Webサイトに求められるのは「いかに価値あるサービスを提供できるか」
CMSを選定するうえで、そもそもWebサイトを何の目的で運用し、ユーザーに利用してもらうのかというところまで立ち返って考えてみることが大切です。
多くのユーザーにとって、Webは何らかの問題の解決ツールとしての役割を果たしています。現在のWebサイト構築や運用では、この点を強く意識することが求められています。インターネット黎明期のように「ただ情報を掲載しておけばよい」という時代ではなく、ユーザーに対して「いかに価値あるサービスを提供できるか」が重要です。
つまり企業Webサイトにとって、ユーザー(=顧客)が抱えている問題を解決して満足させることが目標であり、その満足体験の積み重ねがユーザーの感じる企業価値の向上につながります。
実店舗では、卓越したオペレーションを実施することで、ユーザーにサービスを体験してもらいますが、これがカスタマーエクスペリエンスの向上であり、おもてなしとなります。Webサイトもサービスを提供するという意味では同様であり、その実現には「サービス・イノベーション」のアプローチが求められます。
サービス・イノベーションのアプローチによるWebサイト構築
ここでは以下の両方の意味を含んで使用している。
- 連続的な改善活動でサービスの生産性向上
- これまでにない新しいサービスの創出
Webサイトの構築では、本や他の情報メディアと似たような制作過程を踏みます。しかし、唯一Webサイト特有といえる要素が、「ユーザーがどういう順番で見るかわからない」という点です。
Webサイトを訪れるユーザーは、必ずしもトップページから閲覧するとは決まっていません。むしろ、検索エンジンなどを経由して、トップページ以外の個別ページにたどり着くことのほうが多いのです。
ユーザーがどのような順番で閲覧するか制御できないということは、企業は自社の意志で情報を押し付けることができないということです。そこで考えなければならないのは、ユーザーが求める問題解決の手順と必要な情報やサービスです。
次の2点が、Webサイト構築とサービス・イノベーションを考えるうえでのスタートラインになります。
- ユーザーとは誰なのかを見極めること
- ユーザーが求めるコンテンツ(情報やサービス)を正しく提供すること
「ユーザー体験シナリオ」を使った提供すべきコンテンツの見極め
本稿だけでWebサイト構築のすべてを語ることはできませんが、その中からサービス・イノベーションへのアプローチとなる「ユーザー体験シナリオ」について紹介します。
「ユーザー体験シナリオ」とは、企業とユーザーの関わり合いを明確にした資料だと言い換えることができます。
各ユーザーが抱える問題を最適な形で解決できる手順を可視化することで、Webサイトの入口(トップページではなくどこかのページかもしれない)から出口までが明確になり、それぞれの接点で企業が提供すべき情報やサービスを洗い出すことができます。
では、ユーザー体験シナリオを作るには、具体的にはどうすればいいのでしょうか。
ユーザー体験シナリオとは、人間(サービス提供者)が「作る」ものではなく、人間(サービス受益者)の平常的な活動から「抽出する」ものです。ユーザーが「本来成し遂げたいこと」に対して、「リアリティ」のあるシナリオを抽出することがポイントになります。その手順は次のとおりです。
- ゴール地点を決める(シナリオのテーマ。本来ユーザーが成し得たい事柄)
- ゴールに至るまでのタスクフローの限界までさかのぼる
- さかのぼった限界=スタート地点となる
- ゴールとスタートの間を埋める
- スタートからゴールに至るまでに登場する人物と関わり合いになるチャネルをすべて並べる
- 登場人物の「関わり合い」(アクションとリアクション)を記述する
- タスク別に、ユーザーのニーズ、ユーザーのニーズを満たすのに必要な事柄を埋める
ユーザー体験シナリオに記述すべき事柄は次のとおりです。
- スタートとゴール
- 登場人物とリレーション
- タスクフロー
- 各タスク単位のユーザーニーズ
- ニーズを満たすのに必要な事柄
ユーザー体験シナリオは、ユーザーのニーズごとに必要となります。
ここで、「シナリオの数が膨大で、そもそもそのようなアプローチは不可能」と考える方がいるかもしれません。確かに、ユーザーの抱えるすべての問題を解決するユーザー体験シナリオを制作することは不可能でしょう。
しかし、「企業が提供できる範囲のサービスで、ユーザーニーズの80%を満たせるもの」と考えれば現実的になります。
一般的な企業であれば、10本程度のシナリオで70~80%のユーザーをカバーできるはずです。
ユーザー体験シナリオが完成したら、それを整理して「コンテンツプラン」に集約します。これがまさに、企業が提供しなければならないコンテンツ(情報やサービス)です。
ユーザー体験シナリオは、Webサイト構築に限定された話ではありません。企業が一方的に情報やサービスを押し付けるのではなく、ユーザーの声に真摯な態度で対応するための指針になるはずです。
ユーザー体験シナリオを実現するために必要な3つの要素
ユーザー体験シナリオはWebサイト構築のベースになり、サービス・イノベーションへのアプローチの最初のステップになります。
ただし、ユーザー体験シナリオからコンテンツ(情報やサービス)プランが導き出され、これがまさに企業が提供しなければならないコンテンツであると理解したからといって、Webサイトがすぐに構築できるわけではありません。
次に、以下の3つに取り組む必要があります。
- 目的に応じた測定指標の設定
- 運用・管理・更新体制のフロー化
- コンテンツの一元管理
この中で1は、説明するまでもなく必要な物であり、社内プロジェクトを結成する理由にもなります。しかし、2と3は事前に考えられることはなく、その結果せっかくのユーザー体験シナリオも有効に運用管理されず機能を果たせないのが現状です。
さらに、そもそもコンテンツ(情報)がユーザーにきちんと伝わるものでないと、運用管理は意味を持ちません。運用管理のために必要なコンテンツの一元管理も、コンテンツそのものがわかりやすくなければ、管理する意味も必要性もありません。
運用・管理・更新体制のフロー化やコンテンツの一元管理を実現するうえで必要となるのが次の2つです。
- 文章構造の統一
- ガイドラインの策定
文章構造の統一とページ構成のコンポーネント化
ユーザー体験シナリオからコンテンツプランが導き出されていれば、コンテンツそのものの整理は終わっているといえます。次に考えるべきことは、そこで整理したコンテンツがユーザーに伝わるかどうかです。
そのためには、コンテンツそのものの文章構造とその構造で、どのようにページが構成されるのかを考えなければなりません。
たとえば、プレスリリースがさまざまなフォーマットでリリースされている企業があったとします。これは、日付とかタイトルなどでの検索が不可能であることを意味しています。ユーザーが探しにくいだけではなく、管理運用も負荷がかかることは明らかです。
文章構造がコンテンツを一元管理するための鍵であり、コンテンツの一元管理が運用管理の鍵であるといえます。
さらに、ページを構成するHTMLパーツ(コンポーネント)の文章構造を統一させることで、コンテンツの形式も定義されます。この形式に沿ってコンテンツを整理することで、データとしての一元管理が可能になります。
キノトロープでは、見出しや段落などのテキストや画像、レイアウト分割などのページ内で汎用的に使用できるHTMLパーツをコンポーネントと定義しています。そして、コンポーネントの集合体がテンプレートになります。テンプレートごとに定められた、コンポーネントの表示や非表示、繰り返しによってページを作成できます。
この考え方が、Webサイトにおけるサービスレベル向上の第一歩となります。
運用管理の質を高めツールの力を最大化するガイドライン
運用管理とコンテンツの一元管理は、密接にひも付いています。これを明確に定義しなければ、あるべき運用管理は見えてきません。
ガイドラインは、人の流れ、制作の流れをスムーズにし、品質向上を図ります。
ツールは社員全員が使って初めて機能します。しかし、使いこなすまでの道のりは長くなります。利用者一人ひとりが、ツールの持つ意味や効果的な使い方を理解して活用することによって最大の力を発揮します。さらに、ガイドラインは次のようなメリットももたらします。
品質の向上―― 制作者のレベルに関わらず、コンテンツの品質を一定以上に保つことができる。
コスト削減―― 制作者の誰もが決まったルールで手を加えることができ、作業を効率化する。
発注の利便性―― 制作を内部の複数部署や外の制作会社に委託する場合、細かい説明をする必要がない。
ユーザー体験シナリオの実現を前提にしたCMS選びのポイント
これまで説明してきたことを実現するためには、何種類かのツールやシステムの導入を検討する必要があります。
その中でも一番重要なのが、コンテンツの一元管理やユーザーへのおもてなし機能をつかさどるCMSであることに議論の余地はありません。
CMSを検討する争点は、まさにこれまで述べてきたように、提供しようとするサービスレベルに依存することを肝に銘じておかなければなりません。
現在、CMS選定の議論では、「更新」に重点が置かれるケースが多く見受けられます。しかも、デザインやレイアウトの自由度を優先するあまり、ユーザーのおもてなしに何が必要なのかを忘れてしまっていることも少なくありません。もちろん、更新のサービスレベルを上げることも重要ですが、第一に議論すべきは「ユーザーに対するサービスレベルの向上」です。
CMS製品は、一般的に「大規模」「中規模」「小規模」とWebサイトの規模で大きく3つのカテゴリーに分かれています。これは、先ほどまで述べてきたサービスレベルとはまったく関係ない軸でのカテゴライズになります。これが、CMS選定を難しくしているのかもしれません。
もちろんWebサイトの「規模」の切り口での検討も必要であることはいうまでもありません。しかし、自社のサービスレベルを向上させることが、CMS導入の最終的な判断基準であることを忘れてはいけません。最低でもコンポーネントごとのデータの一元管理がスムーズにできなければ、サービスレベルの向上は絵に描いた餅になります。
さらに運用面を考えると、管理したコンテンツが個別に指定しなくても指定した場所に表示される機能も必要です。また、テンプレートとコンテンツが明確に切り分けて管理されていれば、デザインやレイアウトを柔軟に変更することができます。当然レイアウトの自由度は制限されてしまいますが、それ以上にコンテンツ管理が重要だということです。くれぐれも何を重視するべきか見誤らないようにしてください。
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- 内容カテゴリ:CMS
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:キノトロープ生田氏の考えるサービス・イノベーションのアプローチによるWebサイト構築とCMSの選び方 | Web担当者Forum
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