この記事は、ネットショップ担当者フォーラムで公開された記事を、許諾を得てWeb担当者Forumで転載したものです。
DIY用品のECを手掛ける大都は4月26日、大阪市内に日本初というDIY製品専門の実店舗をオープンした。大都は一般金物の卸から主力事業をECに転換し、新たに実店舗ビジネスに参入。体験教室といった役務サービスの提供、ECと実店舗の連動といった新たな取り組みも行う。オープン前日に開かれたセレモニーへの招待を受け、店舗へ訪問。次々と新たな一手を打つ大都の挑戦に迫った。
「物を右から左に売るだけなら、アマゾンでええ。リアル店舗を手掛けようと決めたとき、考えれば考えるほどネットだけでええという結論になる」。4月25日に行われた店舗オープンのセレモニーの挨拶で、大都の山田岳人社長は実店舗進出に至るまでの葛藤をこう吐露する。
大都の創業は1937年。もともと利器工匠具の販売でスタートし、1952年に法人化。一般金物の卸を中心に事業を展開している中、新規ビジネスとしてECに参入した。2002年のことで、その後はロングテール戦略を進めて業容を拡大。現在は日本最大級のDIYツールのECサイトを運営する規模に成長、ECサイトの運営が主力事業だ。
10年以上手掛けるECの実情を踏まえ、山田社長はこう言う。「先代が生きていたころから問屋業は儲からない、小売業をやりたいと言っていたが、物を売るならネットの方がいいと思っていた。実店舗は収支が合わない」
だが、実店舗への参入に踏み切った。「消費者に、ECでは実際に触れることのできないナショナルブランドのDIY用品に触れてもらったり、興味を持ってもらいたい」(同)と考えたためだ。
近年、景気低迷などで可処分所得が伸び悩む中、自らの手で快適な生活空間を創造するためのモノ作りに励む人が増えている。こうした「DIYブーム」の追い風を受け、大都のECサイトの売り上げも右肩上がりを続ける。だが、ECサイトでDIY製品を購入するのは一握りで、リアル店舗しか利用しない潜在顧客はまだまだ多い。商品に触れ、DIYを体験する…こうした従来にはない取り組みを通じて、見込み客の創出、新規顧客の獲得につなげようと考えたのだ。
山田社長は実店舗の役目をこう語る。「服では試着できるのが当たり前なのに、工具などは使って試してから買うということができない。モノ作りの楽しさを教えたり、製品を試してから買うという場所があってもいい」
協賛型実店舗、大都が生み出す新たなメーカーとの関係性
実店舗を構えたのは大阪府大阪市浪速区。近くには難波駅がある。名称は「DIY FACTORY OSAKA」で、店舗面積は270平方メートル。ECサイト「DIYツールドットコム」で扱っているDIY商材の内、約30ブランド、500アイテム以上の商品を用意する。「自宅に作業場がない」とニーズに応えるための「ワークスペース」を用意し、レンタル工具などを提供。初心者から経験者が楽しめるDIYに関する「ワークショップ」も行う。販売する製品のほか、体験スペースを用意するため、店舗はそれなりの広さだ。
だが、実店舗の開設は、初期の設備投資に加え、人件費、家賃といった固定費が毎月、経営の重しになる。多くのEC企業がリアルへの進出を躊躇、もしくは念頭におかないのにはこうした理由があるためだ。それをECの収益でカヴァーする覚悟で実店舗を構えた…というわけではない。
実は大都のリアル店舗への進出は、大都の取引先である24社のメーカーからの協力が支えになっている。店舗で購入でき、体験できる商品はメーカー24社が取り扱う製品。「DIY FACTORY OSAKA」は、その24社が一定の費用を出し合う、いわゆるメーカー協賛型の実店舗なのだ。「メーカーにこんなことをやりたいと相談したところ、24社が協賛してくれた。それがなければこの実店舗は実現しなかった」と山田社長は明かす。
近年、ホームセンターでは粗利率の高いプライベートブランド製品が増え、ナショナルブランドなどの売り場が縮小しつつある。「DIY FACTORY OSAKA」について、メーカー側にとってのメリットは、売り場を増やすことができることはもちろん。「ワークショップ」などで消費者に直接自社の製品をアピールすることができる。
体験教室などでは、メーカーの担当者が店舗に出向き、参加者に工具の使い方、モノ作りの楽しさをレクチャーする。メーカーと消費者が直につながることで、メーカーが直にモノ作りの楽しさをエンドユーザーに伝えることができるようになる。
山田社長はこう胸を張る。「日曜大工が好きであったりやったことのないという消費者と、いいモノを作っている日本のメーカーをつなげる場所というのが日本のDIY業界には欠けている。この業界に一石を投じるべきだと考え、こうした形態で実店舗をオープンすることができた」
「手ぶらでショッピング」実現する技術でオムニチャネル展開
ECサイトが店舗よりも優れている利点として言われているのが、多くの商品点数を掲示できる点。大都でも、ECサイトで取り扱う商品点数は60万点超だが、実店舗では500点程度に限られる。だが、大都はこのECサイトの利点を店舗にも持ち込み、「手ぶらでショッピング」を楽しむ環境作りにも取り組んでいる。
ある消費者が来店し、店舗に掲示してある同じジャンルの他製品を見てみたいと思ったとき。店舗に用意した専用掲示物をスマートフォンでかざすと、目当てのジャンル商材や製品を掲載したECサイトにアクセスできる環境を整備。もちろん、その場で商品をECサイトで購入し、商品は後日配送センターから配送するといった、手ぶらでショッピングできる環境を用意している。
この仕組みは、アプリ開発などのアクアビットスパイラルズが提供するサービスが支えている。スマホをかざすだけでウェブサイトを開く技術「Tapit(タピット)」を採用した「Carry free(キャリーフリー)」と呼ばれるサービスがそれだ。大都はこのサービスの導入企業1号店になる。
タピットは、近距離無線通信技術のNFCを搭載したスマホを、NFCタグを貼付した掲示物などにかざすと、あらかじめ設定したウェブページを自動的に開くことができる技術。「アプリ不要」というのが特徴で、簡単に導きたいサイトにスマホユーザーを誘導することができる。
「タピット」とQRコードは似たような仕組みだが、大きく異なる点がある。QRコードは1つのURLしか組み込めないが、「タピット」のNFCタグは、誘導先にするURLを自由に設定することが可能。パンフレットにQRコードを載せてしまえば、1つの商品にしか誘導できないが、NFCタグを貼付した掲示物を用意すれば、都度専用システムで指定したページへ誘導することが可能だ。
NFCタグを貼り付けるのはポスターやカード、サンプル商品、案内資料などさまざま。ポスターならば壁さえあれば販促媒体となり得る。小さなスペースであれば、売りたい商品ごとに掲示物を用意すれば、ネットと小売店の売り場が簡単に連動することができるようになる。
このサービスを採用した大都の実店舗では、各メーカーのブースに陳列した商品の近くに、NFCタグ搭載の掲示物を設置。実際に手に取って気に入れば、ECサイトでも購入できるようにしている。もちろん、他のジャンルの商材を探すことも可能だ。DIY製品はかさばるモノが多いので、その場で持ち帰ることができないといった来店者の購入意欲を喚起することができそうだ。
DIY業界では、良質な製品を作るクリエイターが多く存在するものの、そのクリエイターは製品を販売するための売り場の減少に悩んでいるという。大都はECサイト、そして実店舗への進出を通じ、「クリエイターと消費者をつなぐDIYのプラットフォームを作っていきたい」と山田社長は意気込んでいる。
オリジナル記事はこちら:「売るだけならアマゾンでええ」・・・実店舗開設で新たなビジネスモデル作りに挑むEC企業の挑戦(2014/05/16)
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