメディアマーケティングに活用すべきツールとは? 米国の実情とツールの特徴を一挙解説 [Web広告研究会セミナーレポート] | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.