アクセス解析ツールを導入したものの、
使い方がわからず、ほとんどログインしていない。
データが膨大で何から手をつけていいのかわからない。
分析をしたいが、統計や解析のノウハウがなく挫折した。
このような悩みを持つWeb担当者は多いのではないだろうか。アクセス解析の必要性を感じていても、なかなか手をつけられない、そんなデータ分析初心者向けのセミナー「改善が思いつく!アクセス解析の新手法~データ初心者にすすめる『本当に見るべきデータ』とは」を、デジタルマーケティング支援のビービットが12月18日に開催した。
必要なデータだけに目を向け、改善に役立つデータをもとにPDCAを高速にまわす。このような施策により、「月間PV数を259%アップ」「資料請求を6倍に増加」などの実績を上げてきたビービットが解説する、正しいアクセス解析の考え方とは何か。チーフコンサルタントの橋本公彦氏が解説したセミナーの要点をレポートする。
大量データから宝物を見つけるのは難しい
施策の結果をシンプルに見られる広告効果測定ツール「WebAntenna(ウェブアンテナ)」の提供でも知られているビービットだが、冒頭に紹介したような大きな改善を実現した背景には、どのようなデータ活用があったのだろうか。この日、登壇した橋本氏は、具体例を交えながら細部にわたってノウハウを明かした。
最初のテーマは、Web担当者にとっての「正しいアクセス解析の考え方」だ。とにかく大量のデータを集めて分析し、統計処理を行い、改善の指針となるような宝を発見する……。ビッグデータ時代のアクセス解析について、このような理想像を描いているWeb担当者は多いかもしれない。
ところが、このような取り組みは無駄にリソースを費やす結果となり、「ほとんどの企業は宝を見つけられない」と橋本氏は指摘する。理由は簡単で、ビッグデータの解析には高度なスキルが必要であり、成果を出すには専門の解析チームの編成が不可欠だからだ。広告施策の立案やサイトの改善業務に追われるWeb担当者が、片手間でできる業務ではない。
このため橋本氏は「専門チームを編成できない場合は、大量のデータから改善を見つけ出すような分析は諦め、現実の中でいかにアクセス解析データを効率的に使うかに発想を転換する必要がある」と主張する。
データをもとに仮説を立てるのではなく、仮説をあらかじめ立てておき、その仮説が合っているかどうかを見るためだけにデータを使用します。こうすることで見るべきデータが絞られますから、分析の専門スキルを持たないWeb担当者でも、データの活用に取り組めるようになります。
大量のデータ(ビックデータ)の分析を重視するという世の中の潮流に逆行しているかもしれませんが、現実にはこうしたアプローチで成果を上げている企業が非常に多いのです。
まず仮説を立て、その仮説が正しいかどうかをデータで検証する。データ活用の基本をこのように話したうえで、橋本氏は、事前の仮説検証のためにデータを用いることをWeb担当者の実務に落とし込み、成果を得るための具体的な方法を、「運用業務」と「リニューアル業務」の2つに分けて紹介した。
運用業務
施策別に改善に役立つデータだけを見る
まず運用業務だが、橋本氏によれば肝要なのは次の2点だ。まず1点目は見るべきデータを「成果につながるデータのみ」に絞り込み、ほかのデータは一切見ないと割り切ること。そして2点目は、グロスではなく施策別に成果を見ることだ。
このような運用によって大きな成果を上げた事例として、サントリー酒類の「角ハイボール」をヒット商品に育てたWebマーケティング施策が紹介された。
この事例では、角ハイボールの飲用経験者の増加を目的に、サイト上に角ハイボールの無料クーポンを用意し、シンプルに「無料クーポンのダウンロード件数」をKPIとして設定して、キャンペーンを始めた。そして、「純広告」「商品名“角ハイボール”の検索」「“地名+居酒屋”による検索」といった施策ごとに成果をチェックしていったという。
目的に合わせたKPIとして、見るべきデータが「クーポンのダウンロード数」にはじめから絞られているため、Web担当者は時間をかけずに必要なデータだけを施策開始直後から分析できる。そして集計されたデータを1週間後に検証すると、想定外の結果が出たという。
集客の主力だと考えていた純広告、そして最も重視していた「角ハイボール」という検索キーワードからのコンバージョンが非常に少なかった。当時は、角ハイボールがまだ世の中に浸透していなかったため、「角ハイボールの飲める居酒屋」を目当てに探す人はほとんどいなかったのです。
一方で、「渋谷+居酒屋」といった、あまり期待していなかったキーワードで成果が出ていた。この予想外の結果に着目して考えられたのが、「具体的に居酒屋を探している人ならクーポンダウンロードと相性が良く、成果が上げられるのではないか」という仮説です。
そして「渋谷のおいしい居酒屋特集」などのように、キーワードにマッチするランディングページを設け、仮説に沿った施策に転換することで大きく成果を伸ばしていきました。シンプルなKPIを設定し、データを見て仮説を修正し、すぐに改善に取り組んだことが、サントリー酒類の成功事例の大きなポイントになります。
運用業務
成果を上げる3つの基本ステップ
橋本氏によれば、成果を上げるためのプロセスは共通しており、どのような企業であっても、次の3ステップを踏まえる必要があるという。
- ゴール定義
- 仮説・実行
- データ検証
1. Web上で完結しない場合は、購入直前のページにKPIを設ける
まずゴール定義が大事なのは当たり前と思うかもしれないが、コンバージョンが「リアル店舗での商品購入」といったように、WebサイトのKPIを設定しづらいケースも多い。このようなときは、何をKPIにすればいいのか。
お勧めは、購入の直前や直後に位置するページのアクセス(訪問数)をKPIにすることです。たとえば、ある自動車ディーラーでは、店舗の地図ページへの訪問数をKPIにしています。またユーザーがどの店舗で購入するかわからないケース、たとえば、プリンターやペットボトル飲料などの場合には、商品購入後のユーザー登録ページや、ポイント付与キャンペーンのページがKPIになります。
2.ユーザーを意識した仮説は施策の幅を広げる
次に仮説・実行のステップだが、ここでは「AとBのどちらの施策がいいのか」ではなく「AとBのどちらのタイプのユーザーを対象とするのか」を意識して仮説を立て、検証することが重要だという。前者の考えでA/Bテストを繰り返していくと、実行できる施策の幅はどんどん狭くなってしまう。
一方、後者の場合は、大胆な発想の転換により、大きな成果を得られる可能性が生じる。そうした事例として、投資経験者向けから初心者向けにターゲットを変更し、FX取引の口座数を伸ばしたネット専業の証券会社の例が紹介された。
仮説を実験する場としては、「容易に変更ができ、費用や訪問数など面から改善インパクトの大きい領域であること」だと橋本氏はいう。たとえば、ランディングページやネット広告、メールマガジンなどが挙げられる。逆にグローバルナビゲーションなどは、インパクトは大きいが何度も変更するのは難しいため、お勧めできないそうだ。
3.施策ごとに再訪問のデータを検証する
そして(3)のデータ検証では、施策ごとにパラメータを設定して効果を見るのは当然として、意外と見過ごされがちなのが再訪の評価だという。家電製品などは比較検討のために再訪が多くなるし、旅行や不動産などリードタイムの長い商品は再訪率が非常に高くなる。
再訪は施策の評価では見落としがちですが、ユーザー行動からすると重要なことが多いです。データ検証時は必ず再訪を見ることをお勧めします。
橋本氏はこのように運用業務で成果を出すための各ステップを説明し前半のセミナーを終えた。
リニューアル業務
見るデータを決めるまでは、解析ツールにログインしない
休憩時間を挟んでセミナー後半では、リニューアル業務でのデータ活用手法が主なテーマとなった。橋本氏はリニューアル業務においても、「大事なのはデータから入らないこと」と強調する。
リニューアルにあたってデータを見たものの、あまりにも量が膨大すぎて、結局、見た時間を無駄にしてしまうケースは多いと思います。見るデータを決めるまでは、解析ツールにログインしない、というぐらいの気持ちを持って、仮説の立案に時間を使うようにしてください。
そして仮説を立てたら、次の3つの順に見るべきデータを定義していくことが大切だと橋本氏は説明する。
- 達成目標:リニューアルの達成目標(ゴール)を設定
- ユーザー分類:代表的なユーザー行動パターンを分類
- 導線分析:仮説をもとにユーザーの経路を分析
1.ビジネス貢献量をもとに達成目標を設定
まず、リニューアルで得たい成果はなにか、サイトの現状を把握し、ビジネス的な達成目標を設定する。そのうえで、目標につながるKPIを設定するのだが、運用業務と同様に、リニューアル業務においても、コンバージョンに近いところでKPIを設定していくのが鉄則だ。
たとえば、橋本氏が事例として取り上げたアパレルのブランドサイトの場合は、店舗情報の案内ページのユニークユーザー数が挙げられるという。リアル店舗へと足を運ぶユーザーは、高確率で店舗の場所などの情報を確認すると考えられるためだ。
KPIを設定したら、次に着目すべき点は、「どれくらい上下幅が出るか」「下降傾向か上昇傾向か」「季節変動」に絞られると橋本氏は説明する。細部ではなく、ざっくりと現行サイトの長期トレンドを把握するのがポイントだ。そのうえで、現行サイトはどの程度の「ビジネス貢献量」を発揮しているかを試算する必要があるという。
たとえば、店舗情報ページにアクセスするユニークユーザー数が2000人で、そのうち実際に来店するのは25%の500人だったとする。そして4割がコンバージョンすると仮定すれば購入客は200人。平均客単価が1万円なら、サイトは月200万円の売上に貢献していると試算できる。
アンケート調査などがあれば試算の精度を高められます。ない場合であっても仮の数字でいいので、ビジネス貢献度を数値化しておくことが重要です。
そうすると、リニューアルのコストに見合う売上はいくらで、そのためには店舗情報ページのユニークユーザーを何人増やす必要があるかがはっきりします。現行サイトのトレンドと、目指すべきビジネス貢献量との乖離を勘案して、実現可能性を判断できるようになります。
2.ユーザーを行動パターン別に分類
導線分析の前には、代表的なユーザー行動パターンを分類することが大事であり、そのためには「リアルでユーザーに会うプロセスが欠かせない」と、橋本氏は力説する。
実際に橋本氏は家族や友人・知人、職場などのつてでアパレルサイトのユーザーのヒアリング調査を行い、「CMを見てサイトに来る」「ブランド名で検索して流入する」「商品の個別検索で流入する」という3つの行動パターンがあるのをつかんだことがあると話した。
このような行動を取るユーザーが本当にいるかどうかは、流入経路別の訪問数とゴール到達数の2つを見るだけでわかります。そしてこの2つのデータを見れば、どの流入経路を改善すれば最も効果を得られるかという優先順位もつけられるのです。
Google Analyticsであれば、サイトの流入元を見て、流入元別のゴール到達者をクロス集計すればデータを得られます。ゴール到達者が想定していたより少なかった場合には、ユーザーの行動パターンの分類に戻って仮説を立て直す必要があるでしょう。
どのようなユーザーがいるのか、Web担当者自身が性別や年齢などの違いから、ブランドのターゲットでない場合はイメージするのは難しいだろうが、橋本氏は前述のアパレル事例のように、実際のユーザーに会うことでイメージしやすくなるとアドバイスする。
3.ユーザー行動の仮説を立て、経路を分析
ユーザーの代表的な行動パターンを把握したあとは、最も複雑な「導線」のプロセスへと入っていく。ここでもやはり、「サイトを訪れたユーザーはどのような行動とるか」といった、仮説を立てることから始まる。そのためにはユーザーになりきってサイトを利用し、サイト内行動パターンを明らかにすると同時に、課題を洗い出す作業(認知的ウォークスルー)をするのが有効だという。
そしてその行動パターンや、洗い出した課題が正しいかどうかを検証するために、データを活用する。具体的には各ページのゴール到達率と訪問数を調べ、仮説に代表性があるかどうかを検証するという流れになる。
本来、ユーザーの経路分析は非常に難解な解析作業になるという。しかし、あらかじめ「この行動パターンのユーザーはこのような経路をたどるだろう」という仮説を立てておくことで、ページ別のゴール到達率と訪問数という2つのデータを集計するだけで簡易的な評価ができるようになる。ここでも「データをやみくもに見るという無駄な作業をなくすことができる」と橋本氏は繰り返した。
仮説がなければアトリビューションも意味がない
橋本氏は、同様にアトリビューション(間接効果)分析においても、「まず仮説ありき」の考え方が有効だと説明した。「大量データを見れば何かが見つかるという幻想」にとらわれ、仮説に基づいて分析している企業は少ないのだという。
現状でアトリビューションをきちんと使えている会社は、ほとんどないでしょう。純広告を打ってみたけれど、コンバージョン数が少なかった場合に、他の効果がなかったかを探すため、アトリビューションを見る。そのような後付けで純広告を評価する使い方をよく見かけます。
しかし本来は、ゴールに到るまでのストーリーを事前に描いておき、その途中で複数回にわたって行う顧客とのコミュニケーションの成果を検証することが重要です。ランディングページに誘導したらすぐに購入されるような“刈り取り型”の商品は、コンバージョンを見ればいい。アトリビューションが必要なのは、リードタイムが長く、複数のポイントで顧客と接触する“複数接触型”の商品やサービスです。
橋本氏は複数接触型の具体例として、「価格」ではなく「安心」を訴求するコミュニケーションへと変更し、コンバージョンを2倍に高めたホームセキュリティサービスの事例を紹介した。この事例では、「初回訪問者が警備拠点の数などを他社と比較した結果、再訪してコンバージョンする」というをストーリーをもとに施策展開した。そのため見るべきデータも、「再訪からのコンバージョン率」だけで事足りたという。
また、ある人材紹介会社は、「純広告で知名度を向上させれば登録者数が増加する」という仮説を立て施策を展開し、実際に登録者を増やした。このときに見ていたデータも、「登録者が過去に接触した広告」だけだったそうだ。
仮説をしっかり立てていれば、アトリビューションを測るKPIは自然と明らかになる。何を見ればいいか悩むようなことは、なくなるということだろう。さらに橋本氏は、アトリビューションのデータを見るときのポイントは2点あると説明する。
1つはリードタイムの長さ、つまり初訪問からどの程度の期間でコンバージョンするかです。そしてもう1つは施策ごとのユーザーとの接触回数の違いです。同じサイトでも、リスティングやバナーといった施策ごとに接触回数は異なります。ですからコミュニケーションも、施策ごとに変えていく必要があります。
最後に橋本氏は、ツールの活用について次のようにアドバイスをした。
日々の運用とリニューアルでは、適したツールが異なります。前者に適しているのは、必要なデータだけを時間をかけずに見られる効果測定ツールです。一方、後者では操作性が多少悪くても、多様なデータを見られるアクセス解析ツールが必要になります。
ビービット社が提供しているWebAntennaは、前者の効果測定ツールに分類され、「見られるデータがKPIなどに限られる代わりに、シンプルでわかりやすい」という特徴があるという。
WebAntennaでは、日々の運用の中で、この施策とこの施策のどちらが良かったということが一瞬で見られます。施策の結果を見るには、非常に扱いやすいツールになります。
データが多すぎて分析できないことが、PDCAのボトルネックになっているケースは少なくないだろう。スピーディーに仮説を検証し、PDCAをオーバードライブさせていくには、WebAntennaのように見られるデータを意図的に限定したツールの利用も効果的かもしれない。
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オリジナル記事:PDCAをシンプルに考えるアクセス解析の新手法! 成果を上げる「仮説・検証型データ分析」ノウハウ全公開 [事例] | Web担当者Forum
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