第1部 ソーシャル時代の消費者コミュニケーション
売り手側は情報を独占し、一方的に都合の良いメッセージを流し続けていました。
(中略)
双方向のインターネットの登場によって、そういう時代は終わりを告げました。
(中略)
現代のマーケティングはどれだけ顧客の深層心理に迫れるかの勝負です。
フィリップ・コトラー 『マーケティング 3.0』
次世代のマーケティングや消費者コミュニケーションのあり方について考える際に、ソーシャルメディアの現状を無視して議論を進めることはできない。それほどまでに、近年のソーシャルメディアは凄まじい規模と勢いで拡大を続け、消費者のライフスタイルや企業のマーケティング環境を大きく変革しようとしている。
第1部では、まずソーシャルメディアの拡大により増幅されたクチコミの影響力が、従来のマーケティング理論に及ぼすインパクトについて、国内外の事例を交えて論じたい。その結果、現在、プロモーション活動やマーケティングリサーチ活動、そしてカスタマーサポート活動に大きな変革が生じていることが明らかになるだろう。
第1部 第1章 ソーシャルメディア・インパクト
「簡単」で「安価」で「ダイレクト」なメディア
インターネットや携帯電話を中心とするITの普及は、人々のライフスタイルや企業のビジネス環境を大きく変革してきた。このようなITを活用した新しい商品やサービスが、人々の日常生活に浸透・定着するために不可欠な要因は3つある。
1つ目の要因は「簡単」であるということ。この意味するところは「すぐに」「早く」「誰にでも」ということである。導入に時間や手間を要さず、高度な知識や技術を求められないことが普及を後押しする。
2つ目は「安価」であるということ。リーズナブルもしくは無料ということである。経済的負担を意識しないで済むことが普及を促進する。実際、インターネット上には無料の情報提供サービスが多数存在し、携帯電話のパケット利用料は定額制になり、コストを意識せず様々な情報やサービスを利用できることが当たり前になっている。
そして3つ目は「ダイレクト」(直接)である。直接買える、直接話せるということだ。ダイレクトがもたらす一番の価値は「信頼」または「納得」である。それが企業であれ消費者であれ、人が何かを選ぶ際に最も大切なことは「信頼」だ。そして、選んだものの良し悪しを決めるのは「納得」できるかどうかである。とりわけ情報が氾濫し価値観の多様化が進んだ現代においては、「信頼」できる情報源から得られる「納得」がすべてに優先する。ダイレクトであることは、そのような「信頼」と「納得」の形成に不可欠な要素である。
ソーシャルメディアは、これら「簡単」「安価」「ダイレクト」という3つの要因をすべて満たしているという意味で、インターネットや携帯電話に続くイノベーション的存在だといえる。そして実際にインターネットや携帯電話に勝るとも劣らない勢いで世界的にも急拡大し、瞬く間にグローバルなネットワークを形成し、消費者同士で「信頼」と「納得」に足る情報を掲示板や動画の形で自由に共有・拡散し互いに影響しあうようになった。結果、ソーシャルメディアは人々のライフスタイルとして浸透・定着し、日常生活に不可欠な存在になりつつある。
図1-1のようにソーシャルメディアの種類や形態も多様化している。最も代表的なものはFacebook、Google+、mixiなどのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)であるが、Amebaや2ちゃんねるなどのブログ・掲示板サイト、Twitterに代表されるミニブログ、GREEやモバゲー(DeNA)などのソーシャルゲームサイト、Pinterestや YouTubeなどの画像・動画共有サイトなど、そのバリエーションは豊富である。Yahoo!知恵袋などのQ&Aサイト、価格.comや@cosmeといった比較/レビューサイト、LINEのような無料通話・メールアプリも広義の意味でソーシャルメディアといってよい。
しかも、近年はスマートフォンやタブレットに代表される次世代携帯端末の普及に伴い、よりソーシャルメディアを利用しやすい環境が整いつつある。今後、ソーシャルメディアとテレビが融合したスマートテレビの普及が予測され、一層の利用者と利用時間の拡大が見込まれる。
インターネット、スマートフォン、ソーシャルメディアの登場により、現代の消費者は、簡単で安く(ほぼ無料感覚で)直接、企業あるいは友人とコミュニケーションを取り合うためのサービスと環境を手に入れた。そして、消費者はソーシャルメディアで獲得した絆(エンゲージメント)に「信頼」を寄せることで、納得感のある情報を自由に共有・拡散する力を持った。このような消費者同士の情報影響力の拡大が、企業のマーケティング環境に大きな変革をもたらすことになる。
クチコミの影響力が「見える化」された
以上のようなソーシャルメディアの急速な普及と利用者の拡大の結果、いわゆる消費者間の「クチコミ」が消費行動に与える影響力は、飛躍的に高まることになった。
もちろん従来のマーケティング理論においても、「クチコミによる消費者間の情報の伝播が購入意思決定に与える影響力」の重要性は指摘されてきた。そのため、企業のコミュニケーション活動においても、クチコミを活用しようとする試みは繰り返し行われてきた。だが、クチコミという目に見えない影響力は効果測定や効率判断が難しく、マーケティング手法としてはなかなか定着しなかった。
ソーシャルメディアの台頭は、クチコミの影響力をこれまで以上に増幅させ、消費者が発信し共有しているクチコミ情報を「見える化」することを可能にした。企業側からすると、今までなかなか手が届かなかったクチコミの影響力を消費者とのコミュニケーション活動に有効活用できる環境が出現したということに他ならない。
インターネットやソーシャルメディア上のクチコミが購入意思決定に与える影響力の強さは、各種の統計からも明らかである。電通ソーシャルメディアラボの「クチコミが購買に与える影響」に関する2011年の調査では、クチコミが購買行動に影響しているという消費者は全体の4割を占めている(図1-5)。また、この調査によるとインターネットユーザーの4割以上が、SNS上で他のユーザーが企業・ブランド・商品について褒めたり共感したりする書き込みを閲覧しており、3割以上が自分自身も共感を覚え、4人に1人がその書き込みを見て商品を購入・利用している。
同様に、日本通信販売協会(JADMA)のインターネットユーザーに対する調査によると、ネットユーザーの2割はインターネット上のクチコミ情報がきっかけで商品を購入している。
この記事は、書籍『ダブルファネルマーケティング』 の内容の一部を、Web担の読者向けに特別にオンラインで公開しているものです。
マーケティング、CRM、データ分析の観点からソーシャル時代に適応するための処方箋
ソーシャルメディアの拡大により、クチコミの影響力が飛躍的に高まり、消費者コミュニケーションの主役は企業から「個客」へと移行しています。ダブルファネルマーケティングは、このような時代の変化に適応すべく、既存顧客の共感・感動体験のクチコミを新規顧客に共有・拡散することで、認知度・受注率・継続率などを底上げするような好循環を生み出し、顧客資産価値や顧客の感動を最大化していくための統合マーケティング戦略です。
その戦略の成功の鍵を握るのは、企業の「データガバナンス」力。顧客の行動/発言データを収集・分析・活用しPDCAサイクルを回すには、その推進役を担うデータサイエンティストの育成や、知的業務の効率化に向けたKPO(Knowledge Process Outsourcing)の活用が不可欠です。また、データや分析に対する考え方についても発想の転換が求められます。従来のような「統計的に正しい知識」を得るための分析(アナリシス)に終始せず、社内外の膨大かつ多様なビッグデータの統合(シンセシス)をもっと重視すべきでしょう。なぜなら、出現率の低いレアケースの行動/発言のタイムラインを観察し「個客」のインサイトを深めることが、クチコミの源泉となる「感動体験の創出に役立つ知恵」を得ることにつながるからです。
本書は、このような新しい時代のマーケティングやCRM戦略、およびデータ分析の理論と技法を、国内外の事例を交えて体系化したものです。
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オリジナル記事:ソーシャルメディア・インパクト/『ダブルファネルマーケティング』特別公開#1-1 [ダブルファネルマーケティング] | Web担当者Forum
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