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サッポロビールのSNS活用とWeb担当者としての社内調整ノウハウ、Web担当者の社内調整は“ズル”してすり抜けて結果を出せ [【レポート】Web担当者Forum ミーティング2012 Autumn] | Web担当者Forum

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【レポート】Web担当者Forum ミーティング2012 Autumn

セミナーイベント「Web担当者Forum ミーティング2012 Autumn」(2012年11月8日開催)の講演をレポートする。他のセッションのレポートはこちらから。

最後のセッションに登壇したのは、サッポロビール営業本部 サッポロブランド戦略部 宣伝室の森勇一氏。日本のビール業界で初めてFacebookページを開設するまでの社内調整プロセスと、1年余りの運用でどのような成果が上がったかといった内容が、ざっくばらんに明かされた。Facebookでの施策展開を考えているWeb担当者は、多くのヒントを得られたに違いない。

Facebookページをインハウスで運用するワケとは

森 勇一氏
サッポロビール株式会社
営業本部 サッポロブランド戦略部
宣伝室
森 勇一氏

演題の“ズルして”というのは、なにかズルいことをしたのではなく、社内調整の手順を1つ飛ばしただけの話です」。森氏は冒頭でこう断ったうえで、まずサッポロビールのFacebookページの概要を説明した。

サッポロビールのFacebookページ開設は2011年5月20日で、ビール業界では初めて公式ページを作った。当時、日本のFacebookの月間アクティブユーザー数は300万人台にすぎず、かなり早い段階での取り組みだといえる。本原稿執筆時点(2012年11月下旬)での「いいね!」獲得数(ファン数)は約5万5,000件。「話題にしている人」は2万8,000人あまりとなっている。

ファンの男女比は男性7:女性3。年齢構成は35~44歳が39%と最も多く、25歳~34歳が28%と続いている(未成年者のアクセスはフィルタによって制限)。地域属性に関しては、首都圏が8割ほどを占めている。Facebookのユーザーの地域属性が、ほぼそのまま反映されている形だ。

タイムラインへの投稿は、平日は1日1回のペースで行い、商品情報やレシピなどのほか、商品に携わっている社員の写真・コメントが掲載されることもある。Facebookページの運営に代理店は関わっておらず、完全にインハウスで行っているという。その理由を、森氏は次のように説明する。

Facebookは一方的なメディアではなく、お客さまとのコミュニケーションツールだと考えているからです。代理店を入れれば手間はかかりませんが、コミュニケーションのリアリティが欠けてしまうし、ユーザー心理の理解が不足していると、お客さまにそっぽを向かれてしまいます。ですから、社員自らがお客さまときちんとコミュニケーションを取るべきだという考え方に基づいて、サッポロビールの宣伝室で運用を続けています。

社内調整は「本当にやりたいこと」を自問自答するために必要なステップ

開設から約1年半、多くのファンが集うサッポロビールのFacebookページだが、その立ち上げはすべて順調だったわけではないようだ。森氏は、本題の社内調整へと話を進める。

まずFacebookページ開設の背景には、酒類業界の自主規制で、18時以降でないと酒類のテレビCMを流せないという事情がある。

このため、WebはテレビCMを補完する重要な役割を担うことになるが、2011年に入り自社サイトのページビュー数は減少傾向にあった。そこで自社サイトへユーザーを誘導する施策として考えられたのが、Facebookページという支店を通じて、本社である自社サイトに来てもらえないかというものだ。また、「当時、同業他社のFacebookページはまだなく、業界で一番に公開したいと思った」ことも、早期開設を後押しした。

「業界で一番にサッポロビールがFacebookページを公開していきたい」との思いから現在の上司に相談すると、すぐに賛同を得られた。ただし、予算は限られていたため、Facebookページの新規制作も代理店ではなく、宣伝室が自らの手で行った。

そして当時、社内でソーシャルメディアが盛り上がり始めていたことから、宣伝室の会議で提案と同時に直接お披露目しようと、森氏のチームはFacebookページを作り上げるのだが、会議の場で当時の上司から「待った」がかかってしまう。

「聞いていない。社内調整はどうしたんだ」と怒られました。今振り返れば確かに社内調整は必要だったと思います。しかし、ビール業界で最初に公開したいという思いがあって、突っ走ってしまった。ここが“ズルをした”といわれるところです。

ここから1か月間、森氏は上司の指示に従って、社内調整に奔走することになる。その際、社内からよく指摘されたのは、「悪口を書かれたらどうするのか」といったリスク面の問題だったという。こうした指摘に対して森氏は、「悪口も書かれるかもしれません。それよりも評価してくれる人たちの声を可視化して、サッポロビールのファンになってもらうことが重要ではないですか」と理解を求めていった。それと同時に、森氏自身もリスク管理の大切さを学んだという。

価値観はさまざまで、反対したり疑問を呈したりする人もいますから、みなさんも社内調整には苦労されていると思います。しかし、社内調整は“自分が本当にやりたいことは何か”を自問自答するチャンスでもあります。演題と異なる言い方になってしまいますが、社内調整をズルしてすり抜けようとするのは間違いです。むしろしっかりとやっておくべきステップだと思います。

こうして多様な意見と向き合う一方で、森氏はさまざまな部署に呼び掛け、ソーシャルメディアに関する勉強会を開催していった。Twitter、Facebookなどに実際に触れてもらうことで、ソーシャルメディアに対する理解を深めてもらおうとしたのだ。

勉強会を行ったことで、コミュニケーションが生まれ、社内に仲間を得ることができました。結果として、「はやっているみたいだから、やってみようか」という雰囲気が社内に醸成され、社内調整もスムーズに進んでいきました。

調整するなかで、Facebookページ開設の目的も、「サッポロビールファンとコミュニケーションをしてエンゲージメント(きずな)を深める」と、より具体的なものになった。ターゲット層も、「“いいね!”だけでなく、アクションをするファン」「Facebook利用者の25~34歳の若いビジネスマン」などと明確に定義。運用方針についても、通常の運用は宣伝室が担当し、リスク管理は危機管理室やお客さまセンター、CSR部門と連携して行うことが決まった。

当時の上司が最初に却下していなければ、Facebookの目的もターゲットも運用方法もかなりぼんやりしていて、実際の運用には耐えられなかったと思います。社内調整を通じて、これらが明確化されたというのが、僕の体験です。

ストック型プロモーションで、コスト効率とコミュニケーションを最大化

続いて森氏は、Facebookページを用いたプロモーション施策とその成果についても数字を挙げながら紹介した。これらの施策は、「瞬間的に大量消費される大型のプロモーションではなく、ストーリー性を持たせ、ストック型のタッチポイントを活用したプロモーション」を実施することを基本方針にしているそうだ。

1つ目の事例としては紹介されたのは、自社サイト内の「ビール工場シンフォニー」というバーチャル工場見学コンテンツへの誘導事例だ。Facebookページのフィード投稿などを用いて拡散を試みたところ、前年を大きく上回るアクセス数を得ることができたという。

2つ目の事例は、Facebook広告の活用によるファンの獲得だ。2011年秋に、ファン数を1万人にするために行われた。このプロモーションでは17種類ほどのクリエイティブを用意し、「年齢(5歳刻み)」「性別」「趣味」という3区分のユーザー属性の組み合わせでセグメントを細かく区切り、トータルで3,264パターンの広告原稿を出稿した。そのうえで、成果の良いものを残していくという手法を取った。

結果としては、50万円の広告費用で6,691人のファンを獲得でき、シミュレーションの5,000人を上回りました。CPF(ファン1人あたりの獲得コスト)は、75円です。Facebook広告は今でも少しやっていますが、必ずセグメントを細かく区分したうえで出稿するようにしています。

3つ目の事例は、2012年の上半期に実施したFacebookページの分析だ。この分析では、累積ファン数、いいね!数、コメント数などのほか、URLクリック数や総インプレッション数などを計測し、パフォーマンスを測定した。結果はすべての指標で、ファン数が同水準の他社Facebookページの平均を上回っていたという。フィード投稿に対してよく反応するアクティブファンの割合も、48.6%に上り、他社と比較して圧倒的に高くなっているそうだ。

またFacebookページの価値についても、分析結果に次の2つの式を当てはめて試算をした。

  1. クリックベースでの価値=URLクリック数×プレミアムアドの平均CPC
  2. インプレッションベースでの価値=総インプレッション数×プレミアムアドの平均CPM

サッポロビールのFacebookページの価値は、(1)で約2,400万円、(2)の場合で2,000万円という試算になったと森氏は明かした。

Facebookページの今後については、ソーシャルメディアの登場によって企業のブランディングが顧客に対して一方的に情報を提供する“to C型”から、顧客とともにブランドを共創する“with C型”へと移ってきていることを指摘。顧客同士がつながり、語り合う「情報流通のハブ」としての役割を期待していると森氏は話した。

また森氏は、コアなファン層によって情報が発信され、生活者層へと広がり、新たなファンを獲得するというループ(エンゲージメント・ループ)を意識することも大事になると付け加える。Facebookページは、エンゲージメント・ループの中心的存在であり、中長期的な売上を支える存在でもある、コアファンを獲得する役割も期待されており、Facebook上の各種プランニングでは、次の4つの視点を大事にしているという。

  • 回遊促進
  • コンテンツ拡散
  • 生活者誘導
  • (ソーシャルメディア上の自社ページとの)統合

これらは、ユーザーが自社サイトとソーシャルメディアを双方向に行き来しながら、情報が広がっていくイメージだ。このため「ソーシャルが単なる情報発信ツールにならないよう、ユーザーの声を傾聴できるスキーム構築を考えていかなければならない」と森氏は説明した。

Facebookページを運用して感じたのは、Web担当者には顧客とコミュニケーションを取る能力が必要だということです。ソーシャルメディアでお客さまが求めているのは、きれいな声明文ではなく、Web担当者自身の言葉。いかにも広告ですという情報は、お客さまは敏感に感じ取り、相手にしていただけない。お客さまの顔を見て対話をすることが求められているのではないかと思います。

この後は、質疑応答に移り、サッポロビールが運用するFacebookページ「北海道Likers」とは別のチームで運営していること、コーポレートブランドと商品ブランド双方の向上を目指していることなどが確認された。

ファン数が増加したことで売上は上がったか、という本サイト編集長安田からの突っ込みに対し、森氏は次のように笑顔で答え、「お客さまの顔をみて対話すること」を自ら実践し、会場を和やかな雰囲気にして講演を締めくくった。

もちろんある程度は増えているでしょうが、効果はわかりません。今後、可視化していく必要があると思います。劇的に増えているようでしたら、役員の部屋をもらえています(笑)。今日、会場にいらっしゃったみなさんが全員、サッポロビールを飲んでくれれば、かなり売上に貢献できます。喉も渇いていると思いますのでそろそろ講演は終わりにして、早く飲みにいきましょう。

【取材・執筆】
モジカ(mojica)
担当:鶴田修朗

講演・セミナー、インタビュー・対談、その他の音声・動画情報をテキストコンテンツ化し、オウンドメディアやコンテンツマーケティングの素材として提供している。

http://www.mojica.jp/

【撮影】
株式会社Lab
鹿野宏

http://www.hellolab.com/

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