予算200万円からトライアルとして実行できるOne to Oneマーケティングのアイデアを紹介し、スモールスタートの可能性を探っていく本連載。第3回となる今回は、リアル店舗とECサイトを併用する「オムニチャネル顧客」に向けて、データに基づいた個別のおもてなし=パーソナライズド・エクスペリエンスを提供する方法について解説する。
2014年は「オムニチャネル元年」になると見られており、デジタル&リアルチャネルでのシームレスな購買利便性が大手小売業を中心に構築されつつある。
そんな中、ECとリアル店舗の両チャネルを利用する「オムニチャネル顧客」の存在が注目されている。
- リアル店舗 → 地理的に近い顧客
- ECサイト → リアル店舗から遠い顧客
この一見妥当に思える図式は、先進的な小売業で得られた知見によると「誤解」として否定されつつある。むしろ、リアル店舗を利用している顧客がECサイトも同時に利用しており、そうした顧客のブランドや売上に対する貢献度は相対的に高い。
オムニチャネルが本格化し、複数のチャネルが利用されるようになると、接触・購買データを企業に提供する「オムニチャネル顧客」も増加する。このような顧客がシームレスな購買利便性の次に求めるものは、データに基づいた「私だけのおもてなし」となる可能性は高そうだ。
そこで今回は、予算200万円程度から始めることができる「オムニチャネル顧客へのパーソナライズド・エクスペリエンス」について考えてみたい。
ブランドや売上に貢献する「オムニチャネル顧客」
アマゾンと大手小売業(米国ではウォルマート、国内ではイオン、セブン&アイなど)との競争激化を背景に、商品の「認知」「検索」「注文」「支払」「受取」をデジタル&リアルチャネルでシームレスに実現するオムニチャネル化が進行している。また、スマートデバイスの普及により、商圏顧客をGPSで特定し、リアルタイムで来店促進を図るO2O施策も行われている。その結果、デジタルチャネルとリアルチャネルを行き来する顧客データも把握・分析できる環境が整備され始めている。
ここで気になるのが、リアル店舗を有する複数の大手企業から聞かれる次のような声だ。
ECとリアル店舗を併用する顧客(オムニチャネル顧客)は、片方しか利用しない顧客よりも、ブランドへの愛着や売上貢献度が高い。
たとえばウォルマートは、ECで注文した顧客のうち、店舗での商品受け取りを選択した顧客の60%が、来店したときに平均60ドルの付加購買(ついで買い)をしている事実を発見した。
また、別の大手小売業担当者も「リアル店舗=距離的に近い顧客、EC=距離的に遠い顧客という図式は思い込み。実際に検証してみると、リアル店舗もECも利用する顧客セグメントが明確に存在し、売上貢献度も高くブランドファンになる」と語っている。
「パーソナライズド・エクスペリエンス」で顧客の心をつかむ
このような「オムニチャネル顧客」は、特に国内市場で人口減少が加速するなか、企業が持続的成長を図るうえで非常に重要な存在だ。それでは、シームレスなチャネル接触を経験したオムニチャネル顧客が次に求めるものは何だろうか?
こうした顧客は、すでに複数のチャネルで自らの時間と金銭を投資し、さらに自らのサイト行動データや購買データを企業に提供しているので、データに基づいた「私だけのおもてなし」を求める可能性が高い。先進事例として、すでにアルゼンチンのホームセンターRibeiroがオムニチャネルでのOne to Oneを実践し、前年同期比600%の売上を達成している。具体的には、次に挙げる3つのパーソナライズド・エクスペリエンスが求められそうだ。
- 商品・サービス
顧客データ(属性・購買・位置データ等)に基づくパーソナライズド・レコメンド。
たとえばリアル店舗内の位置データを把握し、顧客のスマホアプリ上や店内貸出タブレット上で商品・サービスを自動レコメンドして「ついで買い」を促進するといった施策が考えられる。
- プロモーション(販売促進)
顧客データに基づくパーソナライズド・プロモーション。
たとえば一定期間で複数のチャネルを利用するほど、より有益なポイント・クーポン・各種優遇を個別に提供して、オムニチャネル利用を維持・向上させる施策が考えられる。
- コミュニケーション
顧客データに基づくパーソナライズド・コミュニケーション。
たとえばリアル店舗内での位置情報や商品バーコードと連動したスマホアプリ上での各種情報・ストーリー閲覧、リアル店舗で親しくなった販売員によるECサイト上での遠隔接客・自動メールなどによるエンゲージメント促進施策が考えられる。また、店頭ならではのタイムセール・イベントなどの様子を顧客の好みに合った形で動画配信し、リアル店舗のライブ感をECサイトでも体感できる仕組みも考えられる。
特に日本の小売業においては、人口ボリュームの多いシニア層でどれだけオムニチャネル顧客を創出できるかがポイントとなるのではないか。そうであれば、シンプルな使いやすさをともなうパーソナライズド・エクスペリエンスをすべてのチャネルで提供することが求められると考える。
早期のパイロットプロジェクトで有効性を見極め
さらなる投資と全体施策への足がかりに
それでは、前述のようなオムニチャネルにおけるパーソナライズド・エクスペリエンスを実現するにはどうすればよいのだろうか。具体的には、顧客データの統合はもとより、たとえば次のような機能が必要となる。
- 顧客データ分析・ターゲティング
- 各種コンテンツ・プロモーションの最適化
- モバイルを含めたマルチデバイス対応
これらは、単機能であれば低価格CMSや外部ツール・サービスを利用することで200万円程度の予算からでも導入できる。
たとえば、クッキーベースによるWeb上でのコンテンツ出し分けやメール個別配信などが可能だ。しかし、これだけでは施策レベルのパーソナライゼーションのため、個別のKPIは改善できるかもしれないが、売上などのKGI(最終的な成果指標)へのインパクトまでは証明しにくい。
理想は、購買ファネル全体を見据えたシナリオ自体のパーソナライゼーションである。そのためには、すべての機能が統合された高性能CMSを導入することが有効であり、そこで初めて単なるコンテンツマネジメントを超えた真のエクスペリエンスマネジメントが実現できる。
しかし、導入規模とコストが大きくなればなるほど、動きは遅くなってしまいがちだ。
そこで、小規模でもよいので「オムニチャネル顧客」をECサイト会員、リアル店舗会員のフラグなどを用いて特定し、その顧客データとCMSを連携しながら、パーソナライズド・エクスペリエンスの有効性を確かめるパイロットプロジェクトを立ち上げることをお勧めしたい。
スピードを重視する理由は、現時点ではオムニチャネル顧客の数はそれほど多くないという状況がほとんどだと思われるからだ。顧客規模の小さなうちにPDCAを回しつつ、顧客規模の拡大を見越した知見=マーケティング・インテリジェンスを競合に先んじて蓄積することが強力なアドバンテージになるわけだ。
そして、パーソナライズド・エクスペリエンスの有効性や妥当な投資対効果が得られることが証明されれば、より本格的な全体施策に取り組みやすくなる。
将来的に数千万円~数億円のインパクトが期待できる事業であれば、200万円というコストは決して高くはないはずだ。それ以上の成果が期待できる事業規模や成長可能性があるなら、さらなる投資として高性能CMSを導入することで「高度なパーソナライズド・エクスペリエンスの提供」→「オムニチャネル顧客の愛着と売上アップ」→「売上アップ」という好循環をもたらすことになる。
パーソナライズド・エクスペリエンスの有効性を実感し、いち早く投資してすぐに取り組むことこそ、競合に差を付けるために今すべき賢明な意思決定といえるだろう。
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オリジナル記事:ECもリアル店舗も使うコア顧客に「私だけのおもてなし」を提供してファンを増やそう [予算200万円から始めるOne to Oneマーケティング] | Web担当者Forum
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