前回までのあらすじ
山ノ内くんと八瀬さんが持ち込む数々の難問を、快刀乱麻を断つかのごとく鮮やかに解決してきた有栖川さんだったが、彼女には彼女なりの悩みがあったのだった。
→前回のマンガは「写った人の承諾なく撮った写真は肖像権侵害になるの?」(第5話)
- 会社のスタッフが書きためたブログの権利は誰のもの?
- 職務著作とは何か?
会社のスタッフが書きためたブログの権利は誰のもの?
我が社(ランディングカンパニ―)のスタッフや協力してくれているメンバ―が、Web制作のテクニックやデザインについて書きためたブログが書籍化されることになりました!僕も出版プロジェクトチ―ムに入ってるんですよ~。
へえ、すごいじゃない…とでも言うと思った!?全ッ然、うらやましくなんかないんだからねッ!
す、すみません!? で…、ブログも著作物ですよね。会社と執筆者、どちらが出版に関する権利を持っているんでしょう?
職務著作とは何か?
出版に関する権利関係を考える上で、まず、ブログの著作者が誰か確定する必要があるわ。「著作者」って何か…覚えてるわよね?(ジロッ)
「著作物を創作する者」でしたね!
ふん、案外ちゃんと覚えてるわね。前にも言ったけど、著作者は、「著作物を創作する者」で、著作物に関して、「著作権」と、「著作者人格権」という権利を持つわ。ちなみに、著作権は他人に譲渡されうるけど、「著作者人格権」は著作者に留保されるからね。
わかりました。で、今回、「著作者」が誰かを決めるにあたり、「職務著作」制度が適用されるかが問題になるんですね。
うん。わかってきたようね。
「職務著作」って、雇われている人が創作した著作物について、雇い主を著作者とする制度なんですよね? じゃあ、僕が仕事で制作した著作物は、僕ではなくて、我が社(ランディングカンパニ―)が著作者になるってことですか?
そういうこと。
自分が作ったのに、自分の作品と扱われないのは寂しい気もします。
気持ちはわかるわ。まあ、個々の従業員を著作者とすると権利処理が大変になるからね。著作物を活発に利用するためにも「職務著作」制度が必要なのよ。
それもそうですね。今回も、個別に利用許諾が必要と言われたら大変ですからね。…では、今回のブログに「職務著作」は成立するでしょうか!?
まず、職務著作が成立するための要件をまとめるわ。
- 使用者の発意に基づき
- 使用者の業務に従事する者が
- 職務上作成するものであること
- 使用者の名義で公表すること
- 契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと
…わかりやすく説明お願いします!
- 「1. 使用者の発意に基づき」とは?
- 「2. 使用者の業務に従事する者」とは?
- 「3. 職務上作成する著作物であること」とは?
「1. 使用者の発意に基づき」とは?
まず、「使用者」とは、「雇い主」みたいな意味ね。会社や個人事業主のほか、業界団体みたいな、法人化されてない団体で代表者等がいるものなどが「使用者」たりえるわ。
ふむふむ。では、「発意に基づき」とはどういう意味ですか?
「発意に基づく」場合とは、典型的には、使用者から具体的な指示がある場合ね。ただ、それに留まらず、使用者の間接的な意図の下に創作した場合も含むと言われているわ。たとえば、従業者の立場や業務内容からして、使用者が制作を予定・予期するような著作物を制作する場合ね。
あの~、今回のブログって、何人かの有志が集まって、自由なノリで書き出したものなんですよ。だから、上からブログを書くように指示があったわけではありません。また、それまで我が社には公式ブログやその計画もなかったので、会社が「制作を予定・予期していた」ものともいえるかどうか…。
会社はブログを書くことは承諾してたわよね? 会社Webサイトにでかでかとブログのバナ―が貼ってあるからそうだと思うけど。
はい、それはもちろん。会社のPRになりますしね。
それなら「法人等の発意に基づく」と言えるわ。業務に従事する人が法人等の承諾を得て著作物を制作する場合も、この要件を満たすからね。
そうなんですね。良かった~!!
「2. 使用者の業務に従事する者」とは?
「使用者の業務に従事する者」って、どういう意味ですか?判断基準はありますか?
そうね…この要件の解釈には諸説あるけど、有力な立場は、
- 雇用契約から生じるような指揮・監督関係があり、
- 使用者に著作権を帰属させることを前提にしているような関係がある
かどうかを判断基準としつつ、実態を総合的に検討すべきとしているわ。
もう少しわかりやすく! 具体例をお願いします!!
そうね。まず、使用者と雇用契約関係(使用者の指揮監督の下、労働を提供しその対価を受け取る関係)にある者、つまり、会社の従業員やアルバイトなどは「使用者の業務に従事する者」にあたるわ。
わかりました。それでは、雇用契約関係にない、派遣社員の人とか、外部のフリ―ランスの人とかは、「使用者の業務に従事する者」にあたらないのでしょうか?
雇用契約関係になくても、派遣社員の人については、あたるケ―スが多いと思うわ。これに対して、外部のフリ―ランスの人(請負契約・委託契約)については、あたるとされた例がないではないけど、まずあたらないと思っておいて。
インタ―ンシップに来てくれた学生なんかはどうでしょうか?
インタ―ンシップの学生も、ただちに「業務に従事する者」とは言えないわね。でも、我が社の指揮命令系統の中で実際に我が社の業務を行ってもらうことを目的とするインタ―ンシップであれば、あるいは「業務に従事する者」にあたるかもしれないわね。
なるほど…インタ―ンや派遣の人たちの執筆した分は、一般論では確定できないわけですね。後で個別に有栖川さんに検討をお願いしましょう。
「3. 職務上作成する著作物であること」とは?
これは、その人の地位や業務内容からして、制作することが予定・予期・期待されているものである、という意味よ。1の要件と判断要素が重なるわね。
勤務時間外や勤務場所以外で制作したものはどうですか? 今回のブログ、カフェとか自宅で書いたりしていた人もいそうなんです。
勤務時間内に作成されたか、勤務場所で作成したかどうかは、「職務上作成」したものか判断する上での一要素と考えて。裁判例では、使用者の業務の内容、作成する人が従事する業務の種類・内容、作成された時間・場所、作成についての会社の指揮監督の有無・内容、著作物の種類・内容、公表態様等を総合判断すべきという考え方を示したものがあるわ。
ぶっちゃけ、ケ―スバイケ―スってことですね。
まあそうね。たとえば、会社の広報用ブログが会社で書き終わらなかったから自宅に持って帰って続きを書いた、なんて場合には「職務上作成した」と言いやすいわね。逆に、大部分を自分の裁量で勤務時間外に自宅のPCで作成していたなら、そういうものはそもそも会社の仕事として作成すべきと期待されてないから、「職務上作成した」とは言えないんじゃないかしら。
なるほど。今回のブログは、会社の公式ブログ的な位置づけですし、誰が書くかも広報担当が割り振ってたから、前者のパタ―ンにとても近いです。
そうね。会社のWebサイトからバナ―でリンクされてるし、ブログタイトルも「ランディングカンパニ―Web制作ブログ」だし、体裁からすると公式っぽいわね。内容もWeb制作テクニックに関するブログだし、Web制作会社である我が社のPR目的で作成されていると認定しやすいわ。「職務上作成する著作物」の要件は満たしそうね。
- 「4. 使用者の名義で公表する著作物であること」とは?
- 「5. 契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと」とは?
- まとめ
「4. 使用者の名義で公表する著作物であること」とは?
公表する際に、使用者の名義で公表する著作物であることが必要よ(ただし、プログラムの著作物は除く)。ちなみに、未公表の著作物でも、使用者の名義で公表することが予定されているものも含むと考えられているわ。
この要件の解釈も諸説あるんだけど、特に、使用者の名称と従業者の名称が両方書いてある場合は、問題になるわね。
なんと! 今回のブログは、まさにそのパターンです! つまり、ブログのタイトルは「ランディングカンパニ―Web制作ブログ」ですし、ブログの全ペ―ジに、発行元・文責:ランディングカンパニ―(株)と表示されてます。だけど、個々のブログには実際に執筆した人の名前も書いてあるんですよ。どう考えたらいいでしょう?
著作物の内容に最終的に責任を負う者として表示されているのは誰か、という判断基準で考えるべきね。裁判例には、判断するにあたり、体裁、つまり「名称の表示のしかた」を重視したものがあるわ。
じゃあ今回も「文責:ランディングカンパニ―(株)」って記載してあるから大丈夫ですよね?
う~ん、…これは弁護士としての直感だけど、「体裁」だけで判断するのは危うい気がするわね。特に今回は、執筆者と使用者との間の問題だから、対外的な表示の持つ意味合いだけで決めていいかどうか不安だわ…。どのような経緯で創作されたものか等の事情も踏まえて検討した方がよさそう。
なるほど! …そういえば今回のブログを始める前、「あくまで執筆担当者個人の見解であり、当社見解とは関係ありません」って表示しようかという意見もあったんです。でも、せっかくだから、会社の看板にしよう!ってことで、あえて「文責:ランディングカンパニ―(株)」にしよう、ってことで意見が一致したんですよ。社内チャットのログも残ってますよ!
わかったわ。そういうことなら、この要件については問題なさそうね。
良かった!
「5. 契約、勤務規則その他に別段の定めがないこと」とは?
これは、就業規則や契約において、職務上制作した著作物についても従業員を著作者とすると定めている場合は、1~4の要件を満たしていても、職務著作は適用されないわ。我が社の就業規則とかにはそのような定めはないし、今回はあまり関係ないかしらね。
わかりました!
まとめ
まとめると、今回の場合で問題になりそうなのは「業務に従事する者」の要件で、派遣やインタ―ンの人たちが書いたブログは、満たすかもしれないけど確実じゃない、ってとこですね。
そんなもんね。私の方でも、今回のブログを執筆した派遣の人やインタ―ンの人との間で、著作物の帰属について、ル―ルが取り決められていたか、確認しておくわ。もしル―ルがなければ今後きちんと整備していかなきゃならないしね。
さすが有栖川さん! 法務について(だけ)は抜かりないですね!
気のせいかしら…今、そこはかとなく、屈辱を感じたわ…。
要件を満たすかどうか詳しく検討してもらわないといけませんし、今度から有栖川さんも出版プロジェクトチ―ムに加わってくださいね!
ちょっと、勝手に決めないでよね! …ま、まあ別に、どうしてもっていうなら入ってあげなくもないけどっ!?
- 八瀬さん...、恐ろしい子!
第7話は2012年7月中旬ごろに公開予定
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オリジナル記事:会社ブログの記事って、著作権者は会社なの? 個人なの?/【漫画】僕と彼女と著作権・第6話 [僕と彼女と著作権] | Web担当者Forum
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