本連載も今回でいよいよ最後だ。「Google アナリティクス入門講座」というコーナーだったが、時には少し難しい内容だったかもしれない。
さてユニバーサル アナリティクスが公開されて約1年が経つが、まだ一部の機能で標準のアナリティクスに追いついてないため、本連載ではほとんど触れることはなかった。連載の最後を締めるにあたって、ユニバーサル アナリティクスの魅力についてお伝えして幕を閉じたいと思う。
いつユニバーサル アナリティクスへ移行すべきか?
ユニバーサル アナリティクスへの移行をいつすべきかについてまず述べておこう。移行に関しては大規模サイトと個人ブログで同じ対応になるはずもないので、自分の事情に合わせるのが基本だ。現在標準のアナリティクスで提供している機能がユニバーサル アナリティクスではまだすべてリリースされていない。すべてリリースされた段階で、本格的に移行のスケジュールを考えても遅くはないだろう。
Googleは標準のアナリティクスから早くユニバーサル アナリティクスへの移行を進めたいと考えているようだが、ユーザーの事情を無視して無理やり拙速に移行を強制するようなことは考えにくいので、自分のタイミングで準備を進めておくのがよいだろう。
現在のユニバーサル アナリティクスの状態
ユニバーサル アナリティクスとはその名前が示すとおり、「ユニバーサル」な分析ができるというのが本質だ。つまり、最大の「売り」は次のようなことだ。
オンラインもオフラインも一元的にデータを扱えること
オンラインでもcookieでしか紐付けられなかった「ユーザー」を、デバイス間でも同一の「ユーザー」と判別できるような仕組みを提供すること
(つまり、ブラウザが違えば違うユーザーとして判定していたのを、同一ユーザーと判定できるようにする)
しかしその機能のフルリリースがなかなか見えてこない。
ユニバーサル アナリティクスのリリースから1年経った今でも、標準のアナリティクスで提供している機能に追いついてない部分がある。図1は新しいプロパティを作成するときの画面だ。
「トラッキング方法を選択」の部分では、「ユニバーサル アナリティクス」と「標準のアナリティクス」を選択でき、デフォルトでは「ユニバーサル アナリティクス」が選択されている(図1赤枠部分)。
しかし、標準のアナリティクスで提供していて、ユニバーサル アナリティクスが提供できてない機能がまだあるのが現状だ(図1青枠部分)。
具体的にどの機能が使えないか、あるいはレポートを見ることができないかをピックアップしたのが下のリストだ。標準のアナリティクスでこれらの機能を1つでもよく利用している場合は、当然ユニバーサル アナリティクスへの移行はできないだろう。
- トラッキングコードのカスタマイズがまだ用意されていないために、使えないレポート(2013/3/13時点):
- [ユーザー]>[ユーザーの分布]>[サマリー]レポート
- [ユーザー]>[ユーザーの分布]>[年齢]レポート
- [ユーザー]>[ユーザーの分布]>[性別]レポート
- [ユーザー]>[インタレストカテゴリ]>[サマリー]レポート
- [ユーザー]>[インタレストカテゴリ]>[アフィニティ カテゴリ]レポート
- [ユーザー]>[インタレストカテゴリ]>[購買意向の強いカテゴリ]レポート
- [ユーザー]>[インタレストカテゴリ]>[他のカテゴリ]レポート
- [行動]>[ウェブテスト]
- 機能がまだ用意されていないもの:
- AdSenseデータとの連携(管理画面上は連携できるように見える)
- AdWordsのリマーケティング機能との連携
- DoubleClick for Advertisersとの連携
ユニバーサル アナリティクスが拓く新しい世界、3つの魅力
そんな現状は押さえたうえでも、ユニバーサル アナリティクスが今後見せてくれる素晴らしい世界について触れておく必要があるだろう。
これから述べる新しい機能で1つでもおおいに活用する価値があるようなら、ユニバーサル アナリティクスへの移行を今から準備しておくべきだろう。
筆者が考える素晴らしい機能を3つだけ簡単に紹介しておきたい。それが下記だ。
- Web以外のデータもイベントなどに取り込む機能
- マルチデバイス利用をユーザー単位でつなげる機能
- 外部データ連携機能
簡単に1つずつ解説していこう。
Web以外のデータもイベントなどに取り込む機能
技術的なことは詳しく述べないが、ユニバーサル アナリティクスでは「Measurement Protocol」というデータ収集手順に準じたデータを取り込むことができる。インターネットにつながったデバイスでの何らかの行為を、このMeasurement Protocolに則ったデータで飛ばすことで、Webサイト以外の行動データなどを取り込むことができるというものだ。もちろんデータ収集のためのシステムを作らないといけないので、ハードルは決して低くはないが。
公式サイトで2つの事例を紹介しているので、興味のある方は以下を読んでみるとよいだろう。
マルチデバイス利用をユーザー単位でつなげる機能
Google アナリティクスでは、ユニークなユーザーを特定するために、cookieに付与した匿名のIDを記録しておくことで、同じユーザーを特定(cookieはブラウザに紐づくものなので、厳密には同じブラウザが特定できるだけ)する仕組みだ。これは標準のアナリティクスでもユニバーサル アナリティクスでも基本的には同じだ。
しかしこれだけでは、同じユーザーが同じサイトを別のブラウザから見たり、別のデバイスから見たりしても、その閲覧履歴が同じユーザーであることをつなげるキーがない。そこで共通のキーを与えて、従来バラバラだった同じユーザーのデータをつなげる仕組みが「User ID」だ。
ユニバーサル アナリティクスでは、通常のcookieベースの匿名IDに付与するパラメータは「cid」と呼ばれるもので、それをつなげる「User ID」に付与されるパラメータは「uid」と呼ばれる。図2で説明しよう。
通常cookieベースの計測だと、同一人物が利用するパソコンXのブラウザAもブラウザBも、タブレットCも相互関係性はない。cidパラメータの値が、それぞれブラウザA、ブラウザB、タブレットCと別々だからだ。
そこに共通のキーであるパラメータuidが付与されたら、同一人物の閲覧がつながるということだ。あまりにも当たり前でシンプルだが、仕組みは以上のようにいたって簡単だ。
しかし、このuidを利用するトラッキングコードのカスタマイズに関しては、まだ正式リリースされていない。実際のカスタマイズの記述としては、ログインIDなどの情報を動的に取得して、上記uidの値に取り込むようなJavaScriptを追記するのだ。
この紐付けができるようになって利用できるようになるとアナウンスされているレポートに、デバイス間の重複レポート(Device Overlap)や、コンバージョンに至るまでのデバイス間の接触パスレポート(Device Paths)、コンバージョン値のデバイス別レポート(Acquisition Source)といったものがある。詳しくは、下記公式情報を参照してほしい。
しかしこの仕組みはトラッキングコードのカスタマイズが必要で、キーとなるuidを指定しなければならない。つまり、Googleが天才的なアルゴリズムで同一ユーザーを自動的に判別してくれるわけではなく、同じユーザーであることを、サイト運営者の側で指定する術がなければならないということだ。
具体的には、cookieに代わる共通のキーを持っている必要がある。たとえばログインIDなど、どのブラウザやデバイスからでも、それなりの頻度でログインするようなサイトでないと、共通のキーになるIDなどは当然ないので、「ユーザー」をつなげることはできないということだ。
つまりEコマースサイトや会員サイトなどでないと、残念ながらこの仕組みは享受できないと考えた方がよいだろう。ブログをやっている個人が、計測のためだけにわざわざログインを強制させる仕組みを導入するのは本末転倒なので、この機能は一部のハイエンドあるいは特殊なサイトのためにあると考えた方がよい。
外部データ連携機能
最後は「外部データ連携機能」だ。標準のアナリティクスでは、広告費用データの取り込みなどの外部データの取り込みはすでに可能だが、既存の指標やディメンションに準じたものしか取り込めない。図3は標準のアナリティクスのプロパティの設定項目の1つである「データのインポート」(図3赤枠部分)だ。
データセットのタイプで「費用データ」を選択すると、メディアと参照元の指定は必須(図3青枠部分)で、それ以外に指定できる指標やディメンションもGoogle アナリティクスが標準で用意しているもの(図3緑枠部分)しか選択の余地がない。
一方、ユニバーサル アナリティクスでは、Google アナリティクスが標準で用意しているディメンションではない新しい分析軸を持った外部データを取りこむことが可能になっている。
じつは「データのインポート」(図4赤枠部分)は標準のアナリティクスでもユニバーサル アナリティクスでも図4の画面になるのだが、標準のアナリティクスでは「ディメンションの拡張」を選択(図4青枠部分)すると、既存のディメンションのデータを破壊して、取り込むデータを上書きするという荒業を行うことになるので、決してお勧めできない。だからユニバーサル アナリティクスの機能としてしか紹介したくない所以でもある。
ユニバーサル アナリティクスで取り込むデータに新しいディメンション(や指標)を割り当てて、カスタム ディメンション(や指標)(図4緑枠部分)を作成するのとセットで設定するのが王道だ。
外部データを取り込む場合、もともとGoogle アナリティクスのデータとデータ連携することになるので、取り込むデータの中に、Google アナリティクスにもすでにある共通のデータが存在する必要がある。それがキーとなるディメンションということになるのだ。概念だけではわかりにくいと思うので、実例で解説しよう。
データインポートの手順詳細などは省略するが、たとえば図5がインポートする外部データのCSVファイルになる。
Google アナリティクスのディメンションにすでに存在している「ページ」名に相当する部分が一番左の列(図5赤枠部分)で、これがデータ連携のキーになるのだ。それぞれのページに対応して取り込む外部データが、その右側の2つの列(図5青枠部分)で、真ん中が「カスタム ディメンションの3つ目の枠」に指定し、一番右側が「カスタム指標の1つ目の枠」に指定したうえで、外部からデータを取り込む処理を行った例だ。
この例は、ページの執筆者情報と1ページビュー見られたらいくら払うかという原稿料を外部データとして保持しておいて、それをインポートした例になる。ページの執筆者情報は「カスタム ディメンションの3つ目の枠」に指定し、1ページビュー見られたら支払う原稿料単価を各ページのカスタム指標に指定して取り込むのだ。
データをインポートしたうえで、図6のようなカスタム レポートを作成できるようになる。「作成者」というディメンション(図6赤枠部分)が該当ページを作成した執筆者(カスタム ディメンション)で、執筆者別の閲覧ページビュー数や執筆者に払うべき原稿料(カスタム指標、図6青枠部分)といった集計まで可能になるということだ。
他の応用例としては、たとえば次のようなものが考えられるだろう。
ネットワークドメイン(アクセスしてきた利用者のexample.co.jpなどのドメイン情報)をキーにして、アクセスしてきた企業の業種や本社所在地、従業員数などをカスタム ディメンションや指標に指定して潜在顧客の特徴を把握する
ログイン(顧客)ID情報などを取り込む外部データと共通のキーにして、実際の顧客の性、年齢、居住地域などを統合して分析する
次のような応用例も考えられるが、今のところ、集客系や地域、期間ディメンションなどは共通のキーにできないので、まだ実現できない。
北海道/東北などの地域ブロックを新たに作って分析できるようにする
人口データをカスタム指標に指定して、任意に作成した地域グループや人口規模カテゴリ別に分析する
気象データ(天気、気温、湿度)を指定して、気象と集客や成果との関連性を分析する
地域をキーにできるようになったら1つ目と2つ目が、期間をキーにできたら3つ目が実現できるだろう。
長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。
2014年4月からは、同じく衣袋宏美氏による新連載「Googleアナリティクス セグメント100選」がスタートします。引き続きご愛読のほど、よろしくお願いします。
筆者の『ユニバーサルアナリティクス版Googleアナリティクス完全マニュアル(PDF)』が発行されました。(2014/02/15)
筆者が講義を行うGoogle アナリティクス徹底講座(2014年5月開催)を行います。
→ Google アナリティクス ゼミナール
- 内容カテゴリ:アクセス解析
- コーナー:衣袋教授のGoogleアナリティクス入門講座
※このコンテンツはWebサイト「Web担当者Forum - 企業ホームページとネットマーケティングの実践情報サイト - SEO/SEM アクセス解析 CMS ユーザビリティなど」で公開されている記事のフィードに含まれているものです。
オリジナル記事:ぶっちゃけ、ユニバーサル アナリティクスはどこがスゴイのか?(第93回) [衣袋教授のGoogleアナリティクス入門講座] | Web担当者Forum
Copyright (C) IMPRESS BUSINESS MEDIA CORPORATION, an Impress Group company. All rights reserved.