御社で行っている顧客満足度調査には本当に意味はあるのだろうか。その評価を向上させることで、経営指標にプラスとなるのだろうか。実際に顧客満足度ではなく、より価値のある評価を得るために米国の大手企業を中心に採用が進んでいる指標がある。それは、次の質問によって得られるものだ。
この会社(製品やサービス)を友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか?
このシンプルな質問への回答をもとに算出されるのは「ネット・プロモーター・スコア」(Net Promoter Score:推奨者の正味比率。以下「NPS」)という、顧客ロイヤルティを計る指標だ。米国の大手企業を中心に経営指標としての採用が進んでいる。
NPS(Net Promoter Score:推奨者の正味比率)は、「この会社(製品やサービス)を友人や同僚に勧める可能性はどのくらいありますか?」という「究極の質問」に対する顧客の回答をもとに「推奨者」(10~9)、「中立者」(8~7)、「批判者」(6~0)に分類し、推奨者の割合(%)から批判者の割合(%)を引いた割合を指す。数値は理論上、100から-100までの値を取りうる。
0から10までの評価方法は、米国における学校の採点方法(6点以下は不可)になぞらえている。日本においては、真ん中の5を標準とみなす考え方や、あまり極端な評価をつけないという気質のためか、NPSが低めの数値をとりがちであることが指摘されている。
2005年にベイン・アンド・カンパニー名誉ディレクターのフレッド・ライクヘルド氏によって提唱され、平均してNPSが12ポイント上昇すると、企業の成長率が倍増するといわれている。
ビービット 代表取締役の遠藤直紀氏は、今年6月にロンドンで行われたNPSに関するカンファレンス「Net Promoter 2.0」に参加。NPSを提唱したライクヘルド氏や各国からの参加者との議論を通じて、NPSの考え方や特徴、導入にあたってのプロセスなどの理解を深めたという。
欧米ではすでに採用が進んでいるというNPSは、企業活動にどのような影響を与えうるのか。従来からの顧客満足度を計る指標との違いや、導入にあたって留意すべきポイントとはなにか。遠藤氏に聞いた。
聞き手:河田顕治
NPSは、顧客ロイヤルティを計測するための指標
――まずは「Net Promoter Score(NPS)」の基本的な考え方を教えてください。この指標を簡単に説明するとどのようになりますか。
NPSの基本的な考え方としては「顧客ロイヤルティを測る指標」、すなわちお客様が企業に対してどのくらいロイヤルティ(信頼、愛着)を感じているかを計測するものになります。
NPSの提唱者であるフレッド・ライクヘルド氏は、顧客ロイヤルティについて研究を続けてきた方です。彼がなぜ顧客ロイヤルティを追求してきたのか、彼の著書(『顧客ロイヤルティマネジメント』など)を読み解くと、
世の中のビジネスはすべてが人間にとってよいものばかりではなく、社会を破壊するようなビジネスもある。世の中の役に立つビジネスをやるほうが好ましい。
笑顔、つまり誰かが喜んだことによって利益が得られる状態が最高である。
と書かれています。そのコアとなっているのが長期的な関係性であるわけですが、それは顧客と企業に限定されるものではなく、株主と企業、従業員と企業などさまざまな関係性がありえます。短期の刹那的な関係性では(利益の)奪い合いになることもあり、価値の創造といったところにつながりません。このため、長期にわたって関係性を築き、維持することが重要だと考えられるわけです。
顧客ロイヤルティをマネジメントするためには指標が必要となります。測定できないものは管理できませんので、指標化しようということで出てきたのがNPSの考え方なのです。
彼の著書『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』で指摘されているように、従来の顧客満足度調査には不十分なポイントがいくつかあります。まずは業績との相関が低く、顧客満足度が上がっても業績は上がらないことが起こりえます。
先ほどの根幹の思想にあるように「よいことをして儲かるのがベスト」だとするならば、業績との相関がなければなりません。この相関が最も高いのが推奨度なのです。また、顧客満足度調査ではたくさんのことを聞き過ぎており、複雑過ぎて結果にバイアスがかかったりもします。
本当の価値を知る究極の質問
――満足度を聞くことと推奨度を聞くことの違いはなんでしょうか。
ここは私個人の理解なのですが、推奨度を聞くことは、満足度を聞くよりも回答者にとってストレスが高い。すなわち真剣に答える必要があるととらえています。たとえば、満足度調査では特に不満がなければ「満足している」と答えることがあるでしょう。しかし「薦めますか?」への回答には、友人や同僚に対する責任が発生します。つまり質問として重たいんです。
よく言われるように、満足度を0から10の数値で聞いて「10」をつけた人に推奨度を聞くと「8」になったりします。責任をともなう質問に対しては8になったりすることが多い。この質問だけをシンプルに聞くことによって、本当の価値があぶり出されるのだと考えています。
――では、NPSが企業の業績と関連性が高い理由はなんでしょうか。
NPSの高低によって企業の業績に差が出る理由としては、次の4つが挙げられています。
- Repurchase(再購入) ―― 初回の購入にとどまらず再度購入してくれる、あるいは購入してくれる頻度が高まります。
- Buy additional lines(一度に買う量が増えること) ―― オプション製品の購入やアップセルにつながりやすいということも含みます。
- Refer others(クチコミ) ―― これはソーシャルメディアが出てきたことによって、より重視されるようになっています。推奨者が「いいよ」と薦めれば買う気になりますし、批判者が「よくない」というと買う気がなくなったりしますよね。
- Provide constructive feedback(高い価値を感じてくれている、推奨者からの建設的なフィードバック) ―― これはプロダクト開発やサービス改善にも使えるし、働いている人たちのモチベーション向上にもつながり、組織全体をパワーアップさせるという点でも意味があります。
NPSが高まる、すなわち推奨者が増えて批判者が減ることは、この4つの観点から企業業績にもポジティブな影響があると考えられるわけです。
――実際の運用フェーズでは、他の質問ないし指標とのクロスで見たりするわけですよね。
価値を聞く質問としては「薦める可能性はどのくらいありますか?」という1問のみです。そのうえで、改善につなげるためにその理由を「なぜですか?」と自由回答で聞くのが基本となります。
ただ、このやり方では、BtoB企業などで対象件数が1,000件の場合はよいのですが、1万件、10万件といった規模になると、分析するのに工数がかかり過ぎて実務上は不可能になってしまいます。その際には、「何がNPSを押し上げる要因(Driving factor)となっているのか」仮説を立て、事前に質問項目として掲示しておきます。レストランであれば価格や料理が出てくるまでの時間ですね。集計後にどの項目がNPSとの相関が高いかについて分析をかけるわけです。
ここで注意しておきたいのは質問の数です。先の顧客満足度調査の欠点としても挙げたように、質問数が多くなればなるほど回答率が落ち、バイアスがかかるため、分量としては1ページに収まる7~8問程度がよいと言われています。
NPSと収益性を描いた6象限マトリックス分析
――分析と改善はどのように進めますか。
基本的な分析として、NPSと収益性のマトリクスを描き、それぞれに打ち手を考えるという方法があります。
左上に位置する「抑留者」は、収益性は高くてもNPSは低く、不満を感じ、鎖につながれながらも利用している顧客です。たとえば、ある携帯電話が1社からしか出ていないため、仕方なく使っているというユーザーは、何かきっかけがあるとすぐいなくなってしまいます。抑留者へ過度に営業的なアプローチをとると怒らせてしまう可能性があり、先に不満を解消する方向で手を打つほうがよいでしょう。
あるいは、「エンジェル候補者」にはその名のとおり「エンジェル(熱烈な愛好者)」となってもらうために、どのようにロイヤルティを高めるのかを考えるなど、象限ごとに打ち手を変えて改善していくことができます。
――NPSが提唱されてからまだ10年も経っていませんが、米国では大手企業を中心に導入が進んでいると聞いています。
すでに米国の売上上位企業500社(フォーチュン500)のうち、35%の企業がなんらかの形でNPSを採用しており、中でも企業経営の根幹として取り入れているのが500社のうち5%に上るそうです。
――とはいえ実際には、マーケティング担当者がNPSの重要性ないし有用性に気づき、導入を進めたいと考えたとして、真の意味でシステムとして機能させるためには経営のコミットが必要なのではないでしょうか。
そのとおりだと思います。顧客が何に感動するかは当然ながら企業側では制御できませんので、NPSを押し下げる要因がマーケティング責任者の管轄外ということも起こりえます。たとえば、コールセンターだったり、製品そのものだったりといったケースですね。これには組織を横断した対応が必要となりますし、経営者が判断すべき事項となるでしょう。
NPSを一部の組織に限定して局所的に利用することも可能ではありますが、NPSを押し上げる要素として優先順位の低いものを一生懸命改善しても高い効果は見込めません。企業全体の資源配分に関わることができ、物事を決定できる経営レベルの方が判断するのが好ましいといえます。
NPSが効くのは成熟社会だと言われています。新興国においてはロイヤルティは重要度が低く、手に入る価格で商品が店頭に存在すること自体が重要だったりします。社会が成熟して多様化が進み、商品がただ存在するだけでは感動を与えられなくなった時に顧客ロイヤルティの管理が重要になってくるわけです。
- NPSは提供価値を定量化し、真の顧客志向を実現する
- 向き合うべき顧客定義し、ロイヤルティを高めていく
NPSは提供価値を定量化し、真の顧客志向を実現する
――遠藤さんがNPSに注目している理由はなんでしょうか。企業の経営者として多忙な身でありながら、海外へ出張しカンファレンスに参加するのは大変ではありませんか。
私は日頃、「企業はなんのために経営されているのか」を考えています。まず、企業は個人によって構成されており、1人ひとりはおそらく「幸せな人生を送りたい」と考えているでしょう。その人生において、勤務先企業との関わりというのは、仕事をするという形で一番長く時間を使うはずです。だとしたら、仕事自体も幸せを形づくらないといけないのではないかと思っています。
では、どういう時に人は幸せを感じるか。アルフレッド・アドラーという心理学者は、共同体に生きる人間は「自己肯定」「他者信頼」「貢献感」の3つの条件をクリアしたときに幸せを感じると定義しています。これは、どんな過酷な環境でもそう思うのだそうです。戦時中、極貧状態だろうが、3つが満たされていると幸福になる。
では、仕事における幸福感は何によってもたらされるでしょうか。認められること、報酬が高いことももちろん大事なのですが、本当の意味での貢献感がない限り、幸せは満たされない。だとすれば、お金を払ってくれるお客様からありがとうと言っていただけるよう、顧客に対する価値提供にフォーカスすることが重要である、というのが私の根本の考え方です。これを顧客志向と呼んでいます。
たとえば、米国でも同じ状況なのですが、上場企業の9割はその経営理念に「お客様への貢献」「社会の貢献」と書いている。でも、実際にお客様を向いて、フォーカスして改善活動を実践している会社は1割あるかないかと言われている。つまり、実際の活動との間には80%ものギャップがあるんです。顧客への貢献は重要だけど優先順位は低い、理念に書いてあっても最高順位ではない会社のほうが多いという感じです。
しかし、根本的には貢献を志向したほうがいいわけで、貢献志向で企業が経営されている状態を理想として掲げるべきでしょう。
真に顧客志向を考えるなら、
顧客への価値提供にフォーカスしなくてはならない
――なるほど。
このように顧客への貢献を考えたものの、いろいろわからないことが多かったので、フィリップ・コトラー教授に会いに行きました。彼の著書『マーケティング マネジメント』などを読むと、マーケティングは顧客志向でなければならないと繰り返し書かれていて、コトラー教授が最もカスタマーセントリックを叫んでいる人だと思ったんですね。
私は当時、売上や利益だけで経営指標を回していても、顧客志向の経営はできないのではないかという疑問を持っていました。お金には色がないので、嘘をついて稼いだお金でも、喜んでもらったお金も、1万円は1万円。けれど、お客さんを怒らせて得た1万円の売上は本当にいいのだろうか、と。本来は提供する価値を高めて、結果的に儲かっているのが正しい順番だし、そのためには提供価値を定量化して指標化する必要があると考えていました。
マーケティングは顧客志向でなければならない
CRMの世界ではよくLTV(lifetime value:顧客生涯価値)といわれます。LTVは企業にとっての売上から算出していますが、本来はLTV of a customer、つまり顧客がどれだけ価値を感じているかを定量化していかなくてはいけないと思う。そのようにコトラー教授に話したところ、それはNPSの考え方に近いと指摘されたんです。
NPSをきちんと勉強しようと思ったのはこの時です。以前からNPSは知っていましたが、もしかしたらNPSこそが顧客志向の1つの鍵ではないかと感じました。
フレッド・ライクヘルド氏いわく、NPSは顧客の幸福度を測るもので、当初この指標をNet Happiness Scoreと名付けようとしたのだそうです。商業的に難しいのでNPSという名前にしたけれど、概念としては、お客様が喜んでいたり、価値を感じている量を定量化しようという考え方ですね。
――ハピネスつながりで脱線しますけれど、もしかしたらブータンの提唱する「国民総幸福量:Gross National Happiness(GNH)」の考え方に近いものがあるのかな、と感じました。
そうですね。今年、幸福度をテーマにした「ハッピー」というドキュメンタリー映画が封切られています。ブータンや日本を含む世界各国を取材していますが、結論としては先ほどのアドラーの概念とほとんどずれがありませんでした。
向き合うべき顧客定義し、ロイヤルティを高めていく
――これまでのお話をふまえて、NPSは企業経営にどのような影響を与えますか?
フレッド・ライクヘルド氏は「Good Profit, Bad Profit(良き利益、悪しき利益)」という表現をよく使います。利益というお金だけを見ると色がない。でも、お金を払ったお客さんが怒っていることはありますよね。彼は、そこから生まれるのはバッド・プロフィットだと言っていて、さまざまな例が指摘されています。
たとえば、レンタカーを30分遅れて返したら半日分課金しますというのは、企業側は儲かりますが、ユーザーからすると「なんだそれは!」と怒りにつながっている。これはバッド・プロフィットであって、お客さんはいずれ離れていくのではないか、といったことです。
他にもありがちなのが、最優良顧客に一番高く売っていて、ぜんぜん儲けの出ない、小額しか使わない人たちに大幅な割引が提供されているケースです。本当に大切な、一生涯つき合おうというお客さんに一番高い値段で売っていていいんですかと。
NPSを分析していくことによって、自分たちの利益は本当にグッド・プロフィットだけで構成されているのかが見えてくる。NPSと利益の関係性をひもとくことが、正しい経営につながっていくのだと考えています。
――ITの世界だと、ベンダーによるロックイン(独自製品による囲い込み)という試みがありますね。これは場合によってバッド・プロフィットが生まれる可能性もあるのでは。
ビジネスとして縛りつけようという気持ちはわかりますけれど、本当に縛りつけられた人は幸せなのでしょうか。納得して縛られているならよいと思いますが、選択肢がなくて怒っていて、しかたなく牢獄につながれていような人がいるとしたら、そのビジネスに意味があるのかどうか。満足しようがしまいがシステムロックインするぞ、といった議論はそもそも破壊的な話ではないかと思います。
――そこで重要なキーワードとなるのが、顧客の定義ですね。
そう思います。顧客になり得る人たち全員を満たすことはできませんので、適切な相手と、お互いの自由意志によって長期的な関係性を築いていこう、というのがNPSの根本にあるはずです。自由意志で一緒にいたくなるようなマネジメントをしていく、ロイヤルティによって長期の関係性を築いていくというのがNPSの思想だと思います。
そのロイヤルティを作っていくにあたって、ライトカスタマー、正しいお客様はだれなのかを見極めることが重要です。いまの成熟した市場環境において、全員を満たすことは難しいと思います。
たとえば某会計ソフトはとてもよくできていて、中小企業の会計業務をこの上なく効率化してくれる。一方で、大企業での利用はないとすると、この場合はやはり中小企業をライトカスタマーととらえてロイヤルティを高めていくのが妥当です。同じ製品で中小企業にも大企業にも推奨者になってもらうのは、難しいだろうと思います。さらに言えば、事前の「期待値のコントロール」というのも大切な要素になるでしょう。
――そうですね。売上なり利益のみを目標に置いてしまうと、取れる可能性のあるところを最大限想定し、どのように積み上げるかという話になってしまい、持続可能な成長に行き着かない。結果として四半期ごとの焼畑になってしまうのではないかと。
おっしゃるとおりです。いま世界的にNPSの導入が進んできているのは、健全かつ持続的な成長を前提として、適切な利益を確保しようという考え方があってのことだと思います。価値を感じてもらうことによって、きちんとした関係性を作り出して大切に維持し、そこから利益成長へつなげようという動きですね。
実はこれとは別に、私自身の思いとして「人間として生きて活動していくなかで、怒っている人からお金を取るなんてありえない。笑顔にすることによってお金をもらおうよ」ということを強く思っています。これは価値観をめぐる戦いでもあるので、切り分けたほうがいいかもしれないのですが。
――外向きには前者の言い方で進めていくけど、遠藤さんとしては後者の思いが非常に強い、ということですね。
そうですね。そっちに突き動かされて考えています。
――今後、日本企業におけるNPSの導入は進んでいくでしょうか。
近代の日本型経営は「論語と算盤」に基づいているといわれます。論語と算盤とはすなわち思いやりの経営、人のための経営であり、私たちはそこで育ててもらっていますから、素養として持っているはずです。ちょっと形を忘れたり、流されたりした部分もあるかもしれないけれど、私たちの根幹的な文化や価値観はそこにあるから、日本においてNPSは十分定着するであろうと考えています。
私がお会いしたことのある経営者は、教養のある方、優れた人間性をお持ちの方がほとんどです。そういった方々は、NPSの根幹にある考え方に共感されるのではないでしょうか。みなさん、世の中を良くするために企業を経営しているのだと、私は信じています。
――やはり、米国的な「会社は株主のもの」という感覚に対して、日本だとそれだけじゃないと思う人のほうが多いんじゃないでしょうか。
そういう意味でも信じている部分はありますね。むしろ、NPSは日本の企業経営の考え方と近く、定着するのではないだろうかと。反対に、米国に定着させるのは相当大変だろうなと思いますね。
――米国だと、経営の数字にはっきり表れないと株主は納得しない。
難しいでしょうね。最近の日本企業でびっくりしたのはヤマト運輸です。震災後、荷物を1個配送するたびに10円寄付すると宣言し、最終的に経常利益の半分以上を寄付したわけです。株主たちが総会で怒るかと思ったら、みんな拍手したんですよね。日本はそういう国なんだなとあらためて感じました。
株主は「いい会社の株を持ちたい」、経営者は「いい会社を経営したい」、働いている人も「世の中に役立つ仕事をしたい」と思っていて、そんなに悪くないと。いまは歯車がずれていたり、見直すきっかけがなかったり、成功体験が少なかったり、いろいろ課題はあるとは思いつつも、顧客志向は定着していくのではないかと信じています。
――別の言い方をすると、すでにそうしたことを実践してきた企業であれば、あえてNPSを測るまでもなく、売上が上がるイコール満足度が上がる、世の中を良くするといった形が実現できていそうですね。
はい。実践されてきた企業は存在しますし、そういう会社であれば無理にNPSを入れなくてもいいと思います。ただ、心とか文化といったものは、形に落としたほうが継続されやすいですよね。売上や利益だけを指標に持つと、顧客志向へ向かうために文化で圧力をかけ続けなくてはいけないので、それはたいへんな労力を必要とするのではないでしょうか。
――リーダーシップが必要となりますし、経営者が頻繁に代わるような企業では継続が難しそうです。
そうですね。実はNPSはNet Promoter Scoreの略であるとともに、「Net Promoter System」つまり推奨者を増やすためのシステム(仕組み、体制)を指す場合もあります。経営の仕組み自体が顧客志向に適したスタイルになっていれば、無理やり文化に手を入れて整える必要はありません。NPSはこういった意味でも使える指標であり、システムだと考えています。
――今後、日本にNPSを根づかせる活動に力を入れる予定なのでしょうか。
自分たちが推進の主体者になるかどうかはわかりませんが、こういう考え方や指標に基づいて企業が経営されるのはすばらしいことであり、応援したいと思っています。主体的にやるか、応援者としてやるかはまだ決めていないというのが正直なところです。
――自社の経営に取り入れていくことは。
それはもちろんありますね。自分たちが体現していないのに叫んでも説得力がありませんので、自分たちが最初にやらなければと思っています。
――ビービットは顧客の定義がしっかりしていますし、これまでの姿勢と今日のお話に一貫性があって、違和感がありません。
ありがとうございます。NPSは自分たちが大切にしてきたことにとても合致していると感じています。
取材を終えて、「~を友人や同僚に薦めますか?」というシンプルな問いの「さじ加減の絶妙さ」こそが、NPSを有効な指標として機能させているのだと感じた。NPSを高めるための努力が、システムの根底にある思想を自然と実現させる方向に向かう点も出色だろう。この指標/システムについて探求を続ける遠藤氏の情熱や企業経営への姿勢にも感銘を受けた。
従業員が勤務先のことを他者に薦めるかというeNPS(employee Net Promoter Score)の値は、顧客からのNPSの高低とみごとに相関するという。これは遠藤氏が開催した顧客志向の勉強会で紹介されたトピックだが、言われてみればたしかにそうであろうと納得した。
企業経営にNPSを取り入れることのハードルは決して低くはないと思われる。しかし、成熟した社会の中で顧客との関係性を深化させるために企業がとるべきひとつの方向性として、NPSの考え方は非常に示唆に富むものであると感じた。
- コーナー:注目企業のネットビジネス戦略
- 内容カテゴリ:マーケティング/広告
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:その顧客満足度調査はホントに役に立っているのか? 真の顧客志向を目指す「NPS」という指標 [注目企業のネットビジネス戦略] | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.