話者の増井氏についてはWeb掲載の第1回をご覧ください。
ガイドラインを発注者が作ることの意味
みどり ■ 増井さんは、Webサイト制作の方と直接お会いする機会はありますか?
増井 ■ はい、頻繁にお会いしますよ。先週も制作会社向けのルールドキュメントの説明会を開催し、関連する 数十社に集まっていただき、直接説明させていただきました。ルールドキュメントを改定したときや、新たにルールを追加したとき、検査ルールを変えたときなどにこのような説明会を開くようにしています。今回は、 JIS規格への対応関係で説明会を行ないました。
みどり ■ 説明会には、どのような職種の方が参加されるのですか?
増井 ■ Webサイト制作のアカウント営業、コーダーやデザイナーなど、さまざまな職種の方がいらっしゃいます。参加できない制作会社にもシェアできるように、ドキュメントはすべてHTMLで作っています。取引先の広告代理店や制作会社と一緒に、そのパートナー会社も一緒に参加されることももちろんあります。制作会社向け説明会に先立って、事業オーナー向けにも別途説明会を行なっています。
みどり ■ HTMLでガイドラインを載せたから見ておいてください、というアナウンスをするだけではなく、セミナーを開いて人を集めて、直接対話することが大切なのですね。ただひとつ危惧するのが、決められたガイドラインが形骸化したり覆されてしまうことです。
これは私の経験なのですが、サイトオーナー同士でガイドラインの中味に関するコンセンサスが取れておらず、指示や方向性がブレてしまうということが過去にありました。もうひとつはよくあることですが、クライアント側にガイドラインがない場合に制作会社でガイドラインのようなものを作って提出したのが、いつのまにか守られなくなり、風化してしまうということです。2001年から続いていくようなフレームワークと、いまあげたような失敗例では、何が違うのでしょう。
増井 ■ そうですね。ガイドラインを発注者側が自分たちで考えて、主体的に作っているかどうかだと思います。ルールを作った以上は守ってこそ意味があります。リニューアルや制作を依頼する際、制作会社が副産物的な納品物として運用や更新デザインなどのガイドラインを納められることもあると思いますが、企業の意図がしっかり反映されているガイドラインとは根本的な部分で違っています。発注時に明確なガイドラインがあれば、そのような後付けのガイドラインは必要ないはずです。
守ってもらうためには時間も手間も説得も説明も必要ではありますが、ルールが先にありきでそれに基づいて発注するので、そのルールを守らない提案は原則として受け付けません。しかし、ルールの内容をすべて熟知した人だけしか仕事ができないとなると、新任に任せたり、引き継ぐことが困難になります。なので、社外の制作者などにも丁寧に説明会を行ない、ガイドラインを公開して内容に精通していただくことで、誰が担当してもガイドラインに沿った制作ができるようにしているのです。
たしかに、杓子定規に言っても、人間なのでどうしても守れない時もあります。しかし、明確なルールがあれば、ルールと違っている部分を早期に発見し修正することができます。
みどり ■ なるほど。そのような運用のためにも、ガイドラインはしっかりとしたものを発注者側が必ず持つべきですね。
コンテンツの目的を明確にするガイドラインの整備
みどり ■ ガイドラインはどのようにして作られたのですか?
増井 ■ Web広告研究会のサイトマネジメント委員会が、Web制作のガイドラインに必要な項目を共通フレームワークとして公式に発表しています。設計ルール、実装ルール、検品ルール、関連リソースというもので、そのフレームに基づいてCanon.jp版のガイドライン(Web制作ルール)を作りました。Canon.jp版のオリジナルな項目として、たとえば企画・設計のところに、「コンテンツ分類」という考え方があります。弊社の場合、サイト全体を4つに分類しています。
等級A(初級)、達成基準数25を指す。改正JISでは、アクセシビリティの適合の程度をあらわす等級。中級はダブルA、上級はトリプルA
フレームの「インフォメーション」に分類されるものは、企業としてすべての方に的確に情報を持って帰っていただくためのもので、アクセシビリティを配慮します。また「レセプション」では問い合わせをしたりドライバをダウンロードしたり、Webサイトに何かアクションを起こして情報以外のものの結果を得るべきコンテンツです。そのため、この2つはJISシングルA に対応するコンテンツ作りを求めます。
一方、製品の「プロモーション」の分類の場合は、スペシャルサイトを作り、動画やFlashを使ってマーケティング効果を高めることが目的です。さらに「リレーション」の分類はコミュニティにWebアプリケーションなどを利用して、ロイヤリティを高めることが目的です。これらの分類ではアクセシビリティ対応は推奨なので、制作会社に存分にクリエイティブを駆使して制作してもらえます。「インフォメーション」や「レセプション」ではスタイルシートを勝手に作ることも禁止です。実装のルールが、すべてガイドラインに書かれていますし、フッタなどの関連リソースもXHTMLのコードまでふくめてテンプレート化しているので、制作の際にはこれをすべてコピー&ペーストして使用してもらいます。
みどり ■ そのようにコンテンツの分類上やっていいこと/やるべきことのガイドラインが具体的に提示されていれば、制作者側が一方的な判断でルールを破ってしまうこともありませんね。
Key Goal Indicator、 重要目標達成指標のこと。成果の計測のために定量的に定めたもの。ゴール設定に用いる。
Key Perfor-mance Indicator、 重要業績評価指標。業務を具体的に観測するための指標のうち、特に重要なもの。プロセスの実施状況の計測に用いる。
増井 ■ 「プロモーション」の分類でコンテンツを開発する場合は、自由な分、別サイトを用意する明確な理由、KGIやKPIの設定などが前提条件になります。もちろん、その分予算や工期が必要になるのもおわかりになると思います。
みどり ■ 納品や公開時のチェックはどうされていますか?
増井 ■ 検品をする際には品質チェックシートでやりとりします。また、制作が公開ぎりぎりまでがかかってしまった緊急時でも、最低限、公開前にCMSでチェックするツールでリンク切れや表記揺れがないかをチェックします。
その他にも、四半期ごとにサイト全体をアクセシビリティチェックツールや目視で品質監査を実施します。瑕疵期間が過ぎているため、問題があった場合も元々の制作会社にフィードバックできないのですが、品質を担保するために別会社に改善の制作をお願いします。公開前、公開直後、四半期、という三段階で品質を担保しています。
みどり ■ 制作ガイドラインは小規模なWebサイトであれば必要ない、と考えがちですが、一環したサイト構築と運営を行っていくには、小さなサイトであっても必要ですね。
増井 ■ もちろんです。企業のWebサイトは個人の持ち物ではありません。どんなに小規模のWeb制作であっても、制作者ひとりとWebの発注者ひとりのふたりで完結させることは、企業としてありえません。発注側の担当者には上司もいるし経営者もいます。その人たちの承認の下に仕事を発注しているはずですので、個人で完結する話ではありません。発注者も個人事業主、制作者も個人事業主で、ふたりという話であれば別ですが、少なくとも企業でWebを扱う場合は、コンテンツ更新の承認というワークフローが出てくるはずです。誰の依頼で、誰の責任のもと、発注側の担当者は制作者に発注しているのかを認識することが重要でしょうね。
発注者はガイドラインをどう用意するか
みどり ■ PMBOK思考でブレのないWebサイトを運用をしていくためには、ガイドラインなどを持つ重要性がよくわかりました。しかし、ルールを発注者自らが制作するのが難しいこともあると思います。専業チームがごく小規模だったり、制作スキルや経験をもつ人が居ない場合、Web担当者はどうように動けばいいのでしょうか。
増井 ■ 自社で作らなくても、外注することができます。たとえば、サイトリニューアルの依頼が上層からあったときに、担当者は単にデザインの変更を発注するだけでなく、運用フローを構築したり改変するところもお手伝いしてほしいということを発注先に依頼すればよいのではないでしょうか。ただし、結構コストがかかります。安価に抑えたいがためにガイドラインを省いたり、ワークフローの設計、アドバイスを省くということもあると思います。でも、最初にそのハードルをクリアしておかないと、リニューアルのたびに毎回大きなコストがかかることになります。また、リニューアルするたびに品質が悪化することも考えられます。
みどり ■ ガイドラインの設計は、いつかは発注者の誰かがやらなければならないことなのですね。Webで何を出していくか、枠組みをきちんと整理しないと、ブレるということもありそうです。
増井 ■ これはプロジェクト管理の手法そのものです。プロジェクトの目的は何なのか、関連リソース(ヒト・モノ・カネ)をどうするか、スケジュールをどうするか、何をもってプロジェクトの成功とするか、成功尺度も作ります。だからプロジェクトマネジメントを組織マネジメントにも適用していますし、個々のタスクにも適用するのです。
みどり ■ 発注者の社内でできない場合、Web担当者がディレクションして外部の人だけ集めてプロジェクトを進めることも可能ですか?
増井 ■ 可能です。誰が何を担当するのかを決めます。たとえば、自分はコンテンツの責任をもつけどITは社外パートナーに依頼する、コンサルティングは自分ではできないから外部から人をアサインするという風に割り振りするのです。必ずしもひとりですべてを担当する必要はないと思います。
ただ、Webサイト制作においては、人が足りないからやらなくていいワークフローというのはありません。どんな小さな企業でも、担当者がひとりであっても、Webの制作に必要なプロセスは決まっています。規模が小さくなるとそれを省く傾向がありますが、省いてはいけないことだと思います。
みどり ■ プロセスを省略することなく、完成度をどこまで高めるられるかということですね?
増井 ■ そうですね。ガイドラインに設計と実装と検品という3つの枠組みが押さえられているだけでかなり違ってくると思いますよ。
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下敷きにしたのは、プロジェクトマネジメントの知識体系PMBOKです。ただし、PMBOKに限らずフレームワークの多くは、よほど実経験の中で研鑽を重ねない限り血肉化しません。そこで、著者の体験をもとにしたプロジェクトでの実践方法を解説しています。
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オリジナル記事:ガイドラインを発注者が作ることの意味 | 書籍『失敗しないWeb制作』特別公開(2/4) [失敗しないWeb制作 プロジェクト監理のタテマエと実践] | Web担当者Forum
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