前回までのあらすじ
Web制作会社に勤めて3年目の山ノ内くんは、クライアントである広告代理店・永伝舎の八瀬さんと、雑誌記事を書くことになった。
その記事に、他社が作ったWebサイトの画面キャプチャを大きく掲載するつもりだった山ノ内くんは、社内弁護士である有栖川さんに相談。Webサイトで使っている写真をはじめ、Webサイト自体も著作物であること、画像を大きくメインで扱うには著作者の許可が必要であることを知ったのだった。
→前回のマンガは「Webサイトの著作権は誰のもの?」(第2話)
著作物を「引用」する際のルールとは?
他の人が著作権を持っているWebサイト画面のキャプチャを、無断で、雑誌の記事に載せていいんですか?
「適法」に「引用」するための決まりを守れば、著作権者から許可を取らずに使っていいのよ。ただ、言いにくいんだけど、きちんと条件を満たすのは意外と大変なの。
えっ!そうなんですか!?
裁判例が示す引用の要件(1、2、3)や、その他の注意事項(4、5)をまとめると、
- 公表された著作物であること
- 引用する側の著作物と、引用される側の著作物とが明確に区別されて認識できること
- 前者が主、後者が従の関係があること
- 出所の明示をすること
- 著作者の意思に反する改変をしないこと
この5つよ。
確かに、条件厳しそうΣ( ̄ロ ̄lll)
「公表された著作物」って?
Webサイトは、ネット上で全世界に向けて発信されているから、その画面は「公表された著作物」ですよね?
うん、今回のWebサイト画面は「公表された著作物」にあたるでしょうね。ちなみに、「公表」っていうのは、著作物が、その権利者とか権利者から許諾を受けた者によって、発行され、又は上演、演奏、上映、公衆送信、口述若しくは展示の方法で公衆に提示されることをいうの。つまり、権利者等の了承なく世間に出回ってしまった著作物(たとえば権利者に無断で出版されたもの)は、著作権法的には「公表された著作物」とはいえないのよ! 気を付けてね。
なんとー!! 勉強になります。
「明確区別性」って?
それから、「引用部分」と、「その他の部分」とを明確に区別できればいいのよ。
今回は、事例紹介の記事の中で、Webサイトの画面をキャプチャして貼り付けています。これはどうでしょう?
さっき、原稿を見た感じでは、画面キャプチャは画面キャプチャとして、その他の解説部分と、明確に区別できてるわね。この要件は問題ないわ。
「主従関係」って?
利用する側とされる側、それぞれの「量」と「質」を比べて、「主」と「従」の関係があることが必要よ。
たとえば、今回のケースだと、どのように考えればいいのですか?
そのWebサイトの画面を「見せること」が主目的だと見えるなら、ダメ。デカデカとWebサイトの画面を載せて、説明ほとんどなし、とかね。
そうではなくて、「このサイトを作りました」「こういうところを工夫したんです、画期的でしょ」など、サイトを作ったこと自体の紹介や、アイデアの説明、その他分析が主目的で、そのために、対象を明示したり、参考資料としたりする目的の範囲内で最小限度引用する程度ならOKと思う。
なるほど。「Webサイトの画面を見せることが主目的だ」って見られるようでは、だめなんですね。それと、「主目的のための必要最小限度の利用か?」という視点も必要なんですね。
そうよ。さらに言うと、事例紹介なんだから、Webサイトを肯定的に紹介・アピールしてるわけじゃない? 「このWebサイトを見せること」自体が目的だろうと言われやすいわけよ。意外に思うかもしれないけど、「悪い例」として挙げて、批判的に取り扱う方が、引用の趣旨に適いやすいという意見もあるの。
確かにそれは意外ですね!!
だから、サイト画像自体をデカデカと使いたいなら、著作権を持っているクライアントから許可を取ってね。
わかりました。で、今回の八瀬さんの原稿はどうですか?
サイト画像ばっかりでほとんど説明ないじゃない!アウトね(キッパリ)。
ですよね……。
- 「出所の明示」って?
- 「著作者の意に反する改変をしてはダメ」とは?
「出所の明示」って?
出所の明示ってなんですか?
著作物の題号や、著作者名などを、引用した元の著作物を特定できる程度に記載することが必要よ。ま、おおざっぱに言うと、原則、著作者名と引用元の明示は必須ね。これを怠ることが著作権侵害になるわけじゃないけど、罰則があるわ。
あの、著作者って、著作物を創作した人のことですね。
そうよ。
著作者名って、必ず書かなければならないですか? というのも、今回のWebサイトは、実際は、広告代理店である(株)永伝舎ではなく、別の制作会社が制作したものなんです。元のWebサイトにも誰が制作したかクレジットされてないので、誰かわからないんですよ。
うん、今回は、著作者を表示しなくてもいいと思う。詳しく説明すると、著作権法上は、「無名の著作物」でない限り、著作者が誰かわかるように表示しなければならないと規定されているの。裏返せば、「無名の著作物」の場合には表示しなくていいのよ。
無名の著作物には表示しなくてもいい?
そう。で、「無名の著作物」って何か?なんだけど、実は著作権法上明確に定義されていないのね。でも、「原作品に、または公開される際に著作者名等が通常の方法により表示されていないもの」、などとする考え方があるわ。
えーと、つまり、今回は、Webサイトがアップされた時点で、サイトの制作者の名前がクレジットされてないので、引用する際に著作者名を表示しなくてもいいですね!
そう解釈できるわね。
じゃあ「出所」として他に書くべきことはありますか?
引用元がわかるようにしないとね。Webサイト画面のキャプチャなら、「○○会社Webサイト」なんて書いて、「URL」を記載すると出所がわかるでしょうね。制作年度などを書く場合もあるわね。
どこに書けばいいんでしょう?
引用部分の直後に記載するのが望ましいわ。
…ちなみに、今回の八瀬さんの原稿はどうでしょうか……?
出所について何も書いてないじゃない! アウトよ、アウト!!
「著作者の意に反する改変をしてはダメ」とは?
これはどういう意味ですか? これは、著作権者じゃなくて、「著作者」の問題ですよね。
著作者の意思に反して著作物を改変すると、著作者の「同一性保持権」 という権利を侵害するのよ。著作者は自分の著作物に思い入れを持っているから、たとえ「著作権」を他人に譲渡して「著作権者」でなくなっても、自分の創作した著作物が勝手に改造されるのは阻止できるという価値観から出た権利よ。
そうなんですね。でも、Webサイトの画面キャプチャを雑誌に載せようとすると、どうしても、一部分だけ切り取って載せることになりますよ? あと、サイズも縮小しないとだめだし。トリミングやサイズ変更は著作者の意に反する改変になりませんか?
いいえ、「著作物の性質並びに利用の目的及び態様に照らしてやむを得ないと認められる改変」であれば、許されるわ。山ノ内くんが言ったような改変でも、紙面や印刷の都合で、そうせざるを得ないなら許されると思う。でも、あくまで「改変」が許されるのは「やむを得ないと認められる」例外だから、軽々にしないようにね。たとえば、誤字の訂正ですらしてはならないと言われているのよ。
誤字の訂正すらだめなんですか!
そうなの。もちろん、社名やWebサイト名がわからないように墨塗りしたり、画面にモザイクをかけたりするのもダメだからねっ!!
なるほど。八瀬さんの原稿、完全にアウトですね!
著作権法に真っ向から衝突して玉砕してるかんじね。
お疲れ様でした!
やれやれ、原稿の大幅修正が必要ですが、なんとか適法に引用できそうですね。いや~、有栖川さんって、いつも困ってる時に現れてくれるんですよねー、タイミングいいなあ!
そっそうね、私が通りかかったのは偶然なんだからね! 何となく気になって目を留めたから良かったわけよ!! 私の第六感に感謝しなさい!!
今回も本当に助かりました! ありがとうございます! とりあえず、八瀬さんに連絡して修正に協力してもらいます!
ふ~ん。……ちなみに、今回の八瀬さんの原稿、他にもまだ検討事項があるからね(次回に続くわよ)。
うそーーーっっ!!
第4話は2012年12月中旬ごろに公開予定
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:サイト画面などの著作物を正しく引用する方法とは?/【漫画】僕と彼女と著作権・第3話 [僕と彼女と著作権] | Web担当者Forum
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