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“顧客を知る”ことが企業Web担当者にもたらす価値:サントリー、ベネッセ、常陽銀行がユーザー中心の実践で得たものを激白 [イベント・セミナー] | Web担当者Forum

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ユーザーをしっかり見つめないと、Webビジネスは成功しない(サントリー酒類 室元氏)

企業のWebサイト構築、あるいはリニューアルにおいて、徹底した顧客(ユーザー)視点を取り入れることで、企業のビジネスに直接貢献する仕組みを実現する企業が増えてきた。

5月27日に行われた、書籍『ユーザ中心ウェブビジネス戦略~顧客心理をとらえ成果を上げるプロセスと理念』の出版記念セミナー(ビービット主催)では、ユーザー中心のWebビジネスに取り組んだ企業の担当者が一同に介してパネルディスカッションを行った。

登壇者は、サントリー酒類 室元隆志氏、常陽銀行 丸岡政貴氏、ベネッセコーポレーション 川崎洋氏、主催のビービット 武井由紀子氏。モデレータはWeb担当者Forum 編集長 安田英久がつとめた。

パネルディスカッションの内容から、「企業Web担当者が顧客を(本当に正しく)知ること」の価値をお届けする。

この記事は、ソフトバンクビジネス+ITに掲載されたレポート記事「ユーザー調査でわかった驚くべき事実とは!? サントリー、ベネッセ、常陽銀行が語る、企業Webサイト構築・リニューアル成功の秘訣」を、Web担当者Forum向けに一部再編集して掲載しているものです。

顧客を知って得た「体験」

室元隆志
サントリー酒類
デジタルマーケティング開発部長
室元隆志氏
丸岡政貴
常陽銀行
営業統括部 調査役
丸岡政貴氏
川崎洋
ベネッセコーポレーション
家庭学習事業本部
デジタルマーケティング部
事業戦略課 課長
川崎洋氏
武井由紀子
ビービット 取締役
武井由紀子氏
安田英久
Web担当者Forum 編集長
安田英久

本ディスカッションではまず冒頭、モデレータの安田が「ユーザー観察の中で、企業担当が顧客を知るということはこういうことなのか! そりゃそうだ! と感じた体験」を登壇者に問うた。

この質問に対して口火を切ったのが、ベネッセコーポレーションの川崎洋氏だ。通信教育で知られる同社は、Webサイトのリニューアルにより、わずか1か月足らずで新規入会申し込みの年間目標を達成した成功体験を持つ。

とはいえ、以前は「なぜ入会申し込みをしてくれないのか悩む日々もあった」(川崎氏)という。同社はWebのほかにもテレビCMやDMなど、さまざまなプロモーション活動を行っていたが、DMとWebサイトがほぼ同じような内容であった。そのような中で川崎氏は、サイトリニューアルを進めるうちに、ユーザーの身になってみると「そりゃそうだ!」と気づいたことがあったという。

“価格がよくわからない”ということはその1つだ。

Webサイトを見るのは、子供よりも保護者である親。通信教育に興味があり、サイトにアクセスする前にDMなどで価格を知っているのは当然だと思い込んでいた。しかし実際のユーザーである親の行動を観察してみると、入会ボタンを押す瞬間にこそ、いくらになるのか改めて確認したくなるのだということがわかった。そこで入会ボタンの近くに“価格”や“途中退会できるかどうか”などを記載した。そうした“申し込み前に気になることがわかる工夫”を凝らすと、すぐにコンバージョンが上がった」(川崎氏)

このようにユーザーを観察してみると、企業担当者が想像もしない基本的なところでつまずいていたことがわかるケースも多い。

ユーザーをしっかり見つめないとWebビジネスは成功しない」と語るのは、サントリー酒類の室元隆志氏だ。同社は、サントリーのビールをおいしく飲めるお店を紹介する「サントリーグルメガイド」というページを自社サイト内に展開している。

そのWebサイトで静岡のおいしい鰻店を紹介し、その鰻店へとWebから送客することで、自社ビールも飲んでもらおうというものだ。

当時、“静岡 鰻”というキーワードで月間に検索される数は数十万件もあった。そのためWebサイトで特集を組めば、数万人ぐらいは集客できると思った。しかし、いざフタを開けてみると店舗のサイトにアクセスする人が少なくて愕然とした」(室元氏)

そこで実際のユーザーの行動を見つめ直して、3日目ぐらいのデータを調べてみると、“三島 鰻”や“浜松 鰻”ならばコンバージョンしていることが判明。実際に店舗を訪れるようなユーザーは、自身のいる狭い地域で検索を行っており、当初のキーワードである“静岡 鰻”で検索する人は静岡の鰻をお取り寄せする人ではないかと思い当たったためだという。

お客さまの実像を見ないで、数字だけで企画を立てたことが、コンバージョンが少なかった要因。ユーザー行動を見ないといけないかということが身にしみた」(室元氏)。

最終的には、特集を“静岡”から“浜松”と“三島”の2つに分けて、それぞれの特集に「浜松 鰻」「三島 鰻」というキーワードで検索するユーザーを集客するように対策したところ、期待どおりのユーザーが集まったという。対象ユーザーが実際にどういう気持ちでどういう行動をとるのかを理解しなければいけないという教訓だ。

ユーザーをよくわかっていないと、ビジネスもうまくいかない

またサントリー酒類では、ビールギフトをカタログでアピールする際に、当初は“シズル感(食欲や購買意欲を刺激するような印象)”があるような、ジョッキについだビールのクリエイティブを作成していた。

飲む人に向けたカタログであれば、これでよかったのかもしれない。しかし、実際にギフトを検討するお客さまに聴いてみると、贈られた方が箱を開けた際に良い印象を持つのかどうかを重視する。そのため、ジョッキのクリエイティブでは、シズル感がいかにあってもカタログとして効果をあげることは難しかった。そういうユーザーの視点をよくわかっていないと、ビジネス的にうまくいかないことがある」(室元氏)

茨城県を主要地盤とする地方銀行である常陽銀行も同じような経験をしたという。

常陽銀行の丸岡政貴氏は、「当行は預金や融資取引において、県内のほとんどの地域で約4割のシェアがある。そのため、自分たちは、地場の顧客を十分に理解しているはずだと思い込んでいた面があった。“わざわざユーザーを調査しなくても、使いやすい他社のWebサイトを真似ればよいのではないか”という雰囲気があった」と話す。

しかし、水戸・つくば・宇都宮で調査を開始すると、驚くべき事実がわかったという。

本店のある水戸では想定していたとおり、“住宅ローンを申し込むなら、まずは常陽銀行”というユーザーが大半だった。しかし、水戸から距離があるつくばでは想定外の結果となった。同じ茨城県で、シェアも相応に高いにもかかわらず、まず常陽銀行の認知度が低い。実際にこうしたユーザーは“住宅ローン 茨城”というキーワードで検索することが多いのだが、当行のWebサイトを見つけられないケースが続出した」(丸岡氏)

これまでは、あまり認知度に地域差はないという理解だったが、こうした結果を踏まえて、ユーザーの調査をしっかり実施しないと、実際のお客様は把握できないと感じたそうだ。

このように、Webサイトを使う実際のユーザーを観察・調査する手法は、ビービット武井由紀子氏の著書『ユーザ中心ウェブビジネス戦略』によると、“ユーザー行動観察”と呼ばれる。

ユーザー行動観察調査は、

Webサイトのターゲットユーザーとなりうる人に実際にサイトを使ってもらい、そのときの情況、行動、発話を観察することで、サイトに関する仮説を検証する方法

と定義されている。この行動観察によってWebサイトの評価と修正を繰り返しながら、最適な形に収斂していく反復プロセスが、ユーザー中心のWebサイト設計には欠かせないものだ。「Webサイトを成功に導くには、予算やスケジュールがどんなに厳しくても、この作業だけは必ず行うべきもの」(武井氏)という。

ユーザー行動観察を実践するためのノウハウ

前述のように先進企業の担当者はユーザー中心設計によって成功を収めてきた。しかし一般企業がユーザーの行動を観察するといっても、それなりにハードルが高いことも事実だ。「人手や工数、コストもかかるし、そもそも上司の承認が通るかどうかもわからない。いま付き合いのある代理店(制作会社)では簡単にできそうにもないし、自分でやるのも難しそう」と、普通であれば二の足を踏んでしまうかもしれない。

そこでモデレータの安田はパネラーに「具体的にこういうことをすれば、ユーザー中心設計手法をうまく進められるという事例を挙げてほしい」と提案した。

常陽銀行の丸岡氏は「Webサイトの場合、ある程度完成されたデザインがイメージできないと、なかなかリニューアル発注の承認を得ることは難しい。最終的にビービットにお任せすることにはなったが、デザインよりもユーザー調査を重視するビービットに発注するまでには相当な苦労があった。行内でコンセンサスを得るときに『Webサイト経由でこのくらいの成果を出すので、とにかく一回やらせてほしい』とコミットすることが重要だ」と語る。

サントリー酒類では、飲食店にビールやウィスキーなどを取り扱ってもらうには、営業が何度も店に足を運んでリレーションをつくり、さまざまな提案をする中で、ようやく成約するというスタイルがオーソドックスだ。そのため、「WebによってB2Bで顧客を獲得するという営業モデルは難しい」というのが大筋の見方だったという。

実際、当初はWebで飲食店の集客を行っても、コンバージョンは上がらなかった。しかし、「行動観察によってユーザーを13パターンに分類し、それぞれのターゲットに合わせたコンテンツをつくった。すると一挙にアクセス数が増えた」と室元氏は話す。

従来は「新しいビールが登場しました!」というようなメーカー視点の薀蓄系コンテンツをつくっていた。しかし、室元氏は、「もともと飲食店への営業をしていたが、そのときの飲食店のオーナーの方を思い返してみると、ユーザーの求めるものは違うのではないかと考えた。そうではなく、たとえばビールのジョッキや販促ポスターなど、飲食店での販促に必要なコンテンツ類をWebで提供するのが、ニーズにあっているのではという仮説を立てた。それを実際に行ってみると、アクセス数も伸びて、営業的にも寄与することがわかり、予算がつくようになった」と説明する。

当然のことだが、ある程度の成果を出せれば上層部は納得して、Webサイトに投資してくれる。

一方、ベネッセのケースでは、教材の制作ではユーザーの声に耳を傾け改善を行うといったユーザー中心の企業文化や風土が、もともとあったようだ。とはいえ、Webサイトの制作では、最初からユーザー中心だったというわけではない。

これまではWebサイトのリニューアルは一発勝負。それが成功するかどうかは運任せ的な要素も強かったと思う。そういう意味ではユーザーを見ながらWebを制作していくという点に強い共感を覚えた」(川崎氏)

身近な人に試してもらうことで一定の効果

強いコミットメントでWebリニューアルを敢行した常陽銀行の丸岡氏は、「そうは言っても最初は自信がなかった。そこで一般ユーザーに近い妻にリニューアル前のWebサイトを試しに使ってもらい、簡易的なユーザー行動観察調査を実施した。住宅ローンを前提とするユーザーとしてWebサイトを見てもらうと、肝心の金利が記載されている場所も、コンテンツもあまり理解できないような状況だった。難しい表現の箇所はほとんど読んでくれないことがわかった

川崎氏も、同じように、妻や友人にWebサイトを利用してもらうことを、ユーザー理解の一環として実施した。そのメリットを、「ターゲットユーザーとして正確でなく、たとえ60点ぐらいのレベルの調査だとしても、まったくやらないよりは遥かによい」と強調する。

このようにユーザー行動観察は、特別な設備がなくても、身近な人に試してもらうことで、手軽にすばやく試しても一定の効果がある。

ビービットの武井氏も、「工数や予算がかけられない日々の改善などでは、身近な人を対象にした手軽な方法をお勧めしている。どんな相手でもよいので必ずやったほうがよい結果が得られる」と話す。

同時に武井氏は、「ユーザー行動観察調査では、事前に仮説を立て、課題設定をしっかりしないと実りは少ない。つまり、どのような意図をもって、どのようなユーザーに何を伝えるべきかを明確にし、ユーザーをビジネスゴールにどのように導くのかというストーリー(シナリオ)を設定して、調査に臨みたい」と注意点も指摘した。

ユーザーを理解するために、行動観察調査の他に行っていることを各氏が紹介した。サントリー酒類の室元氏は、自身でブログやFacebookなどを運営し、配信したコンテンツに対する反応をみて、ユーザー理解に活用しているという。

また川崎氏は、ベネッセが運営する、女性向けの巨大なコミュニティサイト「ウィメンズパーク」での書き込みも、母親というユーザーを知る参考になると述べた。過去の発言を調べ、仮説を立てながらユーザーを理解することでコンテンツづくりに役立てたそうだ。

三氏が行っているユーザー理解の方法は異なるが、ともにウェブサイトのターゲットユーザーの明確化は重要であると一致している。丸岡氏は、「ターゲットの明確化だけでもいい。表現はよくないが、魚釣りと同じ。鯛を釣りたいときにマグロの仕掛けではダメ。どういうセグメントの、どういう人にコンバージョンしてほしいというイメージがあれば、それなりのWebサイトがつくれる」とアドバイスした。

また室元氏は「ユーザー行動をみて、細かい仮説を立てながら翌週にはWebを小まめに変更している」という。

当然ながら、Webサイト設計のゴールは公開することではなく、想定どおりのユーザーに使ってもらい、ビジネス成果を上げることにある。そういう意味では、サントリー酒類のように、PDCAを高速で回してWebサイトを改善し続けるという点も、ユーザー中心設計手法における運用フェーズのキーポイントになるようだ。

ユーザー中心ウェブビジネス戦略
書籍 『ユーザ中心ウェブビジネス戦略
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仮説検証の繰り返し、成功事例の積み重ねが大きな成果につながる。1万件を超える「行動観察」で鍛え上げられた方法論の考え方とプロセスを、ウェブコンサルティングのトップ企業が徹底解説。大手のウェブ先進企業の担当者インタビューも収録。

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