世界に通用するクリエイティブ議論から、中小向けWebサービスまで
盛りだくさんな内容で行われた東北セミボラ
東北セミボラの第一部では、デジタルクリエイティブの分野で世界進出するWOW inc.とイメージワークスが登壇。海外進出によって何が変わったのか、世界へ踏み出すために必要な要素はなど、ディスカッションが行われた。
東北の“いま”と“これから”に向け
価値のある被災地支援活動を続けていく
Web広告研究会は2012年4月20日、東北セミボラ(セミナー&ボランティア)を宮城県・仙台市福祉プラザで行った。「セミボラ」は、東北のいまの復興(ボランティア)とこれからの復興(セミナー)に向け活動するWeb広告研究会の造語で、2011年11月4日に続き2回目の開催となる。Web広告研究会としてできる、価値のある被災地支援活動を目指す今回のセミボラでは、地域に密着した話題からグローバルに取り組む話題など、さまざまなテーマでディスカッションが行われ、他の地域と東北がつながる大きな機会となった。
東北セミボラでは、まずWeb広告研究会幹事であり、東日本大震災被災地支援プロジェクトリーダーを務める次田寿生氏が、
Web広告研究会のセミナーを東北で行うことで、地域の方々とのご縁や仕事が生まれるキッカケになればと思う。私は大阪にいるが、大阪では日常生活の中で被災地に対する思いが薄れてきている部分もあるので、こういった形で年に数回でもこちらを訪れることができたらと考えている。今回のセミナーも非常にバリエーションに富んだ内容となっているので、多くの方に楽しんでもらえるはず(次田氏)。
と開会の挨拶を行った。
小規模ながら積極的に海外進出を行う
WOWとイメージソースの取り組みを学ぶ
続いて、第一部として「世界で通用する日本のデジタルクリエイティブとは?」と題したトークセッションが開催され、モデレータに株式会社ワンパクの阿部淳也氏、パネリストにWOW inc.アートディレクターの鹿野護氏と株式会社イメージソース代表取締役社長の小池博史氏が招かれた。
「事前打ち合わせの段階からテンションが上がりすぎていて、今日はお2人に聞きたいことがたくさんある
」と話す阿部氏は、
タイトルは大げさだが、実は身近なところに“世界”があると感じている。日々の仕事の中でのヒントとなる話が聞けると思うので、ぜひ将来的に世界に出るときに役立てていただきたい(阿部氏)。
とトークセッションの趣旨を説明する。また、宮城県名取市の出身であることを明かした阿部氏は、
震災後は地元に対して何かできないかと考えながら日々生活している。明日のボランティアにも参加するが、今後もこの場にいる皆様とコミュニケーションを取りながら、10年後、20年後の復興に向けて一緒に歩んでいきたいと思う(阿部氏)。
と挨拶した。
第一部のトークセッションは、国内人口の減少や内需縮小によって企業のグローバル対応やアジア進出に注目が集まっている中で、小さな会社であっても世界を意識しなければ生き残れないのではないか、という趣旨で行われた。実際に、阿部氏、小池氏、鹿野氏の会社は数十名規模であるが、グローバル化に危機感を感じながら仕事をしているという。小池氏のイメージソースと鹿野氏のWOW inc.は、それぞれ違った形で世界を相手にビジネスを展開しているため、まずは自己紹介も含めた両社の状況が発表された。
小池氏が代表を務めるイメージソースは、Web広告制作、映像演出やインタラクティブデバイスなどを提供する。Webの技術を活用した実験や、新たな試みにも取り組んでおり、昨年は中国上海に法人を設け、小池氏も月に一度は上海を訪れて仕事をしているという。上海やロンドンでのキャンペーンやイベントの実績もある。
仙台から事業を開始したWOW inc.は、東京、イタリアのフィレンツェ、ロンドンにも拠点を置いている映像制作の会社だ。現在では映像制作だけでなく、ユーザーインターフェイスやインスタレーション(美術作品の掲示手法)の設計も行っていると鹿野氏は、
空間と映像を一体化させるプロジェクトを手がけた際に、映像という1つのメディアだけではなく、複数のメディアを通じたものを作れないかと考え始めたことから、WOW inc.のビジネスは変化を持ち始めた(鹿野氏)。
と説明する。「受注がなくても、自主制作で自分たちが次にどうありたいかを提示するような作品を、1年に1本は作って公開している
」と話す鹿野氏は、視覚デザインだけでなく、人間を中心とした環境デザインに近づけることが目標だと説明している。
また、仙台のチームが自主的に作成して公開した作品がキッカケで受注を得ることができた案件の例として、パリやロンドン、北京、韓国、ロシア、スペインなどで展示された作品も紹介された。
自主的な作品をきちんと編集して英語のドキュメントも付けてYouTubeなどで公開していると、このような作品に興味がある海外の人たちが連絡をくれる。どこで実験していようが、目撃してくれる人は必ずいるということを感じている(鹿野氏)。
と話す鹿野氏は、宮城県美術館で展示したものが次にロシアで展示されるようになっていると、ネットのメリットであると説明する。
それに対して阿部氏が「英語のドキュメントをつけているということは、海外を意識して意図的にやっていることなのか
」と質問すると、鹿野氏は、
個人的な作品についても英語の説明を付けていて、こちらのほうは自分で訳しているので非常につたない英語となっている。しかし、熱意を持って公開すれば、温かいコメントが寄せられるので、つたなくても英語で公開した方がいい(鹿野氏)。
と話す。実際、実験的な技術を公開したところ、興味を持ったシリコンバレーのデベロッパーから連絡が来て、共同でiPhoneアプリを開発したこともあるという。
汎用的な技術ではつながりにくいが、狭いけど特殊な技術は独自性を持つキッカケとなり、海外とつながるキッカケにもなる(鹿野氏)。
さらに鹿野氏は、WOW inc.が海外との接点を強める前から「未来派図画工作」という個人的なプロジェクトを英語で公開し海外からのメールやコメントを受け取っていた。そのことで「海外に打って出るという考えがなくなり、意識せずに自然に海外とつながるようになっていた
」と話す。
一方で、地方都市の中で仕事をし、今後何十年も生きていくため、ローカリティや地域性の中で何を作っていくかも重要視している。地域と離れたネットワークの世界と、地域に密着した世界をハイブリットな視点を大事にしながら行き来し、交互に創造性を発揮することによって、独自性が出ると考えているという。
何のために海外進出を行うのかが重要
好奇心を持って人とつながれば世界が広がる
続いてトークセッションは、あらかじめ用意された質問に小池氏と鹿野氏が答えていく形で進められていく。1つ目の質問は「日本のクリエーターはそもそも世界に出て行くべきか?」というものだ。
小池氏は、
Webに限らず、クリエイティブではコンポーザーや共通の言語で会話ができると思う。したがって、日本だけでなく海外と一緒にやれる可能性は秘められているし、何とかなると思っている(小池氏)。
と話す。
鹿野氏は、
出て行くべきだが、出て行って何をするのかが重要。収益をあげるのか、成長するためなのか。目的を誤ってはいけないと思う」と話し、「世界を意識せずとも、海外のクリエーターと情報交換したり、オープンソースのコミュニティに参加したりと、そもそも世界とつながっているはず。敷居を高くせず、気楽にインターネットベースから挑戦したほうが自分の世界を広げるキッカケになると思う(鹿野氏)。
とアドバイスする。
自分にとって、世界に出て行く意味は2つあるという小池氏は、
1つは、世界中のいいクリエーターとつながり、インスピレーションを受けたり、一緒にプロジェクトをやりたいというモチベーションを得られたりすること。もう1つはビジネス。インターネットの仕事をしているので海外の人とつながりやすいが、それがすぐビジネスになるわけではない。ビジネスにしようとするには、やはり実際の行動あるのみと思っている(小池氏)。
と話す。また、小池氏は「鹿野さんの場合は、アートや作品というアプローチがあるが、我々は仕事でやっているので海外で賞を獲っても依頼は一切来ない
」と意外なエピソードを話す。海外で賞を獲得する日本の制作会社は多いと思われるが、言葉や商慣習の違いがビジネスの依頼の壁となっているのではないか、と小池氏は推察する。
クリエイティブは言葉の壁を越える
海外の視点を取り入れ好奇心を刺激する
2つ目の質問は、「世界に出ようと思ったキッカケは?」というもの。
鹿野氏は、
ネットだけではなく、実際に海外に行って何かやろうとしたキッカケは、WOW inc.が10周年を迎えたのを機に海外のデザインイベントに出展しようとしたこと。そのときには、自分たちだけが作れるものでシンプルなもの、言葉の壁を越えて理解できるものという点を意識した。そこで評価を受けたことで、“いける”と感じ、つながった人たちと積極的に交流することでプロジェクトが広がっていった(鹿野氏)。
と話す。
設計したエクスペリエンスデザインに沿って海外の人が反応してくれたことで、自分たちの言語で勝負できると確信したという鹿野氏に対し、阿部氏は「インタラクションデザイン的な発想で、映像の世界から一歩踏み出ている感じがする
」と問いかける。鹿野氏は「映像だけの技術やセンスだけでは勝てない
」と話し、
ハリウッドなどのすばらしいプロダクションに対抗するためには、自分たちならではのものが必要となる。そこで、インタラクションを含めたビジュアルデザインを考えて実現でき、なおかつ成功したことで、社内でもこれに賭けていこうという想いが膨み、世界が広がっていった(鹿野氏)。
と説明する。
それに対して小池氏は、「鹿野さんがすごいと思うのは、作品に使うハードウェアがシンプルで持って行きやすいパッケージになっていること。これは最初から意識していたものなのか
」と鹿野氏にたずねる。鹿野氏は「仕事とは別のプロジェクトとして仙台で最初に展示したが、仕事ではなかったので
」と予算の関係で必要に迫られてハードウェアを削ぎ落としていったと答え、「普通の人でも買えるようなハードウェアでスタートしたことで、ゲリラ的にどこでもやれるような構成になった。現地で調達することもある
」と背景を明かした。
一方、銀座にオープンした海外ブランドのショップのキャンペーンを手がけたことが海外進出のキッカケになったという小池氏は、
ブランドのコーポレートアイデンティティがある米国にプレゼンに行ったとき、クリエーターと知り合いになった。自分自身はそれまで英語に苦手意識があり、外国人を見ると逃げていたのだが、それをキッカケに積極的に会話してみたら楽しくなってしまった。日本の視点だけでなく、海外の視点で見ることで、いいクリエーターがたくさんいることがわかり、一緒に飲みに行くだけでも面白く、好奇心が刺激された(小池氏)。
と話す。
世界と触れ合うことで生まれる変化
現地のパートナーは必要不可欠
3つ目の質問は、「世界に出て変わったことは?」というもの。
「2つの変化がある
」と話す小池氏は、
自分の知見を広げるためにも、できるだけ海外のエキシビションなどに参加するようになった。国内外のクリエーターと知り合え、情報も増える(小池氏)。
と話す。また、「上海の事務所は、現地の仕事が増えてから作ろうと思っていたが、先に事務所を作ることで対応のスピードが上がり、地元にいるということで信用度が増すことがわかった
」と、実際に顔を合わせることで相手の態度も変わっていくことを明かした。
鹿野氏は、
仙台で起業したこともあり、ずっと東京で成功したい、日本で成功したいと考えて一生懸命やってきた。しかし、海外に出て、もっといろんなところで認められたいと思うようになり、日本はその中の1つになっていった。目指す舞台が変わったことで、たとえば言語に頼らないなど、自分たちが作る作品もシフトしていったと思う。また、できることをやるしかないという意識も強まり、“こうなりたい”といった憧れを追いかけるのではなく、自分の内側に視点が移っていったような感覚がある。日本のことをもっと知りたいと思うようにもなった。
と話す。
また、WOW inc.はロンドンとフィレンツェにも事務所を構えるが、小池氏と同様、現地に住んで現地の人が一緒に介在していかなければ海外でのビジネスは難しいと鹿野氏は明かした。現地でビジネスパートナーを見つけ、いい仕事を選んで、一緒に進んでいく必要があり、そのためにはまず海外に出なくてはならない、といったトークが3者の間で繰り広げられた。
賞を獲ることだけが評価ではない
表現力だけでなく技術へと踏み込むことも必要
4つ目の質問は「世界と比べたときの日本のクリエイティブの実力は?」というもの。
阿部氏は、過去2年間のカンヌでの日本の受賞数を示し、
日本はサイバー部門が強いと言われる。確かに日本全体の中でサイバー部門の受賞数は多いが、世界の受賞国を見ると米国や北欧が多く、それほど日本が強いわけではないように感じる。チタニウムに関しては、日本はまったく受賞していない。カンヌだけのデータなので偏っているかもしれないが、海外の賞を獲っても現実の仕事にはつながっていないという小池さんの話もあった。実際にはどう感じているのか(阿部氏)。
と質問する。
小池氏は、
その年によって傾向があるので一概には言えないが、日本の場合は他の国にない視点が評価されて受賞するケースが多いと思う。日本は理詰めの部分がアウトプットに出ているが、海外はエンターテインメント性と表現力が評価され、表現力に対するパワーやお金のかけ方が違うと感じる(小池氏)。
と話す。
さらに鹿野氏は「賞を意識して作品を作ることはあるか
」と質問すると、小池氏は「結果的に受賞することはあるが、賞を意識してはいない。賞を獲ってほしいという依頼はあるが、それはなかなか難しい
」と答える。阿部氏も、
一昔前かもしれないが、海外のエージェンシーは賞を約束事やコミットにしているケースが多いと聞いたことはある。自分はビジネスへの貢献が重要と考えている人間なので、賞にはあまり興味がない。結果的にもらえればうれしいが、賞だけでクリエイティブが評価されるわけではない(阿部氏)。
と話す。
「賞とは縁が遠い(笑)」と話す鹿野氏は、
WOW inc.には、まだ確立されず、産業化されていないところに興味を持つという、ビジネス的にはあまりよくない視点がある。日本の実力は、表現力の高さだと思っている。逆に世界と比べたときの日本は、たとえばFlashを使うのは非常にうまいが、その根底となる技術を作るという点では非常に弱いと感じている。オープンソースのプロジェクトにもっと日本のデベロッパーがコミットして、フィードバックを返すことがあってもいい。そのため、我々はなるべく基盤となる技術に触れながら表現をつくるように心掛けている(鹿野氏)。
と話す。また、現在デザイナー向けのツールを制作し、オープンソースでの公開を企画していることも鹿野氏は明かした。
言葉の壁を恐れず積極的に
共通言語を見出して一歩先へと踏み出す
5つ目の質問は「世界に出るには何から攻めればよいのか? また、世界に出て行くために必要な人材は?」というもの。
まず小池氏がイメージソースの上海事務所設立の経緯を語った。小池氏は、
元々中国人に知り合いがいて、5年位前から調査を始めている。上海万博の前くらいから具体的に考え始め、実際に行ったときに大きな熱を感じ、肌感覚でこれは面白いことになると思った。現在はようやく動き出した段階だが、重要なのは社内のスタッフに熱をどう感じてもらうかということ。自分は上海に行って帰ってくるたびに楽しい話しかしなかったので、結果的に上海事務所の社員を募ったら多くのスタッフが手を上げてくれた。もちろん、日本でも新たなチャレンジはできるが、海外で中国語や英語を学びながら新たなチャレンジをしてくれるスタッフは、会社としても、社会にとっても貴重な人材になるのは間違いないと思っている(小池氏)。
と話し、最適な人材については「生活面が大変でも耐えられて、多少のことではビックリしない鈍感な人
」と説明した。
海外での人材の話から英会話に話題が移ると、阿部氏は鹿野氏に「英語が読めるということはデベロッパーにとっても非常に重要なのではないか
」と質問する。鹿野氏は「翻訳ベースでなく最新のソースが読めるということは非常に重要。もちろん、会話ができればなおよいが、まず読めなければ作り手としては非常に厳しい
」と答える。
必要な人材について鹿野氏は「外国人恐怖症や英語への苦手意識は大きな壁だと思う。我々も英会話教室などをやっているが、まずは海外でコミュニケーションが取れるようになれば、後は何とかなる。その“何とかなる”ということを知ることが重要
」と話す。
また、鹿野氏は海外とチャットで仕事をした自らの体験を話し、
英語でチャットしていたが、相手に自分の画面を操作させてプログラミングさせるなど、言葉ではなく、ソースコードで会話することも多かった。自分たちの共通言語を見出すことができれば、それで仕事ができるので、そこから先に一歩踏み出せることが重要。海外での展示には、必ず行ったことのないスタッフを連れて行くようにしている。現地で自分たちの作品がどのように使われているかを体験することでマインドがまったく変わってくる(鹿野氏)。
と説明した。小池氏も
必要な人材というのは難しく、職種によっても変わるが、一番は海外の仕事に触れて人と出会い一緒に仕事をすることに好奇心をもてるかどうかが重要(小池氏)。
と話す。
最後に「これから世界に向けて2社はどうしていくのか?」という質問が両氏に向けられ、一言ずつコメントをもらう形で第一部のトークセッションはまとめられた。
鹿野氏は、
個人的には、積極的に出て行くのではなく、自然とつながって行きたいと考えている。また、世界中のデベロッパーやデザイナーが使うようなツールを提供して、我々の感性や技術を皆がほしがるという状況をこの数年でつくっていくことが目標(鹿野氏)。
と答える。
小池氏は、
上海をステップにして、いろんな問題をクリアにしながら、会社としての武器を持ちたいと思っている。これはイメージソースに頼まなければならないという、何らかの武器をしっかりと構築することができれば、上海でも成功できるし、他の国に行っても成功でき、他の国に行かなくても自然と声がかかると思う(小池氏)。
と話した。
オリジナル記事はこちら:Web広告研究会第二回東北セミボラレポートpart1(全3回)「世界に通用するクリエイティブ議論から、中小向けWebサービスまで」
- 内容カテゴリ:Web担当者/仕事
- コーナー:Web広告研究会セミナーレポート
- 内容カテゴリ:マーケティング/広告
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:世界へ踏み出すクリエイティブ&クリエーターの心得を議論「世界で通用する日本のデジタルクリエイティブとは?」 [Web広告研究会セミナーレポート] | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.