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ECビジネスを3日間で創造、日本のクラフトマンシップを世界に広げた「Startup Weekend Tokyo E-Commerce」 [イベント・セミナー] | Web担当者Forum

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あなたを起業家にする54時間

週末の3日間を使い、eコマースに関連する起業のアイデアとその実現プロセスを競い、起業にチャレンジする「Startup Weekend Tokyo E-Commerce ~日本の“クラフトマンシップ”を世界中に広げるECを起業せよ!~ Special Sponsored by 無印良品」が、東京のKDDIセミナールームで7月5日から7日にかけて開催された。

我こそは、という起業意欲に溢れる人々が集い、金曜の夜から日曜にかけての54時間、チームを組み、起業にチャレンジし、それを審査員がジャッジするという実践的カリキュラムだ。参加者の面々は、「いずれ起業したい」「会社外で起業に意欲的な人脈を作りたい」と考えている会社員の方が大半を占めていたが、フリーランスのほか、すでに起業しているものの改めてスタートアップに取り組みたいと考える参加者もいた。

3日という短い期間で参加者がチームを組み、試行錯誤し、ビジネスアイデアを生みだしていった。総勢16チームが起業のアイデアを生み出す、そのプロセスは企業のWeb担当者としても参考になるだろう。3日間の模様をレポートする。

「スタートアップすることだけ」を真剣に考える3日間

Startup Weekend(以下、SW)とは、米国カウフマン財団が支援する、世界最大規模を誇る起業家支援コミュニティ。日本での活動は「特定非営利活動法人Startup Weekend」が支えており、世界112カ国、526以上の都市で通算1200回以上開催され、参加者は延べ11万人以上に上る。

通常、SWでは特定のテーマを設けないが、今回は「無印良品」ブランドを展開する良品計画のスポンサードのもと、「日本のクラフトマンシップを世界に広げるe コマースを起業せよ」をテーマに、eコマース関連の起業アイデアを競った。イベントの企画・プロデュースは、ネットイヤーゼロとStartup Weekend東京。

SWは懇親会から始まるのが恒例だ。初対面の参加者同士が食事しながら打ち解けようという趣旨であり、リラックスした会話とこれから始まるワークショップへの期待感に、会場は一気に熱気に包まれた。なお、参加者は事前に、「hustler」(プロデューサー、企画・マーケティング担当)「hacker」(プログラマ、エンジニア)、「Designer」(ウェブデザイナー、グラフィックデザイナー)の3つの職種に分けられている。

プログラム本編がスタートすると、ファシリテーターを務めるSW日本法人 理事長の李東烈(DongYol Lee)氏が登場し、本イベントの趣旨を伝えつつ、「みなさんは、“スタートアップするためだけ”にここに集まりました。そして最終日にジャッジされます。真剣に起業してみて下さい」と参加者に渇を入れ、モチベーションを引き上げた。

さらに、スペシャルスポンサーである、良品計画 WEB事業部長の奥谷孝司氏からもエールが送られた。

SW日本法人 理事長の李東烈氏(左)と良品計画 WEB事業部長の奥谷孝司氏(右)

次に始まったのは、「HALF-BAKED」というゲーム形式のワークショップ。李氏が参加者をランダムに数人のグループにまとめ、好きな単語を発表させていく。「ビキニ、ミカン……」など、参加者が思いつくままに発した単語が次々とボードに貼り付けられると、2つを組み合わせて、これから起業する会社のウェブサイトのドメインを作ると李氏は説明する。たとえば、「bikinimikan.com」といったドメインおよび会社名になる。

続いて、できた社名からビジネスモデルを想像して作りだし、1分ピッチ(アイデア発表)の準備が進められた。ピッチの構成は、「自己紹介」「あなたが解決すべき問題」「その解決法」「そのために必要なもの」の4つ。

いつもDOINGが先でUNDERSTANDINGは後!(李氏)

李氏は、参加者たちにハッパをかける。SWは机上の空論ではなく、あくまでも社会に届くサービスで起業することを想定した実践のイベントなのだ。

1分間のピッチには74名が参加し、アイデアがない人は発案者の話を聞いてまわり、各人が自分の参加したいプロジェクトに投票する。表面的には楽しいディスカッションに見えるが、自分のアイデアの生き残りを賭けた真剣勝負が始まっている。投票が集まらなければ、他のアイデアを持った人と交渉をしたり、似通ったアイデアの人に相談を持ちかけたりする。良質なアイデアや人の心をつかむ話術を持った人だけが生き残る激しい生存競争が展開される。

これはまさにスタートアップのプロセスであり、SWを体験する醍醐味の1つ。投票の集まらない人は他のチームに合流するなどし、結果、十数のチームに集約された。

1分間ではアイデアは説明できません。まずは、ソリューション(問題解決手法)の説明ではなく、聴く人の気持ちを動かすことが重要です。いかに聴く人に興味を持ってもらうか。自分が解決しようとしている課題に対しどこまで共感を集めるか。発表の後、人が集まって来なければピッチする意味はありません(李氏)。

70人以上が発表を行うと、ほとんどのテーマは記憶に残らない。参加者たちは、ピッチのポイントと厳しさを知ることになった。初日は行われたのは、チーム内での役割を決めるところまで。チームメンバーの役割は、CEO、顧客開発責任者、プロジェクトマネージャーなどだ。2日目には本格的なブレストが始まる。

会議室を飛び出し、実践で得た知見からプランを再構築

2日目の活動は、午前9時の朝食から始まり、いよいよ本格的なブレストへと移っていく。

各チームは、初日のピッチの内容をベースにターゲットや市場、収益について話し合い、ビジネス化の仮説を立て、検証の時間に入る。特に重要なのが「あなたの顧客は見つかりました?(SERCH FOR YOUR CUSTOMERS)」というポイントだ。具体的な顧客の課題をリストアップし、それは本当に顧客が欲していることなのか、街に繰り出し、通行人や業者の人に直接聞いて確かめなくてはならない。実際に顧客は存在するのか、机上の議論にとどまらず、各チームがヒアリングやインタビューに繰り出す。

調査を行うと、考えたサービスを必要だと考える人が少なかったり、課題と捉えていたことがあまり問題視されていなかったり、逆に予想していなかった問題解決の依頼をされたりするなど、参加者は今まで自分のなかだけで練っていた仮説がいかに現実とずれていたのかを実感することになる。冷静に考え直してみると、類似サービスの存在、収益性の乏しさなどの課題が次第に明らかになっていく。

昼休みに入ると、ユーザーヒアリングの結果をまとめて、プランの再構築に入る。午後には、この日来場したコーチ(メンター)に各チームが起業プロジェクトの概要を説明するコーチ・テーブルが設けられた。コーチ陣は次の通り。

  • 秋山智紀氏(投資家)
  • 宮川耕氏(株式会社コラボ代表取締役)
  • 勝部健太郎氏(UNIT_ONE代表)
  • Tim Romero(株式会社Engine Yard代表取締役社長)
  • 倉重宜弘氏(取締役 at Netyear Zero, Inc.)
  • 佐々木浩史氏(Incubate Fund)

コーチは各チームを回りながら、議論の様子を見て意見を述べたりアドバイスをしたりする。フィードバックをもらった参加者も、それを受けてプロセスを練り直す作業が続いていく。2日目の午後になると、初期の事業モデルから方向転換するチーム、実現の困難さにメンバーと意見が合わなくなるチーム、頓挫しそうになっているチームなど、悪戦苦闘する姿が見られるようになる。

5分間の勝負に向けラストスパート

3日目の日曜日は、午後5時からの最終プレゼン「FINAL PRESENTATIONS」を目指し、各チームは時間と戦いながら準備を進める。プロジェクトの実現性を考慮して、初期アイデアを捨て、大胆に方向転換するチームも出てきている。メンバーはデザイナーに製品やサービスのUIイメージを伝えて試作品を作る。リーダーはビジョンやキーワードの再確認を行いつつ、プレゼン資料を作成し、シミュレーションを行う。

昼食を過ぎると、各チーム全力疾走の体勢に入る。プレゼンに向けた本格的な準備に集中する雰囲気となり、最終目標に向かって突き進む各チームの一体感は、SWの醍醐味の1つだ。そして最終プレゼンが始まる。

審査員は、良品計画 WEB事業部長 奥谷孝司氏と、WEB事業部 WEB制作(兼)コミュニティ担当 川名常海氏、ネットイヤーグループ 代表取締役社長兼CEO 石黒不二代氏、ウィズグループ 代表取締役 奥田浩美氏の4名。

最終プレゼンの採点方法は、「CUSTOMER VALIDATION(顧客検証)」「BUSINESS MODEL(製品やサービスに関する事業戦略や収益構造)」「EXECUTION(実践度合い)」の3項目で各1~5点の15点満点方式。全16チームの最終プレゼンが始まり、審査員からの質問・指摘に対してプレゼンターが回答していく。

オフラインを取り入れたQRコード付き商品ポスター「WALLMART」

審査の結果、優勝を獲得したのはQRコードを活用した商品ポスターの「WALLMART(ウォールマート)」。マーケティングから商品発送まで1セットで手掛ける。

QRコードが付いた商品ポスターをコンサートやイベント会場の壁に貼るというだけのサービスです。音楽業界で、CDやDVDの売り上げが減っているなか、コンサートの収益は上がっています。我々は音楽業界をサポートしたい。ライブ直後に会場に(QRコード付き)ポスターを貼り、熱気が冷めないうちにホットなファンにグッズを売ることを目指します。これは在庫リスクが小さいサービスです。リサーチしたところ、そういったサービスなら商品を出したいという顧客がいました。決済はQRコードで行います。

応用編としては、貼り出す広告媒体をショップに変えていきたい。たとえば、通勤時に購入しても重いものを持たずに済む。(旅行で訪れた際)ご当地のものをクラフトマンシップが壁に貼るだけで購買につなげられます。

評価ポイント

審査員からは、ECでありながらオフラインの顧客に働きかける要素が評価された。コンサート会場なら音源も売れるだろうと、審査員満場一致での1位となった。一方、参入障壁が低いビジネスモデルであり、競合との差別化をどのように図っていくのか、ビジネスをどのように持続していくのかといったことが指摘された。

優勝した「WALLMART」のチームメンバーは、「初日のプレゼンではあまり反応がなかったのでビックリしました」と、会場の反響とプロフェッショナルである審査員の着眼点の違いに戸惑いを隠せない様子だった。また、SWを経験したメンバーが複数いたことも同チームの特徴だ。前回の反省から、毎月勉強会を開催するなど、再挑戦に向けてモチベーションを高めていたことがうかがえる。

準優勝および特別賞は次の通り。

準優勝:子供服のECサイト「fanty」

日本では子供衣料代が親の服の1.3倍の価格となっています。そこで、子供服専門のセレクトショップを作りたい。子供向けのデザイン雑貨を1か所で購入できるサービスがありません。1か所で良いものを選んで日本語のプラットフォームで売ろうと考えています。商品のデザイン性にはこだわります。さらに、職人、デザイナーのモノづくりに関わるストーリーを伝えたい。ティザーサイトもFacebookページもすでに作り、スタッフも揃えています。

評価ポイント

ティザーの完成度が高く、審査員の中で特に女性票が多かった。無印としても参考にしたい。

特別賞:ライフスタイル軸の定期購読サービス「DOYA」

コンセプトは“世界中の素敵な人のライフスタイルを届ける”です。モノではなく、素敵な人とその人のライフスタイルに注目し、シェアします。ターゲットはブロガー、そしてブロガーについているフォロワー。ビジネスモデルは世界中の素敵なブロガーに提携し、定期便が届き、お客様に届けるというシステムです。

評価ポイント

職人さんは自らを表現することはない。そこで、ブロガーさんたちが商品の良さ伝えるという点を評価した。日本中を巡って伝えられる術が多いところにヒントがあると思う。定期購読は(なかには必要のないものあるので)消費者にとってどうかと思うが、食に関してご当地料理が届くのはすばらしいと思う。

サラリーマンが失いがちな熱意と力に満ち溢れた3日間

授賞式の終わりには、審査員を代表して無印良品の奥谷氏が総評を述べた。

初の参加で、企業側から「日本のクラフトマンシップを広げるEC」というテーマを出したが、そのテーマの意識の度合いにかかわらず、みなさんの「俺の話を聴け!」というパワーは我々サラリーマンにはないものでした。

発表を聞いて反省したのは、私たちはつい取引先がこちらに寄って来てくれるのが当たり前だと思ってしまいがちだが、それを前提にしないみなさんのプレゼンは、大変示唆に富んだものでした。

自分が講演をする際、取引先様との関係を「伴走型」と表現していますが、SWは「放牧型」といえるかもしれません。むしろその方が、パワーがあっておもしろいものが出てくるかもしれないと、考え方を柔らかくしてもらった気がします。特に大企業はもっとこういう方たちとの関係を深めてコラボレーションしていくべきだと実感しました(奥谷氏)。

最後に、ファシリテーターを務めた李氏が「今日も優勝したチームには、SWに何度も参加している人がたくさんいました。繰り返し参加することで起業するスキルはだんだん向上するという証拠です。今年は東京では7回、日本全国で30回、来年は40回開催します。悔しかったらぜひ来て下さい」と参加者に継続的なSWの参加を呼びかけ、授賞式は幕を閉じた。

◇◇◇

54時間にもわたる“耐久ワークショップ”は、とてつもなく長いものに思えたが、終わってみればあっという間の3日間。日常では出会えない様々な人やアイデアと遭遇し、参加者たちは起業のフレームワークを実践できた喜びに満ちていた。

1人よがりなアイデアではなく、顧客に届くサービスとして成り立つものを短時間で生み出すこと。これは実際のビジネスに当てはめるまでには、まだまだ多くの課題を残すものと思われるが、ワークショップを通して、参加者の意識がスタートアップの「当事者」へと変化したことは確かだ。近い将来、このSWをきっかけに、日本でも世界を変えるスタートアップが生まれ、世の中にインパクトを与えることが期待できるのではないか、そのように感じた3日間であった。

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