前回までのあらすじ
Web制作会社に勤めて3年目の山ノ内くんは、クライアントである広告代理店・永伝舎の八瀬さんと、雑誌記事を書くことになった。
八瀬さんが書いてきた記事には、他社サイトの画面キャプチャを使っていたが、なんと画面の中のロゴや会社名、引用元にモザイクをかけてわからないようにしていた! 直感でこれではマズイと感じた山ノ内くんは、社内弁護士である有栖川さんに相談。著作者の許可がなくても適法にサイト画像などの著作物を引用する方法を学んだのだった。
→前回のマンガは「サイト画面などの著作物を正しく引用する方法とは?」(第3話)
「データ」「グラフ」を利用する際に気を付けるべきこと
リサーチ会社が独自にアンケート調査をおこなって、いろいろな会社の広告手段や広告費、売上変動率など調査した結果をまとめた「データ」や「グラフ」を、リサーチ会社に断りなく、雑誌に載せようかと思っています。マナー悪いですが、法的に問題ありますか?
法的なことだけいうと、次の2点に気を付けるべきね。
(1)その「データ」や「グラフ」は著作物か?
……「データ」「グラフ」は、著作物でないものが多いわ。ただし、著作物にあたる場合もないとは言えない。著作物なら利用が制限されるから注意が必要ね。
(2)非著作物でも、勝手に利用した場合、法的責任が生じる場合がある。
……どのような場合が危ないか、過去に問題になった事例について説明するわ。
「著作物」とは何か?
データやグラフは、著作物かどうか問題になるんですね。そもそも「著作物」って何なのでしょうか。
著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義されているわ(著作権法第2条第1項)。たとえば、著作物には、小説や論文など言語を用いたもの、音楽、舞踊、美術、建築、図形、写真、プログラム、辞書などの編集物、データベースなど……いろいろなものがあるわ。
うーん、難しいですね。なんとなくわかるんですけど。
まあ、そうね、「著作物」とは何か、かんたんにまとめると、
- 「人の思想・感情(考えや気持ち)」を
- 「創作的」に
- 「表現したもの」
っていうポイントだけ覚えておいて。これらをすべて満たすものが著作物よ。
はい! それなら私でも覚えられそうです☆
- 「調査データ」は「人の思想・感情(考えや気持ち)を表現したもの」ではない
「調査データ」は「人の思想・感情(考えや気持ち)を表現したもの」ではない
著作物とされるためには、まず、(1)「人の思想・感情(考えや気持ち)を表現したもの」であることが必要よ。
たとえば「自然界にある物」なんかを題材に表現したものは著作物じゃないってことですか? 富士山とか。
違うわ。表現対象が「自然界にある物」でも、表現過程に「思想・感情」が入り込んで、それが表現の中に反映されていればいいの。たとえば「富士山」という「事実」を題材にした「絵画」なら、表現過程、つまりデッサンや彩色などに作者の創意工夫が入り込んでいて、出来上がった絵画の中に反映されてるわね? そうしたら「人の思想・感情を表現したもの」と言えるのよ。
なるほど、そういうふうに考えるんですね。
逆に、「富士山それ自体」は「事実」だから著作物ではないわ。「事実」「事件」「事象」なんかは、人の「思想・感情」が表現されたものでないから著作物じゃないの。たとえば、「今の日本の人口は約1億2000万人である」「1600年に関ヶ原の戦いが起こった」「C+O2→CO2」とかね。
「事実」「事件」「事象」は著作物ではない……。なんとなくわかってきました。
で、今回問題になっている「調査データ」。これは、各会社の広告手段とか、広告費のアンケート結果をまとめたものよね。こういうデータも、単なる「事実」であって、著作物ではないと考えられているの。
ちょっと待ってください。この調査データって、費用や労力を投入して調査されてますし、取材や調査、テーマ設定などに、調査会社の創意工夫が現れてると思いますけど?
データはあくまで「もともとこの世界に存在したものが発見されたもの」と考えるべきね。思想や感情に基づいてデータの収集行為が行われても、収集の結果判明したデータ自体は思想性を帯びないわ。珍しいところにある島が大冒険の果てに発見されても著作物にならないのと同じよ。
う~んなるほど、わかりました。
……ちなみに、「事実」が創作的に編集されて出来た「編集著作物」や、「データ」の集合物だけど、コンピュータで検索できるよう体系的に構成された「データベースの著作物」は著作物になるわ。今回は関係ないけど、混同しないでね。
「事実」は非著作物だけど、「事実」を編集してできたものは著作物になりうる。「富士山の絵」と同じイメージかな。
あの……、難しい……です……(涙目)
ふん、今日は、初心者には難しい話だったかもね。とりあえず、「調査データは事実だから著作物じゃない」ってことだけ覚えておけばいいわ!
- 「グラフ」は「創作的に表現したもの」にあたらない場合が多い
- 非著作物なら、自由に利用しても構わないの?
「グラフ」は「創作的に表現したもの」にあたらない場合が多い
事実である「データ」を単に「グラフ」化したものは、著作物にあたらないことが多いわ。
さっきの「富士山の絵」と同じように考えればいいのでしょうか。データという「事実」をビジュアル化する過程に「思想・感情」が入っていれば著作物になるんじゃないですか?
山ノ内くん、的を射てるわ。でも、ここで、もう1つ問題になってくるのが、(2)「創作的に表現したもの」ないし「創作性」という要件よ。これは、その表現が作者独自のものであること、個性が現れていること、という意味よ。
グラフには、創作性がないのかしら……?
グラフには、円グラフ、棒グラフ、折れ線グラフ、帯グラフ、レーダーチャートなどいろいろな種類があるけど、「表現方法が極めて限定されて選択の余地がない」ものや「ありふれた表現」として、「創作性」が認められないのよ。
「ありふれた表現」って?
どこにでもあるような表現のことよ。たとえば、時候の挨拶やキャッチコピー、記事の見出しなど。
なるほど。
「ありふれた表現」とか、「表現方法の選択の余地がない表現」については、その表現手法は世の中みんなで共有すべきだから、「創作性」は否定されるの。誰かひとりが著作権を持って独占しちゃったら不便でしょ。
確かにそうですね。じゃあ逆に、「創作性」が認められる「グラフ」はないのでしょうか?
凝った表現を使っているグラフなら創作性が認められるかもね。たとえば、世界の国の人口を表すのに、それぞれの国民の顔のイラストを使っている場合とか。
なるほど。今回使おうとしたグラフでいうと、洋服や自動車のイラストを使ってるグラフがありますね。このグラフには創作性が認められるってことですね。
その可能性はあるわ。まあこれでも微妙な例よね。
私も、「著作物」と「非著作物」の違い、何となくわかってきました☆
あのねえ、ここまで丁寧に説明してるんだから、当然よ。これでわかってなかったら、私の『インパクト六法』が火を噴くわよ!!!
やめてくださいーーー!!!! 八瀬さんは、(一応)取引先です!!!
非著作物なら、自由に利用しても構わないの?
非著作物は、自由に利用して構わないのでしょうか? 今回のデータを公開してるリサーチ会社は、こういう調査データを集めて有償書籍を出版してるみたいなんです。それなりに価値のあるデータと思うんですが。
出版されてる書籍に記載されたデータを、その3~4年前後に盗用して出版したとして訴えられた例があるわ。平成12年に地方裁判所で判決が出ているわね。
ええっ! 訴訟になっちゃった例があるんですか!?(ビックリ)
そうよ。その訴訟では、「データ」が非著作物であっても、勝手に利用された場合には法的利益を侵害するんじゃないかということも争われたわ。
著作権侵害じゃなかったら大丈夫ってわけじゃないんですね……。
まあ、その裁判例は、「情報ないしデータ」については、(不正競争防止法などで特別に保護される情報等を除いて)本来誰でも接し、利用できる情報であって、特定の人に排他的に権利を付与すると他の人から利用する機会を奪うことになるから、データ収集者に保護を与えるのは慎重にすべき、という見解を表したの。その上で、問題とされたデータには、利用された時点で法的保護に値するほどの価値がないとして、権利侵害とはしなかったわ。
つまり、今後は、データを勝手に利用して訴えられても、勝てるんでしょうか?
そういう考え方は危険ね! この裁判例から読み取れるのは「データの無断利用が違法か」は「ケースバイケース」ってこと。「情報に経済的価値があった」とか、「利用行為の態様が不当である」などと言える場合、責任が認められる可能性があるわ! 訴えたいという人から相談を受けた弁護士なら、争う余地を探すわね。それに、「データ収集者に保護を与えるのは慎重にすべき」という考え方も、最高裁判所が出した判断じゃないから、他の裁判所も同じ見解を取るかはわからないわけよ。
うーん、ナルホド。永伝舎さんはともかく、我が社なら訴えられるだけで一大事ですからね。……で、今回の場合はどうしましょう?
このリサーチ結果のグラフやデータがあった方が良い記事になると思うので、できれば載せたいんですが……。
そうね、もともとリサーチ会社のWebサイト上で公開されてて誰でも見られるようになってるデータやグラフでしょ? 「経済的価値」としてはそれほど高くないと思う。あと、そのままデッドコピー(そっくりそのまま、丸ごとコピーすること)して売るとかでなく、一部利用するだけであれば「不当な利用方法」というほどではないわね。(イラスト入りの折れ線グラフがもしかしたら著作物かもしれないので、その利用にだけ気を付ければ、)結論としては問題ないと思うわ。
よかった!
まとめ
まとめると、
(1)「データ」や「グラフ」は著作物か?
……今回の「調査データ」「円グラフ」は非著作物。「洋服や自動車のイラストが使われた折れ線グラフ」は著作物かどうか微妙。
……もしイラストが使われた折れ線グラフが著作物にあたるとしても、適法な引用の要件を満たして使えば(第3話参照)、無断で使っても著作権侵害にはならない。もしくは、グラフをそのまま流用するのはやめて、自分で表現方法をまったく変えた新しいグラフを作るという方法もあるわよ。
(2)非著作物でも、勝手に利用した場合、法的責任が発生する場合がありうるけど、今回は大丈夫かしらね。
わかりました! ありがとうございます!
ただ、マナーが悪いっていう気持ちを持たれてクレームが来る可能性はあるわね。
八瀬さん、やぶ蛇になるおそれもあるけど、記事に出所を書いておいたり、事後でも報告をしておいたりすることはできないでしょうか。
そうですね……わかりました!
じゃあ、すっきりしたところで、みんなで原稿の修正をやっちゃいましょう!
はい!
……私も付き合うわけね(ため息)
第5話は2013年1月中旬ごろに公開予定
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オリジナル記事:データやグラフは著作物なの?/【漫画】僕と彼女と著作権・第4話 [僕と彼女と著作権] | Web担当者Forum
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