「モノのインターネット化(IoT)」といっても遠い将来のことのように思う人が多いかもしれないが、その世界はすでに現実のものになりつつあり、マーケティングの世界にもおおいに関係あるものだ。
コカ・コーラのブランドコンセプトを伝える自動販売機による高度なブランド体験や、アンダーアーマーの店舗内デジタルサイネージの事例から、「マーケティングにおけるIoT」をみていこう。
モノのインターネット化(IoT)がマーケティングの世界を広げる
モノのインターネット化(IoT: Internet of things)による高度なデジタルコミュニケーション体験の展開を含め、マーケティングを次世代型へと進化させるための動きを、今後は進めていく。
これは、米アドビのデジタルマーケティング事業部門担当シニアバイスプレジデントであるブラッド・レンチャー氏が、デジタルマーケティングの大規模イベントAdobe Summit 2015の基調講演で強調したことだ(筆者は、アドビ システムズの招待で参加した)。
モノのインターネット化(IoT)とは、ひらたく言うと、いままでデジタルではなかったものがデジタル化するということだ。そのことから、モノの利用者データをもとに最適なコミュニケーションを図るマーケティングが可能になると期待されている。
ちょうどAdobe Summit 2015開催中の3月9日にApple Watchの発表があったが、身体に着けるウェアラブルデバイスは特に注目をあびる対象である。ほかにも、部屋の照明・電気・エアコンや洗濯機などの家電が高度なデジタル化されることが期待されている。
また、家の中だけでなく、街中のあらゆるものがデジタル化されることも、モノのインターネット化の対象となる。
- 1位 家電‐テレビ(61%)
- 2位 家庭用品‐エアコン、冷蔵庫、オーブン(54%)
- 3位 自動車(51%)
ブラッド・レンチャー氏は、マーケティングには一貫性と継続性が重要であると述べた。あらゆるタッチポイントで体験することが、ブランドのコンセプトとして伝わるものであることが重要だということだ。
そして、Adobe Marketing Cloudがその継続性と一貫性を実現させるために、さまざまなソリューションを統合し、活用できるように開発および支援を進めているという。
コカ・コーラのブランドコンセプトを伝える自動販売機による高度なブランド体験
IoTを通じたマーケティングの一例として、コカ・コーラの「ブランド体験」への取り組みを、コカ・コーラのチーフディベロッパーオフィサーであるロリー・バッキンガム氏によるセッションから紹介しよう。
バッキンガム氏は、社内で戦略的なロードマップを描き、推進しているマーケティング担当者である。
コカ・コーラは128年の歴史がある企業であるが、その使命として、次のことを位置づけている。
コカ・コーラの使命は、継続的にハピネスを提供すること
このミッションに基づき同社では人々をつなぎ合わせるキャンペーンを展開してきているが、これらをリキッドインリンクと呼んでいるのだという。
FIFAワールドカップのスポンサーになったが、全世界105か国の消費者が自撮りをした写真をもとに大きなデジタルの旗を作った。
自動販売機をデジタル化して注目をあびたキャンペーンでは、ある大学構内の自動販売機にデジタルセンサーを取り付け、自動販売機をハグをするとドリンクが出てくるようにした。
自動販売機では「スモールワールドマシン」というキャンペーンも展開している。これは、インドとパキスタンにそれぞれ設置した自動販売機をつないで実現したもので、それぞれのスクリーンの前でダンスを踊り合ったり、フェイスペインティングを見せ合ったりして、相手国側の自動販売機の前にいる人とお互いに接点をもつ体験をするとドリンクが出てくるという企画だ。
自動販売機のスクリーンを使って、自分の好みに味付けしたドリンクを作ることができる仕組みも作り、オリジナルフレーバーのドリンクを友達とシェアできる新しいデジタル体験を提供している。この機能をもった自動販売機は映画館に置かれているが、これを目当てに来場するきっかけを狙うキャンペーン展開であり、「フリースタイルマシン」と呼ばれている。
自動販売機にビーコンを付けることで、通過者を分析することも進めている。パパやママが近くを通過しても購入されなかったら、それにあわせて商品の最適化を図ることを実験している。
こうした「デジタル体験」のキャンペーンを紹介したバッキンガム氏は、次のように語っている。
コカ・コーラが顧客に幸福感を与えるというコンセプトを、ブランドとして継続性と一貫性を持って展開している。
従来のボトル販売ビジネスのスタイルは重要だが、それに加えて、新しい体験を提供することを意識してキャンペーンに取り組んでいる。
店舗や自動販売機のスクリーンを動かせるAEM Screensのデモ
実際、これらのキャンペーンと同様のことを、Adobe Summit 2015基調講演でブラッド・レンチャーによりサービス提供が発表された「AEM Screens」で実現できる。
AEM Screensは、Webコンテンツ&エクスペリエンス管理システムであるAdobe Experience Manager(AEM)の、デジタルスクリーン版だ。
米アドビのデビッド・ニューシュラー氏が、そうしたAEM Screensの機能をデモで紹介した。
具体的には、画面上の地図から自動販売機を選び、その自動販売機の情報を確認したうえで、自動販売機に設置されたスクリーンの画像を遠隔操作で差し替えて見せた。
地図上に自動販売機の場所が示されている。詳細を編集したり、データを確認したりできる。
どれくらいの利用者がいるのか、どのように使われているのかを、データで分析できる。
自動販売機のスクリーン画像を差し替えることも、インターネットを通じて容易にできる。
続いて、同じくAEM Screensを用いて、ニューヨークタイムズスクエアの大型スクリーンの画像を差し替えるデモが行われた。
画像素材をドラッグ&ドロップで動かすだけで、街頭の大型看板の画像を差し替えてしまった。これには会場の聴衆も歓声を上げていた。もちろんデジタルなので、時間帯配信をセットすることもできそうだ。
ニューヨークタイムズスクエアの大型スクリーンを地図から選ぶ。
AEMの管理画面上で画像を差し替えると、リアルタイムに街頭の看板が切り替わった。
余談であるが、近未来を舞台にした映画である「マイノリティ・リポート」では、街中のデジタル看板の前を通るとその人によって、広告が変わっていた。
すでに看板の画像をデジタルで変更することは容易にできるようになっているので、さらにウェアラブルのセンサーを組み合わせることで、通りかかった訪問者ごとにリターゲティング広告を配信できる時代が迫っているのかもしれないと、勝手に想像をしてしまった。
アンダーアーマーが店舗展開する画期的なデジタルスクリーン
米スポーツアパレルブランドであるアンダーアーマーの店舗では、デジタルスクリーンが導入されている。これにより、店舗内で商品説明の閲覧ができるほか、シューズの色や形の組み合わせをカスタマイズして注文ができる体験型のコンテンツを提供している。
スクリーンをタッチして商品画像などを動かせる仕組みだが、かなりリッチに作られていることが、デモで示された。
自分の気に入った商品を、お気に入りスペースにタッチ操作でもってくることができる。
大型スクリーン上で、商品アイテムをタップして、左側から右へ投げて、受けとるといったインタラクティブな仕組みも実現できる。複数名で画面を触るインタラクション性がおもしろく、店舗でも目を引くものだ。
iPhoneの画像をフリック操作でスクリーン上に表示させることもできる。自分の全身写真などをアップすることもできるのだが、コーディネートイメージなどの可能性を感じさせる機能を搭載している。
もともとAdobe Experience Manager(AEM)は、さまざまなデバイスでサイト構築ができるソリューションだ。通販サイトとしての商品説明および注文機能も容易に備えられる。
また、各店舗の在庫情報のデータベースもシステムに接続できる。
会場内のデモブースでも注目をあびていたAEM Screens(画面はアンダーアーマーのもの)。
今回デモが行われた機能は、Adobe Experience Managerをベースとして、コカ・コーラやアンダーアーマーの要望に応えて機能の追加開発を行ったものだ。
これらの機能をもとに、AEM Screensという新ソリューションとしてリリースされることが、ブラッド・レンチャー氏により発表された。
モノにスクリーンがつくと考えれば、応用範囲は相当に広げられるだろう。
「モノのインターネット化(IoT)」といっても遠い将来のことのように思われるかもしれないが、技術面では、すでに実現性が非常に高まっている。サービスインすればすぐにでも使えそうだ。
ただし、これを実際にビジネスとして実現させるためには、リアル店舗とデジタル開発提供の組織が連携をして、運営を進めることが求められる。コカ・コーラやアンダーアーマーは、これを実現させるべく担当者が取り組んでいる。参考になる事例が今後も出てくることに期待したい。
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オリジナル記事:モノのインターネット(IoT)がマーケティングにどう関係するか? コカ・コーラの事例にみるその現実性 | 単発記事 | Web担当者Forum
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