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6秒に1本売れるシャンプーの秘密。Web担当者に欠かせない視点 [企業ホームページ運営の心得] | Web担当者Forum

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Web 2.0時代のド素人Web担当者におくる 企業ホームページ運営の心得

コンテンツは現場にあふれている。会議室で話し合うより職人を呼べ。営業マンと話をさせろ。Web 2.0だ、CGMだ、Ajaxだと騒いでいるのは「インターネット業界」だけ。中小企業の「商売用」ホームページにはそれ以前にもっともっと大切なものがある。企業ホームページの最初の一歩がわからずにボタンを掛け違えているWeb担当者に心得を授ける実践現場主義コラム。

宮脇 睦(有限会社アズモード)

心得其の309

秒速で売れるシャンプー

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6秒に1本売れているとうたうシャンプーがありました。「ノンシリコンで髪と地肌に優しい」と売上を伸ばし、売れる間隔は3秒に1本へと増え、ついに1.5秒ごと売れているとキャッチコピーが進化しています。カップヌードルにお湯を入れ、できあがるまでの3分間で120本が売れている計算です。いわば「秒速で売れるシャンプー」です。

ここまででニヤリと笑ったあなたに本稿は不用です。単位をすり替える「販促の魔法」をご存じでしょうから。しかし、秒速シャンプーに違和感を覚えず、あるいは「売れているなあ」とつぶやいたのなら、必ず最後までお読みください。Web担当者として欠けている視点があります。

そして本旨とずれるので先に指摘しておきますが、ノンシリコンが髪と地肌に優しいとする学説はないそうです。しかし「優しい」は主観によるので、嘘ではありません。これまた見事。こうした表現については「ブラックテキスト芸」として、そのうち紹介します。

秒速販売の実力を検証

さて、噂のノンシリコンシャンプーですが、実際にどれくらい売れているのか総数を調べます。まず1日の時間を計算すると、

60秒×60分×24時間=86,400秒

です。キャッチコピーを信じ、1.5秒に1つ売れているとすると、

86,400秒÷1.5秒=57,600本

結構売れている感じがします。年間なら21,024,000本です。ここでWeb担当者なら素朴な疑問を抱かなければなりません。

他のシャンプーメーカーはどれぐらい売れているか?

という点です。

0.5秒に1本売れたシャンプー

2006年に資生堂が鳴り物入りで発売した「TSUBAKI」シリーズ。「日本の女性は、美しい。」をキャッチコピーとして、CMには仲間由紀恵、竹内結子、広末涼子、田中麗奈、上原多香子、観月ありさなど、当時もっとも輝いている女優を大胆に起用し、イメージソングをスマップが歌います。結果、発売から半年後には3,000万本を突破します。

先ほどは、作為的にノンシリコンシャンプーの販売本数を一桁まで数字で紹介しましたが、端数を除けば2,102万本です。しかも「TSUBAKI」は半年間での達成です。通年ならば6,000万本になることでしょう。秒単位に置き換えるなら「0.5秒に1本売れたシャンプー」となります。そしてもう1つの「時間」に注目します。

「TSUBAKI」は半年間と達成期間を明示していますが、一方のノンシリコンシャンプーは販売スピードが更新されているだけです。すると公表される販売スピードは、ある時期の一部を切り取っただけのものである可能性も捨てきれません。瞬間最大風速的な数字をもって「1.5秒に1本」としても、もちろん嘘ではありません。

数字を輝かせる販促の魔法

ノンシリコンシャンプーが売れていないというのではありません。数字を利用した、見事なモデルケースであり、他社との比較から導き出されるベストワンではなく、自社のもつ数字を駆使したオンリーワンのアプローチだということです。また、そもそもの「6秒に1本」が秀逸でした。こう提示された消費者は、

6秒に1本、なんだかすごそうだ、どれくらいなんだろう、1、2、3……6秒

と、つい数えてしまいます。体感しやすい数字だったことがポイントです。「TSUBAKI」で計算した「0.5秒」ではこうなりません。すごく売れているのだろうと思い浮かんでも、「0.5秒」を数えることができないからです。そこから見れば現在の「1.5秒」はやり過ぎでしょう。

販売本数を時間という単位で計測して見せます。統計において邪道に過ぎますが、販促においては王道です。単位を変えることで、数字を輝かせるのが「販促の魔法」です。実は冒頭で「カップヌードルができるまでに120本売れた」と紹介したのも、読者にイメージさせるための仕掛けです。カップヌードルの3分間というパブリックイメージを拝借しております。

約300万人が体感

販促を考えるときは、いろいろな単位で試します。たとえば、購入者数に置き換えるとどうなるでしょうか。

冒頭のノンシリコンシャンプーのサイトを見ると、1回限りのお試し用が10ml入りで販売されています。通常価格の商品は500mlですから50日分と仮定します。1人が1年間使い続けるのに必要なのは約7.3本、21,024,000本を消費するには288万人の利用が条件となります。するとこう表現することもできます。

すでに288万人がノンシリコンを体感

それでは288万人はどれほどの数字でしょうか。日本国民1億3千万人の人口比でみると2.2%と微妙な数字になります。後発メーカーがこのシェアを短期間で確保したことは驚嘆すべき出来事ですが、広告インパクトとしては弱くなります。また本数には「お試し用」を含んでいれば、さらに数字は輝きを失いますが、キャッチコピーは学術論文でもなければ、裁判の証人尋問でもありません。不都合な数字には口をつぐみます。

Web担当者に必要な視点

どちらのシャンプーにも通じることですが、売れた! とするのは「出荷数」です。もちろん、売れれば出荷数が増えるのは当然ですが、新発売の商品が売れるかどうかはわかりません。しかし、現場の営業マンが販路拡大のために特典をつけて出荷数をかさ上げすることもあります。さらにラインナップを増やすことでも出荷数を積み上げることは可能です。

そもそも論で言えば出荷数や売上は品質を担保するものではありません。しかし「売れた!」という事実を上手に加工することで、お客は商品の質が担保されているかのように錯覚します。

冒頭でニヤリとしなかった、Web担当者に欠けている視点。それは、

数字は嘘をつく

ということです。単位という衣装を変えるだけで、天使にも悪魔にも変化します。ネットに溢れる広告と情報から、事実を見つけ出すために必要な視点です。それを知ったうえで、どのように魔法を使うかはあなた次第です。

今回のポイント

単位を変えると世界が変わる

オンリーワンとベストワンの選択

この記事の筆者
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ユーザー 宮脇睦(有限会社アズモード) の写真

宮脇 睦(みやわき あつし)

プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。

制作、営業の双方の現場を知ることからウェブとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供し、一業種一社、制作案件は足立区内のみという営業施策をとっている。本業の傍らメールマガジン「マスコミでは言えないこと」を発行。好評を博す。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)、冷静な視点からのIT業界分析に「週刊ポスト」など、様々な媒体から情報発信を続ける。

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