セミナーイベント「Web担当者Forum ミーティング2012 in名古屋」(2012年9月27日開催)の講演をレポートする。他のセッションのレポートはこちらから。
増大するマーケティングデータに対して、広告主はどのように向き合えばよいのか。企業戦略のヒントを示すべく、アイレップの紺野俊介氏が「Search(検索)を中心としたデジタルマーケティング最新動向」と題した講演を行った。
デジタルマーケティングにおける統合管理の重要性と最新デジタルマーケティングのキーとなる技術が解説された、Web担当者Forumミーティング名古屋の講演レポートをお届けする。
膨大かつ複雑化するデジタルマーケティング市場
まず紺野氏は、デジタルマーケティングの潮流としてビッグデータ化が進み、ソーシャルメディアやスマートデバイスなどの普及以前と比較し、より複雑になっていると話す。
そうしたなか、最近は広く告げる「広告」が「狭告」に変わり、面に対してではなく人に対して予算を使う、ターゲティング広告が注目されているという。
チャネルやデバイスも多様化し、デジタルマーケティングはより大きく、複雑化してきている。増大するデータをうまく活用すればその恩恵を受けることができるが、うまく使えなければ他社との競合差別性がなくなってくると紺野氏は説明する。増え続けるデジタルデータを「保持」し、「分析」して「運用」することが必要になってくる。
そこで必要となるのが「アドテクノロジー」を使った広告の「統合管理」だ。なかでも、「リターゲティング」の注目度は高く、企業やサービスに何らかの興味があると想定される、サイトの訪問履歴のあるユーザーに対し、最適な配信を行うことが考えられている。たとえば、GoogleはYouTubeの情報とアドワーズ広告の運用データを統合させたターゲティングの提供を開始しているという。また、YouTubeやGoogle ディスプレイネットワークに動画広告を掲載する「TrueView動画広告」のように、配信プラットフォームのリッチ化も進んでいる。
我々(アイレップ)はリスティング広告と呼ばれる商品を中心に扱っていますが、「リスティング広告」というと多くのお客様が検索連動型広告のことだというイメージを持たれています。最近のリスティング広告は、バナーや動画も配信でき、ユーザーのさまざまな行動に対して配信できる運用プラットフォームという位置づけになってきています。ターゲティングの手法として、このようなデータの統合が始まっています。
紺野氏は技術進化の一例としてGoogleを示したが、異なる広告配信方法を1つのプラットフォームや共通タグで管理することが世界的な流れとなっている。Googleでは、アドワーズ広告内での統合管理が進み、YouTubeアカウントと連携したターゲティングのほか、検索以外のチャネル統合、新たなデバイスにも対応する。さらには「Smart Pixel」と呼ばれるタグ管理でユーザーの情報を統合的に管理し、管理画面上の設定1つで、届けたいユーザーに広告配信を介して伝えられるように管理が行われているのだ。
また、Google以外のアドテクノロジープレイヤーの連携・統合化も進んでいる。
たとえば、従来の代理店モデルでは、一般的に広告主からの依頼を請け、広告代理店やソリューション会社が広告の運用最適化をオンライン上で行う。しかし、最近では第三者配信やDSP(Demand Side Platform、広告主向けプラットフォーム)を活用することで、これまでは有効活用しにくかったパブリッシャー(ブログなど)を最適化し、効果の高い広告に切り替えることが可能だという。ただし、企業にとってはDSP活用すれば必ず成果が出るというわけではないため、アドテクノロジーに今後どのように向き合うかべきか考える必要がある、と紺野氏は説明する。
ユーザーのインターネット活用が多様化し、結果として企業との接触面であるメディア(検索サイト、Webサイト、ブログ、ソーシャルメディアなど)も多様化している。また、広告配信技術が多様化することで、ターゲティングをより適切に行うことが可能になっており、多様なメディアに対して接触機会を設けられることが最近の流れだ。
さらに、データ収集よりもデータをいかに活用・分析するかが重要となってきていると、紺野氏はここまでの話をまとめた。
データ、分析、施策の3つの統合管理が課題
インターネットでは、自然検索なども含むサーチ、アフィリエイト、ソーシャルメディア、ディスプレイ広告、アドネットワーク、プレミアム広告などのさまざまな広告でユーザーとの接触が図られる。しかし、それぞれを別々に運用していると、データが統合できなかったり、予算が最適化できなかったりするケースが多くなる。これらの統合管理は“キーワードとして”登場してきているが、実際にすべてを統合管理できるツールはまだ登場していないと紺野氏は説明する。
統合管理する流れが起きているのは事実だが、個別の最適化ができていない企業も多いため、統合管理の流れを意識しつつ、現在行っている広告運用の最適化という両面からアプローチする必要がある。ただし、統合管理のテクノロジーは確実に数年内に登場してくると紺野氏は話す。
統合管理での課題は、「データ」を一元的に見て、相互関係を「分析」し、統合的な「施策」を展開するという3つの統合を行うことだ。情報収集から情報化までを統合管理してさまざまなデータを把握し、サーチ、ソーシャル、ディスプレイ広告などの異なる広告を総合して相互関係を分析する。さらに、アロケーションなどの予算配分や課題に対する俯瞰した施策を展開することが理想となる。それには、事業領域を理解してデータを統合することが必要となり、広告主が代理店やコンサルティング会社と向き合うことも重要だという。
また、統合するためのハブとそれらすべてを内包するプラットフォームも必要となる。統合管理のハブとなる第三者配信アドサーバー、効果測定ツール、解析ツールを備えたデジタルマーケティングプラットフォームが求められているのだ。
統合管理ができるという“うたい文句”で宣伝している代理店も多いですが、前述のように、残念ながらすべてを管理できるような統合プラットフォームはまだ存在していません。ただし、確実に技術は進歩し、高度化してきているので、新しいツールはキャッチアップしていく必要があるでしょう。
押さえておきたいデジタルマーケティングのキーワード
次に紺野氏は、変化の激しいデジタルマーケティング市場で押さえておくべきキーワードを4つ挙げる。
- Smartphone(スマートフォン)
- Display Ads(ディスプレイ広告)
- Social(ソーシャルメディア)
- Social Listening(ソーシャルリスニング)
1. Smartphone:技術だけでなく利用シーンやユーザビリティを意識
Webサイトのスマートフォン対応は今後企業の命題となるだろうが、PCとフィーチャーフォン、どちらからスマートフォン対応するのかによって取り組みは異なる。また、テレビを見ながらスマートフォンを操作するのか、スマートフォンを操作しながらテレビを見るのかによって、ユーザーの行動や考え方は異なると紺野氏は話し、今後細かくこれらをクラスタリングしたり、分析したりする必要があるとした。
スマートフォン用のWebサイト構築は、ワンソース型、マルチソース型、変換型などの手法があり、必要なコストや工数もさまざまだ。紺野氏は、技術を理解し、必要に応じた手法を選択すべきだと話す。加えて、デバイスごとにユーザビリティは異なるため、スマートフォン用のWebサイトを用意しないという選択肢は、今後は難しくなるだろうと説明する。
一方、スマートフォンはほぼPCと同様の解析が行え、アプリ上の動きを追うこともできる。投下した予算に対し、成果がカウントできるという面ではフィーチャーフォンよりもPCに近く、さまざまな広告の配信が行われている。これらの広告は、フィーチャーフォンやPCとは異なる掲載面や仕様があり、位置情報などのスマートフォン特有の仕組みもある。フィーチャーフォンやPCで使っていた指標をそのまま使える場合と、一から作らなければならないものがあるため、それぞれKPIを立てて取り組むことが重要だ。
2. Display Ads:一元管理による最適化、ノウハウが重要
紺野氏は、これまでの広告は掲載面(媒体社)ごとのクリエイティブ、入稿、レポートを行う「面に対する広告配信だった」と説明する。しかし、最近はDSPが登場し、広告配信サーバ(DSP)を広告主側に置くことで複数のクリエイティブとレポートを一元管理し、さまざまな掲載面に広告を配信できるようになっている。多様な掲載面に配信する手間が取れなかったり、それぞれの掲載面ごとのクリエイティブを最適化できずに成果が上げられなかったものが、DSPによって最適処理が自動的に行われるようになってきているのだ。
現在、日本国内においてDSPの最大の配信先は、Googleです。第三者配信やDSPを使って、Googleのネットワークをどう活用するかをアドプレイヤーは考えています。新しいメディアとしてFacebookも登場していますが、日本でインターネットを使ってユーザー接触を考える場合は、間違いなくYahoo!とGoogleのネットワークをうまく使うことが今後も課題になります。
またDSPは、メディアのリロケーション(配置)やアロケーション(予算配分)はしてくれません。あくまで、DSP内でのメディアの最適化を行うだけなので、上のレイヤーでどのように管理していくかが来年以降の課題となってくると思います。
3. Social:メディアごとの特性理解とゴール設計がポイント
ソーシャルメディアが注目される理由の1つは、ユーザー数が増え、滞在時間の長さと利用頻度が圧倒的であることだ。そうしたなか、GoogleとFacebookを比べようと考える人は多いが、それはあまり意味がないと紺野氏は説明する。Googleのミッションは、世界中のあらゆる情報を整理してユーザーがアクセス可能にすることであり、Googleに長く滞在してもらう必要はない。それに対し、Facebookはタイムラインからさまざまな情報を取得するために利用するものであるため、滞在時間に違いが出るのは当然だ。
また、Yahoo! JAPANではGoogleの検索エンジンを採用しているが、Yahoo!はポータルサイトとして、ユーザーに長く滞在してもらいたいと考えているため、同じ検索サービスでも両者の考え方は異なる。単純にユーザー数やセッション時間を比較することは意味がないと理解したうえで、アーンドメディア、オウンドメディア、ペイドメディアとして3つの側面を持つFacebookにも向き合ってほしいと紺野氏は説明する。
ソーシャルメディアの広告を見てみると、Twitterではプロモトレンドやプロモアカウントなどの広告が用意されている。Facebookでも、Like Engagement Ad(いいね広告)、Poll Engagement Ad(アンケート広告)、Sponsored Story(投稿広告)などが用意され、海外では検索連動型のFacebook広告も始まっている。
今後の広告に対するFacebookの取り組みも進化していくことが考えられる一方で、Facebookの広告指標をどうするかという課題もある。米国ではEngagement Scoreといったサービスがあり、単純にいいね! をカウントすることも考えられるが、いいね! スパムも多く、場合によっては「いいね! 保証」を行う代理店もあり、不正に近いロボットでいいね! を稼いでいることも過去にはあった。そういった事業者がいることを理解したうえで、どのような事業者と付き合うかを考え、きちんとしたゴール設計を行うことも重要だ。
Googleは、Google+を絡めた新たな取り組みを行っている。アドワーズ広告にGoogle+の情報を統合し、広告文とは別に、Google+の企業ページリンクをフォロー数などと合わせて表示する「ソーシャルアノテーション」のベータテストを開始している。今後、Googleの仕組みとして、もしくはユーザーにとって一定の価値が生まれてくる可能性もあるので、企業はFacebookページでの展開と同時に、Google+の企業ページ制作を考えることで、海外での事業展開も含めて将来的な価値を提供していく可能性が出てくると紺野氏は説明する。
4. Social Listening:ソーシャルリスニングの分析結果を施策に反映
ソーシャルメディア上にあるユーザーの生の声に焦点を当て、トレンドの類推や自社商品に対する評判、改善点などを調査して分析を行い、検索キーワードや広告施策に反映させることができるものだ。具体的にはワードマップを作り、同時に語られるワードを分析することでさまざまな話題分析ができるようになる。
実際にアイレップで実施したとある施策では、これらのソーシャルリスニングから得られたワードを、リスティング広告文に反映することによって、既存広告と比較してすべてのCTRが向上し、最大61%アップしてCVも向上したという。
また、コールセンターの情報をオンラインに持っていく企業は多いが、オンラインの情報をコールセンターに持っていく企業は少ないことを紺野氏は指摘する。ソーシャルリスニングで発見した情報をもとに、潜在的ユーザーの取り込みを行える可能性があり、潜在的ユーザーに対して適切な行動を取ることで、ユーザーのアクティビティを上げられる可能性が十分にあると説明した。
最後に、紺野氏は次のようにまとめている。
マーケティングの面では、間違いなく“スマートフォン”などの新たなデバイスが重要なキーワードとなります。また、“ソーシャル”によってユーザーの行動は切り替わっており、接触面としてソーシャルをどのように活用するかも課題です。
広告主の方が持っているコンテンツを活用して、メディア、デバイス、新たな広告プラットフォームを利用し、データをどのように統合していくかが、デジタルを専門としている会社の2012年の後半から2013年にかけてのミッションとなると考えています。
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