認知から獲得へと一足飛びに考えるのではなく、いくつかのステップをサイト側で用意し、コミュニケーションを最適化していく必要がある。
CVをゴールにしたサイトもブランディングを目的にした場合も、そこに至るまでの段階を上手にプランニングしよう。
ユーザーの行動を階段で表す
前節のように3STEPパーチェスファネルを構築し、並列から直列に施策の見直しをするにはサイト側にも変更が必要である。
3STEPパーチェスファネルではユーザーへの施策を【認知】【欲求】【獲得】としているが、ユーザーへの施策を実施するにはユーザーのアクションを把握し、「知る」「欲しい」という状態のユーザーを見つけ出す必要がある。
サイトのあらゆる行動を見ずに獲得だけを見ている状態というのは以下のようにサイトのすべてをブラックボックスにして1つの大きな階段が存在するようなものである。これではトラッキングもできないし、当然コミュニケーションを最適化することも難しい。
このような状態だからこそ、今までのディスプレイ広告は【認知目的】か【獲得目的】の内容が多かったと思う。【認知目的】であれば最初の広告としては正しいが、一度興味をもってサイトに訪れたユーザーが離脱してしまった場合、再度認知の広告を目にしてもユーザーはすでにそれを知っている。もしそのユーザーがなぜ買わなかったかがわかれば、それに関連する情報を広告で伝えたいのではないだろうか。もしくはまだサイトや商品に興味を持っていないことがわかれば、引き続き認知を行いたいのではないか。
一方、サイトの中の情報がないために認知目的の純広やノンターゲティング広告でも最初から【獲得目的】の内容で広告を配信してしまうケースもある。この場合、「買ってほしい」というメッセージが強すぎるのではないか。買う気持ちのないユーザーに「価格が安い」と伝えても効果はないし、そのユーザーはまだその商品カテゴリーを知らなければ「高い」のか「安い」のか判断できるはずがない。その内容で反応する人はすでに「買いたい人」である。すでに「買いたい人」だけに効果が出るメッセージを配信しても件数は多くならないだろう。サイトに訪問して初回でCVする人というのは極めてまれだと思うが、もし初回ではCVしないというのが前提になるのであれば、ユーザーのサイト体験を知り、広告内容に反映させることができれば、より効果的ではないか。
獲得までのストーリー:単品通販の例
そのためには、以下のように獲得までのストーリーを探すことでサイトの中に階段を作り、それをトラッキングし、DSPで内部オーディエンスデータにリターゲティングすることで、離脱したユーザーにコミュニケーションを継続することが可能になる。
たとえば、図4-5-2は単品通販のようなサイトに多い構成である。【認知】から【申し込み】の間に1つ【トライアル】の要素を入れるだけで、申し込みまでにワンクッションあり、ユーザーが感じる申し込みの障壁がぐっと低くなるだろう。あとは【認知】から【トライアル】の間や、【トライアル】から【申し込み】の間に欠かせないポイントがあればそれを入れてもよいだろう。
獲得までのストーリー:多品系通販の例
たとえば多くの商品を扱う通販であれば、【トライアル】はふさわしくない。おそらく【商品決定】が中間のハードルになるであろう。筆者も多品系通販の設計・DSP運用をしていて気づいたのだが、ユーザーは「その通販サイトを知り」「ウィンドウショッピングのようなお買い物体験での商品決定」まで来ても、同時に楽天やアマゾンで買うことも考えている。欲しい物を選ぶことでそのサイトで買うことを決めたわけではないのである。その特定の通販サイトで買う理由を伝えなくてはならない。メーカーのオフィシャルEコマースなどは小売店などとの関係で価格を下げられないと思うが、それ以外の、オフィシャルショップならではの訴求が求められる。たとえば「送料無料」という情報も【認知】の状態のユーザーにはあまり効果を発揮しない。ブランディングのフェーズで価格面の訴求はあまり意味がないのである。しかし【商品決定後】のユーザーへのリターゲティングには「送料無料」の情報は効果的である。その場でクリックをしなくてもその後サイトへ訪問し、購買まで至る可能性が高いのである。このようにユーザーの状態に合わせた情報配信というのは非常に効果的である。
ブランディングのための階段
一方、Eコマース機能を持たないブランディングのみのサイトというケースもある。目的があり、それを達成するために目標を定める必要があるが、ブランドサイトではゴール設定が難しい。この場合はまず、デジタル上にゴールを作るところから始めなくてはいけない。たとえば「多くの人に見てもらいたい」という漠然としたリーチだけをゴールにしてしまうとTVCMのほうが効率的である。この指標でデジタルで運用してしまうとおそらく、「ただリーチの大きい純広やネットワーク」に「反応の良いバナー」を流してしまうのではないか。しかもあまり効果が出ない場合、反応を上げるためにインセンティブを付けてしまう。このような施策はゴールは達成するものの、サイトのトラフィックを増やすだけで、まったく効果は期待できない。ブランドではなくインセンティブに反応しているからである。デジタルマーケティングでは広さよりもまずは適切なゴールを設定し、対象の人達に深く情報を提供することが重要となる。たとえばゴールはユーザーにどれくらい情報を提供できたかを指標にしてもよい。特にブランディングではEコマースのように直接的なアクションではないため「ブランドを忘れられない」ための施策が必要となってくる。そのためには一度サイトに来た来訪者に一定の頻度で定期的に情報提供を行うことで、ユーザーに忘れられない施策が可能となる。当然サイト側も工夫が必要で、来るたびに新しい情報があるようなサイトを心がけるべきである。
これは現在、ブランドがFacebookやツイッターで行っているプロモーションの考え方に通じるものがある。しかしFacebookやツイッターのアカウントだけでは対象者がアカウントを持っている必要があるのと、何よりウォールでの書き込みだけでは広告と同じだけの露出量は得られない。ある程度ブランドに興味を持っている人への積極的な情報提供という点ではまだDSPなどディスプレイ広告のほうが露出を得られるであろう。
または検索キーワードに着目してもよい。ブランド訪問時にはビッグワードなどアバウトなキーワードで到達したユーザーや、他の商品からその商品へ流入してきた場合は、まだ商品認知が足りていないと想定できる。この場合も、ある一定以上そのユーザーへ広告を届けることで、よりブランドの印象を強固にすることが可能となる。実際に他社も含まれるようなビッグワードで訪問したユーザーに広告配信を続けていくと、以降の訪問で特定ワード(その商品)で訪問するようになる。これはユーザーの中でその商品が特定されたことを確認できたのである。商品名が曖昧な場合、リアル店舗で商品にたどり着く可能性は低い。このような施策でよりユーザーが商品へたどり着く可能性を増やす必要があるのではないか。
途中の階段を設けて高さを縮めていく
このように、単品通販であれ、多品通販であれ、さらにはブランドサイトであれ、ゴールを決めることは非常に重要である。さらにゴールまでのハードルが高い場合は、途中の状態を把握するために何かトライアルや商品決定、検索キーワードなどゴールに合わせて途中の階段を設けることが必要になる。途中の階段を設けることで、ユーザーが今どこにいるのかがわかり、そのユーザーは今なんの情報を欲しているのか、またはなぜ離脱してしまったのかを知ることができるようになる。
そして階段を設け、どの場所にユーザーがどれくらい溜まっているのかを知ることで、その次の階段に進めることがどれくらいハードルが高いのかも判断できるようになる。
サイトや広告配信でわかりやすく、その人が欲している情報を提供し、各階段の高さを縮めることで結果的にゴールへ進みやすくしていくのである。
DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門
ビッグデータ時代に実現する「枠」から「人」への広告革命
マス広告だけで物やサービスが売れた時代は終わり、いまや企業はネット広告やソーシャルメディアなど多様なチャネルで顧客とのコミュニケーションを続けることが求められている。本書は「枠」(掲載面)ではなく、「人」を特定して配信するターゲティング広告の最新テクノロジーDSP/RTBの基本的な仕組みと、それを活用したオーディエンスターゲティングの実践方法を解説した初めての本。受け手の反応を見ながら1配信ずつ最適化するDSP/RTBを中核に、顧客の反応を最大限に活かすビッグデータ時代のマーケティングを学ぶことができる。
- コーナー:DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門
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オリジナル記事:CVまでのフェーズをブレイクダウンする | DSP/RTB入門書特別公開 #5 [DSP/RTBオーディエンスターゲティング入門] | Web担当者Forum
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