Webディレクターになると、複数人体制のチームをリーダーとして運営しなければいけません。しかし「遅刻や欠勤が多いメンバーが多い」「チームメンバーが次々と辞めてしまう」など、チーム運営には多くの課題が発生します。ここでは、チーム運営に必要な体制作りのポイントを解説します。
2-4-1 はじめてのチーム運営Q&A
はじめて案件やチームを運用する際の心構えや体制について、このパートでは、あさみが山田部長や兄に相談するQ&A形式でお答えします。
主人公あさみ
Web制作会社“ウェブクリエイター社”のディレクター
27歳・女性
前任者の退職により、念願のWebディレクターに昇格
山田
35歳・男性
営業兼制作担当部長
あさみの上司
兄
メーカー勤務
30歳・男性
一流企業でのビジネス経験が豊富
Q. デザイナーが要望するデザイン通りに仕上げてくれない
あさみ「デザイナーがクライアントの要望するデザイン通りに仕上げてくれなくて困っています。デザインとしては良い出来ではあるのですが、クライアントの要望を盛り込めていないので、クライアントからダメ出しが出ることが多くて……」
山田「デザイナーがクライアントの意図を理解できていない可能性があるね。1回でいいからクライアントとのミーティングにデザイナーも同席してもらったらどうだ?ディレクターからクライアントの意向を聞くより、クライアントの声を直接聞いたほうが、理解できるし、デザイナー自身も意見も言えるから、納得してデザインができると思うよ」
あさみ「そうですね。私もデザイナーだった頃はディレクターに言われるよりも、クライアントに直接言われたほうが素直に聞けていましたね」
山田「あと、デザイン案を提出するときに、時間があるなら、クライアントの要望通りの案を1案と、デザイナーの希望の案を1案として提出して、デザイナーから直接デザイン意図を説明してもらうと、クライアントもデザイナーの希望の案を取り入れやすんじゃないかな?」
あさみ「それはいいですね。参考にします。もう1つ、悩んでいるのですが……。私もデザイナーだったので、つい若手デザイナーのデザインに対して直接ダメ出ししてしまい、嫌な雰囲気になることも多くて困っています。『ディレクターなのに、デザインに文句言うなよ』と思われているようで…」
山田「まず、ダメ出しの前に、どうしてそのデザインにしたのか意図を聞くことからはじめたほうがいい。若手ならデザイン意図を説明する練習にもなるし。また、デザインに対しては指示しすぎないで、方向性だけは示してあげるといい。チームを超えて会社の中で若手のデザイナーに中堅のデザイナーのメンターを作ってあげて、メンターから教育してもらうと納得度も高くなっていい」
Q. システムやコーダーのメンバーが「これはできない」と消極的です
あさみ「新しい技術や開発手法を試してもらいたいのに、システムやコーダーのメンバーが『これはできない』と消極的になりがちです」
山田「システムやコーダーなどの開発者は、プロフェッショナルだからこそ、自分のできる範囲を理解しすぎていて新しい技術に取り組む前に『できない』と言ってしまうことがあるよね。もちろん、できないこともあるけど、そのまま真に受けずに、ディレクターは『こうしたらできるのでは?』と交渉していくことが大切だね」
あさみ「私はデザイナーだったから、システムについて難しいことは分からなくて、交渉も難しいです」
山田「そういうときは『分からないことを前提で聞くけれども、こういうことってできないの?』とか、分からないから教えてほしいと正直に話すといいよ。あとは、チーム外の開発者に同席してもらって、アイディアを出してもらうと説得力があっていいかもしれない。『前にこういう手法で開発したから教えてあげるよ』とかね」
あさみ「なるほど。同じ立場の人にアドバイスをもらうと受け入れやすいのですね」
Q. 欠勤や遅刻が多いチームメンバーにはどう注意したらいいですか?
あさみ「部長、最近、欠勤や遅刻が多いメンバーがいます。どう注意したらいいでしょうか」
山田「遅刻回数が少なければ、当たり前だけど都度注意する必要があるな。うるさく言いたくないかもしれないけど遅刻したことに対して指摘しなかったら『少しぐらい遅刻してもいいだろう』と思ってしまうからね。特にWeb業界はフレックスタイム制の会社も多いから時間のメリハリをつけるのが苦手な人も多いかもしれないね」
あさみ「遅刻常習者にはどう対応するといいですか?」
山田「体調不良が続くようなら、人事担当者に相談するといいよ。持病があれば回復するまで療養の対応をとるとか、部署異動の対応も考えられるからね」
あさみ「体調不良ではなくて『寝坊』とか、『電車が遅れた』とか、理由にならない言い訳も多いです」
山田「好きで会社を遅刻する人はいない。遅刻や欠勤をしてしまう理由は必ずある。『残業が多くて朝起きることができない』とか、『今の業務がやりたいことと違ってやる気が出なくてつい休んでしまう』とかね。遅刻や欠勤を責めるだけじゃなく、本当は何が原因なのか個別に聞くことが大切だよ」
あさみ「残業が多いなら業務改善をしたり、本人のやりたい業務に近付けてあげたりして、その原因を取り除いてあげればいいということですね」
山田「そうだね。あとは、メールやメッセージツールだけではなく、普段から対面でコミュニケーションをとるといいよ。席も近くするとか物理的な距離も大切だね」
Q. 業務量は適正なのに残業が減らないチームメンバーはどう改善すればいいですか?
あさみ「業務量は適正なのに残業が減らないチームメンバーがいます。どう改善したらいいでしょうか?」
山田「もしかしたら、自分の残業時間を把握できていないのかもしれないな。月30時間の残業を“多い”と感じるか“少ない”と感じるかは人それぞれだからね。目標平均残業時間は理解しているのかな?」
あさみ「会社からは、月に25時間ぐらいにしてほしいと言われていますよね。ただ、Web制作会社は業務がリリース時期に集中することがあるから、業務量が多い月があったら、次の月に残業を減らすとか工夫は必要だと思います。残業過多の月が続かないように」
山田「そこまで気をつけているなら、後は、チームメンバーに自分の残業時間を意識してもらうために、朝会で“今月の合計残業時間(月初は今月の目標残業時間)”と、“今日の予想残業時間”を報告してもらったらどうだ」
あさみ「いい方法です! うちのチームは終業時間2時間前に夕会もやっているから、残業が多くなりそうな人がいたら、手が空き気味の人に手伝ってもらうとか工夫してみます!」
Q. チームメンバー同士の仲が悪く、業務に支障をきたしています
あさみ「あるチームメンバー同士の仲が悪くて、業務に支障をきたしています。席まで離してほしいと言われていて困っています」
山田「何が仲たがいの原因なのか、話し合ったほうがいいね。リーダーは当事者同士の話し合いに中立な立場で参加し、感情論ではなく、何に問題があるのか原因を探るといい」
あさみ「なるほど。リーダーはどちらの肩ももたず、仲介役を果たすということですね」
山田「あとは、中立的な立場になれそうなチームメンバーがいれば同席してもらって、その人から意見をもらうのもいいね。Web制作会社は20代から30代の年齢が近い社員が多いから、衝突することも多いけど、仲直りするのも早いからあまり大ごとにしないほうがいいね。解決しそうにない場合でも、当事者には、せめて周りに迷惑をかけないように指導することが大切だよ」
Q. チームの目標を個人の目標に落とし込めません
あさみ「チーム目標を他人事のように捉えているメンバーが多くて困っています。チームの目標を個人の目標に落とし込めるといいのですが」
山田「チーム目標はそのままでは漠然としすぎていたり、目標数字が大きかったりするから『全体目標のココの部分があなたの目標だよ!』と、個人目標との連動性をもたせるといい。例えば、売上をこのぐらい伸ばすために、こういう案件を手がけようとか。各人のスキルに合わせて、将来的に伸ばしたい力も加味して個人目標を決めていくといいよ」
あさみ「なるほど。時々はその目標を振り返って、目標達成できた部分をみんなに共有するのもいいですね」
Q. 若手社員に辞めたいと言われています
あさみ「実は、入社2年目の若手社員に会社を辞めたいと言われていて、困っているの」
兄「若手社員の場合は漠然と『自分がやりたいことと、今の業務が違うから辞めたい』思ってしまう場合がある。だから、まずは、将来的に何をやりたいのか話を聞き、今の業務からどのようにキャリアアップしていくのか、数年後の将来像を描いてあげるといい」
あさみ「そうか。私もディレクターになりたかったのに、デザイナーとして会社に採用されたから、新卒の頃は悶々としていたな」
兄「あとは、本人がやりたいことと、スキルが合っていないなら、スキルを上げる手段を教えてあげるとか。なんとなく辞めたいと言う人に対しては『やりたいことが決まるまでもう少し続けてみない?』と言って、その間に本人が有意義に働ける方法を模索してみてもいいかも。チームの雰囲気が変わると意欲的になったりするから、チームを活性化することでいい影響が出ることもあるよ」
Q. 中堅社員に辞めたいと言われています
あさみ「今度は、中堅社員に辞めたいと言われていて……」
兄「Web業界は人材不足だからな。できる中堅社員なら引く手あまただよな。中堅社員は『辞めたい』と相談してくる時点で、すでに転職先や独立が決まっている場合が多いから、引き止めることが難しいよな」
あさみ「そうなの。実はもう次の転職先が決まっているみたいで」
兄「最後の手段としては、チームのムードメーカーに『彼から辞めたいと言われているけど、何とかできないかな』と相談して、チームの力で引き留めるとか。もちろん、辞めたいと言った本人には『あなたはチームの重要な部分を担ってくれているから、すぐに辞められるとみんなも困るから事前にみんなに伝えるよ』と話してからだ」
あさみ「なるほど。チームから求められていると思うと、少し考え直してくれることもあるかもしれないね」
兄「でも本当は、中堅社員に対しては、本人が辞めたいと思う前からのフォローが大事だよね。日頃から本人の仕事に対するモチベーションについて話す機会を設けたほうがいいよ。『今の仕事は面白い?』とか聞いて、納得のいかない感じだったら、本人がやりたいこと業務を考慮してあげる。希望があれば配置転換なども視野に入れフォローするといい」
Q. チームがマンネリ化している気がします。チームの士気を高める方法は?
あさみ「なんか最近、チームがマンネリ化している気がします。チームの士気を高める方法はありますか?」
山田「チーム内での役割をこまめに変えてあげることが必要だね。それも、押しつけではなく、自ら立候補してもらって、リーダーはあくまでもサポート役に徹するといいよ」
あさみ「なるほど。役割も同じものを続けてやるとマンネリ化していきますからね」
山田「あとは、こまめにメンバーを評価してあげることが大切だね。社内表彰とか給料アップなどでモチベーションが上がると思われているけど、本当は身近なリーダーや周りの身近な人に日常的に褒めてもらうことがやる気につながる場合が多いよ。例えば、サイトがリリースしたこととか、目標の第一段階がクリアしたこととか、朝会のときにチームメンバーの前で拍手をして軽く褒めてあげる。そうすることで、チーム内にも褒め合うサイクルができてきて、士気が高まることもあるよね」
Q. 複数チームを統括していますが、マネージメントの時間がなくてメンバーに不満が出てきています
あさみ「先月から今のチームだけじゃなくて、新しいチームのリーダーも兼務することになりましたよね。でも、どうしても問題のあるチームへの関わりが大きくなってしまって、もう1つのチームメンバーから不満が出てきています」
山田「Web制作・運用の現場は、量も増え多様化しているので、複数案件や複数チームを取りまとめなきゃいけない場合が多くなってきている。でも、複数チームを統括している場合でも、あくまでも各チームに公平に接しないといけない。その上で、小さな決裁などは各案件や各チームのキーマンに任せることで自主性が増し、自分の負担が小さくなる。あとは、日頃から困っていることはメンバーに隠さずに相談しちゃうことだな。人は相談されたら協力したくなるものだからね」
Q. 日常的な小さな共有事項を共有できません。共有方法を教えてください
あさみ「チームメンバーは3人しかいないですが“ガイドラインの何ページを更新した”とか、“勉強会の案内”とかそういう小さな共有事項の共有を忘れてしまいがちです。忘れずに共有する方法はありませんか?」
山田「みんなが見る場所に、誰でも記入できる連絡事項用のホワイトボードを用意して、自由に書いてもらえばいい。セキュリティ上、ホワイトボードを使えない場合は、連絡ノートを作って1日に1度回覧するといい。昔の駅にあった伝言板のイメージだ」
あさみ「なるほど、ネット上のツールに共有されていても意識的に確認しないと見ることができないけど、ホワイトボードやノートなら目に入ってきますからね。アナログのほうがいい場合もありますね」
Q. チームメンバーが、業務が忙しいからとWebの最新技術を勉強してくれません
あさみ「最近、チームメンバーが、業務が忙しいからといって、Webの最新技術を勉強してくれません」
山田「まずは、こまめに『最新技術の習得はWeb担当にとって必須であり、使命である』ことを言い続けることだな。それから、リーダー自身が率先して外部の勉強会に参加してお手本になることも大事。勉強や資格を取得することで、それがどう将来の自分を助けるか、つながるのかを説明すると変わる」
あさみ「なるほど。ただ勉強が必要だと言われても、何にプラスになるのか分からなければやる気もでないですからね」
山田「あとは、チーム内で勉強会を開くことも重要だな。業務が忙しいと同じチームであっても、隣の人が何をしているのか分からない場合が多いことがある。ノウハウを共有できていないことも多いから、メンバーが作ったものに対してのレビュー会の開催とか、最新技術の教え合いをすることで、チーム全体の勉強意欲も高まるはずだ」
Q. はじめてECサイトの運用をディレクションします。ポイントは何ですか?
あさみ「A社からECサイトの運用依頼が来ました。ECサイトの運用ディレクションのポイントや企業サイトとは異なる点はどこでしょうか?」
山田「当たり前だけど、商品の価格などの情報に誤りがないかどうか。売上に直結するだけに品質とスピードを重視されることが多い。セールなどの勝負時に、制作リソースを確保できるように体制を柔軟にしておくことも重要だ」
あさみ「なるほど。店舗と同じように、繁忙期には万全の体制を用意して制作できるように整えておくことが必要ですね」
山田「あとは、Web制作者もECサイトを店舗として考えて、店員になった気持ちで“どう商品を並べたらよいか”“どうしたら1つでも多くこの商品が売れるのか”を考えながら制作することで、デザインや表現方法が変わってくるはずだ」
Q. はじめてチームリーダーになります。円滑なチーム運営のポイントは何ですか?
あさみ「今度、同期がはじめてチームリーダーになる予定で、円滑なチーム運営のポイントを聞かれています。でも、私もまだチームリーダーになって1年目で、どう答えていいか分かりません……」
山田「まずは、メンバー1人1人と将来像について話し合って、個人に合った役割を与えるといい。それから、Web制作者は商品やサービスを購入するお客さま(エンドユーザー)と接することが少ないから、リーダーが定期的に『自分たちは世の中の役にたつサイトを作っている!』ということをメンバーに伝えてモチベーションを高めることも必要だ」
あさみ「確かに、リーダーやディレクターはクライアントと接することで、自分たちが制作したものでクライアントから感謝の言葉をもらえることができますけど、Web制作者のデザイナーやコーダーは基本的に社内にいて制作をしているわけだから、自分たちが作っているサイトがどういう風に世の中で評価されているのか判断できない。だから、リーダーから伝えていくことが大切ですね」
山田「あとは、世間話でもいいから、メンバーには日頃から気軽に声をかけることで、相談してもらいやすい雰囲気を作ることも大切だね。ときにはリーダー自身の将来の夢も語ることで、1人のチームメンバーとして一緒に働いていることを伝えるといい」
あさみ「お兄ちゃん、この前相談した、会社を辞めたいって言っていた若手社員が、社外のWebデザインコンクールで優勝したの!」
兄「おめでとう! よかったじゃないか」
あさみ「その若手社員はデザイナーになりたくて入社したけど、コーダーとして採用されたから、不満に思っていたみたいで、辞めたいと言ってきたの。私は、自主的に勉強して社外のWebデザインコンクールに応募してみたらって話したら、やってみます! と言ってくれて、応募したらなんと優勝できたの。会社ではそれを評価して彼をデザイナーに配置転換することに決めたのよ」
兄「なるほど。あさみも一人前のチームリーダーになってきたな」
あさみ「お兄ちゃんも、チーム運営で悩みがあったら、私に何でも相談していいよ」
兄「おいおい、調子にのるなよ(笑)」
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