コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。
宮脇 睦(有限会社アズモード)
心得其の314
電子書籍のススメ
私事ながら、ネット選挙に関する本を上梓します。ずばり『ネット選挙マニュアル』と題し、ネット選挙の基礎知識から、Twitter、Facebook、mixiといったネットサービスごとの利用法を紹介し、ブログやホームページといった基本中の基本についても触れています。また、ネット選挙の主戦場を「SEO」とし、問題と課題について踏み込みます。
マニュアルと題していますが、野放図なネット選挙の解禁が民主主義の自殺を招くと嘆く「警世の書」。取り次ぎは「アマゾン」、出版社は「有限会社アズモード」、筆者が代表取締役を務める零細企業です。つまりは電子出版です。本稿公開時にはアマゾンから発売されている予定です。
すいません。自己宣伝が過ぎました。今回は「電子書籍のススメ」について。
Web担当者の飯の種になる
電子書籍のスタンダードなフォーマットについては諸説ありますが、私が今回取り組んだのは「EPUB」です。EPUBとは、電子出版の標準化団体であるIDPF(International Digital Publishing Forum)が定めるオープンなフォーマットで、欧米圏ではリフロー型のデファクトスタンダードとなりつつあります。リフロー型とはレイアウトを固定しないもので、タブレットの画面サイズや縦横に合わせてページが表示されるものです。EPUB3.0からは縦書きや右開き、縦中横に対応しています。
EPUBの書籍は圧縮されたデータであり、解凍するとWeb担当者に馴染みやすいことがわかります。メインのデータは「XHTML」で記述されているからです。各種ソフトから「EPUB書き出し」をしたとき、余計なリンクや画像落ちなど、イメージ通りの出力結果を得られないときがあります。そのとき、圧縮データを直接操作することはWeb担当者なら朝飯前の作業です。今後、EPUBによる電子書籍が普及したとき、Web担当者の守備範囲(職務)はさらに広がることでしょう。
そして新たな広報ツールになる可能性については後ほど。
電子書籍のメリット
日本国内で電子書籍が爆発的に普及する……とは考えていません。本場である米国のように普及するにしても、5~10年先の話です。書店の他にもコンビニ、キオスク、ブックオフと「紙」の書籍を入手しやすい日本と、書店一店舗当たりのカバー面積がほぼ東京都と同じ米国の書籍流通市場の違いです。
しかし、電子書籍だけがもつメリットもあります。利用者(読者)からは「検索」の利便性を耳にしますが、私は「スピード」に注目します。筆者が脱稿した時点で、すぐに(電子)書店に配本が完了するスピードです。時事を扱う書籍において、このメリットはとても大きいといえるでしょう。また、物理的制約を受けないので、従来は専門書店や大型書店にしか並ばなかった書籍に読者が触れる機会が増えます。そして「低リスク」。これが現在の出版不況の裏表であるのは皮肉な話しです。
編集者の本音
良い本を出したい。しかし、売れる本でなければならない。編集者の大半が抱えるジレンマです。紙の本が抱えるリスクを一言で表せば「原価」です。印刷、製本、輸送に加えて、保管(在庫)のリスクを出版社は背負います。仮に年に1,000冊売れる本を1万部印刷すれば、10年間の在庫負担が発生するのです。
経営的な視点で見れば、在庫のために投じた資金がロックされることを意味し、書籍点数が増えれば経営を圧迫します。しかも、将来にわたり売れ続ける保証はどこにもありません。日進月歩のWeb業界であればなおのこと。
語弊を怖れずに言えば、初動(発売直後)で在庫がなくなる本が一番好ましい商品です。そのせいか、扇動的なタイトルや有名人の名前頼みの企画が乱造されるようになりました。これが一巡すると、手堅いヒットを狙い始めます。続編やシリーズもの、お馴染みの著者によるお馴染みの企画です。同じ著者なら、一冊読めば十分となり、皮肉なことに活字離れを加速させます。
出版の未来予想図
出版社が商売として書籍を作る以上、出版不況は加速する構造なのです。ただし「本好き」は消えたりしません。過去からの叡智、時代の空気を求める知的好奇心は、人間が人間である理由でもあるからです。1つのテーマを掘り下げる深さが、ネット情報との違いです。
そこで「電子書籍」の出番です。電子書籍なら、紙もインクも倉庫も不用です。筆者の労賃を除けば、1冊でも100万部でも、かかるコストはわずかな電気代です。必ずしも「売れる本」である必要はありません。100部しか売れなくても、100部を求める読者のために発刊できます。商売という制約を外し、「本好き」のためにシフトする先に電子書籍の未来が見えてきます。
100円の電子書籍の価値
拙著発刊に向けアマゾンの電子書籍をチェックすると、100円の本が沢山ありました。紙の書籍の売上で原価を回収していれば、売れた分だけ利益になるのでしょうが、人が支払う紙幣は価値を可視化したものです。コンテンツに自信があれば、仮に原価を回収していてもそれなりの価格をつけるべきではないでしょうか。仮に100部しか売れない書籍でも、1冊1万円なら100万円。つまり、制作原価や流通という制約のない電子書籍の価格は、純粋な「内容」で決められるべきではないかということです。
そして、紙の書籍にはない電子書籍の特性が「更新」です。アマゾンでは大きな加筆修正があれば、購入者にメールで知らせます。冒頭で紹介した発刊予定の拙著は、肝心の改正公職選挙法にあいまいな箇所が多く、ガイドラインの策定も泥縄的です。そこで最新情報をキャッチアップしていくことができる、電子書籍の「更新性」が生きてきます。
原稿が仕上がったことを意味する「校了」をもって、一区切りとする従来の出版の概念からは「邪道」です。しかし、インタラクティブ性をもつ電子書籍で、紙の書籍の概念をもち続ける方が時代に取り残されるのではないかと。そしてこれがPR活動にも、と続きます。
今回のポイント
電子書籍は印刷された「本」の概念ではない
純粋な中身で価格が決まる時代
- コーナー:企業ホームページ運営の心得
- 内容カテゴリ:Web担当者/仕事
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オリジナル記事:電子書籍が変える出版の常識。Web担当者の仕事はもっと増える [企業ホームページ運営の心得] | Web担当者Forum
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