コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の312
科学的根拠は不用
5月の初めに公開し、多くの読者にご覧いただいたコラム「6秒に1本売れるシャンプーの秘密」。今回はそこで予告した「主観」の使い方についての「ブラックテキスト芸」をお届けします。
コラムの題材とした、6秒に1本売れていると掲げるシャンプーは、「ノンシリコンで髪と地肌に優しい」と商品を紹介しますが、ノンシリコンが髪と地肌に優しいとする学説はありません。詳しくは「ノンシリコン 髪と地肌」と検索してみてください。
それでは嘘か、とならないところが「ブラックテキスト芸」である理由です。まず「優しい」という表現は「主観」であり、科学的根拠を必要としません。しかし、主観だけでは我田引水で、ひとりよがりなコンテンツになってしまいます。そこで利用するのが「パブリックイメージ」であり、その肝となるのが今回紹介する主観を誘導するブラックテキスト芸です。
パブリックイメージの誤解
食品添加物の入った豆腐
とパッケージにあったとき、果たして良い印象を持つでしょうか。それならばこれではどうでしょうか。
天然にがりを使った豆腐
印象は違いますが、豆腐に欠かせない「にがり」という食品添加物が含まれる点では、どちらも同じ意味です。つまり、食品添加物の入っていない豆腐は存在しない、ともいえます。
「食品添加物」という文字の並びに嫌悪感を覚える人が少なくないのは、かつての合成甘味料による健康被害や、食品添加物の危険性を追求した書籍『買ってはいけない』などから植え付けられた印象で、これが大衆の抱く「パブリックイメージ」です。しかし、パブリックイメージは必ずしも現状を正確に表すものではありません。外国人による日本人のパブリックイメージが「ゲイシャ、サムライ、ニンジャ」であることが雄弁に語ります。ちなみに昭和時代の終わり頃は「メガネ、出っ歯、カメラ」でした。
先の広告が活用しているパブリックイメージは「シリコン」です。一方、シャンプーの大手「花王」のサイトには「シリコーン」とあります。
ネガティブを変換する技法
シリコーンは、酸素とケイ素と有機基からなる有機化合物です。(中略)なお、シリコーンは、太陽電池や半導体に使われる「シリコン(金属ケイ素)」とは異なります。
(花王株式会社 ヘアケアサイト 髪と地肌の上手なお手入れ方法 ヘアケア製品の選び方より)
シリコンとシリコーンは似て非なるもののようですが、「ノンシリコン」といわれては、我々IT業界に馴染みのある半導体の「シリコン」を多くの人が想像することでしょう。そして漠然と半導体が、髪の毛や頭皮に良くないであろうと理解します。「シリコン」のもつパブリックイメージを、巧みに利用しているのです。
シリコンとシリコーンの区別を明示しないことで、半導体の印象を放置することに成功し、その上で「ノン」と否定し、「優しい」と主観で結論づけているのです。意図的な印象操作を狙った見事なブラックテキスト芸です。
カップヌードルかウルトラマンか
前回の記事では、読者に「売れている」と印象づけるために「3分間で120本が売れている」とし、3分間のパブリックイメージとしてカップヌードルを引用しました。じっと待つ印象と、読者の大半が知っているだろうという理由からのチョイスですが、3分間のパブリックイメージはカップヌードルだけではありません。
- ウルトラマン(地球での戦闘時間)
- ボクシング(プロの1ラウンド)
- キューピー3分クッキング
などがあり、かつて歌謡曲は「3分間のドラマ」と呼ばれていました。印象を操作するには、誘導したい客層が理解しやすく、想像しやすいパブリックイメージを選択するということです。子供向けなら「ウルトラマン」、ダイエットやエクササイズ関係なら「ボクシング」、実際には3分以上必要なら「キューピー3分クッキング」といったように。
母親の愛情までもが対象
パブリックイメージを利用した主観の誘導は幅広く使われています。
子育てママが絶賛した離乳食(例えです。実在する商品団体とは無関係です)
なんだか良い商品のような気分になります。しかし、子育てママの絶賛ポイントはなんでしょうか。「赤ちゃんが残さず食べたから」「すすんで食べたから」「むずがらずに食べきったから」ならば、その絶賛ポイントはママの都合に過ぎません。なぜなら栄養や教育、しつけというキーワードがないからです。つまり、赤ちゃんの発育や、教育上の優位点といった視点が欠落したままの「絶賛」なのです。
子育てママのすべてが栄養学の権威でもなければ、しつけの大家でもなく、厳密に言えばユーザーでもありません。離乳食のユーザーは赤ちゃんで、赤ちゃんにグルメリポートは荷が重すぎます。「子育てママ=子供を大切に思っている」というパブリックイメージから、良いものという印象へつなげているのです。
ターゲットによって切り替える
同様のことはペットフードにも言えます。犬や猫がしゃべれないからと、食いつきで賛美します。ちなみに一般論ですが、犬と猫は味の濃いものが好きで、人間と同じく「身体に悪い」とされる食べ物が大好きです。さらにいえば、「初めて手から食べてくれた」というCMもありますが、餌の種類よりも信頼関係に左右されるペットの行動です。
応用範囲の広いパブリックイメージの利用ですが、すこし練習が必要です。「3分間」で触れたように、適材適所をチョイスするには多少の経験が不可欠です。そこで、最も簡単に実践できる方法を最後に紹介します。それは「タレント」です。
タレントの●●さん絶賛の××だから旨い!
現在の科学では芸と味覚の関連性は証明されていません。むしろファミレスやファストフードのメニューを食べ尽くす番組企画で、「ウマッ!」「フワッフワ」を繰り返す彼らの味覚は推して知るべし。タレントとグルメは同義ではないのですが、タレントの推奨を「お墨付き」と誤認する消費者は少なくありません。そこでタレントのパブリックイメージを利用し、主観で結びます。
もちろん、グルメ以外でも使えます。いわば「よくあるやつ」ですが、一定の効果が認められるからこそ「よくある」のです。
今回のポイント
パブリックイメージとは便乗商法
あるいは、虎の威を借る狐になる
- コーナー:企業ホームページ運営の心得
- 内容カテゴリ:Web担当者/仕事
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オリジナル記事:ママが絶賛した離乳食は本当に良い商品か、パブリックイメージで主観を誘導するブラックテキスト芸 [企業ホームページ運営の心得] | Web担当者Forum
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