突然ですが、サービスをご担当されている方々に質問です。
最近、自社サービスのユーザーと接したのはいつですか?
そのユーザーの本当の姿を正しく理解されていますか?
今回は、ユーザーの行動や体験から、アクセス解析やアンケート調査などではわからないユーザーが本当に求めていることを探ることで、サイトリニューアルや仕事の改善効果の最大化を図るユーザー調査手法の一つ「コンテクスチュアル・インクワイアリー」を解説します。記事の後半では、コンセントの2つの事例も紹介します。
コンテクスチュアル・インクワイアリーを行うメリット
ユーザーに対するより深い理解と、プロジェクトを進めるにあたっての根拠となる情報を与えてくれるのが、コンテクスチュアル・インクワイアリー
「コンテクスチュアル・インクワイアリー」とは、特別な何かをするわけではなく、わからないことがあれば、手間を惜しまずユーザーに聞くというシンプルなアプローチです。
画期的な何かが見つかるということを保証するものではありませんが、ユーザーに対するより深い理解と、プロジェクトを進めるにあたっての根拠となる情報を与えてくれます。
ユーザーに直接話を聞けばよいとはわかっていても、プロジェクトを進めるにあたり予算やスケジュールが限られているなか、何を聞けば良いのか、どうまとめればよいのかがわからず、聞くまでにいたっていないといった状況は少なくありません。また、さまざまな手法でユーザーの情報を集めていたものの、ユーザーが求めているものに近づけていないという問題を抱えている方もいるでしょう。
そうした状況下で、ユーザーへのヒアリングを効果的に行い有効な情報を得るための手続きとして、「コンテクスチュアル・インクワイアリー」と、インタビュー結果をまとめる「コンテクスチュアル・デザイン」をご紹介します。この記事を読んでみなさんもぜひ一度試してみてください。
ユーザーを理解する調査手法を4つのタイプに分けて理解しよう
コンテクスチュアル・インクワイアリーを説明する前にまず、ユーザー調査の分類について説明します。ユーザー調査は「量的調査」と「質的調査」に分けられます。さらに、「発見を目的とした調査」と「仮説の検証を目的とした調査」に分けられます。
今回ご紹介するコンテクスチュアル・インクワイアリーは、ユーザーの思考や行動の本質的な発見を目的とした質的調査の代表的なユーザー・インタビュー手法の一つです。
コンテクスチュアル・インクワイアリーは、あらかじめ質問項目が設定された一問一答形式のユーザー・インタビューではなく、ユーザーとの自然な会話により主体的な語りを促し、対象と課題に対する視点や行動を記述・モデル化する、文化人類学から生まれたアプローチです。
コンテクスチュアル・インクワイアリーの他にも、発見を目的とした質的調査には、ユーザーに記録を付けてもらう「日記調査」や、複数人を対象とした「グループインタビュー調査」などがあります。
どの調査も本質的なユーザー理解のために効果的ではありますが、ユーザーの行為や意図を直接的に理解しにくく、かつユーザー自身の理解や意見が周囲の環境によって影響を受けてしまうことから、得られる結果が調査の企画意図に沿わない恐れがあります。そのため調査結果を分析する際にこれらの関係因子を考慮する必要があり、調査する側のすべての関係者の理解が重要になってきます。
コンテクスチュアル・インクワイアリーを4ステップでモデル化
ユーザー・インタビュー調査は、一般的に以下の4つのステップで行われます。
この基本ステップをふまえて、コンテクスチュアル・インクワイアリーの詳細を見ていきましょう。
ステップ① 調査内容の設計
ユーザーにインタビューするときに聞く質問項目は、具体的である必要はありません。質問が具体的すぎると得られる結果に制限をかけてしまう可能性があるため、前提を設けずに「ユーザーとの会話」と「ユーザーが日常で行っている作業や振る舞い」を抽出することに専念しましょう。
自由回答形式にする、ストーリーを聞き出すこと、黙って話をきくこと
- どのような印象を持ちましたか?
- 困っていることはありましたか?
- それはなぜですか?
自身のサービスやプロダクトについて語ること、未来のことを質問すること、特定の答えに誘導すること
- ◯◯があったら使いますか?
- ◯◯は使いやすいですか?
ステップ② 被験者の選定
コンテクスチュアル・インクワイアリーでは、想定するターゲットの役割ごと10~20名のユーザーにインタビューを実施します。
ユーザー1名あたりのインタビューにかける時間は2時間前後です。インタビューを実施する場所は前述したようにユーザーが日常で行っている作業や振る舞いを再現できる場所であることが必要です。ユーザーの自宅やオフィスが理想ですが、手配が難しければユーザーの日常に近い環境を実施会場で整えます。
ステップ③ インタビューの実施
前述しましたが、コンテクスチュアル・インクワイアリーは他のユーザー・インタビューとは異なり、会話のような形式でユーザーから主体的な語りを促します。質問者と回答者という関係ではなく、インタビューする人がインタビューされる人に弟子入りするような関係で「教える・教わる」という構図を取るため、「師匠と弟子モデル」とも呼ばれています。インタビューする際には語り過ぎに十分に注意し、聞き上手になりましょう。
ステップ④ インタビュー結果のまとめ
インタビューを行った結果は以下の「5つのワークモデル」でまとめることができます。それぞれのインタビューごとにまとめていき、インタビューがすべて終わった後に全ユーザーのワークモデルを軸ごとに統合します。軸となるのは、「役割」、「作業の流れ」、「利用あるいは構築した人工物」、「人間関係」、「物理的な環境」の5つです。
ここでは例として、この記事の公開までにいたった編集作業を執筆者(コンセント)と編集者(Web担当者Forum)をワークモデルとして記載します。
一見、関係がないように見える情報には表面化しない課題が隠れている可能性があるため、新たな発見を促すためにも、見たものや聞いたことすべてを記述することをおすすめします。それでは実際に5つのワークモデルにしたがって具体的にどのようにモデル化するか見ていきましょう。
コンセントとWeb担当者Forumの役割と作業フロー図です。コンセント内には執筆者が複数名いるため、執筆者同士で記事の共有や更新を行い、広報へ確認を行います。その後、Web担当者Forumへ原稿を提出します。
Web担当者Forumから記事の執筆依頼があった後、コンセント内で執筆を進めていき、Web担当者Forumへ記事を提出するまでの具体的な作業の流れを箇条書きで書き出します。
この記事を執筆するにあたって利用した資料のExcelやPowerPoint、執筆するときに利用するWord、それらを共有するときに利用するファイルストレージなどの人工物をモデル化します。
Web担当者Forumの編集者及び執筆者であるコンセント社における関係図をモデル化します。
物理的距離が離れていることを表すモデルです。結果として他モデルにどのような影響を及ぼしているのかを検証することができます。
このように、コンテクスチュアル・インクワイアリーとインタビュー結果を分析する「5つのワークモデル」を組み合わせる手法は「コンテクスチュアル・デザイン」と呼ばれています。インタビューはもちろんのこと、この「5つのワークモデル」にしたがってインタビュー結果をまとめることで文字通り、ユーザーの利用状況や利用文脈(コンテクスト)を理解できます。
コンセント式コンテクスチュアル・インクワイアリーをプロジェクトに活用
上記では、コンテクスチュアル・インクワイアリーの一般的な4ステップを説明しました。ここからは、コンセントで実際にコンテクスチュアル・インクワイアリーをどのようにプロジェクトに活用しているのかを、具体的に説明していきます。
まずは、コンセント式コンテクスチュアル・インクワイアリーの進め方をご紹介します。
- 既存の調査データやクライアントのニーズなどに基づいて、調査目的とスコープを決める。
- どのようなユーザーがいて、どのような調査観点があるのかを確認するために、身近にいるユーザーにインタビューを行う。
- インタビューで出てきた観点を利用して、調査会社を利用したアンケート調査を実施し、該当者を抽出すると同時に、傾向把握とインタビュー対象者抽出のため、利用状況や感想などの回答を集計する。
- 該当者の回答内容を精査し、今回の調査対象サービスの利用頻度が高い方や関心のある方に絞り込み、スケジュール調整を経てインタビュー調査を行う。
- 結果の分析、モデル化、レポーティングを行う。
※2の部分はスケジュールや予算によっては省略する場合もあります。その場合③は既存調査や資料などを基にアンケートを作成します。
インタビューをするうえでの注意点
4で該当者を抽出後、選定されたユーザーの自宅やオフィスなどを一軒ずつ訪問し、1対1でのインタビューを2時間程度実施します。ユーザーには、調査対象サービスを普段利用している環境と商材を事前に準備しておいていただくようあらかじめ依頼します。
これは、コンテクスチュアル・インクワイアリー調査において、「普段」利用している環境にできるだけ近づけて実施することが不可欠なためです。
また、インタビュー調査ではユーザーとのコミュニケーションが重要になります。コンセントでは、ユーザーがどのような人物なのかを知るため、アンケート調査時に得られた情報を「リクルーティングデータ」としてまとめておき、まずはそのデータをもとにした質問から始めます。
その後、事前に「ヒアリングシート」として用意した基本的な質問(商材についての興味や、その商材に関連するWebサイトを普段見る環境、生活スタイルなど)の中からユーザーとのやりとりに合わせいくつかの項目について聞き、ユーザーに対する理解を深めると同時に、ユーザーにリラックスしてもらえるよう心がけ、対話を進めていきます。
その際、ユーザーの価値観や生活様式をできるだけ理解できるよう、用意した質問だけではなく、その質問から派生した疑問などについても聞くようにします。
知りたい情報を一通り得た段階で、調査対象のサービスを普段と同じ状況下で実際に利用してもらい、普段どのような環境や様子で利用しているのかユーザーを直接観察しながらインタビューを行います。インタビュー始めに聞いている情報などを参考にしながら、気になった点や「なぜ」と思った行動などは随時質問し、前述したように、そのユーザーに「弟子入り」するような姿勢でインタビューを進めていきます。
このようにユーザーに直接インタビューを行い、普段思っていることから掘り下げて質問したり、実際の利用状況を観察しながら質問することで、以下のようなことがわかり、データの「高/低」だけでは読み取れないユーザーの「意図」を探ることができます。
- ユーザー自身が普段無意識にとっていた行動
- なぜこのサービスを利用しているのか
- どんなところに魅力を感じているのか
- なぜその機能は利用していないのか
- その商材に関する興味・関心はどのようなものなのか
コンセントの2つの導入事例、コンテクスチュアル・インクワイアリーをプロジェクトに活用
次に、プロジェクトにはどのように導入しているのか、コンセントにおけるクライアントプロジェクトでの導入事例を2つご紹介します。
事例1:金融系サービスのWebサイトリニューアル
ユーザーが感じるサービスの価値を調査
課題金融系サービスのWebサイトリニューアルを行うにあたり次のような課題を抱えていて、状況打開策が必要でした。
- どんな機能を搭載すればよいのか/プライオリティをどのように設定するかについての根拠がないため、プロジェクトの進行が滞っていた
すでにクライアント側ではユーザーへの定量調査を行っていて、どのようなユーザーがいるのかはわかっていました。
- ユーザーがどんなことを期待しているのか、何ができると嬉しいのかまではわかっていいなかった
- それを知るためにユーザーに対して何を質問すれば良いのかわからなかった
ユーザーがサービスのどのような部分に価値を感じているのかを抽出するため、「コンテクスチュアル・インクワイアリー」を実施しました。
- 今回のサービスのターゲットとなる層を見極めるため、まずはサービスを日々利用しているユーザー層をターゲットに設定した
これらの調査から次のようなことがわかりました。
- ユーザーはサービスに対して特に期待しておらず、内容がよくわからない不便なサービスだが生活には必須なものとしてあきらめていた
- 自らが行っている既存のシーケンス・モデル(作業の流れ)が重要であり、サービスに合わせてシーケンス・モデルを変更するのはハードルが高かった
- サービス側の都合で新しい便利な機能を提供しても、ユーザーには興味をもたれていなかった
調査で得たこれらの文脈は、機能のプライオリティ指標となるユーザー調査報告書やユーザーが受けられるサービス情報、調査の対象となったユーザーに合わせた機能の実装などの機能案にまとめていきました。
事例2:Webサイトのマーケティング施策
競合他社のサービス利用状況を調査
課題競合他社が新たに始めたWebサイト上でのサービスをユーザーがどのように利用しているのか調べ、自社Webサイトでのマーケティング施策の検討材料の一つとすることを目的に設計されたものです。具体的には、以下の点を明らかにすることを調査の目的としました。
- 調査対象となる商材とユーザーとの関わり方、興味・関心はどのようなものか
- なぜこのサービスを利用しているのか、どんなところに魅力を感じているのか
調査対象となるWebサイト上のサービスを実際に利用しているユーザーのサイト利用傾向だけでなく、そのユーザーはどのような価値観を持っていて、普段の生活の流れの中でどのような文脈で利用しているのかを理解することが、サービスの提供価値を検討するために重要と考え、「コンテクスチュアル・インクワイアリー」を取り入れました。
調査手法調査手法は以下の組み合わせで実施しました。
- アンケート調査(利用傾向とリクルーティングを兼ねる)
- 半構造化インタビュー(基本的な質問事項)
- コンテクスチュアル・インクワイアリー(実際に利用してもらいながら質問を実施)
- アンケート調査(インタビュー結果を補完するため)
この調査では、対象サービスが始まったばかりの段階で実施しなければならず、サービスの認知が広くいきわたっていない状態でした。そのためインタビュー調査で得られた内容に対し、より多数の利用者でも同じような感想を持つかどうかを把握する必要があると考え、再度アンケート調査を実施し、調査結果を補完しました。
調査結果今回行った2つの調査手法(量的調査/質的調査)の分析結果から、プロセスの最初に実施したアンケート調査では、まだほとんどの機能が利用されていないことが明らかになりました。しかし、インタビュー調査を通して、実際に利用しているユーザーからは、その機能に対して次のような前向きな意見が得られ、この商材に興味が高いユーザーほどこのサービスに関心を示していることがわかりました。
- この機能があるなら時間が取れないなか、わざわざ外出しなくていいので助かる
- 今までよりも興味が広がるきっかけとなった
一方でユーザーにとってそのサービスは興味が高いものの、機能が複雑なために利用を踏みとどまっていることも明らかになりました。これらインタビュー結果を分析し、シーケンス・モデルに起こし、コンテクスチュアル・デザインを通じて「なぜ、利用していないのか」という理由まで探ることができました。
最後に:「なぜ」を知り、ユーザーを正しく理解しよう
ビッグデータ時代の到来とも呼ばれている昨今、自社サービスを利用しているユーザーの多くの情報をツール1つで取得できるようになりました。そのため、数字を介してユーザーの行動を探る機会も増えてきました。でも、ユーザーを「知ったつもり」になってはいないでしょうか?
ユーザーを「知る」ことは「理解する」ことと同じではありません。「理解する」ということは、ユーザーの行動ひとつひとつの背景にある意図や思考、文脈までを把握するということです。
しかし、今や技術に頼る一方で情報閉鎖を自分自身に課してしまい、データは十分でもどう解析したら良いかわからないという事態に陥ってしまいがちです。たとえ量的分析からユーザー理解を強化し続けたとしても、数字で証明される結果の「なぜ」がわからないままになってしまい、改善の段階で行き詰まってしまいます。
結果として引き算をすれば良いのか、足し算をすれば良いのか、明確な方針が定まらないまま小手先の改善のみで終わってしまいます。このような状況を打破するためには、量的分析では理解しきれないユーザーの行動や思考の連続性や文脈性を考慮する必要があります。
そのために、解説してきたコンテクスチュアル・インクワイアリーの手法を活用して、ユーザーの本当の姿を正しく理解してください。
今まで解説したコンテクスチュアル・インクワイアリーは質的調査ですが、最近では、多様な専門分野で質的調査と量的調査のどちらか一つを選んだり、対立関係として捉えるのではなく、ユーザーの更なる理解に向けて両者を相互補完または融合させる方法論が発展してきました。それは一般的にMixed Methods(質的・量的相補融合法)とも呼ばれています。
質的調査と量的調査の組み合わせは3つのパターンに類型化できます。
- 平行型:量的・質的調査を同時に行うパターン
- リレー型:他方で補い引き継ぐパターン
- サポート型:量的調査の質化/質的調査の量化を行うパターン
前述の2つの事例はパターン2のリレー型にあてはまります。事前にファクトとして抽出された量的調査の結果を補うため、そしてユーザーの理解を促進するために質的調査を引き継いで実施しました。
特徴はそれぞれですが、ニーズが多様化し、情報が複雑化する昨今において、質的分析と量的分析を組み合わせるMixed Methodsの方法を発展させることが今後求められるでしょう。
- 内容カテゴリ:ユーザビリティ/ペルソナ/IA
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ユーザーを本当に理解していますか? ユーザーの行動・体験から要求を探る「コンテクスチュアル・インクワイアリー」 | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.