ユーザー体験を把握し、利用者のニーズやデザイン上のインサイトを探り、感動をもたらすUXを実現するために、UXリサーチは今や欠かせない活動です。そして昨今では、それをオンラインで行う「リモートUXリサーチ」も盛んに活用されるようになっています。
この記事では、UXリサーチにおける5つのステップを解説するとともに、UXリサーチのトレンドであるリモートUXリサーチについて解説します。
記事の最後では、リモートUXリサーチの専門家であるネイト・ボルト氏から、日本でリモートUXリサーチについて直接学べるイベント「UX Days Tokyo 2015」(4/17~19開催)の情報も記載しています。
ビジネスを成功に導く「共感力」のためのUXリサーチ
ウェブサイトやモバイル・タブレットをはじめとした、あらゆる製品・サービスの設計や開発において、今や欠かすことのできない活動になってきたものがあります。
それは、「利用者が体験している現場に出向いて観察すること」や「利用者を開発側に招いて体験の再現に参加すること」、すなわち「UXリサーチ(ユーザーエクスペリエンス:ユーザー体験のリサーチ)」です。
UXリサーチは、利用者のニーズやデザイン上のインサイトを探り、感動をもたらすUXを提供したい組織にとって、今や欠かすことのできない活動になってきています。
なぜなら、UXリサーチを通じて、製品・サービスのデザインや設計を行ううえで重要な鍵を握る、リアルな利用者への「共感力」を得ることができるからなのです。
この「共感力」を得ることによって、製品やサービスを、利用者に受け入れられるものにでき、それが最終的には、ビジネスを成功に導くことへとつながっていきます。
昨今では、企業そのものへの信頼性やブランド力の向上につなげるために、デザイナーやエンジニアといった作り手だけでなく、経営者やマネジャー、マーケター、顧客対応担当者など、企業のすべての人がUXリサーチを通じた「共感の力」を得るための活動が盛んになってきています。たとえば、
- UXを企業全体に推進するための専門組織を作ること
- 「デザイン思考(デザインシンキング)」といったアプローチをトップダウンで試す潮流
などは、その顕著な顕れです。
では、ビジネスを成功に導くUXリサーチを進めるためには、どのようなステップが必要なのでしょうか?
UXリサーチを適切に行う全体像は、次の5つのステップに整理できます(図1)。
- 問題の定義
- 計画の設定
- データの収集
- データの分析
- 結果の提示
UXリサーチにおける5つのステップ
1. 問題の定義
UXリサーチのための「問題の定義」では、UXリサーチで解決したい問題を、次の2軸に分けたマトリクス上に設定します。
- 縦軸 ―― 利用者の「振る舞い」と「言動」など
- 横軸 ―― 得ることのできる結果が「定性的」か「定量的」か
そのうえで、次のようなことを定義して明らかにします(図2)。
「人々が何をしているか?」
と
「人々が何を言っているか?」
のどちらを知りたいのか
「何が、どうして問題か?どのように解決するのか?」
と
「何が、どの程度問題か?」
のどちらを確認したいのか
2. 計画の設定
「計画の設定」では、上記の「問題の定義」の領域ごとに最適なUXリサーチのタイプを確認し、今回のターゲットとする問題に対して、どういった手法を選ぶことが最適であるかを選びます(図3)。
もちろん、各種手法の詳細な知識とスキルの習得が前提になってきます。
3. データの収集
「データの収集」では、「計画の設定」で選択した手法を、実際に実行していきます。
まさに、UXリサーチを具体的に実践していくためのステップであり、個々の手法によって、さらに詳細な準備と実行のための手続きのもとに進めていくことになります。
4. データの分析
「データの分析」では、実際に収集してきたデータを、さまざまな角度から分析していきます。
この得られたデータを一定の基準に沿って分析していくことを、「UXメトリクス」と呼びます。一定の評価指標としてUXメトリクスを組織活動に活かしていくことに、今、大きな注目が集まっています。
5. 結果の提示
「結果の提示」では、「データの分析」の結果で得られた事柄を、次のようなことに用いてきます。
- 実際の製品やサービスのデザイン改善に活かす
- 何がどれだけ問題なのかといった程度を把握する
- 利用者の好み・言動・ニーズを明らかにする
- など
UXリサーチのトレンド ―― リモートUXリサーチ
昨今では、インターネットの隆盛によって、UXリサーチの手法にも変化が起きています。具体的には、UXリサーチを、オンライン上でリモートに行うことができるツールやサービスが増えてきました。この分野のことを「リモートUXリサーチ」といって、今、1つの大きなトレンドになってきています。
リモートUXリサーチには、次のようなメリットがあります。
- 同時に多数の利用者を対象にリサーチできる
- 利用者を実際のラボに呼ばずに、利用者の環境の下でリサーチを行える
すなわち、大量のデータを一挙に収集できるのです。また、利用者を集めることに手間がかからず、リサーチ自体も短期間で実施できるため、通常のリサーチ活動よりも廉価に実現できることも、特徴です。
リモートUXリサーチのためのツールやサービスといっても、その性質や特徴は、定量調査向けのものから、定性調査向けまでさまざまで、手法のメリットやデメリットなどを判断しながら選択する必要があります。
リモートUXリサーチのツールやサービスは、その多くが準備・調整・誘導する「モデレータ」を伴わずに実施できることから、次のように呼ばれることがあります。
- モデレーションなし(Unmoderated)ツール
- セルフモデレート(Self Moderated)ツール
- 自動(Automated)ツール
「モデレーションなしツール」を選ぶときの確認ポイントを紹介しておきましょう(図4)。これは、UXメトリクスの専門家であるビル・アルバート博士の著書『ユーザーエクスペリエンスの測定: UXメトリクスの理論と測定』(写真1)で示されているものです。
リモートUXリサーチのツールを、その特徴別に一覧しているページもあります。これは、UXリサーチの専門家で、リモートUXリサーチに関する著書『REMOTE RESEARCH: Real Users, Real Time, Real Research』で有名なネイト・ボルト氏が、自分のサイトで公開しているものです。
現在、欧米では、UXリサーチに使うことのできるツールやサービスを提供する企業が、数多く存在しています。このことによって、大企業のみならず、中小企業やスタートアップ企業がUXリサーチに気軽に取り組むことのできる環境が整ってきています。
今後、日本においても、こういったツールやサービスを提供する企業やスタートアップが数多く生まれてくれば、日本でもUX活動への機運が一層盛り上がっていくのかもしれません。
リモートUXリサーチの現在を学ぶ絶好のチャンス
イベント「UX Days Tokyo」4/17~19開催
この記事でリモートUXリサーチに興味をもった方に、リモートUXリサーチの現在を学べるイベントの情報があります。
世界のUXの現在を知るためのイベント「UX Days Tokyo 2015」が、2015年4月17日から19日にかけて開催されるのです(Web Directions East LLC主催)。
UX業界の専門家や実務者たち5名が一挙に来日し、それぞれ講演とワークショップを行うイベントで、特にUXリサーチにおける達人であるネイト・ボルト氏の来日は、大きな期待とともに注目を集めています。
ネイト・ボルト氏は、現在、リモートUXリサーチのツール&サービスの提供を行うEthnio社の代表を務めています。これまでにもボルト氏は、UXリサーチで定評のあるBolt | Peters社の創業者としてUX業界を牽引してきました。その活動が評価されて同社は2012年にFacebookによって買収され、ボルト氏はその後、FacebookおよびInstagramのUXディレクターを担当してきました。
また、2010年にRosenfeld Media社から出版された著書『Remote Research: Real Users, Real Time, Real Research』(写真2)は、米Sony、Oracle、Facebookなど数多くの企業で活用され、「リモートUXリサーチ」に関するバイブル的な存在として高い評価を受けています。
同氏がUX Days Tokyoで行うワークショップ「UX Research: 実践! リモートUXリサーチ」(4月18日)では、UXリサーチについてのあらゆるメソッドと測定法についての詳細な解説から、計画の立て方、手法の選び方、各種リサーチのトレーニングの実施が行われます。ビジネスを成功に導くためのリモートUXリサーチのノウハウを、一挙に学習できる機会です。UX専門家はもちろんのこと、リモートUXリサーチに関するツールやサービスを扱うスタートアップや新規事業の可能性を探る上でも、大きなヒントが得られるのではないでしょうか。
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オリジナル記事:リモートUXリサーチ ―― ビジネスを成功に導くUXの新潮流 | 単発記事 | Web担当者Forum
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