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ユーザーに使いやすいサイトにする第一歩は「プロトタイプ+自前ユーザーテスト」で/HCD-Net通信 #26 [HCD-Net通信] | Web担当者Forum

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HCD-Net通信

人間中心設計推進機構(HCD-Net)は「人間中心設計」を効果的に商品・サービスやシステムの企画・開発に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO団体です。「HCD-Net通信」では、機構長の黒須正明氏と副理事長の山崎和彦氏をはじめとする筆者が、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。

Web制作の現場で「人間中心設計(HCD)」への取り組みを始めるには、どうすればいいのでしょうか?

「まずはプロトタイプを作って、簡易的なユーザーテストを自社内で実施するというのはいかがでしょう? テストをできない人がユーザー調査をしても、何の役にも立ちませんからね。」

ユーザーにとって使いやすい、良いエクスペリエンスを企業Webサイトで提供することの重要性、そして、そうすることでサイトの成果が伸びることは、多くの人が認識していることでしょう。では、どうすればその考えを「アクション」に結びつけられるのでしょうか。その答の1つが「人間中心設計(HCD)」。人間中心設計とは、ユーザーに注目し、ユーザーの体験を軸に製品やサービス、Webサイトを設計・改善するプロセスです。

HCD-Netでは、人間中心設計を行っている人を認定する「人間中心設計専門家」資格認定の制度があり、第4期となる今年の専門家の受験応募の受付を12月20日(木)より開始します。

そこで今回は、この人間中心設計専門家の認定資格をもち、第一線で活躍する樽本 徹也さんに、Web制作の現場で人間中心設計に取り組むためのポイントを「はじめの一歩」と「社内の理解」をテーマに伺いました。

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樽本 徹也 さん
HCD-Net認定 人間中心設計専門家
公式サイト「人机交互論 ~ユーザビリティエンジニア的HCI論」

「プロトタイプを作成してテストする」ことから始める

――ユーザーを理解することが大切だとはわかっていても、「HCDは、何だか難しそう」「何から始めればいいかわからない」という声も聞きます。Web制作の現場へ導入していくには、どのように取り組むのがいいでしょうか。

HCDに初めて取り組むときは「プロトタイプを作成してテストする」ことから始めると良いです。HCDとは、ユーザーを調査し、分析をし、プロトタイプを作成してテストを行う。これを繰り返すというプロセスです。その後半部分から始めると、取り組みやすい。7~8年前から僕はそう言っていますが、今でもその感覚は変わりません。

HCDにはさまざまな手法が存在しますが、すべての手法を勉強しないとWebサイトが設計できないかというと、そんなことはありません。Webサイトをつくるのに十分な技術だけ身につければいいのです。基本的な手法をまず1つ、ちゃんと使えるようになるまで練習することです。

手法はいろいろと存在しますが「ユーザーから発想する」という基本的な考え方はすべて共通しています。

たとえば、アラン・クーパーは「ゴールダイレクテッドデザイン」を提唱しましたが、基本的な手順はHCDです。ペルソナを使うという点が、当時としては新しかったということです。ジョン・キャロルの「シナリオベースドデザイン」という手法も、シナリオを軸に使うという点は確かにユニークですが、基本的な手順はHCDです。

Web業界で言うと、IAもHCDと同じです。IAとHCDでアウトプットや中間成果物が少し違うことはありますが、その程度の違いです。名前や由来は異なりますが、本質はどれも一緒です。

そして、どの手法でも必ず行うのは「プロトタイプを作成してテストする」ことです。なので、まずそこから取り組みを始めるといい、というのが僕のオススメです。

テストをできない人がユーザー調査をしても、何の役にも立ちません。どんなにすばらしいアイデアも、ユーザーが実際に使える形にできなければ、そのアイデアは実現しません。プロトタイプを作成して、実際のユーザーにプロトタイプで操作をしてもらう。これが一番大切なことです。ヤコブ・ニールセンもずっと昔から言っていますし、人間中心設計専門家ならほぼ例外なく言うことです。

まずはプロトタイプを作成してテストしましょう。地道な作業ですが、すべての基礎となる大切なところです。Web担でも紙で作るペーパープロトタイプの作り方を解説した記事がありますので、参考にしてみてください。

簡易的なユーザーテストを、自社内で実施できるようにする

――「プロトタイプを作成してテストする」にも、ユーザーテストを社外の会社に依頼すると費用も時間もかかってしまうので、気軽にはできないのではないでしょうか。

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コストが気になるなら、簡易的なユーザーテストを、自社内で実施できるようにしておくと良いです。自社内で行う、簡易的なユーザーテストのことを僕は「DIYユーザーテスト」と言っています。「DIY」はいわゆる「Do It Yourself」の頭文字ですね。

ユーザーテストを専門の調査会社に依頼すると、どうしても相応の予算を確保する必要があります。自社で提供しているものをユーザーがちゃんと使えるのかどうか、事前に検証してからサービスを提供するというのは当たり前のことです。しかし、検証を社外の調査会社に依存してしまうと、予算が確保できるプロジェクトでしかユーザーテストをできなくなってしまいます。

そうなると、数年に1回の大きなリニューアルのときにしかユーザーテストをしないという状態になってしまいます。数年に1回しかユーザーテストをしないという状態は、はっきり言って、まったくやっていないのと一緒です。つまり、使えるかどうかわからないものを提供しているということです。

自社内でユーザーテストを実施できるようになれば、もっと多い頻度でテストできるようになります。また、費用対効果も抜群に良くなります。ヤコブ・ニールセンも「最も費用対効果が高いHCDの手法はユーザーテストだ」と昔から言っています。そのとおりだと僕も思います。

――確かに、ユーザーテストは結果がわかりやすいです。

ユーザーテストは実施すると「百聞は一見にしかず」という結果が出ます。とくに、ユーザーが何かを購入するとか、何かを申し込むといった、コンバージョンに至るまでのルートは、ユーザーテストを用いて検証しておくと良いです。

商品が違えばユーザーは違うルートを通ります。たとえば、書籍を購入するプロセスと、服を購入するプロセスは違います。Amazonで書籍を買うのは楽しい体験ですが、Amazonで書籍以外のものを買おうとしたとき、何か妙な印象を受けるときはありませんか。たとえば僕は、Amazonで服を買うのは今ひとつピンと来ません。服を買うのであれば、ユニクロのWebサイトのほうが楽しい。それはユーザーが求めているものが、やはり商品によって異なるということです。このような直接コンバージョンに結びつくルートは、ユーザーテストで検証しておくといいです。

作り手が想定したようにユーザーに使ってもらえるようにする一番良い方法は「プロトタイプを作成してテストする」ことです。プロトタイプを手早く作成して、手早くユーザーテストをする。そういうWeb制作の進め方ができるようになると、UXの品質はずいぶんと上がります。

――自社内でユーザーテストを実施できるようにするには、どんな体制を整えればいいのでしょうか。

ユーザーテストに関して説明すると止まらなくなってしまうのですが(笑い)、手始めとなる解説を以前にWeb担で記事として執筆していますので、まずはそちらをご覧いただくのがいいでしょう。

また、自社内で簡易的なユーザーテストを行う方法に関して、僕の執筆した『アジャイル・ユーザビリティ』という書籍ではもっと詳しく書いてありますので、ぜひ読んでみてください。

どうすれば社内にHCDを広めることができるか

――「ユーザーテストに取り組みたいと思っても、社内をどう説得すればいいかわからない」という声も聞きます。どうすれば社内にうまく広めることができるのでしょうか。

HCDの大きな問題はそこです。HCDは「どうすれば社内にHCDを広めることができるか」という議論に言及していません。

僕はアジャイル開発の業界にも関わっているのでアジャイル開発の例を紹介すると、「どうすれば社内に広げられるか」という言及がないのは、実はアジャイル開発も一緒なんです。

そのため、アジャイル開発の分野でも現在、組織への広め方が注目されています。たとえば、アジャイル開発の業界で注目されている書籍に、ユルゲン・アペロの『マネジメント3.0』があります。「どうすればアジャイル開発を組織に広めることができるか」に言及した書籍です。リンダ・ライジングは『フィアレス・チェンジ』という書籍の中で「組織を変える」ための典型的なパターンについて語っています。どちらも洋書ですが、これらの情報は、HCDを社内に広めるためにも役立つと思います。

――アジャイル開発では、たとえばどのように社内に説明するのですか。

アジャイル開発は「ウォーターフォール開発 vs アジャイル開発」という図式ができるので、HCDに比べて組織の中で説明がしやすいという点はあるかもしれません。比較することで、利点の説明がしやすくなりますから。そうした図式で対立を煽るのは間違いではないかという議論も当然ありますが、その是非はともかく、わかりやすい対比をすることでアジャイル開発が多くの支持を得たのも事実です。

HCDは何に対して優位なのか、対比の図式にできると、もっと説明しやすくなるのかもしれないと思います。HCDも「ユーザーのことを理解しないでWebサイトを制作したら失敗しますよ。プロトタイプを作成せず、テストもしなかったら、ユーザーがまともに使えないものになりますよ」という説明はできます。ただ、ユーザーのことを理解しないで進める手法は何と呼べばいいのか、名前がないので、対比しづらいというのはあります。

もうひとつ言うと、Web制作の現場では、HCDが何かという厳密な定義をしていなくても構わないから、コンバージョンが上がるほうが評価されます。現場に話をするときには、HCDとは何かという定義の話から入ると引かれてしまいます。こういう風にするとコンバージョンが上がるはずだという話をすると、みんな喜んで受け容れるかもしれないですね。

――本日はありがとうございました。

取材・文・撮影:人間中心設計推進機構(HCD-Net) 専門資格認定委員会 羽山 祥樹

■人間中心設計専門家 資格認定 受験者募集 12月20日(木)より開始

人間中心設計推進機構(HCD-Net)が実施する「人間中心設計専門家」の資格認定制度は、人間中心設計の専門スキルを評価し認定する、日本で唯一の人間中心設計の資格認定制度です。

2009年における本制度の創設以来、企業や教育機関からの好評を受け、3年間での資格取得者は222名となります。

認定者の多くは、企業・団体の人間中心設計、ユーザビリティ評価、デザイン、システム開発、Web 制作、ユーザーリサーチ、テクニカルライティングなどの従事者や研究者として、第一線で活躍しています。

第4期となる今回の受験応募は、12月20日(木)より開始します。

人間中心設計(HCD)やユーザー調査、IAなど、ユーザーエクスペリエンスに関わる業務に携わっている方は、ぜひ受験ください。

人間中心設計推進機構(HCD-Net)http://www.hcdnet.org/

このコーナーは、機構長の黒須正明氏と副理事長の山崎和彦氏をはじめとする筆者が交代で執筆しています。

黒須正明
特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)理事長
学校法人 放送大学 ICT活用・遠隔教育センター 教授
国立大学法人 総合研究大学院大学(総研大)学長特別補佐、文化科学研究科メディア社会文化専攻 教授

山崎和彦
特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)副理事長
千葉工業大学 工学部デザイン科学科 教授 芸術工学博士
元日本IBM(株)ユーザーエクスペリエンスデザインセンター長

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