戦略的な部門として位置づけられるためには、事業の成長につなげるためのコミュニケーションが必須
Web担当者Forumミーティング 2014 秋の基調講演で登壇した日本GE株式会社 コーポレート・コミュニケーション本部 マネージャーの清水智美氏は、同社がどのようなコミュニケーションと効果測定を行っているかについて、「企業サイトで企業情報や製品情報だけを発信すれば大丈夫? 効果測定はPVやエンゲージメントでよいのか?」と題して講演した。
GE(ゼネラル・エレクトリック)は、蓄音器や白熱電球などの発明者としても有名なトーマス・エジソンが設立したエジソン・エレクトリック・ライト・カンパニーが前身となっている。発電や水処理機器、ヘルスケア、航空、石油&ガス、エネルギーマネジメント、金融事業をはじめとする幅広い分野の事業を展開し、世界で年間約14兆円の売上を上げている巨大企業だ。日本でも100年以上の事業の歴史があるが、しかしその歴史と規模に比べ、国内一般消費者への同社の認知度は高くはない。
清水氏はまず、多くのB2B企業では、コミュニケーションのアクティビティと売上/利益との因果関係を表すのが難しいことを示し、「コミュニケーション部門は直接的な収益を得ない“コストセンター”でもあり、戦略的部門として位置付けられないケースも多い。頑張っているのに認められなかったり、予算を取るのが困難だったりという経験も多いだろう
」と語る。戦略部門としては、自分たちがいかに売上に貢献できるチームかを示す必要があり、どのように事業成長につなげるコミュニケーションを行っていくかが大きな課題となるのだ。
コミュニケーション部門だからこそ担える「事業成長・売上拡大」のための要素を考えてみると、たとえばブランド力強化、市場創出・ニーズ喚起、営業支援、社員間の情報共有などさまざま。それぞれに指標を決めて定点観測し、しっかりと効果を出すことを心がけている(清水氏)
日本GEでは、広報、渉外広報、マーケティングコミュニケーション、社内広報のすべてにおいてデジタルコミュニケーションが欠かせないという。わずか数名でこれらをこなす日本GEのコミュニケーション本部において、清水氏はデジタルコミュニケーション、マーケティングコミュニケーション、社内広報を担当している。そのため同社では、「リソースが限られる弱みを逆手にとって、強みにするしかない
」と考え、小さなチームならではの連携しやすさによって、互いに連携しながら対外的な広報から社内広報まで全方向の「360°コミュニケーション」を展開するように努めているという。
また、限られたリソースを有効に使うために、マスに広告を打って一般消費者への認知度を上げるよりも、事業上のプライオリティを考え、既存顧客や潜在顧客と各事業領域に影響を与えるオピニオンリーダーなどにターゲットを絞り込んでいるのも特徴だ。コンテンツ制作においては、的確なターゲットを選び、その相手に応じてメッセージの出し方を変更するなど、シェアしたり誰かに伝えたくなったりするようなコンテンツの出し方を戦略的に考えている。
3つのサイトを使ってデジタルエコシステムを形成
米GEでは、さまざまなソーシャルメディアを黎明期から積極的に活用している。「特に米国やオーストラリアではLinkedInでB2Bビジネスに大きな成果を生んだ実績もあり、『日本でもLinkedInを活用してはどうか』と本社メンバーから勧められたこともある
」(清水氏)という。しかし清水氏は日本のLinkedInの普及状況や欧米との使われ方の違いを踏まえると「現時点では自社にとって有効ではない」と判断した。このように、日本のデジタルマーケティングの環境やトレンド、ソーシャルメディア上の日本人の行動傾向(共感しやすく、いいねは押すがコメント数は少ない)などについても、本社に積極的に情報共有し、理解を促している。
たとえば、米国本社のFacebook投稿は約3行で極めてカジュアルな内容。しかし、米国に比べて企業認知度が低いうえ、競争環境も文化も異なる日本では、米国と同じやり方では通用しない。500~600文字で真摯に伝え共感してもらえるようにしており、国内平均を大きく上回るエンゲージメントレートを維持している。こうして市場に合ったやり方で効果を示し続けてきたことで、本社サイドのマネージャーから「日本でのやり方は君の判断を尊重する」と信頼を得ている。
日本GEでは、公式サイトやFacebookページのほかに、ストーリーテリングのためのオンラインマガジン「GE REPORTS JAPAN」を運営している。GE REPORTS JAPANは、2014年6月に新たに開設された中立かつ客観的な視点でコンテンツを配信するプラットフォームだ。これら3つのメディアが有機的に絡み合い、プラットフォームの強みを活かせるように、それぞれの役割を明確に分けることが重要だと清水氏は説明する。それぞれのメディアのターゲットや役割は下記の通りだ。
公式サイト
- ターゲット : 潜在顧客、潜在人材、学生
- 内容: 基本的かつ網羅的な自社情報(事業紹介や企業案内、採用情報など)
- 更新頻度: 更新の必要がある時
- 見せ方: 基本的な情報を得られるカタログライクな構成
- 役割: 事業のための情報開示と紹介、基本的なタッチポイント
Facebookページ
- ターゲット: 幅広いビジネスパーソン層、アカデミア、学生
- 内容: トリビアなど驚きがあったり、なるほどと思えたりするコンテンツ
GE REPORTS JAPANのチラ見せも - 更新頻度: 週2本程度
- 見せ方: 親しみやすい口語調の短文/ビジネスネタに限定しない
- 役割: Facebook上と他プラットフォームのコンテンツの拡散
GE REPORTS JAPAN
- ターゲット: インテリジェントなビジネスパーソン層
- 内容: タイムリーなトピック、グローバルな技術トレンド、考えさせられる話や提言
日本の未来に対する外部オピニオンリーダーの考えや提案 - 更新頻度: 週2本程度
- 見せ方: 読みやすく知的な刺激を得られるストーリーテリング形式
- 役割: 日本のビジネス層とのエンゲージメント構築
ソーシャルプラグインを用いた拡散
GE REPORTS JAPANを開設する前は、企業サイトでレポートなどを掲載していたが、変化のスピードが増す今日、企業サイトに情報を詰め込むのは陳腐化を早め得策ではないと判断し、「基本情報のショーケース」と位置付けるべきと判断した。一方で、タイムリーなトピックや世界の最先端トレンドを知ることのできるコンテンツはストーリーテリングマガジンのGE REPORTS JAPANに掲載し、Facebookは「拡散エンジン」としてGE REPORTS JAPANの紹介や広告の掲載などを行っていくという形で、デジタルエコシステムを形成しているのだ。
ストーリーを重視したコンテンツがバズる
清水氏は、日本GEでのコンテンツのつくり方に話を移し、一例として、「LEDを使った植物工場」の紹介コンテンツを挙げた。清水氏は、この内容をGE REPORTS JAPANに掲載するに当たり、GEの技術がすばらしいということをただアピールするよりも、植物工場を実現しようとした人の熱意のほうが心を打つと考え、そこに焦点を当ててストーリーを書いた。それが、「東北で誕生した先端農業を世界へ-レタスが見る未来」のページだ。このコンテンツはグローバル向けの英語版も作成され、米国本社のGE REPORTSにも掲載された。ソーシャルブックマークなどで瞬く間に拡散され、その日のうちに米・英の複数の著者メディアがネットニュースに転載した。自社ページだけでも一晩で40万アクセス超えを記録、世界中から数百件の問い合わせがあったという。
デジタルマーケティングではコンテンツ力が鍵。いわゆる「バズ」はタイミングなどとの化学反応の結果でもあり、狙い通りに出せるものではないが、オーディエンスのことをひたすら考え、1本1本の記事にこだわって情報発信することを心がけている(清水氏)
ソーシャルメディアの普及やデジタル広告技術の進歩、スマートフォンの普及もあいまって、人々が受け取る情報量は爆発的に膨らんだ。人々の情報選別能力は鍛えられ、順応してきている。例えば清水氏は、オンライン辞書を毎日のように使うが、そこに大きく表示されているバナー広告の内容はひとつも認識していない。「バナー広告だけでなく、ニュースのヘッドラインや記事などについても、自分にとって有用かどうかを直感的に判断している人が多いはず。多くの人の脳はノイズを直感的に排除できるようになってきているのではないか」と清水氏は語る。自分たちの目線だけで出したいものだけを出すコミュニケーションには未来がない。自分達が伝えたいこととオーディエンスが知りたいことを考えぬき、同時にそのコンテンツがオフィスで読まれるのか就寝前なのか、オーディエンスの状況や気分も考えながらコンテンツを作成する必要があるのだ。
そのため、Facebookのコンテンツも、実績や会社の歴史を単に紹介しても面白くない。日本GEでは、共感や関心を持ってもらい、次の日に会社で話題にしてもらえるようなトリビアのあるコンテンツになるようにしている。また、グローバル企業としての強みを活かし、社会問題に対するグローバル企業としての考え方や、グローバルな目で見た日本のすばらしさなども盛り込んでいる。2014年11月には、2020年の東京オリンピック応援ウェブサイト「GE2020.tokyo」をオープンさせた。オリンピックのグローバル公式パートナーである同社が、オリンピック開催が日本にとってどのような意義があるかを伝え、日本を変える機会を商機としてとらえ、イノベーションに取り組むパートナー企業を増やすことを狙ったものだ。
GE REPORTS JAPANでも、ただ漠然と読者を広く設定するのではなく、例えば、「45歳・男性・機械メーカー勤務・企業経営手法に興味がある」や、「35歳・女性・テレコム系企業勤務・世界の技術トレンドやビッグデータに興味」などといったように、ターゲットのペルソナをピンポイントに絞り込み、社会課題の中でどのようなテクノロジーがあるかを知らせるようなコンテンツを提供しているのだ。
効果測定は、数字よりも「行動変容」「意識変容」を重視
日本GEは、双方向のコミュニケーションに対するリスク対策についてはどうしているのだろうか。ネガティブなコメントに対しては、「事実に基づいた批判の場合は、度を越したものでない限り、消したりはせず真摯に受け止めて考えを説明する」、「事実無根の誹謗中傷の場合は、事実をしっかりと伝えてオープンにコミュニケーションする」というルールを最初に決めて運営している。コミュニティガイドラインもリーガル部門とともに作成している。
また、効果測定について清水氏は、「数字に踊らされないようにしなければならない」と警鐘を鳴らす。単純にいいね数やシェア数だけを見るのではなく、シェアされたときに添えられたコメントにも着目し、その影響度を考えることが重要だ。コミュニケーションは、人に影響を与えて行動変容を起こさせるために行うもの。ただの数字ではなく、ターゲット層の行動変容や意識変容がどのように起きたかを重視して効果測定を行うべきなのだ。
最後に清水氏は、ヴィヴァキ(VivaKi)社のリシャド・トバッコワラ(Rishad Tobaccowala)氏が講演で話した言葉を引用した。
Social Networkは存在しない、あるのはPeople's Network
このトバッコワラ氏の言葉から、清水氏はコンテンツマーケティングについてどう考えるべきかを下記のとおり語り、講演を終えた。
どんなにテクノロジーが進化しようと、重要なのは人と人とのコミュニケーション。人の心が動かなければ何の価値もない。作るのはソーシャルメディアストラテジーではなく、ピープルストラテジーだ。等身大で、誠実に、親しみやすく、身のこなしの軽いコミュニケーションを続けることが成功の鍵である。
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オリジナル記事:“人の心を動かす”コンテンツマーケティングと、数字に踊らされない効果測定に取り組む日本GE | 【レポート】Web担当者Forumミーティング 2014 Autumn | Web担当者Forum
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