CIOとCMO、責任をもつべきなのはだれか?
CIOとCMO、マーケティング技術に責任をもつべきなのは、どちらなのか?
昔は、企業が社内で使うシステムに責任をもつのは、CIO(最高情報責任者)だった。システムはSIerが構築し、インフラを含めたその自社専用システムを情報システム部が管理・運用していた。
そのシステムは(残念ながら)仕様どおりに作られていることが重要であり、ユーザーである社員にとっての使いやすさや、それがどの程度ビジネスに貢献しているのかは、さほど厳しく問われることはなかった。
しかし、デジタルマーケティング関連のテクノロジーが進化し、企業がそれをマーケティングに活用するようになった今では、昔とは状況が変わってきている。
システムを構築するのはSIerとは限らない。またシステムは自社インフラ内に配置するとは限らず、クラウドを通じてサービスを利用する形態も一般的になってきている。
さらに、優れたツールを導入して環境整備すればいいというものではなく、そのシステムがマーケティング活動にどれだけ貢献したか(つまり成果が向上したか)が重要になっている。
こうした状況でマーケティング関連技術に責任をもつべきなのはだれなのか、それが冒頭に示した問いかけだ。
米アドビ システムズ社CMOのアン・ルネス氏は、この問いに対して、次のように述べている。
「情報システム管理」と「マーケティング貢献」という2つの役割をブレンドすることが大事だ。
つまり、CIOかCMOのどちらかが責任をもつべきという考え方ではなく、1つの組織として、双方の役割がコラボレーションする考え方だ。
そもそも、「CIOかCMOか」という問い自体が、典型的な「サイロ化」だ。
「サイロ(Silo)」とは、工場や農地にある、機能別に独立して建っている塔のようなもののことだ。
「縦割り化」している企業の組織を「サイロ化している」と表現することがあるのだ。
サイロ化そのものがメリットを生む場合もある。
たとえばマーケティングにおいても、「集客」「制作」「解析」などの機能がそれぞれ別々の専門部署で行われていることが多いだろう。デジタルマーケティングの世界ならば、「リスティング広告」「SEO」「DSP」「ソーシャルメディア」「LPO」「サイト改善」などの機能は、それぞれ独自の進化をしてきている。担当組織が明確になっていること自体は、そうした各専門特化した分野における技術や経験のためには、役に立つ側面がないわけではない。
しかし、組織が分断されてしまうということは、往々にして「縦割り」「コミュニケーションの障壁」という状況を生み出す。こうなると、横の連携があまりうまくいかず、部署間の壁に阻まれて物事を進めにくくなってしまう。
これはマーケティングに限らず、企業活動全体においても発生している現象だ。
ルネス氏は、冒頭のテーマに関して次のように続ける。
いま、企業のデジタルマーケティングをとりまく環境は非常に良くなってきている、サイロを取り払っていくことができる時期、取り払うべき時期が来ているのだ。
昔ならば、マーケティング担当者が意識すべきことはマーケティングであり、技術ではなかった。同様に、情報システム担当者が気に掛けるのはテクノロジーやシステムであり、自社のマーケティングには興味がなかっただろう。
しかし今後は、お互いが歩み寄って対話していくことが必要になってくる。これからのマーケティングには技術が必須だからだ。
マーケティング担当者は技術を避けていては役割を果たせない。そうした技術に携わる情報システム担当者も、そのシステムが導入された目的であるマーケティングを無視することはできない。
組織のなかで、マーケティングに携わる人間と、技術に携わる人間が、同じ目標をもって協力できるように、意識を高め合い、知識を高め会うことで、相乗効果を生み出していくことが大切になってくるのだ。
これは、同社が2013年3月に開催したイベント「Adobe Summit 2013」の取材者向けセッションにおいて、参加者から投げられた「CIOとCMO、マーケティング技術に責任をもつべきなのはだれか?」という質問にルネス氏が答えたものだ。
結局、デジタルマーケティングであれ何であれ、仕事を進めるのは人である。物事の細分化・高度化が進む昨今では、専門的な知識やスキルは専門家に任せるのが望ましい。そして、異なる専門知識を融合させるためには、それらの人が協力的に歩み寄り、建設的な対応をしなければ、うまくいかないということだ。
次世代のCMOとは?
~コンデナストの思い切った組織横断型の人材配置
同じく取材者枠で、「次世代のCMO」について、参加企業のリーダーが対談形式で議論するセッションがあった。
技術の進化が進むいま、CMO(最高マーケティング責任者)に求められるのは、どんな人材なのだろうか。
情報技術が進化したことにより、業務領域は拡大し、複雑化し、高度化してきた。しかし、この変化に対応できる経験や知識を有する人材は少ない。
こうした状況において「次世代のCMO」に求められる能力として挙げられたのは、「顧客の購買活動における経験を創造し、演出する力、すなわち高度なコミュニケーション能力」だった。
たとえばファッション誌『VOGUE』や『WIRED』などを出版するコンデナストのCMOは、社内に「コンデナストアナリスト」という新たな役職を作ったのだという。
同社では現在28サイトを運営しているが、その横断的かつ中核的な立場として、Adobe Marketing Cloudなどを利用したデータをもとに意思決定を行う業務をしているのが、この「コンデナストアナリスト」なのだという。
同社CMOはこれを「セントラル化した人材配置がこれから重要になると考えての対応」だという。実際に「コンデナストアナリスト」は、オーディエンス戦略としてコアとなるセグメントを10種類に整理して、それぞれのセグメントに対してどんな対策をすればよいかを検討しているのだという。
組織におけるマーケティングの責任者としてすべてを把握して取り仕切るCMOは、もちろん重要だろう。しかし、適切な意思決定を促す役割を担った人材を組織横断的に配置し、彼らを育成することが重要だと判断したということだろう。
創造力を働かせて全体デザイン設計をすることが重要なのだ
前述の取材者向けセッションだけでなく、Adobe Summitの基調講演でも強調されていたのは、「技術統合」と「組織連携」の重要性だった。
個々の手法ありきではなく、全体ストーリーを描いてシナリオ設計するのが大事だということだ。
こんな風に考えるのはどうだろう。
世の中には、「金でできたレゴブロック」というものがある。1つ1万4000ドル以上もする、高価なものだ。これ自体はきれいだし、マニア心をくすぐるものだろう。しかし、よく考えてみると、1つのレゴブロックが純金でできていてまばゆい光を放っていても、それだけのことに過ぎない。
いっぽう、1つひとつはどこにでもある普通のレゴブロックだったとしても、創造力を働かせ、全体の構成を考え、設計を作り、それを実現するために組み立てれば、人々を感動させるような建造物を作ることができる。
たとえば、レゴブロックで組み立てられたサグラダ・ファミリアのようなものだ。
Web担当者Forumがスタートした2000年代初頭には、企業Webサイトにおいて個々の施策がフォーカスされていたかもしれない。SEO、リスティング広告、CMS、ユーザビリティ……。その時代ならば、「光り輝く黄金のレゴブロック」に注目が集まっていたのだろう。
しかし、時代は変わった。
今の企業Webサイトやデジタルマーケティングに求められるのは、部分の最適化ではなく、全体の最適化だ。どのブロックをどこに当てはめればよいのか、全体像を意識してからデザインしていく。こういうプロセスが大事な時代なのだ。
ちなみに、サグラダ・ファミリアを建築設計したアントニオ・ガウディは、次のように語っている。
創造的であろうとして、余計なものを付け加えてはならない。
自然の原理をよく観察し、それをよりよくしようと努力するだけでいい。
稀代の建築家が語る、示唆に富む言葉だ。
今年も、そろそろ「Adobe Summit」の時期がやってくる。今年のイベントは「Adobe Summit 2014」として、2014年3月24日~28日に、米国ユタ州ソルトレイクシティで開催される。大規模なデジタルマーケティングのカンファレンスだ。
Adobe Summit 2014
→ http://summit.adobe.com/na/
今年は、どんなことが語られるのだろうか。期待して待っていたい。
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※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:CIOとCMO、どちらがマーケ技術に責任を持つべきか? 2014年を迎えて改めて考えるべきこと [イベント・セミナー] | Web担当者Forum
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