人の感情を揺さぶらない限りクチコミは発生しない。感情を揺さぶるには5つの琴線スイッチを入れなくてはいけない。
東北の今の復興とこれからの復興のため、セミナーとボランティア活動が一体となったWeb広告研究会の「第六回東北セミボラ」のオープニングでは、トライバルメディアハウスの池田紀行氏が登壇し、消費者の感情を動かす5つの要素を解説した。
拡散とは大違い、クチコミ発生の誤解
東北セミボラの第一部には、企業のソーシャルメディア活用を支援するトライバルメディアハウス代表取締役社長の池田紀行氏が登壇し、「クチコミを発生させる5つの琴線スイッチ」をテーマに、どのような感情のメカニズムでソーシャル上のクチコミが発生するか解説した。
なお、講演資料は池田氏のブログでも公開されているので、そちらも参照してもらいたい。
まず池田氏は、ソーシャルメディアマーケティングが普及した今でも、「お金がかからない」「有名ブロガーに書いてもらえばよい」「マスの代替になるほど一気に認知度が上がる」「サイト流入や集客を増やしやすくなる」「商品が売れる」といった認識で、ソーシャルメディア施策を相談されることがよくあると話す。しかし、マーケティングが抱えるすべての課題をソーシャルメディアで解決できるような“魔法使い”は存在せず、ソーシャルメディアマーケティングは“魔法の杖”ではない。
ソーシャルメディアマーケティングは、消費者が他の人に伝えたい・共有したいという気持ちになるまでの「プロセスをプランニング」するもので、「結果をマネージメント」するものではない。池田氏は、「結果をマネージメントするステルスマーケティングなど、消費者を欺くような不誠実なマーケティングは絶対に行ってはいけない
」と強調する。
また、「キャンペーンコンテンツが“いいね!“リツイート”されることで共有・拡散します」といった企画書はよくあるが、その計画通りにクチコミが広がることはほとんどないと池田氏は指摘する。なかには偶然クチコミが広がるケースもあるが、それも再現性がなく、「マーケティング」とはいえない。
ソーシャルメディアマーケティングでは、意図したとおりに消費者の感情のスイッチを入れ、それによってクチコミが広がり、多くの人がサイトを訪れるといった、一連のプロセスを戦略的にプランニングすることが重要だと池田氏は話す。
ソーシャルメディアマーケティングとはクチコミが広がるまでの
プロセスを戦略的にプランニングすること
さらに、「共有(Share)」と「拡散(Spread)」の意味の違いを知ることが、クチコミマーケティングを考えるうえで非常に大切だと池田氏は説明する。
たとえば、Facebookでシェアされるまでのプロセスには、だれの投稿なのかという「Who」文脈と、情報やコンテンツそのものに価値があるかという「What」文脈の2種類がある。同じように見えても、前者は共有、後者は拡散であり、その意味は異なるというのだ。
たとえば、池田氏のFacebookの投稿を例に取ると、新たに買ったクラブでゴルフを楽しんでいるといった投稿は、ゴルフが趣味だと知っている友人の「いいね!」が付いても、その先でつながっている友人にまでシェアはされない。
また、執筆した書籍についての投稿はシェアされているが、その多くは共著者や社員などの関係者が「Who」文脈でシェアしたものなので共有となる。池田氏を知っている人の間でシェアはされても、それ以上の拡散は行われない。
一方で、そのコンテンツ自体が魅力的である場合は、シェアされて「拡散」されることになる。
“日常生活のなかの小さな幸せをFacebookにアップしてもらい、友人にバイラルしてもらうキャンペーンをやりましょう”という企画書はよくありますが、みなさんシェアをしますか? 日常生活で何にいいね!をして、シェアするかを考えれば、結果はわかること。
What文脈のコンテンツは、それ自体がウイルスのように、止めようと思っても止まらない、広がる力を持っている。これはブロガーマーケティングでも同じ。そのブロガーを好きな人は記事を読んでも、コンテンツに力がなければ、ブロガーを知らない人にまで教えようとは思わない(池田氏)
日常生活で自分が何にいいね!をして、シェアをするのかそれを考えれば企画がうまくいくかどうかわかる
クチコミを発生させるための5つの琴線スイッチ
クチコミを友人・知人の共有だけでなく、広く不特定多数の人へ拡散してエンゲージメントを築くには、コンテンツ自身が広がる力を持った、What文脈の企画を考えることがポイントになる。
池田氏は、これまでの経験のなかから、What文脈でクチコミが発生して拡散されるためには、感情を動かす「5つの琴線スイッチ」のいずれかを入れさせる必要があると説明し、5つのスイッチに当てはまるWhat文脈の事例を紹介していく。
琴線スイッチ1:驚き(おもしろい・すごい)
5つの琴線スイッチのなかでも、「驚き」には一瞬の驚きだけでなく、手間暇をかけたコンテンツに対する感嘆など、「おもしろい」「すごい」といったいくつかの種類があり、コンテンツの比率としても多い。
たとえば、「おもしろい」というスイッチのコンテンツには、前述でも紹介された締切直前の状態を表現した白クマの画像や、ミニストップとドラゴンボールのコラボ商品などが挙げられる。ドラゴンボールのファンなら、一目でわかるおもしろさがある。
また、Yahoo!知恵袋などのソーシャルメディアで個人が生み出したコンテンツからも驚きが生まれている。「新興宗教を作って教祖になって儲けたい」「半身浴で耳にお湯が入ってしまいます」など、冗談のような質問と回答とのギャップがおもしろいと話題だ。
Webサービスの「方言チャート」は、方言のアンケートから出身地を当てるというもの。結果はFacebookとTwitterで共有することができ、意外と当たると評判だ。
○○さんは××型でしたというのは、受け取る人にはあまり関係ないが、自分だったら当たるだろうかという興味が喚起される。人のコンテンツを見て、自分も当たったらおもしろいという流れは、診断系アプリの典型(池田氏)
これらのコンテンツについて池田氏は、「今日紹介するものは、企業がマーケティングで計画したものや、個人のコンテンツがクチコミでバズっているものが混在している
」と話す。なぜなら、消費者のアテンションの総量は有限であり、現代の消費者は「今からおもしろいコンテンツを見よう」と準備をしているわけではなく、企業と個人の投稿をひとまとめに見ているなかで、おもしろいものを共有していくからだ。
おもしろくなければ興味は生まれない
コンテンツが企業のものか、個人のものかは関係ない
また、これまで人の琴線スイッチを入れる動画コンテンツは、映画やテレビが主流だったが、現在ではYouTubeであらゆる感情の琴線スイッチを入れる動画を見ているため、生半可なコンテンツでは感動しなくなっていることも指摘する。
消費者はこの10年でコンテンツに対する耐性ができている。今はレベルが高いものか、事前の期待と事後のギャップがものすごく大きい体験をしない限り、クチコミはしない。つまり、企業のブランドマーケティング上の限界というときに、消費者がクチコミをしているコンテンツと戦って勝てなそうであれば、やめた方がいい。企業か個人なのかはまったく関係なく評価される(池田氏)
次に池田氏は、驚きのなかでも最もわかりやすい、「すごい」という感情のスイッチに触れた事例を紹介する。
ミキサーメーカーのブレンドテック社が仕掛けるCM動画「Will It Blend?」シリーズは、ブランドの売りである頑丈さをアピールするため、話題のガジェットなどをミキサーで粉砕していく、全米で人気のコンテンツだ。なんでもミキサーにかけて粉砕する様子が話題となり、クチコミが拡散している。
ただし、「すごい」を追い求めると、いつの間にかブランドメッセージとかけ離れたものとなりやすいので注意が必要だと池田氏は話す。たとえば、1,000万回以上再生された例もあるブレンドテック社のミキサー動画だが、これは「どんな硬いものでも粉砕できるほど頑丈」というブランドメッセージとマッチしているからこその成功だといえる。
Will It Blend? では、数百万再生を超えた動画をマスメディアが取り上げ、1千万再生を超えるといったサイクルが生まれており、「低く見積もっても1回の再生で10円から20円の価値があり、YouTubeからのサイトへの流入が強く、広告としての価値が高い
」と池田氏は説明する。
また、今までのブレンドテック社の動画はYouTubeのブランドチャンネルにまとめられており、サイトへのトラフィックを生みだしていると考えられる。池田氏は、どのような業種でも、仕事上のノウハウは一般の人にとって価値のあるものであり、それらを動画にしてYouTubeのチャンネルとしてまとめることで、価値が生まれると説明する。
その他にも、「驚きや笑いはないが、手間ひまをかけてよくやったなというような、“ずっしりすごい”がある」と、池田氏はいくつかの事例を紹介する。
ゲーム画面を人間で表現したストップモーションムービー「The Original Human TETRIS Performance」や「The Original Human SPACE INVADERS Performance」は、一瞬のインパクトではなく、制作にかけた手間ひまから驚きが生まれた例だ。
また、iPadを使い、指先だけで写真のように緻密な絵を描いた「iPad Art」なども当てはまる。
手間ひまをかけた、よくやったというのも、人の感情スイッチを入れるポイント。動画のサムネイルを見ている状況と、再生しはじめて感じた感情のギャップが大きいと、人は感情のなかで起きたアンバランスを正常化しようとする。人はだれかに伝えることによって感情のバランスを適正に戻そうとするので、感情のギャップが生まれないものはクチコミしない(池田氏)
事前の期待を上回る体験によって
感情のギャップが生まれなければクチコミは発生しない
琴線スイッチ2:疑問・興味
「疑問・興味」の琴線スイッチの1つには、診断系アプリが当てはまる。
「右脳派と左脳派のテスト」や「姓名判断」といったアプリは、「自分はどうなんだろう」と思わせることが、クチコミ拡散のポイントになる。
「これは本当なの?」と、疑問を持たせることもポイントだ。特にネット上では、議論が勝手に拡散し、噂が広まっていくため相性が良いという。「FIFA STREET 3」は、アクロバッティックな動きでボールを蹴りあう動画だが、リアル派とCG派に別れて議論が拡散している。
琴線スイッチ3:発見・納得
「発見・納得」は、まとめ系のコンテンツによく見られる琴線スイッチだ。特に最近では「NAVER まとめ」の登場によって、手軽にまとめ記事を作れる環境が整ってきている。
「【都内】一度は行ってみたい、魅力的なカフェまとめのまとめ」や「ネットで見れるすごい企画書」は、まとめることで新たな価値を生み、拡散した例の1つ。
情報はまとめることで伝搬性が良くなる。140文字のTwitterが得意なのは、コンテンツを作るよりも運ぶことだと池田氏は話す。また、長い文章のコンテンツは読まれず、拡散もされない。1~2分で一気に読み切れるかどうかが重要になるため、コンテンツを編集する必要がある。
ソーシャルメディアの時代にクチコミで運ばれてくるのは、編集されたコンテンツ。昔と違って消費者には時間がないので、しっかりと何度も読んでくれるわけではない。LINEの執行役員である田端氏が指摘するように、情報は噛まずに飲み込まれる時代。情報行動がスマホに最適化されつつあるので、電車移動中の一駅区間で読み切れるかどうかが重要(池田氏)
琴線スイッチ4:共感
「共感」には、「わかる」「そう思う」などいくつかのスイッチがあるが、「マフラーしまい髪研究所」などは、「わかる人にはわかる」と、思わず共感してしまうコンテンツの一例だ。
ホンダのCM「負けるもんか(プロダクト)篇」は、広告コピーが共感を呼び、話題となったキャンペーン。Googleの画像検索で「負けるもんか」と入力すると、この広告のポスターが数多くヒットすることから、広告を見たユーザーが感動し、スマートフォンで撮った写真を拡散していることがわかる。
その他、東日本大震災が発生し、公開3日で放送自粛になった「九州新幹線全線開業」のCMは、新幹線に声援を送る姿から「感動した。元気が出る」といった共感が生まれ、幻の感動CMとして話題になった。
共感のスイッチには、「かわいい」といったものもある。まとめコンテンツとの相性が良く、「子どもの寝相アート」「ハムケツ(ハムスターのお尻)が悶絶するほどかわいい」「小さな男の子とフレンチブルドックのスナップが大人気」などは、多くの共感が生まれたコンテンツだ。
琴線スイッチ5:感動
5つ目の琴線スイッチは「感動」。さまざまな琴線スイッチがあるなかで、池田氏は「感動系のコンテンツを欲しがっているような世相を感じる
」と、驚きやインパクトに飽きたユーザーが、感動を求めているのではないかと説明する。
たとえば、LINEが現地ユーザーのエピソードをもとに作成したタイのCM「【LINE CM】"Closer"」は、タイ限定バージョンながら、日本でも多くの共感を呼び、ニュースサイトでも話題となった。
YouTubeで公開された「The Born Friends Family Portrait」は、スカイプを通じて親友となった、同じ障害をもつ2人の少女が実際に出会うまでのドキュメンタリー映像。スカイプが実施するエピソードキャンペーン「Skype Stay Together」の1つで、同社が2人の出会いをサポートしている。
「つたえたい、心の手紙」は、葬儀会社のくらしの友が実施する広告キャンペーン。亡くなった大切な人への想いを記した手紙を公募し、映像ではなく、文字で表現した感動のコンテンツだ。
その他、ウエディングプランナーが結婚式の感動秘話を伝えたブログ記事「優しい記憶」なども感動のスイッチを入れるコンテンツだ。
これらのコンテンツは、涙を流す感動のスイッチを入れるもの。一方、「Homeless Veteran Timelapse Transformation」は、感動の琴線スイッチのなかでも「考えさせられる」という事例だ。ホームレスを支援するNPO団体が、一時しのぎの支援ではなく、希望を持って自立してもらうことを伝えたプロジェクト。ホームレスの男性の身だしなみを整え、変身した姿を見つめ直すことで、自立してもらおうとしている。
池田氏が紹介するように、感動スイッチでクチコミが拡散するケースは増えているが、感動は感情移入してもらうことが前提となるため、驚きやインパクトとは違う難しさがある。
感情移入してもらうためには、動画なら30秒から60秒ほど、読ませるコンテンツであっても、それなりの文字数が必要になる。ただし、動画は時間が長くなるほど、最後まで見られる確率が低くなるため、「動画の尺は60秒で、スマホで見ようと思わせるにはどんなに長くても3分に収めた方がよい
」と池田氏はアドバイスする。
ソーシャルメディアマーケティングとは人間を知ること
5つの琴線スイッチのコンテンツを紹介した池田氏は、最後に「ソーシャルメディアをマーケティングに活用するときに、できるだけ多くの人にWhat文脈のコンテンツが広がってほしいと思うなら、人の感情を揺さぶってコンテンツを広げることにチャレンジしてほしい
」と、講演をまとめる。
セールやイベントのお知らせなどもありますが、ときには人の感情を揺さぶってコンテンツが広がっていくことにチャレンジしてもらいたい。人がクチコミしたくなる瞬間は、感情のバランスが崩れたとき。そのコンテンツは良い意味で予想を裏切っているのかを絶対に考えてください。
ソーシャルメディアというと、次世代やテクノロジーのイメージがあるかもしれないが、ソーシャルメディアは人間マーケティングであって、人間の感情を知ることが肝要。ソーシャルメディアのダイナミズムである、クチコミの拡散を目指して企画を立てて行ってもらいたい(池田氏)
ソーシャルメディアマーケティングは人間マーケティング
泥臭く人間の感情を追うことが大切
オリジナル記事はこちら:「クチコミを発生させる5つの琴線スイッチ、見る人の感情を揺さぶるコンテンツの極意とは」2014年4月4日開催 第6回東北セミナーレポート(1)
- 内容カテゴリ:調査/リサーチ/統計
- コーナー:Web広告研究会セミナーレポート
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:クチコミを発生させる5つの琴線スイッチ、見る人の感情を揺さぶるコンテンツの極意とは [Web広告研究会セミナーレポート] | Web担当者Forum
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