心得其の380
報道ではなく広報を目指す
企業サイトのコンテンツは「報道ではなく広報」です。人は人の言葉に耳を傾ける性質があり、その性質を利用して、こちらの意図(企画)を伝えることが「インタビューコンテンツ(記事)」。仕組みとしては自作自演に近くても、客観性を装い、説得力のある記事に仕上げることを目指します。ここまでが前回の話です。
今回は、欲する答えを「インタビュー」で引き出す具体的な方法について。あらかじめお断りしておきますが、本稿を読んだからといって、阿川佐和子氏や吉田豪氏になれるものではありません。本稿の目指すインタビューは「広報」であり、それは「捏造」と似て非なる「ブラックテキスト術」の応用編、「ブラックインタビュー術」です。
明示する気遣い
職業柄、たびたびインタビュー取材を受けますが、「話しやすい人」には共通する特徴があります。それは、
(今日は)お時間をつくっていただきありがとうございます
という挨拶から始める人。当たり前のようですが、言えない人は少なくありません。そして、冒頭に謝意を伝えるのは「気遣いの明示」です。あくまで体感ベースですが、この一言が相手との距離感をぐっと縮めます。
取材を受けることに慣れた一般人はまれです。裏返せば、ほとんどのインタビュー対象者は「緊張している」のです。それは「警戒心」といってもよいでしょう。気遣いの明示によって、少なくとも「敵じゃない」と伝わり、一定程度の緩和が期待できます。喫茶店やファミレスでの取材なら、「食事は取りましたか?」「お飲み物は?」など、わかりやすい気遣いを示すのも有効です。
号砲を鳴らせ
ときにはインタビューする側にまわることもあります。普段の打ち合わせでは、雑談のなかから本質に迫るのを得意としていますが、初対面の相手に同じ方法で接すると、曖昧な答えしか返ってきません。こわばった表情に気づき、遅ればせながら取材が始まっていることを告げると、ようやく安堵の表情を浮かべます。取材相手は、どこを使われるかわからないと警戒していたのです。
それでは始めます
このときの私が失敗から得た教訓は、開始の号砲を鳴せということ。
ここまではインタビューや取材の基本といっていいでしょう。撮影や録音をする場合は、始めに説明しておきます。開始の挨拶が済んだら、いよいよ本番「ブラックテキスト的インタビュー」。答えへ導くため「企画」の出番です。
「どうですか?」がダメな理由
仮に新製品の「あんパン」についてのインタビューなら、「あんパンは美味しい」という答えを望みます。そのとき、
新製品のあんパンはどうですか?
という問いかけはダメインタビューです。漠然と尋ねられて「あんパン論」を語れる人はまれで、仮に美味しいと思っていても、的確に味を言葉にできる人もいません。そこで暗躍するのが「企画」です。
- 「自然な甘みはいかがですか?」
- 「しっとりと仕上げたあんこは?」
- 「食感はふんわりしていたでしょうか?」
と具体的に形容詞を添えた「欲する答え」で問いかけるのです。これが「企画」です。形式的な「企画」はインタビューですが、真の企画は「欲する答え」なのです。そして答えが「はい」なら「同意」。
自然な甘みと答えた
と記事にしても「嘘」ではなくなります。
実はどこでもやっている
ズルイと思うでしょうか。実は「欲する答え」を問いかける方法は、善悪はともかく報道の現場でも使われています。
どちらもすでに存在しないので実名を挙げますが、旧ライブドアの粉飾決算疑惑が起きたとき、検察の手が入り株価は暴落しました。わずかながらも株主だった私は、TBS「みのもんたの朝ズバッ!」の取材を受けました。当時の社長への憤り、株価暴落への恨み言を再三求められましたが、実は別の「ヒルズ銘柄」で儲けた分で購入していたので、通算すれば損失はゼロ。ましてや株式投資は自己責任です。
しかし、あの手この手で話題をすり替え「悔しいでしょ?」と質問が繰り返されます。あくまで「自己責任」と断りながらも「悔しい」と発すると、オンエアーで使われたのは見事に「悔しい」の箇所だけでした。
インタビューは「素材」。話をまとめるのが「料理」。だから「はい」のみの同意が、自然な言葉に置き換わることもあるとは、ブラックテキスト術的理論武装です。
最悪はボツも覚悟
インタビューを「記事」にまとめるうえで、忘れてはならないのは「全文掲載」ではないということ。立て板に水の如く、理路整然と語れる人物はまれです。簡潔に「企画」を伝えるためには、会話を整理し、不用な箇所は削除します。
さらに、「話の前後を入れ替える」作業まで含めて「構成」と呼びます。特に「企画」を軸に、会話の順番を入れ替えるだけで、見違えるような記事に仕上がることがあるのでお試しあれ。ちなみに、違う質問で答えた「Yes」を別の答えに接続することは「捏造」になるため、こちらは推奨していません。
最後になりましたが、インタビュー記事の心得は「ボツを怖れない」こと。ある週刊誌がSNSに否定的な特集を組みました。記事にコメントを寄せた某Web業界の有識者が、
俺はこんなコト言っていない
とブログで「暴露」し、記事は捏造だとして炎上しました。私もコメントを寄せていたので、担当編集者に確認すると「ゲラ(最終確認の原稿)」の修正も、削除も申し出ていないといいます。
「言った、言わない」の水掛け論は、インタビュー記事には多々あるトラブルです。ボイスレコーダーの録音があっても、「ニュアンス」の違いを盾にされることもあります。そこで記事の公開前には、インタビュー対象者はもちろん、身内ならその「上長」にまで「確認」をとります。ここで「OK」がとれなければ「ボツ」にすべきです。それはインタビュー記事とは、
だれかの発言
である以上、その「だれか」の許可がなにより重要だからです。許可を取っても「言っていない」という人もいますが、これはさすがに相当なレアケースで、私もこの一例しか知りません。
今回のポイント
欲する答えに誘導することが「企画」
ただし、あくまで誘導、捏造してはいけない
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オリジナル記事:「どうですか?」と問うダメインタビュー。ブラックテキスト・インタビュー術 | 企業ホームページ運営の心得 | Web担当者Forum
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