Google Mapsアプリ
価格:無料
行きたい場所へナビゲート
新しく生まれ変わった Google マップ、もっと便利に行きたい場所を探したり、リアルタイムの交通状況を確認したり、美しい街並みを見ることができます。
「無くなって困るサービスは?」と聞かれれば、多くの人がこれを挙げるのではないか。2012年から現在にかけて、そのデザインが大幅にアップデートされた「Google マップ」だ。当たり前過ぎて「空気のようなアプリ」と森田氏が表す、12年の歴史を誇るサービスがどのようにして生まれ変わったのか。「ユーザーにフォーカスをあてれば結果は後からついてくる」と宣するGoogleのデザインアプローチの実態を探る。
ユーザーは「Google マップ」と「ストリートビュー」で世界中を旅できますが、中の人たちもグローバルなチームのリサーチとフィードバックで、まさにマップをつくりながら世界中を旅していました。
Google系デザインのA/Bテスト至上主義は都市伝説でした(笑)。利益を無視してユーザーの利便性に集中してよいとか、むしろUIデザイナーには天国ではないかと……予想外の話に驚きです。
三度のメシより地図、12年目にして生まれ変わった「Google マップ」
深津:今年の2月に講演されていた様子を動画で拝見しました。そこで、Google マップのコアチームに日本の方がいることを知って、今回インタビューをお願いさせてもらいました。
石塚:日本にもデザインや開発をしている人がいることによく驚かれますが、Googleの開発チームはすごくグローバルなんです。デザイナー、エンジニア、プロダクトマネージャなど世界中のメンバーが密にコミュニケーションを取りながら一つの開発チームとして動いています。
深津:それはGoogle マップに限らず、ですか。
石塚:全体的にそうですね。
森田:最近、Google マップを大幅にアップデートされたんですよね。
石塚:はい、2012年から2013年にかけて大きなアップデートをしました。Google マップには12年という長い歴史があり、ストリートビューやナビなどさまざまな機能を追加してきました。それぞれの機能は今でもすごく便利ですが、社会の状況やユーザーのニーズに変化があるなかで、1つのアプリケーションとして本当に使いやすいのか。優れたユーザーエクスペリエンスを提供できているのか。最初に立ち返って、もう一度地図アプリとしてのデザインを作り直すことになりました。
深津:今までのものを一回リセットして、再定義してみたということですね。端末がだんだんモバイルにシフトしているといった状況の変化もありますよね。
石塚:もちろんです。私たちが最初にGoogle マップを出したときは、まだモバイルやタブレットは存在していなかったですし。今まで築き上げてきた歴史も長いので、大きなアップデートに取り組むに際して、僕たち自身も勇気がいりました。でも、ここで一度立ち返ることが必要だと感じました。
――過去数年のバージョンと新しいバージョンで、大きくコンセプトを変えた部分はありますか。
石塚:とにかく地図を中心としたデザインにしました。これまでメニューがたくさん表示されていましたが、地図をメインにしてそのうえに操作に必要な必要最低限の項目だけを置くようにしました。今現在、モバイルは3つのボタンだけで構成されています。
深津:3つのボタンというのは具体的にどれですか。
石塚:「フォームとサーチ」「現在地のボタン」「左から画面を取り出すボタン」の3つですね。
森田:左から画面を取り出すやつ、なんていうんでしたっけ。僕は「ピョロ」とか呼んでるんですけど(笑)。
深津:「三本線」とか「ハンバーガー」とかいろんな呼び方がありますよね(笑)。正式名称ってあるんですか。
石塚:決まった名称は特にないですね。
――アップデートして、駅とかビルなどでフロアが出るようになりましたよね。
石塚:はい。Android 版では以前からお使いいただけましたが、iOS 版はアップデート以降に追加された機能です。「インドアマップ」と呼んでいて、たとえば複数フロアがある駅やビルなども地図でナビゲーションできるようになりました。施設から地図情報をいただいてGoogle マップに追加しています。
深津:僕は、新しいマップにある「周辺スポット」に興味があります。基本は、ユーザーが探すという能動型がベースなのに対して、この部分だけGoogleが提案するプッシュ型になっていて全体の文脈の中では独特かなって思います。
石塚:いいデザインというのはUIに留まった話ではなく、テクノロジーで補える部分を人に代わってサポートすることだと思っています。その例として「Google Now」がありますが、それと同じ感覚で、Google マップでも近くのおすすめのお店を、検索しなくても自動的に提案しています。
森田:最終的なゴールを明確に持ってロードマップを刻んでいるのでしょうか。すでに10年以上もGoogle マップがあるなかで、どういうタイミングで一度立ち返ろうってなるんですか。
石塚:2005年に初めてグリグリ動かせる地図を出した瞬間から、デジタルの地図に取り組んできました。「我々がその先駆者である」という想いを持って、ブライアン・マクレンドンなどが引っ張ってきたチームです。三度のメシより地図のほうが好きなんじゃないかっていうくらい日々地図のことを考えているので、自然と沸き上がってくるんだろうなって気がします。
A/Bテストよりディスカッション主導で作る
世界で使われる1つの地図UI
――どんなメンバーでデザインしているのでしょうか。横断的にデザインをする人はいますか。
石塚:地図チームのデザイナーやUIデザイナーは、それぞれ担当する地図をメインにデザインしています。ただ入れ替えは激しく、僕自身も地図のチームに入る以前は、Android版Google日本語入力のキーボードのデザインを担当していました。また、チームはすごくグローバルです。僕は乗り換え検索をメインに担当していますが僕が出したアイデアに対して、それがロンドンやシドニーその他の国ではどうか、という話になってきます。
深津:地下鉄の電車の到着時間の正確性は、国によって違いますからね。僕もロンドンに2年くらいいましたけど、30分経っても来ないとかありましたね。日本は秒単位ですもんね。
石塚:そうですね。他国の担当者から指摘を受けた内容を最初はなかなか受け止められませんでした。そのためにデザインを直すのはいいことなのか。それとも自分の信念を貫くべきなのか。悩んだことがあります。
深津:日本のマップとロンドンのマップで機能をローカライズするのではなく、1つのUIを保つのは方針なんですか。
石塚:基本的にはそういうコンセプトです。
森田:最終的に時間の表示はどうしたのですか。
石塚:今は、何時何分に乗り換えるって書いてあります。 電車が時間通りに来ないで、少し遅れてくるということもありますので、表示している時間を目標に動いてもらうという考えで表示しています。
――普段のデザインプロセスってどんな感じなんでしょう。みんなが一番知りたいところだと思うんですけど。
石塚:そうですね。たとえば、僕は乗り換え検索をメインに担当していますが、地図のなかでそれぞれ担当のデザイナーがいるので、その人たちが責任を持ってデザインします。そのデザインが本当にいいのかどうかを確かめるときは、マップチーム全体のデザイナーやプロジェクトマネージャが集まって話し合います。みんながこれでいけるだろうと同意をして話が進んでいく感じです。
森田:その話し合いというのは、あくまで話し合いなのか、それともお互いのプロトタイプを見せ合う感じなのでしょうか。
石塚:いろんな分野に分かれたチームですので、ある程度の形に落とし込んでから集まります。たとえば、乗り換えチームはチームとしてベストだと思うデザインを提案していく感じです。
深津:勝手なイメージですが、日本とかアメリカとか各国の乗り換え案内チームがいろんなバージョンを出して、それをA/Bテストとかで決めるのかなと思っていたんですけど。
石塚:地図チーム全体にデザインを提案して見てもらう理由は、自分たちが思いもしなかったところで使い勝手が他のページと違ってしまったり、同じボタンなのに異なるページで動作が違ったりといったズレを防ぐことが大きいですね。また、ユーザーが困らないかをみんなで確認する意味合いもあります。
深津:「ブックマーク」と「履歴」を並行して作ったら、行ったり来たりしてしまいそうですよね。では、あまりA/Bテストとかはしないんですか。
石塚:A/Bテストという言葉が適切かどうかわからないですが、数パーセントのユーザーに向けてテストを行うことはたまにあります。ただ、すべてのデザインがそのプロセスを経ているわけではありません。
森田:外から見たイメージでは、どんどん自動でテストが実行されていそうな感じがありますけどね。
深津:そうですよね。A/Bテストをクリアしないとデザイナーは1ピクセルも動かせない企業、という都市伝説がありますね。
石塚:(笑)そこまで厳しくはないですね。特に今回Google マップのデザインの大きな作り直しに関しては、比較する対象がなく、一から作っていきました。作り直したユーザーインタフェースを不便に感じる人がいなくても、チームのみんなが自信を持てるものかどうかをひたすらディスカッションしてたどり着いたものを出した感じです。
デザイナーも初期からコミット、アグレッシブなアイデアを出せ
森田:ユーザーの要望はどのくらい聞きますか。それともまったく気にしないんですか。
石塚:ユーザーの意見はとても大切にしています。またユーザーの意見だけでなく、実際にリリースする前に社内で使ってもらう「ドッグフード」と呼ばれるシステムがあり、社内の人たちにまず使ってもらうことで、問題点を発見しています。
森田:マップに限った話でなく、Googleのサービスがアップグレードを行っているとき、以前のバージョンと新しいバージョンが並行する期間が必ずありますよね。どうなったら完全に切り替えるとか、トリガーみたいなものってあるんですか。
石塚:Google マップは去年からユーザーに選択してもらうオプトイン型で使っていただいています。今まさに丁寧に新しいマップを出していっている最中です。技術的にもかなりエッジの効いたことを試そうとしているため、利用環境が異なるユーザーの方にどう受け入れられるのか。モバイルに関しては驚くような変更はなかったので、全面切り替えという形をとりました。
森田:アプリのほうは「あれ、変わったのかな」って感じであまり気にならないくらいですよね。
石塚:気にならないで新しいものを普通に使っていただけるってすごく大切です。
――プロトタイピングはどのようにしていますか。特定の手法を使ったりしていますか。
石塚:特別な手法というのはありません。ブレインストーミングをしてアイデアを練ったうえでいくつかプロトタイピングしています。
深津:作るときは、3種類くらい作ってみて一番良さそうなものをさらに伸ばしていくのか。ある程度こちらが納得できる物を出してみて、テストしてブラッシュアップしていくのか。どのようにしているんですか。
石塚:数を準備するとその分工数もかかりますから、僕たちが自信を持てるものを作って、という感じですね。そして、それが本当に機能するかをディスカッションする。やはり何より難しいのは、さまざまな地域にいるメンバー間のコミュニケーションですね。
深津:遠隔で、しかも普段会わない人にプレゼンテーションするんですもんね。
石塚:そうですね。コミュニケーションはデザインするのと同じくらい大変です。育ってきた環境も、考えていることも違うのに、同じ方向を向いて進んでいかなくてはいけない。
森田:おっしゃるとおりです。
石塚:自分が作ったデザインに納得してもらうためには、まず信頼関係を築くことが必要です。ただ、ミーティングはきっちり1時間と決まっていて、あくまで掲げた議題に集中して議論する場です。そこで人間関係を築くのは難しいので、別途カジュアルに話す「バーチャルコーヒータイム」という場を設けています。
深津:ミーティングというのは、マップチーム全体の会議なのか、それとも乗り換えにコミットするチームの会議なのか、どちらですか。
石塚:マップチーム全体ですね。どこかに詳しくなり過ぎているだけではダメなので、必ずマップチームの一員として全体のことを把握することが求められます。
深津:デザインチームはどのタイミングからコミットすべきかという話についてどう考えていますか。世間的には、「仕様や実装が決まってから、じゃあかっこよくして」みたいな感じで降りてくることが多いと思うんですけど。
石塚:僕たちは開発プロジェクトが始まるときに、デザイナーだけではなく、UXチーム、UXリサーチャーも含めてどんなプロジェクトにするかを話し合います。デザイナーとして最初のアイデアを考えることも重要です。「もっとアグレッシブなアイデアを出してくれ」って言われますね。
深津:最初の段階でプロダクトチームと同格でフラットなディスカッションをする。世の中がもっとそうなるといいですね。
収益のことは考えずに、ユーザーのことだけを考えてデザインする
石塚:僕たちデザイナーは、入社したときから「収益のことは考えてはいけない」と言われています。とにかくユーザーのことを考えて、ユーザーがハッピーになるようにデザインすることだと。
深津:デザインで収益の問題を解決するんじゃないんですね。
石塚:UXに限らず、すべての製品に関して単体でのROIは全く考えていません。ユーザーにとっていいものを作らないと使ってもらえないからです。
森田:なるほど、他に向く方向がないということですね。
石塚:新しいデザインや新しいテクノロジーを、どうすればもっと便利にできるか。どんなことができたらユーザーにとって便利になるのかを、まず考えますね。
森田:それってすごくキャッシュフロー的に恵まれている会社だとしかいいようがないんですけど、収支のことを個別に考えても意味がないって話ですよね。
深津:調べ物をするときに、とりあえずGoogleを起動するという世の中になれば、あとは稼ぎやすい部署が稼いでくれるでしょって感じですね。
石塚:僕たちが入社して言われたのは、ユーザーにフォーカスをあてれば結果は後からついてくるってことでした。そういう意味では本当に恵まれた環境ですね。
バックボタンの不在:プラットフォーム間のつじつまあわせ
――AndroidとiOSは、同時に作っているんですか。
石塚:すべてのプラットフォームに優れたUXを提供したいので、基本的には同時です。バックエンドの問題などでローンチのタイミングが少しズレることはありますが、ほぼ同時期にデザインしています。
森田:Google マップというプロダクトにプラットフォームごとの担当者がいるのか。一人ひとりがAndroidとiOSの乗り換え案内を両方担当しているのか。どのようにしていますか。
石塚:もちろん両方担当しています。今は家ではタブレット、外ではスマホ、会社にきたらパソコンなどデバイスの使い方もさまざまです。どのデバイスやプラットフォームでも同じように使えるように共通性を持ってデザインしています。Androidにはバックボタンがありますが、iPhoneにはバックボタンがないといった違いがあるので、そこはそれぞれのプラットフォームでユーザーが慣れている方法を考えて作り直したりしますね。
森田:実際、違和感を覚えないですよね。それってすごいですよね。
石塚:ありがとうございます。
深津:あのつじつまを合わせるのとか大変そうって思いますもん。
――いちばん苦労したことはありますか。
石塚:そうですね。作り上げるスケジュールはかなりタイトだったと思います。世界共通で1つの画面で実装する。日本でもアメリカでもヨーロッパでも動く乗り換え検索を作るので、現地の人が便利に感じる画面を作ることの難しさを感じましたね。
深津:ショートサイクルでやっていると、フィードバックが戻ってくるまでの時間もないですよね。
石塚:そうですね。普段、日本でマップを使っている私が他の国へ行き同じマップを使っても、土地勘のない旅行者の使い方になってしまいます。それでは現地の人の毎日生活する中での使い方を知るのは難しいです。
深津:デザイナーとリサーチャーは分業されているんですか。デザイナーが自分でリサーチしないと気が済まないとか、そういうのはありませんか。
石塚:それは決してないですね。新たにリサーチをお願いしたり、過去のリサーチ結果を参考にすることもあります。もちろん、出張がてら行ってみて使ってみることもあります。
空気のようなアプリにほどこす攻めのアップデート
森田:今ではGoogle マップは空気みたいになっていますよね。便利なんだけど、当たり前過ぎて「あぁ良かった」っていう感覚は少なくなってきていますよね。
深津:当たり前すぎてスマホの電源が切れたとき、圏外だったときに急に困る(笑)。
森田:昔、いい大人になのに地方で本気で迷子になったことがあって。当時はガラケーの頃だったので、iアプリ版のGoogle マップで使いにくかったけど、それでも自分の現在地がわかって救われたことがあります。便利なものは、ユーザビリティの良し悪しに関わらずとも劇的なエクスペリエンスを提供できるんだなって実感しました。
深津:僕は下調べをしないで国内旅行に行って、電池が切れて、カレンダーとマップにアクセスできなくなったときの、急に自分がぐわーって縮小していく感を覚えています(笑)。Gmailとマップとカレンダーはもう身体の一部に含まれているんですよね。
森田:そうそう。それを勝手に自分の処理能力の一部として錯覚しちゃっているんですよね。しかし実は電池がないと何もできない(笑)。
深津:Googleの話というよりはご自身の話かもしれないですが、地図に目指すものは何だと思いますか。俺と地図みたいな(笑)。
石塚:そこまで壮大に語っていいのかわからないですが(笑)。どういう地図が本当にいいものかは難しいですが、地図を作っていて嬉しいのは常に皆さんのポケットの中にいて生活に役立っていることです。また、困ったときに助けられる。非常時でも人の生活を支えられるのはとてもやりがいのあるプロダクトですね。
深津:Google マップを見ていると、わりと変化を恐れないでアップデートしている感じが攻めているなと思いますね(笑)。たとえ機能改善だとしても、習慣をチェンジすると瞬間的にユーザーの満足度がぐんと下がる可能性があります。大きな会社だと普通は怖がっちゃうんですけど、その攻めの姿勢はすごいなと思いました。
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