この記事は、ネットショップ担当者フォーラムで公開された記事を、許諾を得てWeb担当者Forumで転載したものです。
ネットショップの運営において、ウェブ解析は無視できない存在です。以前はネットショップ担当者が注目する指標と言えば、売上でした。「売上の推移」「買ってくれる商品」「買ってくれるお客さま」この3つを見て、メルマガやリスティングなどの施策を打てば、売上が右肩上がりで伸びていきました。しかし、その時代は確実に終わりを迎えます。
EC業界におとずれた3つの変化
競争の激化
EC市場は着実に伸びています。米国と比べてもEC市場にはまだ伸びる余地があり、今後も業界別売上高を伸ばすでしょう。
しかし、ECへの参入企業は増え、1店舗あたりの売上は横ばいとなり、今後減少傾向になると言われています。Yahoo!ショッピングの無料化や大手小売店の参入により、中小規模の多品種販売を軸にしている店舗は激しい競争に巻き込まれるでしょう。
デバイスと購買シチュエーションの多様化
オムニチャネルの時代となり、パソコン(デスクトップ)、スマートフォン、タブレットと、取り扱うデバイスが多様化しています。従来のデスクトップユーザーはスマートフォンやタブレットでの閲覧へ移行します。店舗でもスマートフォンを見ながら店舗で購入するケースが増えます。
ユーザーが利用するデバイスの多様化は、購買シチュエーションの多様化をもたらします。このような多様化した時代では、売上や商品だけを見てもユーザーのシチュエーションが読めません。
ウェブ解析とマーケティング施策の直結化
競争激化が一因となり、リスティング広告もアフィリエイトも広告費用が高騰しています。ユーザーの獲得手段として、リマーケティング広告などが欠かせない手段になっています。また、CVRを最大化するためのウェブサイトの最適化も進んでいます。
これらの広告や最適化を、広告やツールのデータを見て実施しているだけでは、競争力を失う時代が来ています。より深い解析に基づく施策を打てる競合他社に比べ、費用対効果の悪い施策しか打てなくなるからです。
ウェブ解析に与えられた新たな役割
従来、ウェブ解析は以下の目的で使われていました。
- 関係者同士がコミュニケーションをするための共通言語
- レポートを通して改善施策を考えるフレームワーク
- 収支計画をウェブ施策に落とし込むための計画立案
もちろん、このような役割はウェブ解析において引き続き重要な役割を占めます。しかし、ウェブ解析の重要性は以下の3つの変化によって、新たな役割を担いつつあります。ネットショップ担当者は以下3つの役割を意識してウェブ解析をするようにしましょう。
ユーザーと競合の解析で、差別化ポイントを洗い出す
今やアクセス解析だけでは不十分です。キーワードプランナーやGoogleトレンド、競合他社分析ツールなど、無料のソリューションがたくさんあります。これらを活用してユーザーが購買する時期や競合他社の傾向を把握しましょう。
そもそもウェブ解析とは、アクセス解析だけではなく、上記のようなウェブマーケティング解析や受電件数などのビジネス解析も含んだものなのです。
ユーザーシチュエーションを把握して顧客接触を高める
パソコンはテレビや新聞と同様に、視聴時間が減少しつつあるメディアです。パソコンでの最適化は競争優位性を失いかねません。デバイスごとのウェブ解析と時間帯分析で、ユーザーがどのようなシチュエーションで訪問しているかを想像しましょう。そして、それらを組み合わせることで「カスタマージャーニーマップ」を作成し、商品に関心のあるユーザーを購買につなげるためのデバイス、コンテンツ、集客方法を具体化していきましょう。
ウェブ解析データを集客とサイト最適化に連動する
今やウェブ解析は最適化において欠かせないツールとなっています。このようなウェブ解析を実践することは、事業や顧客への深い理解が前提となるため、ほとんどのインターネット広告代理店やウェブ制作会社では不可能です。
いまネットショップ担当者もウェブ解析を学び、事業全体の視点でウェブの役割と指標(KPI)を定め始めています。
ネットショップ担当者に必要な5つの心構え
最後に、ネットショップ担当者がウェブ解析を行う上で、心がけてほしい5つの心構えを紹介します。この心構えを常に意識して行動すれば、これからも生き残り続けるネットショップ担当者になれるはずです。
①収益を上げるためにウェブ解析をすること
そもそも、ウェブ解析は顧客を満足させるために声を聴く手段であり、サービスを改善し、収益を上げるためにあると肝に銘じることです。 手法や技術におぼれてはいけません。あらゆる解析も行動も「収益を上げるためにどう貢献するのか」からスタートして考えるべきです。
収益を上げるには事業計画やLTV(ライフタイムバリュー)などが必要不可欠です。まず、ウェブ解析の数値をビジネスの数値につなげ合わせる努力をしましょう。やってみると簡単なことではありません。しかし、それができることがネットショップ担当者として、自社にいる理由でもあるのです。
②ユーザーを想像し仮説を立て行動すること
アクセス解析の直帰率のように、誰でも問題だと分かる数値もありますが、そのような指標は多くはありません。アクセス解析のデータはウェブサイトや広告の改善が目的となっているため、ユーザーの分析は得意ではありません。そこで必要になるのはデータでは見えない顧客を想像する力です。
新規訪問者率が50%だったとき、その新規訪問者率は多いのか少ないのかは、そのウェブサイトの施策と目的によります。どのようなユーザーが新規訪問者なのでしょうか? これはデータでは十分わかりません。しかし、より詳しく理解しようとして、分析精度を上げ過ぎては労力ばかりがかかります。
データでは見えないユーザー像を想像し、そのユーザーがいると仮定して、「そのユーザーが幸せになるならこんな施策がいいよね」というような仮説を立てて行動してみることが大事です。行動した結果が思い通りなら、仮説は正しいわけですし、行動した結果が思い通りではなければ仮説は間違っていたということです。仮説を立てて行動する方が、結果に早くたどり着けるので、「行動が大事」ということを忘れないでください。
③ツール、データ分析技術、ビッグデータに踊らされないこと
高度なウェブ解析ツールのテクニックやデータ分析の高度な手法、ビッグデータがあれば売上につながると言う人もいますが、多くの場合それは誤りです。
ウェブ解析ツールの細かいテクニック自体が成果につながるケースは多くありません。それらはあくまでより詳しく知るためのものです。
データ分析の高度な手法は、目的と手段を理解しなければ期待した結果が出てくることはありません。場合によっては危険なケースもあります。リーマンショックは統計やデータの分析手法を誤ったことが一因だったことを忘れてはいけません。
膨大なデータは精度の確認やデータをつなげたシナジーについての仮説が不可欠です。労力の多くはデータのクレンジング(おかしいデータを取り除く作業)などに費やされてしまいます。
それでは、ツールや分析の手法は無意味なのでしょうか? それは違います。まず、自分でデータと向き合って、顧客の声を聴く努力をすることです。その中で、自分ではできないことをテクノロジーで補うべきです。そして最後は自分で決めることです。テクノロジーやデータは自分の意思決定や洞察を自動化するものではないのです。
④いち早く最新技術を学び、共有し、実践すること
収益につなげるために、最近のウェブマーケティングテクノロジーを積極的に学びましょう。アドテクノロジーやタグマネージメントツールなど技術進化が著しいのがこの業界です。ただし、ただテクノロジーを学んだだけでは無駄です。必ず「これは自社の店舗の売上にどう貢献するのか?」という意識をもって学びましょう。
そして、学んだ最新技術を社内で積極的に共有しましょう。例えば、カスタム変数やイベントなどは技術的に従来のウェブ解析と違い、JavaScriptなどの知識が必要となってきますが、これらの技術を活用すれば、特定の商品を買った人に広告を出稿することや、ウェブサイトの表示を切り替えることができます。一昔前なら膨大なコストがかかった施策です。このような技術の進化は、店舗運営におけるウェブや広告の最適化を考えやすくし、低コストで高度なマーケティングを可能にします。
競合他社が気付けばユーザーにとって陳腐化し、コストは高騰します。いち早く実践することが大事です。雑誌に成功事例が乗ったらもう遅いと思ってください。
⑤顧客情報を保護しつつ、実務経験をアウトプットすること
いま、Cookieなどによる顧客情報をベースとしたリコメンデーションや広告による販売促進は一般的になっています。しかし、スマートフォンでのサイト表示が遅延する一因にもなっており、過度なアドテクノロジーの活用には慎重であるべきという意見が増えています。
顧客情報の活用は必要不可欠ですが、ユーザーが望まない活用は顧客満足度を下げるだけではなく、インターネット通販全体への不信感にもつながりかねません。
今後、今のような個人情報の活用は各方面で制限が加わるでしょう。顧客情報の活用は顧客満足度を起点に考えることです。自分がされたら嫌なことをユーザーに求めてはいけません。
また、実務経験で得た失敗事例、成功事例は積極的に発信しましょう。自社の体験を社内に留めたがる企業が多いのですが、売上を伸ばしているネットショップほど、社外セミナーや勉強会で情報発信をしているものです。情報発信することで自社のノウハウを陳腐化させ、事業スピードを加速させることができるからです。さらに、共感する人材の採用につなげることもできます。
ウェブ解析がもたらす成果の1つが組織作りです。顧客との信頼関係を保ちつつ自立的に改善し、収益を伸ばす組織作りをすることが、これからも生き残るネットショップ担当者に課せられた使命なのです。
これらの変化は数年でマーケットを塗り替えることでしょう。しかし、どんな変化があったとしても、顧客を知り、顧客を喜ばせる者が勝者となることに変わりはありません。
売上だけに注目していたネットショップ担当者は、今すぐウェブ解析の見方を変えてください。ウェブ解析は売上同様、重要な「顧客の声」なのです。
オリジナル記事はこちら:ネットショップ担当者のみなさん、売上だけ見ていてもダメですよ。(2014/04/23)
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