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カスタマージャーニーマップで顧客の心を見つめてサイトを改善、5つの作成ステップと7つの実例 [実践! プロも使うラピッドUX手法] | Web担当者Forum

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この記事を読むのにかかる時間: 約 9.5

このコーナーでは予算を掛けず、お手軽にUXプロセスを社内導入するためのテクニックを紹介していく。

実践! プロも使うラピッドUX手法

今までカスタマージャーニーマップなんて作らなくてもウェブサイトを構築してサービス提供できている。マップを作ったところで何がわかるようになるの? それに素人には作れないんでしょう?

顧客体験をカスタマージャーニーマップ化する」というフレーズを、商品・サービス開発の事例やウェブマーケティング関連の記事などで最近よく耳にすると思う。近年さまざまな分野で注目されつつあるカスタマージャーニーマップだが、上記のようなこのような疑問をもつWeb担当者の方は多いのではないだろうか。

カスタマージャーニーマップのサンプル
あるウェブキャンペーンを想定したカスタマージャーニーマップ。社内作成用のパワーポイントをダウンロードする

確かに経験ゼロの状態からカスタマージャーニーマップを作るのは難しいが、簡易的なマップであれば、5つの基本ステップを押さえることで、社内のメンバーだけでも作ることができる。

今回は、カスタマージャーニーマップがなぜ注目されているのか、その背景を知識として知ってもらうだけでなく、実際のプロジェクトに活かす方法について紹介する。記事で解説する5つの作成ステップや事例を参考に、ウェブサイト改善に役立ててもらいたい。

この章のポイント
  • 複雑化したUX(ユーザーエクスペリエンス)を一枚のマップとして俯瞰することで、ユーザー理解が容易になり、多くの関係者にインサイトを共有できるツールとなる。
  • アンケートやインタビューなどの調査結果を基に、顧客が事実としてどのような体験をしているか、複数名による付箋を利用したブレストで洗い出し、マップの原型を作る。
  • AS-IS(現状)とTO-BE(あるべき姿)の2段階のカスタマージャーニーマップを理解する。
  • ゼロから作るのは難しいが、5つのステップを押さえれば比較的簡単に作成できる。

消費者行動を可視化し、顧客の気持ちを見つめなおそう

まず、どのようなアウトプットなのかを知ってもらうため、第3回で掲載したカスタマージャーニーマップを再掲する

カスタマージャーニーマップの構成内容

これは仮想のウェブキャンペーンのカスタマージャーニーマップだ。キャンペーンの対象ユーザーがどのようなタッチポイントで情報に接触し、どんなことを考え感じながら行動しているのか、アンケートによって調査し、マップ化したサンプルである。

一昔前までは、AIDMAやAISASのような消費者行動モデルを基礎として、もっとシンプルな企画展開図を書くことが多かったが、現在のようにチャネルを横断し、スマホなどのモバイル利用とSNSを絡めたようなキャンペーンとなると、従来の行動モデルで絵を描いても通用しなくなっていることは多くの方が感じているだろう。

キャンペーンに限らず、ウェブサービスの機能やコンテンツあるいはプロモーションが、リアル店舗での販売促進と連携するO2O戦略とつながったり、日常的なソーシャルメディアで顧客接点を拡大する施策も加わったりする昨今では、戦略や施策に応じて顧客体験はさまざまに変化するため、個別の行動モデルを組み立てる必要がでてきた訳である。

それを図式化するフレームワークとして、主に時間軸で利用シーンを順に追い、複数のチャネルやタッチポイントのなかで顧客がどのようにアクションしてゴールまで到達するのか、その過程でどんな気持なのかを表現するのが「カスタマージャーニーマップ」の基本形だ。

百聞は一見に如かず! マップを中心にしてコンセンサスをとろう

カスタマージャーニーマップには、顧客体験や行動モデルを可視化する以外に、もう1つ重要な役割がある。

第3回に挙げた典型的な例は、キャンペーンを企画立案して上司に提案した際、「ユーザーは、想定した企画の通りに動くものなのか?」という問いに対する、ファクトベースの説得材料という位置付けでカスタマージャーニーマップを利用するものだった。

この上司との問答はたとえ話だが、Web担当者は上長だけでなく相当数の関係者や部門との折衝を行うことになる。たとえばチームを組んでいる営業企画やマーケティング担当、媒体やプロモーションを統括している宣伝担当、自社サイト運用や顧客情報を管理する情報システム担当など、さまざまなステークホルダーが関係する。

企画の目的・目標、成果の数字など企業側のベネフィットを伝えるには企画書だけでもよいのだが、さらにUXを考慮し、ユーザー側が「喜んだり」「楽しんだり」「満足できる」企画であることを一枚のマップで示すことで、だれが見てもインサイトを得やすく、コンセンサスを持続させる効果を発揮するのである。

カスタマージャーニーマップはインサイト共有ツール

また企画が承認された後に、代理店や制作会社などの社外関係者と共同で企画を実現していく際にも、カスタマージャーニーマップを示すことで顧客視点を第一に考えるスタンスを共有できる。

カスタマージャーニーマップ作成5つのステップ

カスタマージャーニーマップの作成は、自社または競合など含めた「商品・サービス」やウェブサイトの「利用前・利用中・利用後」の行動文脈を、5W1H化して調査することから始まる。

簡易カスタマージャーニーマップ(AS-IS)作成までの流れ
カスタマージャーニーマップ作成5つのステップ
  1. 企画立案
    ウェブサービスの機能・コンテンツ検討、キャンペーンなどの企画
  2. 5W1H分解
    ユーザーの体験を5W1Hに分解し、利用シーン毎の行動や気持ちを想定する
  3. 定量調査/定性調査
    5W1Hの想定のうち不確かな体験の状況をユーザーから引き出し、具体化する
  4. ラフマップ化
    調査データをもとにメンバーで議論し、ユーザー行動の文脈やモデルを明らかにする
  5. マップ化
    AS-IS(現状)の行動モデルをマップ化し、関係者との共有・合意形成の場で利用する

第3回では、上記の流れに沿って、キャンペーンの「企画立案」「5W1H分解」「定量調査(アンケート設計)」までの詳しい進め方を紹介した。

調査方法については、前回はWeb担当者が日頃から利用する「アンケート設計を工夫したユーザー行動調査」を取り上げたが、アクセス解析ツールを導入していれば、ウェブサイト内の行動パターンを分析して類推することも可能だ。

アンケートやアクセス解析のような定量調査だけでなく、実際のユーザーを観察することも大切だ。たとえば、第2回で紹介した「フォトダイアリー」のように、消費者目線で利用状況や体験を把握したり、ユーザーが商品・サービスを利用する様子を行動観察するなどの定性調査によって、顕在化していないニーズや本音を発見できる場合があるからだ。

もし、調査の時間もコストも余裕がない場合は、社内の想定ユーザーに当たってみよう。ターゲット属性にマッチする社員を探し、30分でも構わないので数名に“ヒアリング”することをオススメする。インタビューというと堅苦しい感じもするが、普段どのように該当する商品・サービスやそのウェブサイトを利用しているかを5W1Hで根掘り葉掘り聞き取るだけでも十分な収穫がある。

社員へのヒアリングなら簡単にできる

アンケートやアクセスログデータからは得られない対話による実話のエピソードに耳を傾けると、カスタマージャーニーマップの感情面がとても現実的になり説得力が高まる。社内ヒアリングは、調査に掛ける予算がない案件の場合に弊社でもよく実施している(属性条件にあう同僚や知人などを調査対象にする方法を「機縁法」といい、標本抽出法の1つとして成立している)。

付箋を使ったブレストで、ラフマップを作りあげよう

調査が終わったら一足飛びにマップ化に進みたいところだが、まずはチームでブレストを実施する。チームメンバーを3~4名ほど誘い、社内の会議室を予約して、ペンと付箋5色程度と、模造紙を貼る養生テープなどを準備するだけでOKだ。規模にもよるが、3~4時間ほどのまとまった時間を使って進める。

ポストイットの強粘着タイプ5色パックと、プロッキーが最適

なお、付箋は“強粘着”タイプがホワイトボードに貼っても落ちにくいのでオススメだ。また、シャープペンやボールペンは字が読みにくいので使用しないこと。裏写りしない太めのペンが付箋ブレストには適している。準備ができたら、下記の手順のように付箋ブレストを進めてみよう。

ラフマップ作成のための付箋ブレスト手順例
  1. ホワイトボード左側に、「ステップ」「チャネル/タッチポイント」「行動」「思考」「感情」「課題」の区分けを作る。
  2. ターゲットユーザー像を簡単にまとめて、ホワイトボードの「行動」の下に貼る。
  3. 「行動」の領域に、アンケートの自由記入や社員ヒアリングで聞き出した“事実”を、時間軸が右に流れるように貼っていく(あくまでも“ターゲットユーザー像”の行動にフォーカスを当てること)。
  4. 行動の流れが少し見えてきたら、その個々の行動の出来事を総称する「ステップ」を書いていく。
  5. 行動に登場する人やモノ、お店、ウェブサイトのような「タッチポイントやチャネル」を書き出していく。
  6. ターゲットユーザー像である人物が考えていることを「思考」に書いていく。
  7. ターゲットユーザー像である人物の感情の起伏をイメージし、曲線的に「感情」を描いていく(曲線の山や谷に、その気持ちを足すとよりよい)。
  8. サービス提供側に対する直接的な不平不満、ビジネス上の問題など「課題」を洗い出す。

この付箋ブレストの肝は、ある人物の行動をトレースするように事実を組み立てる点にある。そのため、ターゲットユーザー像を必ず考えたいのだが、最もやりやすいのはヒアリングした社員の簡単なプロフィールと特長を10項目程度挙げることだ。簡易ペルソナとまではいかなくても、そこに写真を貼ったりイメージイラストを描いたりすることで、ブレスト参加メンバーの意識をあわせられる。

簡易なプロフィールと、そのサービスに関連するその人の特長などを箇条書き

このように付箋を利用したブレストを実践してみると、複数の目を通しながら事実をつなげていったほうが、担当者1人でラフマップを考えるよりも客観性が高くなり、より取りこぼしのないマップができあがることがわかるはずだ。また、メンバー同士がお互いに意見を交わすことで、チーム内の一体感も醸成される。このブレストはマップ作りだけでなく、チームマネジメントとしての効能も持っているのだ。

最後に、ブレストが終わったらスマートフォンでも携帯でもいいので写真を取り、そのデータをパソコンに取り込みパワーポイントなどに貼り付けよう。そして、その付箋ブレスト写真の上から、「ステップ」「チャネル/タッチポイント」「課題」などの分類を書き込む。

次にステップごとの「行動」について、順序よくまっすぐ物ごとが運ぶ場合であれば「矢印」や「直線」で、繰り返しや複数回のサイクルがあれば「円状」に、目的はあるが道草を食ったり脇道に逸れるのであれば「曲線」で表すなどしてみよう。

こうして、顧客行動の流れを俯瞰して再定義する作業を経れば、もはやAS-ISのカスタマージャーニーマップの下書きはできたのも同然である。これをサンプルのパワーポイントデータなどを利用して清書すればよい。

一連の顧客体験を俯瞰することで、改善点も浮き彫りに

カスタマージャーニーマップに顧客の体験を描きだすと、現状の“AS-IS”が良い体験ばかりではなく、良くない体験も混在していることが往々にしてある。あるいは、顧客は良い体験だと現状で満足しているため、実はもっと良い体験ができる可能性を見逃していることもある。そのような直接的に見えてこないニーズというものが、点と点でしかなかった接点ごとの行動を「線」として文脈化することで顕在化する場合も多い

付箋ブレストの最下部には“サービス提供側の「課題」”も浮き彫りになっており、感情のポジティブ/ネガティブの度合いを線状にプロットすることで、課題や問題を含んだネガ体験の箇所も特定されている。次の“TO-BE”のカスタマージャーニーマップでは、それらの課題が改善された状態の“理想的なシナリオ”を模索していくことになる。

カスタマージャーニーマップの形はさまざま、7つの実例&サンプル

最後にカスタマージャーニーマップのバリエーション例を紹介したい。

顧客体験は、対象とする商品・サービスの業種業態、ウェブサイトの機能やコンテンツによって多種多様で1つの型には収まらない。たとえば、数年に一度しかないようなクルマの購入や保険選びの体験と、毎日消費するような飲食物の購入やニュースの閲覧の体験では、時間軸やサイクルが相当異なる。

今回の記事では、時系列による標準的なカスタマージャーニーマップを事例として挙げているが、いくつもの表現スタイルがある。下記にいくつかの例を挙げたので、読者の方が関わる提供サービスが今回取り上げたマップ形式に適合しない場合は、いろいろなカタチへ柔軟に変化させてみるとよいだろう。

タイムライン型

Sarah's Broadband Provider Journey

制作:effective UI Inc.(出典元

女性が引越しによってプロバイダを変更する体験をマップ化している。

上段では主な思考を文字でシンプルに記し、中段では感情の起伏を曲線によって表現することで、サービスへの満足や不満足につながっていることを明示している。そして、下段ではその体験のサマリーと改善方向性を示している。人物イメージ写真を添えてあるのも効果的で、顧客体験に占める心境の変化を視覚的に表わした好例である。

Exploratorium Visitor Experience Map

制作:Adaptive Path(出典元1、出典元2

博物館への来館前、来館中、来館後までの一連の体験を、複数の利用者属性を観察し総合的にマップ化している。1つ目のマップには、タッチポイントの詳細とそれぞれの段階における行動と思考(疑問)が記述されている。

一方、2つ目のマップでは、「地元民」「旅行者」「家族」のようなターゲットごとのアイコンで示し、それぞれの属性の特長的な行動や思考を別記している。複数のターゲット層が利用するサービスやサイトのマップ化には、このようなまとめ方も参考になるだろう。

Customer Experience Map :
Completing a tax return for the first using the online channel(current state)

制作:desonance(出典元

体験に多くの事象や手順がある場合は、タイムラインは横方向に進むが、フェーズごとの展開は縦に進ませて多くの情報を一覧化してもよい。

この例では、税金の払い戻しをネットで行うという体験がまとめられている。上段ではフェーズごとに細かな手続きが書かれており、フローチャート的に矢印で進む/戻るなどの表現も記されている。

中段では、感情のポジティブ/ネガティブをプロットしており、下段ではネットや冊子、人などのタッチポイントの詳細が書かれている。かなり広範囲で詳細な体験を、一枚の縮図にまとめた例である。

Social Gamer Experience Map

制作:nForm User Experience Consulting Inc.(出典元

これも体験に多くの事象や手順がある場合の例だ。こちらはタイムラインを横方向へどんどん伸ばした例である。

この例では、ソーシャルゲームの体験について、ゲームの購入前の過程から、購入、ゲーム中、ゲーム後の共有まで詳細化しており、ネットやクチコミによるタッチポイントなどをアイコンで示している。タイムライン型ではあるが、フェーズによっては円状のサイクルで途切れており、必ずしも一直線ではない行動や体験の表現の参考になる。

ホイール型

Designing the Experience - Example WOW

制作:LEGO(出典元

これはLEGOが社内で体験(WOW)を定義・設計するために利用しているテンプレートだ。これまでに挙げた、横方向のタイムライン型のマップと異なる、ホイール型のマップである。

このサンプルではロンドンからニューヨークに行くまでの旅程の体験が記述されている。円の中心部には、対象となる人物の概略が書かれており、その周囲は「体験前」「体験中」「体験後」というフェーズに分けられている。また、それぞれのフェーズで起きるできごとが一文で書かれており、そのときの感情を顔アイコンで示している。

旅程の行き帰りのように、循環するような利用サイクルを持つサービスやサイトの場合には、このようなマップ表現も可能だ。

Customer touchpoint map

制作:Trainiac(出典元

もう1つのホイール型マップは、顧客の体験をイラストで示した例だ。

空港を利用する旅客のオンライン予約から始まり、チェックイン、荷物検査、待ち時間、搭乗、到着、荷物受取など、それぞれの過程の個々のタッチポイントに焦点をあて、顧客の利用シーンをイメージできるようになっている。一回転した最後に顧客からのフィードバックが入り、次のサイクルに向けて改善していくスタンスもわかる構造だ。このマップは、航空会社の社内教育用に利用されており、部門ごとに顧客体験を向上させるために役立っているという。

スペース型

P2P CAR SHARING : The Borrower's Customer Journey

制作:Mark Simmons(出典元

スペース型は、まさにマップを擬似的な地図として表し、顧客が移動する体験も含めて俯瞰的に見られるようにしたものだ。

この例では、個人間カーシェアリングサービスの入会から予約支払い、利用、返却などの手順を追って、借り手と貸し手のタッチポイントごとの顧客体験を記述している。屋外や街中の移動をともない、タッチポイントが物理的な店舗やビル、またはクルマや交通手段のような施設の場合は、地理的な表現がわかりやすい場合もある。

今回のポイント
  • カスタマージャーニーマップによって顧客行動や心理を「文脈」として捉え、その一連の体験のなかの「顧客価値」を洞察し、アイデアや戦略を生むための土台とすること。
  • プロジェクトチームや関係者内で、顧客体験を一枚のマップとして作成・共有することで、「顧客中心」の方針共有や合意形成が図れること。
  • カスタマージャーニーマップには標準的な構成内容が定義されているが、業態や分野、顧客の利用サイクルなどによってマップの表現方法は多様にあること。
この記事の筆者
ユーザー 佐藤哲(IMJ) の写真

佐藤 哲(さとうてつ)

株式会社アイ・エム・ジェイ R&D室 UXD unit
マネージャー/アートディレクター/UXアーキテクト
HCD-Net認定 人間中心設計専門家

株式会社リクルートにて様々なウェブサービスのUI設計・改善に従事。コンサルティング会社、ウェブデザイン会社を経て、現在に至る。

  • 株式会社アイ・エム・ジェイ
  • マルチデバイスLab.
  • UXD/HCDワイワイCAFE
    企業や組織の垣根を超え、UXデザイン(User Experience Design)、HCD(Human Centered Design)の普及・啓蒙を目的とした、「UXD/HCD ワイワイCAFE」を定期的に開催しております。「第一線で活躍する講師、フランクな場」のセミナー・ワークショップを企画しており、ウェブ担当者の方の継続的な学び、交流を深める場となっております。
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