日本の新年は箱根駅伝で明けるんじゃ。これを観ないと新年になった気がしないという人もおるようじゃな。
ワシは、もう14年~15年前からセミナーなどでBtoBのマーケティングをこの箱根駅伝にたとえて話しておるんじゃ。たとえ各区間でどんなに頑張っても、タスキが途切れては何の意味もないという比喩での。
このときの各区間はこんな業務を担当しておるんじゃ。
第1区間 | 見込み客データを収集する(リードジェネレーション) |
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第2区間 | 見込み客データを、コンプライアンスを踏まえて管理し、啓蒙育成する(リードナーチャリング) |
見込み客データの中から、もっとも有望なリストを営業にレポートする(リードクオリフィケーション) | |
第3区間 | 営業または販売代理店が受注する(セールス) |
第4区間 | 顧客との関係を深め、クロスセル、アップセルで取引を拡大する |
データ集めはだいたいうまくいっている
まず第1区、マーケティング用語では「リードジェネレーション」と呼ばれておるパートじゃな。
BtoBマーケティングのスタートはやはり見込み客データ(以下リードデータ)を集めるところからなんじゃ。展示会での名刺・アンケートの収集やSEO・リスティング広告などを活用してWebでリードデータを集める手法などじゃ。それに加えて、多くの企業の営業や技術のデスクの引き出しには大量の名刺データがあるもんじゃが、これらをデジタル化してデータベースに格納することも、立派なリードジェネレーションなんじゃ。
日本企業は、この第1区間はかなりうまくやっているんじゃよ。展示会の運営も上手いし、パートナーとの共催セミナー、プライベートイベント、そしてSEOやリスティング広告も活発に行っておるんじゃ。
問題は育成して絞り込む第2区
多くの企業で問題なのは、その第1区間で収集した見込み客のリストを、整理整頓して、営業対象外を排除し、育成して絞り込む、という第2区が機能していないことなんじゃ。
もし、この第2区もうまく機能していて、営業や販売代理店に有望な案件を潤沢に供給できているのに、受注件数が満足のいくものでないなら、その企業の問題は次の区間つまり第3区にある、ということになるんじゃ。受注決定率が低く、失注率が高い、ということじゃな。
それならば 「SFA:Salesforce Automation」の導入が最も効果を発揮するじゃろう。なぜならSFAはまさにこの第3区である営業プロセスの可視化を目的に設計されたソリューションで、案件コードを発番された営業案件と担当営業を紐付けて、受注・失注までをパイプラインの中で可視化するためのツールなんじゃ。
BtoBの場合、案件化してから受注までが1年以上掛かることも珍しくないんじゃ。大型案件になれば、3年掛かって受注というケースもあるんじゃよ。そのプロセスが見えていなければ、失注率が高くても手の打ちようがないんじゃ。
ただ、もし売れない原因が受注決定率ではなく、営業チームや販売代理店に供給する良い案件が少ない、ということなら問題は第3区ではなくその前の第2区にあるんじゃ。
この場合はSFAを導入してもほとんど役に立たんじゃろう。何しろ可視化すべき案件がないんじゃからの。
実は営業が忙しそうにしていることと、良い案件を持っていることはまったく別なんじゃ。
ワシはSFAの導入コンサルをしていた頃に営業の時間的リソースを「コアタイム」と「ノンコアタイム」に分類したことがあるんじゃ。
「お客様と会っている」「お客様と電話している」「お客様にメールを書いている」、この時間だけをコアタイムと定義し、他の社内会議、営業資料作成、見積もり、顧客訪問の移動時間などをすべてノンコアタイムに分類したんじゃ。
おもしろいことに、このコアタイムの占有率の高さと売上げは正比例することが多いんじゃよ。つまり売れる営業は顧客と会っている時間が長く、平均すると1日で4時間以上をコアに使っているのに対し、売れない営業はノンコアに大半の時間を使っていて、平均すると1日で1時間もコアに使っていないんじゃ。
これは単に訪問件数が少ないだけではなく、良い案件に訪問できていないから、訪問先で顧客に会っている時間も短くなるんじゃよ。用がなければ場が持たないし、話題もないからの。
でも、顧客に解決すべき課題があり、そうした問題を解決した経験を持っている営業が会ったときは、最低でも1時間は真剣な商談になるし、その後のフォロー電話やメールのやりとりも増えるので、必然的にコアタイムが長くなるんじゃよ。
こうしたコアとノンコアの関係は、SFAを導入すれば可視化できるし、グループウェアを集計しても発見はできるんじゃが、「解決」はできないんじゃ。なぜなら、「良い案件を持っていない」という課題の解決は、第3区ではなく、その前の第2区、つまりマーケティングの役割だからなんじゃよ。
整理整頓して絞り込むのは地味で難しい部分
箱根駅伝では第2区は最も華々しい区間じゃが、BtoBマーケティングの現場では、この第2区は、とっても地味で、誰もその存在や必要性を理解してくれない寂しい区間だったんじゃ。人員も予算も不十分で、他部署からは理解されず、親戚みたいな広報・PR部門からもよそよそしくされて社内で孤立している人をよく見かけたもんじゃよ。
それでいてこの区間は難所が多く、走り抜けて次にタスキを繋ぐのはとっても難しいんじゃ。駅伝と同じように距離が長いうえに、第1区で集めた見込み客リストを、以下の手順でマネージメントしなければならないんじゃからの。
- 整理整頓する(企業と個人の名寄せ・営業対象外の排除)
- 法律に適った方法で貯める(コンプライアンス)
- コミュニケーションしながらニーズを育成する(リードナーチャリング)
- 属性情報と行動解析の2軸でスコアして絞り込む(リードクオリフィケーション)
まぁ言ってみれば権太坂が4つ連続している程の難所で、現場のマーケティング担当者をとっても苦しめているんじゃよ。
そしてこの4つの手順のうち、1つでも穴が空いたらもうタスキは繋がらないんじゃ。
第1区の展示会やリスティング広告でどんなに良いリードデータを集めても、第3区にいかに強力な営業チームとSFAを揃えて準備を整えていても、第2区でタスキが途切れていれば何もならないんじゃ。受注し、契約するまでを担当する第3区の営業部門にタスキ、つまり「有望見込み客リスト」(ホットリスト)を渡さなければ、タスキが繋がったことにはならないんじゃ。
その結果、「ウチの会社はそもそも展示会に出展する必要があるのか?」「Webをリニューアルした成果なんて出てないではないか?」という声が大きくなり、展示会やWebの予算を確保できなくなってしまう企業が多いんじゃ。こうなるともう戦線の崩壊じゃな。
リードジェネレーションからタスキをもらう重要でステキな仕事
実はの、今までの日本企業ではなんとなくじゃが、この第2区は第1走者が「ついで」に走れる程度の、簡単で短い区間だと考えられていたんじゃ。じゃから、ちゃんとした組織も予算もノウハウもなくやっておったんじゃな。
第1走者が走るリードジェネレーションと呼ばれる区間は、担当者の体力を著しく奪う区間なんじゃよ。展示会にしろ、共催イベントにしろ、リスティング広告にしろ、ちゃんとやろうと思えば準備に途方もない手間が掛かるものなんじゃ。その第1区間をやっとの思いで走ってきたランナーに、もう1区間走る余力なんてある訳がないんじゃよ。
その結果、展示会やイベント、Webなどで集めた見込み客のデータを、そのままの状態で第3走者に渡してしまうんじゃ。
重複が多く、既存顧客も新規見込み客もごっちゃになって、しかも競合や自社のグループ企業の社員などの営業対象外が大量に混入しているリストを渡された第3区のランナー(営業)が、第1区のランナー(マーケティング部門)に不信感を持ち、もう展示会など意味がない、と言い出すのは当たり前の話なんじゃ。
「リードジェネレーション」という役割を背負った第1走者が息を切らして走ってきたときに、中継地点に第2走者はおらず、遥か20km先の次の中継所には「営業」という名の第3走者がいて、なぜタスキがちゃんと運ばれてこないのかを理解できずに不機嫌な顔をしながら待っている、という悲しい構図が日本中に溢れておるんじゃよ。悲しいことじゃの。
でもワシは、この第2区を担当するマーケティングの仕事は、「この世で最も素敵な仕事」だと考えておるんじゃ。クリエイティブ(創造性)とサイエンス(科学)とテクノロジー(技術)が実務の中でここまで融合した仕事が、他に多く存在するとは思えないからの。そして、これからの日本企業では、この第2区は間違いなく最強のエースを投入する区間になるじゃろ。まるで箱根駅伝みたいじゃな。
マーケティングの時代がもう始まっておるんじゃよ。2012年はそういう年じゃよ。
※この記事のオリジナルは「BtoBマーケティングを箱根駅伝に例えれば」 (2012.01.23 公開)です。
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