カスタマーエクスペリエンス(CX)を高いレベルで実現する企業は、どのような取り組みをしているのか。顧客1人ひとりの状況や嗜好に合わせてコミュニケーションをする“「個客」の経験価値の高い”サイトが求められているなか、企業にはどのような対応が求められるのか。サイトコアの片桐氏がCX向上のポイントを測るCX成熟度モデルとともに、先進的な事例を交えて解説した。
CX成熟度の高いWebサイトが求められている
BtoCとBtoBの両方で市場のデジタルシフトが進んでいる。ニールセンが「新商品の認知」について、世界58カ国、29,000人の回答者を対象に行った調査によれば、一般消費者が商品を購入する際、商品カテゴリごとに60~80%の割合でネット上の情報が購買に重要な影響を与えると回答した。
また、BtoBの顧客にとってもWebは重要な情報源だ。日本ブランド戦略研究所が調査したWebサイトの売上貢献度をあらわす「サイト効果」(BtoBサイト調査2013より)の比較では、BtoBは平均で24%とBtoCの平均7.6%を上回っており、Webサイトの利用は着実に進んでいる。BtoC、BtoBにかかわらずCXの向上は非常に重要なミッションだといえる。
では、企業がCXを向上させるべき具体的な目的とはなんだろうか。売上向上は当然だが、CX向上の究極の目的は、顧客のロイヤルティを高め、より多くの「生涯顧客」を育成していくことにある。
自社のCXはどのレベルで実現できているか
CX向上のためには、まず自社がどのレベルのCXを提供できているのか把握することが重要だ。そのためのツールとして、サイトコアでは、アナリストと共同策定した「カスタマーエクスペリエンス 成熟度モデル(CXMM)」を提供している。
これは、企業が顧客のロイヤルティを高め、より多くの生涯顧客を育成するための体制やコミュニケーション手法を7つのレベル、3つのグループステージに分けて定義したもので、同社のサイトで診断を受けられる。
- 第一ステージ
新しい潜在顧客を「誘致」するために体制や施策を整備する段階。
- 第二ステージ
潜在顧客に認知された後、パーソナライゼーションや最適化といった手法によって見込顧客を育成していく「転換期」の段階。施策が日常的に回っていくステージである。
- 第三ステージ
「ファン/生涯顧客」の段階。1つのチャネルではなく、オムニチャネルで1to1のパーソナライゼーションを行い、データドリブンで施策を自動化し、効率よく回せている成熟度ステージとなる。
サイトコアの診断を受けた企業の内訳を見ると、「誘致」のステージにいる企業の割合が85%以上を占めている。逆に言うと、さらに高いCXを提供できている企業が15%もあることを意味している(片桐氏)
Webコンテンツから印刷物まで、オムニチャネルでパーソナライズ
実際に高いCXを提供する企業はどんな施策を行っているのか。片桐氏はサイトコアが手がけた事例から、日本でも皮膚疾患向けの治療薬を販売するデンマークの製薬会社Leo Pharmaを紹介する。
Leo Pharmaは、上述のCX成熟度モデルで「転換期」「ファン/生涯顧客」の中間に位置する先進的な企業だ。同社が掲げるビジネスミッションは、乾癬(かんせん)や日光角化症といったあまり認知されていない疾患について、認知を高め、病気に苦しむ患者に正しい知識を知ってもらい、適切な診断を受けて、適切な薬を継続的に利用してもらうことにある。
そこで開設したのが、皮膚病疾患の理解と啓蒙のための「QualityCare」という会員制サイトだ。ヨーロッパを中心とした英語圏で公開されており、皮膚病に苦しむ患者や、患者を支援する人であれば、同社の薬を利用していなくても会員登録できる。
QualityCareの利用者は、会員登録時に個人情報や興味分野などを登録する。サイト側では、利用者が登録した会員情報を分析してセグメンテーションするだけでなく、送信したメールの開封履歴や利用者がサイト上で閲覧したコンテンツをひもづけ、プロファイリング分析を行っている。
その分析結果をもとに、QualityCareでは会員ごとに2種類のパーソナライズドコンテンツを提供する。
- 会員登録時のアンケート結果をもとにした「興味分野」ごとのコンテンツ
- サイト上の閲覧履歴、メール開封履歴などから興味がありそうな「潜在的なニーズ」に関するコンテンツ
さらに特筆すべきは、パーソナライズを会員制サイトだけでなく、オムニチャネルで実現している点だ。
デスクトップ向けのメールやモバイル向けのショートメッセージコンテンツまでパーソナライズされている。さらに、特定の患者向けに送付する印刷物に至るまで、キービジュアルやキャッチコピーなどを入れ替えている(片桐氏)
これらのパーソナライズを支えるのが、サイトコアのマスターデータベースだ。コンテンツをDB化してマスター管理することで、チャネルごとに最適化されたコンテンツをDBから利用して配信する。
また、会員制サイトにはCRMと連携し、看護師が患者にコンタクトできる機能もある。会員は、看護師に病気に関するアドバイスを受けるリクエストを送信すると、看護師にはCRMから自動的に希望の相談日時と、パーソナライズされた回答シナリオが送られる。
さらに看護師がヒアリング内容を再びCRMに登録すると、CRMの情報がフィードバックされ、Webサイトや印刷物をパーソナライズするサイクルが回るようになる。
マーケティングゴールとデジタルレリバンシーマップの作成から
では、企業はCX成熟度ステージをどのようにして上げていけばよいのだろうか。
片桐氏は、上述した診断モデルを利用し、まず「自社がどのステージにいるかを現状把握すること」と、その上で「1年後の短期目標と、2~3年後の中長期目標を明確化する」という2つのポイントを示した。
成熟度ステージを高めるための目標である「デジタルマーケティングゴール」は、自社のビジネスミッションと同期させる点がポイントだ。
たとえば、上述したLeo Pharmaの事例であれば、生涯顧客を増やすことがビジネスミッションとなる。そして、デジタルマーケティングゴールは、サイトへの会員登録数や会員活性度、看護師へのリクエスト件数や、印刷物の申し込み件数などが目標達成のためのKPIとなる(片桐氏)
次に着手すべきは、デジタルマーケティングゴールを達成するためのコミュニケーション設計だ。CXを高めるには、個別の顧客に対し、最適なコンテンツを最適なチャネルで、最適なタイミングで提供する必要がある。
そのためには、次の2軸でコミュニケーション設計を進めていくのが効果的だ。
1. 顧客像の理解
だれにフォーカスして情報を提供するのか、ペルソナ設計で顧客セグメントを作成することが推奨される。ペルソナとなる人物像を設計する際には、次の2つの情報ソースが参考になる。
- 定量的な情報:CRMデータなどから得られる、顧客の属性や行動履歴
- 定性的な情報:顧客の関心に関する情報
定性的な情報は、BtoB企業であれば、顧客が直面する課題は何か、普段どんなメディアに触れ影響を受けているか、といった情報になる。マーケッターのもとに情報がない場合は、既存顧客を対象にしたインタビューなどを実施するのが効果的だ。
2. カスタマージャーニー
ペルソナを作成したら、次に自社の商品やサービスの購買ステージを定義する。たとえば、自動車であれば、「商品の認知」「情報収集」「比較検討」「試乗」「購入」、そして購入後のメンテナンスと、次の買い替えということになる。
そして、ペルソナとカスタマージャーニーをかけ合わせた「デジタルレリバンシーマップ(Digital Relevancy Map:DRM)」の作成が推奨される。これは、ペルソナと、カスタマージャーニーの各ステージのマトリックス表だ。
カスタマージャーニーの各ステージにいる顧客に対して最適なコンテンツは何か、既存コンテンツをマッピングし、顧客を次のステージに育成するにはどういうコンテンツが必要かを整理しておくことが大事だ。
「テクノロジー」「人材・組織」「プロセス」がCX向上のカギ
DRMが完成すれば、すぐにCXが高まるわけではない。DRMの設計はゴールではなくスタートポイントであり、CX成熟度を高めるためには、次の3つのポイントに継続的に取り組んでいく必要がある。
- テクノロジー
人海戦術で対応するには限界があるため、DRMを効率よく実行できるシステムの導入
- 人材・組織
コミュニケーション設計の見直し、施策実施の人材や組織体制、継続的にPDCAを回して改善していく体制の確立
- プロセス
継続的に施策を見直して改善し効果を上げるためのプロセスの確立
サイトコアでは、これらを支援するための「テクノロジー」として、デジタルマーケティングの統合基盤「Sitecore Experience Platform」を提供し、コンテンツ管理、オムニチャネル対応などをさまざまな機能を実現する。マーケティングのシステム統合は、投資効果という点でもメリットが大きい。
また、「人材・組織」や「プロセス」についても、サイトコアでは国内で20社以上のパートナーを擁し、人材育成やプロセス作成の支援を行っているという。
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オリジナル記事:優れたCXはどうすれば実現できる? 先進事例に学ぶCX成熟度ステージ向上の取り組み | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2015 Spring | Web担当者Forum
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