Quantcast
Channel: Web担当者Forum
Viewing all articles
Browse latest Browse all 19485

楽天カードと春のパン祭り。短い文章にするためのブラックテキスト芸 [企業ホームページ運営の心得] | Web担当者Forum

$
0
0
この記事を読むのにかかる時間: 約 3.5
Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の295

結論はでている

Twitterが登場したとき、短文原理主義者が沸き立ちました。短文で意思の疎通ができる、短文こそ正義だといわんばかりに。新しいネットサービスに見かけるいつもの熱病で、ネット通販業者の商品紹介ページがすべてTwitterに置き換わっていないことからも、短文にすべてが置き換わらないのは明らかです。

文章は短い方が良い。これは結論です。カエサルの「来た、見た、勝った」は究極としても、ウェブが誕生する前から長すぎる文章に「冗長」という表現があるようにです。

今回のテーマは、以前に紹介した売れないモノでも売る「ブラックテキスト芸」から、短い文章術について。ただし、説明不足が誤解を生むこともあれば、冗長が情緒を生み出すこともあるでしょう。ましてや、原理主義者のように短文以外を認めないというのは論外です。

文章の好みと多数派

修辞を尽くすことで理解が深まることを否定しません。しかし、多くの現代人は忙しく、ネットで情報を得ようとする人たちの多くは、できるだけ短時間で目的を達成したいと願っています。

2008年の新書大賞に輝いた『生物と無生物のあいだ』は、無機物と有機物の違いを並べ、生命とは何かという根源的なテーマに挑んでいます。生物学者の福岡伸一さんによる書で、絶賛する声は多方面からあがり、IT業界からは梅田望夫さんも激賞していました。特に科学書でありながら、文学的表現が高いと評されたものです。しかし、私には冗長すぎました。修辞の過ぎる文章のくどさに途中で挫折した本は、初めてで、それ以降、2013年の現在までありません。

もちろん好みですから、ここで引用はしません。しかし、修辞が過ぎれば本文への興味を損なうのは「ホームページ(コンテンツ)文学」に通じます。だから「短く」する努力は必要で、短時間で視聴者に理解させる宿命を背負った「テレビCM」に通じます。彼らの代表的な手法が「すり替え」。テレビCMとは「すり替え」の参考書です。

一見で伝わるか

医薬品メーカーのファイザーが昨年暮れから放送しているテレビCM「2万円で禁煙」編では、小西真奈美さん扮する医師が、タバコを1日2箱、1か月吸う程度の金額で禁煙治療が受けられると説明します。タイトルにあるように、月額2万円で禁煙ができることを、1日2箱の煙草代と重ねているのですが、ここには2つのすり替えがあります。

まず、2万円を30日で割ると666円です。1日2箱ですから煙草の単価は333円です。JTの一般的な20本入り一箱の煙草価格は400円以上です。低価格の旧3級品もありますが、これらは250円前後で、CMで指摘する数字にはなりません。一般的な400円の煙草と旧三級品の250円を、それぞれ吸うなら666円に近づきますが、嗜好性の高い煙草で2つの銘柄を交互に吸う人など超レアケースです。

厳密性は不要

ものの例えだから正確である必要はない……という開き直りが、ブラックテキスト芸としての「すり替え」です。つまり学術的正確性はおろか、根拠とする数字が曖昧でも「雰囲気」が伝わればOKというものです。キャッチーなフレーズ、意識しやすい数字を示すことで、細かな説明を意図的に大胆に省いて「短文化」するのです。もっと平易な言葉で表現すれば、

2万円の商品を売りたいために後付けで理由を並べる

ということ。この手法は本サイトで大人気の衣袋教授が警鐘を鳴らす「根拠のないデータ」に属するものですのですから、本稿のことは教授にご内密に願います。

ただし「すり替え」は「ひとつ」に留めるのがベスト。増やした分だけ、読者が違和感を覚える確率が高まるからです。先に指摘したように、このCMには2つ目のすり替えがあります。「1日2箱」と自然に語りますが、JTが2011年に発表した数字では、毎日喫煙する男性の平均が19.8本(約1箱)、先の売価400円で計算すると1万1,800円。つまり2万円に揃えるために、前提条件となる1日当たりの喫煙本数(箱数)も、結論に都合の良い数値に「すり替え」ているのです。

いまどき1日2箱はかなりのヘビースモーカー。そこに違和感を覚え電卓を叩き気がつきます。ちなみに筆者は時代に逆らうスモーカーです。

なお本稿入稿翌日からCMが変わりました。「1箱400円の煙草を1日2箱吸って25日間と同じ」と微調整。たぶん、その不自然さに批判があったのでしょう。これで「すり替え」はひとつ。まあ広告屋としては妥当なところでしょうか。

それは春の風物詩

余計なお世話ですが、同じ2万円なら、新しいスーツ、革靴、スマホなど、別のものと「すり替え」たほうが自然でしょう。喫煙者にとってスーツと煙草は比較対象ではなく、金額のみを分母とした話のすり替えに過ぎないのですが、財布を握る妻の立場に視点を変えれば「どっちも(無駄な)出費」とゴリ押しできるからです。

CMネタの場合、全国一律に放送されているのかが不安ですが、最近は各企業がコーポレートサイトなどで公開しているので気にせず進めます。

電子ショッピングモールの雄「楽天市場」の関連会社による「楽天カード」のCMの「すり替え」も飛ばしています。同じく昨年末から流れ始めたのですが、クレジットカードで溜まったポイントを、

お皿に換えていますよね?

と断定。どこのなんの統計をもとにしているのでしょうか。「ヤマザキ春のパンまつり」か何かと勘違いしているのでしょうか。

ブラック芸の目指す荒野

「goo」の2005年2月の調べと、古すぎるデータですが、たまったポイント利用の1位は商品券で、「使っていない」「キャッシュバック」と下り、楽天が指摘する「お皿」とは4位にランクインした「生活雑貨」でしょうか。調査から8年が過ぎ、急激に「お皿」に交換する人が……増えたわけはありません。楽天カードなら「お皿」のようなつまらないものでなく、楽天市場のなかで色んなお買い物ができますよという「すり替え」です。

正当な文章表現でないことから「ブラック」と名付けているわけで、「すり替え」を一般社会では「屁理屈」と呼ぶことでしょう。しかし、コンテンツが目指すのは科学的証明ではなくお客の納得です。だから多少の語弊と罪悪感を飲み込みながら「すり替え」ます。その参考になるのがテレビCMです。その強引な論理展開に、溜息と突っ込みをいれながらも参考にしています。

今回のポイント

短文化のための「すり替え」

だが、やりすぎれば信頼を損なう

宮脇睦

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。

制作、営業の双方の現場を知ることからウェブとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供し、一業種一社、制作案件は足立区内のみという営業施策をとっている。本業の傍らメールマガジン「マスコミでは言えないこと」を発行。好評を博す。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)、冷静な視点からのIT業界分析に「週刊ポスト」など、様々な媒体から情報発信を続ける。

この記事に関連する他の記事を見る

※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:楽天カードと春のパン祭り。短い文章にするためのブラックテキスト芸 [企業ホームページ運営の心得] | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.


Viewing all articles
Browse latest Browse all 19485

Trending Articles