企業サイトのスマートフォン(スマホ)最適化が重要な課題となっているが、集客や告知のための広告施策の理解も欠かせない要素だ。Web広告研究会の5月月例セミナーでは、「スマートフォン広告入門 2013年版」と題し、グーグルとGMOグループの2社がスマートフォン広告の現状と課題、将来について解説した。
スマートフォンの普及とともに広がるスマートフォン広告市場
第一部では、インターネットメディア事業を展開するImpress Watchの代表取締役社長でもあるWeb広告研究会幹事の小川亨氏が、メディアサイト「Impress Watch」におけるスマートフォンのアクセス状況を交えながら、「スマートフォン広告の現状について」をテーマに解説する。
まず小川氏は、INTERNET Watchの記事から「スマホがメインの国内ユーザーは3243万人~コムスコア調査」や「スマホからのネット利用割合が1年で倍増、アプリがネット利用拡大を牽引」を紹介し、この1年でスマートフォンユーザーが急増していることを示す。
また、自社メディアのPVやUUの推移もグラフで示し、「スマートフォンからのアクセスは右肩上がりで伸びてきている。最近、CSSやサーバーの設定を変更したために落ち込んだ時期はあるものの、その後も順調にスマートフォンからのアクセスが増え続けている
」と説明。多くの企業がフィーチャーフォンのときと同様に、オウンドメディアのスマートフォン対応を進めているのだろうが、ユーザーアクセスのスマートフォン比率は非常に早く上がっていることを示した上で、せっかく作ったサイトであるなら、そこへの集客も課題となろうことを示した。
スマートフォンサイトでも集客に有効な方法の1つは俗に言うところの“ネット広告”だが、小川氏は「2012年のネット広告費は7.7%増の8680億円、運用型広告が高い成長」という記事を示しながら、広告においてもスマートフォンの普及拡大が影響を与えていると話す。また、直近2013年の夏モデルにおいても、各キャリアの新端末のラインアップは、ほぼスマートフォンのみとなっており、ユーザーも携帯電話の選択肢がスマートフォンしかない状況になってきていると説明する。
そのようななかで、媒体社のほとんどがスマートフォン向けのWebサイトやスマートフォンアプリに広告枠を設けている現状を紹介し、さらに、実際にグーグル検索にて「スマートフォン 広告」で検索した結果を表示して見せ、多くのプレイヤーが広告ワードを買っている事を示した。またこの検索結果で出てくる、「スマートフォン広告を比較して検討しよう」という、スマートフォン広告市場の参入事業者および配信サービス等を相関図としてまとめたサイトを紹介し、スマートフォン広告の配信会社やプラットフォームがすでに非常にたくさんあることも示して見せた。
そのうえで、小川氏は「インターネット広告におけるスマートフォン広告とはどんなものか、どのように使えばよいのかなどの基礎的な部分も含め、プレイヤーでありプラットフォーマーでもあるグーグルとGMOに話しを伺おうと思う
」と述べ、第二部と第三部の両社の解説にマイクを預けた。
ユーザーのシチュエーションに適した文脈で広告を活用する
第二部では、まずグーグルの田中政摩氏が「スマートフォン広告の可能性」と題した解説を行った。50年前はスクリーンといえばテレビしかなかったが、現在はテレビ、ラップトップ、モバイル、タブレットという4つのスクリーンが日常的に使われており、テクノロジーの進化とライフスタイルの多様化によって、消費者のメディア接触や消費動向が変容している。こうしたライフスタイルの変化に対応しながら、どのように広告を活用するかがこれからの課題になると田中氏は説明する。
また、田中氏はグーグルの調査資料から、ラジオ、新聞、雑誌とスクリーンメディアの接触率を比較すると、前者3%に対し後者91%となっており、依然としてテレビやPCへの接触率は高いものの、タブレットやスマートフォンが見逃せないメディアとなってきていることを示す。
「各デバイスを正しい文脈で、ユーザーの目的に合わせた広告を活用することが必要となってくる
」と話す田中氏は、ユーザーはさまざまな組み合わせでマルチスクリーンを同時利用していることを示し、特にテレビを視聴しながらスマートフォンを操作することは一般的になってきていると説明する。ユーザーはテレビを視聴しながら検索することが多いというデータも示した田中氏は、「接触時間が最も多いテレビだが、すでにテレビはそれだけに集中して視聴されているメディアではない
」と説明を続ける。テレビ視聴者の65%は別のデバイスを使っているというデータも示され、テレビ番組やCMを観て検索する人が2割近くいることも示された。
ユーザーが実際にどのようなシチュエーションでスクリーンメディアと接触し、スマートフォンやタブレットを活用しているかも重要だ。スマートフォンを入り口とした消費者のコンバージョンのパターンは多様化してきており、あらかじめPCで商品価格を検索してから実店舗に行っていたものが、店頭に足を運んだその場でスマートフォンを使って比較したり、問い合わせ先に電話したりすることも可能となっている。また、ユーザーのオンラインでのアクティビティの起点はスマートフォンから始まることが多く、より詳細を知りたい場合はPCに引き継ぐ行動が多い、というデータも示された。
「モバイルからのコンバージョンについて、これまでの考え方を変える必要がある
」と話す田中氏は、モバイルの決済だけをコンバージョンと考えると、モバイル広告のROIが低くなってしまうケースが多いが、ユーザーの行動を考えると、問い合わせや実店舗への来店、アプリのダウンロードなどの直接的なコンバージョン以外の効果も見ていかなければならないと説明する。
続いて田中氏は、このように変化してきた環境のなかで、スマートフォンで人々にどのような新しい価値を提供できるのか、いくつかの事例を紹介する。
「24時間どこでもビジネスと接点を持つことができること
」がスマートフォンならではの特性だと説明する田中氏は、まず日本交通のアプリ「日本交通タクシー配車」を示す。GPSでタクシーの迎え先を設定したり、呼んだタクシーの位置を確認したりできるこのアプリがユーザーのニーズをよく捉えており、2012年7月にはシリーズで60万ダウンロードを超えているという。また、全日空のアプリ「ANA Global」も顧客ロイヤルティを獲得している優れたアプリであることも示された。
次に、「スマートフォンは地域性が高く、お店のすぐ近くにいる見込み客を呼び込むことができる
」と話す田中氏は、グーグルのWeb検索全体の約3分の1は地域情報を含んだ検索だと説明し、地域検索をしたユーザーのうち、50%が問い合わせを行い、57%がお店やWebサイトに訪問し、79%が実際に何かしらのアクションを起こしていることを示す。こうした地域性を活かした海外の成功事例としては、フォルクスワーゲンがスマートフォンサイトのテンプレートを各地域のディーラーに提供し、地域ごとの特色を活かしたサイトを構築していることが示された。
ユーザーの利便性だけでなくマーケティングも支援するスマートフォン
続いて田中氏は、スマートフォンによって価格情報の透明化が進んでおり、それに対しての取り組みを行わなければならないことを指摘する。グーグルとIpsos社が調査したデータ「Our Mobile Planet 2012」によれば、スマートフォンを持つほぼすべての人がサービスや商品の情報をスマートフォンで収集したことがあるほか、他店の価格情報を調べたり、情報によって購入を見直したりすることが行われているのだ。
価格情報透明化の対策は業種によっても異なるが、グーグルでは次の3つを主な取り組みとして推奨している。
- 店内での購入体験の改善
接客サービスの改善、当日配達サービスなどその場で買うモチベーションを高める
- プライベート商品やセット商品の開発・販売
仕入先との連携し、比較できない付加価値の高い商品開発
- スマートフォンの店内利用需要を店舗戦略に取り込む
QRコードで商品情報を提供するなど、店内でのスマートフォンでの操作を価格から商品自体への興味に変えてしまう、など
「スマートフォンは、消費者にとって買い物を便利にする新たなツールであると同時に、企業にとってもマーケティングをサポートする新たなツールでもある
」と話す田中氏は、スマートフォンによってユーザー体験を変えていくには、スマートフォン向けに最適化されたWebサイトを提供することが重要だと説明する。Cmpuware社の調査「What Users Want from Mobile 2011」によると、デザインが良くない企業サイトを人に勧めないユーザーが57%、ユーザービリティが悪く他社サイトに移動した経験のあるユーザーが40%いるという。また、最適化の成功事例として、海外の旅行会社がスマートフォン用のWebサイトを最適化したことでコンバージョンを3倍に高めた例を紹介した。
さらに田中氏は、この2年でスマートフォンからのグーグル検索の数が5倍に増えており、PCの検索数を上回っていると指摘。そのとき、その場所でほしい情報を得るためにスマートフォンで検索することが多くなっているのだ。
事例として紹介された英会話スクールのGabaでは、「英会話」と地域名のキーワードを購入し、検索結果に電話番号を表示させることでClick-to-Callオプションを活用し、問い合わせのコンバージョン率を高めている。また、海外のスターウッドホテルでは、同様にClick-to-Callオプションで電話番号と地図を表示させることで、スマートフォンのトラフィックが3倍になり、スマートフォンからの予約が20%増加したという。これらは、スマートフォンの広告利用で地域情報をうまく活用した例だ。
ブランド発のアプリプロモーションに必要な3つのポイント
次に田中氏は、ブランド発のスマートフォンアプリについて言及する。一時期に比べて、企業やブランドが行うスマートフォンアプリのプロモーションは落ち着いてきたが、iPhone 3の頃は多くの企業がプロモーションにアプリを使っていた。しかし、アプリ配布後にどのような行動を起こせばよいかがわからないという意見もよく聞かれていたという。
これらの時期を経て、ブランド発のスマートフォンアプリにどのような取り組みを行えばよいかが見えてきたと説明する田中氏は、次の3つがポイントになると話す。
- エンターテインメントかユーティリティの側面を持ったアプリの提供
楽しいか実用性がなければユーザーに使ってもらえない
- 多くのユーザーに使われているプラットフォームを対象にアプリを開発
iOSとAndroid、機種をどこに絞るか
- 制作したアプリのプロモーション
リリースするだけでは浸透しないため、プロモーションプランが重要
また、アプリ活用に成功した例として、江崎グリコが「ポッキー」のアプリでHTML5を利用した事例と、ワコールのCMと連動したリボンブラ体操のアプリの事例を紹介した。特に、ワコールの事例ではグーグルのAdMob広告が使われており、クロスメディア展開で84.6%のリーチを獲得し、そのうちAdMob広告によってテレビCMに接触していなかった7.6%にリーチすることができたほか、リッチなHTML5のAdMobバナーに接触した層の43.8%がキャンペーンサイトにアクセスするなど、高い効果が生まれている。
最後に田中氏は、スマートフォン広告を最大限に活用するコツとして、以下の7点をあげ、「スマートフォン広告の可能性」のまとめとした。
スマートフォン広告を最大限に活用するためのポイント
- シンプルなインターフェース
PCとは画面サイズだけでなく、モチベーションにも違いがあるため、背景にあるユーザー心理を考えた作り分けが必要。
- タッチ操作
リンクやボタンの押し間違いがないような、アクセスしやすいサイトにする。
- ロケーション
ロケーションに応じて、できるだけユーザーに適切な情報を出す。
- オーバーレイ
オーバーレイ(インタースティシャル)広告でキャンペーン情報を表示することで、高い誘導率を実現した事例がある。ただし、ユーザーのストレスを考慮した対策が必要。
- ソーシャル
スマートフォンユーザーの多くがソーシャル機能を利用している。ユーザーが良いと思ったものが、すぐにシェアできるような仕様にしておく。
- 動画
YouTubeにアクセスする端末の半数はスマートフォン。スマートフォンの小さな画面では動画は見にくいと考えるかもしれないが、実際のニーズは高い。
- アニメーション
Flashに標準対応していないためシンプルなクリエイティブにするケースもあるが、HTML5を駆使してユーザーを引き付けるようなデザインにする。
グーグルが提供するスマートフォン広告ソリューション
続いて、グーグルの丹下智貴氏が登壇し、グーグルが提供するスマートフォン広告ソリューションについて説明した。スマートフォンユーザーが増加してPCのユーザーをもうすぐ超えることや、スマートフォンではWebとアプリの2つの入り口があってそれぞれの特徴があることなどを説明する丹下氏は、グーグルでは全世界のエンジニアがスマートフォン広告の開発に力を入れていると話す。
また、同じ検索キーワードでも場所やシチュエーションによってユーザーの意図が異なることもあるため、AdWordsでは最適な広告を出すための広告設定オプションも用意している。電話番号指定オプションの「Click-to-Call」や、アプリリンク設定オプションの「Click-to-Download」、住所指定オプションの「住所指定オプション」などが紹介された。
その他、クーポンを提供するオプションも用意されており、スマートフォンによる決済など直接のコンバージョンだけでなく、さまざまなユーザー行動にあわせた間接的な効果を狙うことも可能となってくる。
電話番号指定オプションを活用したホテルや空港エリアターゲティング、住所指定オプションでオンラインから実店舗への誘導などの例を示した丹下氏は、90%のユーザーが1つの目的を達成するのに複数デバイスを活用していることを示す。グーグルでもクロスデバイスに注力しており、今後はクロスデバイスでのコンバージョンを取れる仕組みを提供していくという。
アプリとWebの2つのディスプレイ広告について丹下氏は、「WebはCookieが利用できるのでPCと同じようにリターゲティングができるが、アプリ内広告ではそのための仕組みが必要となる
」と説明する。グーグルでは、今後は広告識別子の技術であるIDFA(Identification for Advertisers)などで端末を識別し、リターゲティングする仕組みを提供するという。また、アプリ内広告ではテキストからリッチな動画広告までを提供できるようになっている。CPC(Cost Per Click)だけでなく、CPM(Cost Per Mille)による課金が用意されているのも特徴的だ。
スマートフォンユーザーの動画視聴が多くなってきていることを示す丹下氏は、視聴課金型(CPV:Cost Per View)のYouTubeモバイルTrueViewインストリーム広告を紹介。ディスプレイ広告では、CPC、CPA(Cost Per Action)、CPM、Cost/Dayなどの複数の購入オプションが用意され、業界トップクラスのアプリターゲティングを持っていると説明する。
また、コンバージョンオプティマイザーによって、キャンペーンなどの最適化を自動化し、最善のROIをサポートする仕組みも提供する。広告表示の透明性も、管理画面上から確認することで確保されていることを丹下氏は示した。
アプリ内でのコンバージョンや誤クリックに対する対策、リッチメディアテンプレートの提供などについても説明した丹下氏は、「スマートフォンは持って歩くものなので、さまざまなシチュエーションや用途が考えられる。それらに合わせた広告が出せるような仕組みを我々は提供している
」と話し、最後にスマートフォン広告の特徴をまとめて講演を終えた。
- 瞬間的な意図を捉えることができる
- アプリダウンロード促進に親和性あり
- 様々なシチュエーションにリーチ
- リッチメディア、動画など表現が豊富
- 他のメディアとの相性が良い
オリジナル記事はこちら:「スマホ広告入門2013年版、広告主が理解すべき現状と可能性」2013年5月27日開催 月例セミナーレポート(1)
- 内容カテゴリ:マーケティング/広告
- コーナー:Web広告研究会セミナーレポート
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:グーグルが解説する「スマートフォン広告入門 2013年版」、広告主が理解すべき現状と可能性 [Web広告研究会セミナーレポート] | Web担当者Forum
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